「ねぇ、○○くん!一緒に遊ぼうよー!」 僕を呼ぶ、声がする。 振りかえろうとした僕の腕が、思い切り引かれて。 身構える暇もなかった僕の体が大きくバランスを崩す。 「わっ……」 「あーっ!」 だけど僕の体が硬い地面に触れることは無く。 代わりに柔らかい感触が目の前にあった。 「……痛いよ、○○くん」 目に涙を浮かべ、痛みを訴えるその子 確かこの子は…… 「○○くんの……エッチーッ!!」 強い衝撃で、目を覚ます。 今度は先程のような柔らかな感触ではなく、思い切り硬い地面……ではなく、床。 ズキズキと痛む頭を擦りながら、僕はゆっくりと起き上がる。 止めた記憶はないのに止まっている目覚まし。 壁掛け時計より5分早いのも、いつもの光景。 いつもと違ったのは…… 「おーい!○○くーん!」 僕を呼ぶ声が、また聞こえた。 夢の中と同じく、とても近くで。 ドーンッ。 僕の返事を待たずして、ドアが開け放たれる。 「おっはよーう!」 つい先程見ていた姿より一回りも二回りも大きいその子は、夢の中と全く同じように僕の腕を強引に引く。 「ほら、遅刻しちゃうよ?」 だが大きくなったのはもちろん僕の方も同じで、夢の中のように倒れることは無く。 僕はぐっとその場に体を留め、指でゆっくりと時計を指した。 「もう、何をゆっくりしてるのさ……あ」 彼女の視線が時計に向き。 ゆっくりと僕の服から指が離される。 「あ、あはは……ぼくの早とちりだったみたい」 少し頬を赤らめながら、頬を掻くその子を見ながら僕は小さくひとあくび。 ―――今日も、平和だ。 いつも通りの通学路。 「〜♪」 隣を歩くその子の姿も、いつも通り。 だけど、僕の頭の中に今朝の夢の光景が浮かぶ。 小さい頃の事はあまり覚えていない性質なので、小さい頃の夢なんて見るのも稀なのだが。 一度思い出してしまうと、妙に引っかかるあの場にいたもう一人の存在。 別に幼い日のことなど、気にしなければ気にしないでいいのだが 選択 >Aに尋ねる >気にしないことにする >Aに尋ねる あの時、Aも一緒にいたのだから。 Aに聞けば何か分かるかもしれない。 僕はAに尋ねることにした。 Aは額に指を当て、しばらく考えこんでいたが答えが返ってくるのにそんな時間はかからなかった。 「小さい頃の事かー……ぼくもあんまり覚えてないなぁ」 自分も思い出せないわけだし、他人もそんなものか。 「……」 >気にしないことにする 僕は気にしないことにした。 今まで忘れていたのだ、どうせ大したことでもないだろう。 小さい頃というのは、全く知らない子供とその場限りで遊んだりする。 そのすべてを思い出すことなんて不可能だ。 キーンコーンカーンコーン 「あっ、この音って……!」 どうやら、少しのんびり歩き過ぎていたらしい。 考え事をしていたのもあるが、これでは目覚まし時計を早くした意味がない。 いや、目覚まし時計を早くしていたから歩く余裕が…… 「もう、早くしないと遅刻するってば!」 「な、なんとか間に合ったぁ……」 走ってはいけない廊下を走り、僕達は何とか時間内に教室に辿りついた。 軽く息を整えつつ、僕は鞄の中身を机へと移す。 Aはと言うと、僕の席の隣でまだ息を整えている。 教科書を出す仕草をしない所を見ると、既に机の中に入っているのだろう。 ガララッ 教室のドアが開け放たれ、担任が中へと入ってくる。 ざわざわとしていた教室がゆっくりと静まり、皆の視線が教壇へと向けられる。 うちの担任は特別厳しいわけでもないが、先生が持つ特有の空気のようなものが生徒をこうさせるのだろう。 「えー、今からSHRを始める……が、その前に。入ってきなさい」 担任の視線がドアへと向き、それに釣られて皆の視線もドアへと集中する。 そこに立っていたのは、見たことのない女生徒だった。 短く整った髪に、少し伏し目がちな目。 一目見た印象はあまり明るいタイプではなさそうだ、と言った感じ。 「今日からこのクラスの仲間になる……ほら、自己紹介を」 「……Bと言います、よろしくお願いします」 その時 「……!」 確実に、目が合った。 Bと名乗った転校生は、確実に僕の目を見て反応した。 それがどういう感情だったかまでは判別出来なかったが、僕の方を見ていたのは間違いない。 「この時期に転校してくるというのは珍しいが、みんな仲良く……」 もちろん僕はその転校生に心当たりなど無く、なぜ僕の方を見ていたのかは分からない。 いや、心当たりは本当に無かっただろうか……? 「空いている席は……あそこだけか」 考え事のために少し下を向いている間に担任の話が進んでいたらしく。 転校生が僕の隣を通り過ぎ、席へと向かう。 今この教室で空いている席と言えば、窓際の一番後ろ。 つまり僕の後ろの席である。 「……さ……り」 転校生が小さく何か言ったような気がしたが、僕には聞こえず。 代わりに僕の頭に浮かんでいたのは、今朝の夢。 確か、あの夢の中の子は…… 「きりーつ!」 ガタガタという椅子の音で、僕はハッと意識を取り戻す。 SHRが終わったらしく、周りは起立している。 僕も急いで立ち上がり、周りに合わせて礼をする。 そんな余計な動作をしている間に、どんどん夢の内容が薄れていき次第に思い出せなくなってしまった。