紺シナリオ第二部その1「プリンと落胆」 ゴールデンウィークも明けて、家では良く笑顔を見せてくれるようになった紺ちゃんではあるが、 学校の子供達との間に作った壁を取り除くには、まだ時間が掛かりそうに見えた。 紺 「いただきます」 紳士「いただきます」 給食室の長テーブルで、今日も二人だけの給食の時間が流れていく。 ゴールデンウィーク前は、僕の問いかけに答えてくれるのがやっとの会話であったのに反して、 今は紺ちゃんの方から僕に話題を振る方が多くて、 会話のキャッチボールを心から楽しんでいるのが良く分かる。 両親に見捨てられてからまともに人と会話なんてしていなかったんだろうなあと思うと、 どうにもやりきれない気持ちになってしまうが、 過ぎてしまった事よりも、元の自分に戻ろうとしている紺ちゃんの支えになれればと思う。 紺 「お兄ちゃんの作った給食、今日も美味しいね」 紳士「そっか、ありがとう。紺ちゃんは今日のメニューで何が一番好き?」 紺 「プリン!」 紳士「プリン……プリンかぁ……」 女の子、それもまだ小学生の子供だ。 10人中8人はデザートに真っ先に目がいくのも無理はないだろうが、 今日のデザートは手製の物ではなく、市場で安かった市販のプリンで済ませて、 他のメニューに力を入れたのだが、料理人の努力というのは中々報われない物である。 紺 「どうしたのお兄ちゃん?」 紳士「何でもない。よしっ、明日はこれ以上のプリンを作ってやる!」 紺 「うわぁ〜! 楽しみ〜」 それにしても給食室の長テーブルに二人だけでの食事というのは侘しい物がある。 扉を閉め切っているので、教室から子供達の声はほとんど聞こえてこないが、 少し窓を開けるだけで、ああここは学校なんだなと誰にでも分かるような空気が流れ込んでくるのだ。 こんな隔離されたような場所ではなく、紺ちゃんがあるべき場所に戻っていけるには、どうしたらいいのだろう…… 紺 「お兄ちゃん……?」 紳士「ん……? ああ、ごめん。ちょっとぼーっとしてた」 紺 「ごめんなさい……」 紳士「何で謝るの? ぼーっとしていたの僕なのに」 紺 「だって……給食の時間なのに、いつも私と二人だけだから……」 ここ数日の間で分かった事だが、人から拒絶されるのを極端に恐れる紺ちゃんは、 ふとした表情の変化などのちょっとした事から、相手の気分を読み取る能力が非常に高い。 雨竜君が以前紺ちゃんの事を「あいつは空気読んで〜」と言っていた事があったが、 あながち間違いではなかったようだ。 紳士「僕は紺ちゃんと二人だけの給食も楽しいよ。これは本当。    でも紺ちゃんがみんなと一緒に給食食べられるようになってくれれば、    もっと楽しくなれると思うんだけどな」 紺 「ごめんなさい……お兄ちゃん」 今日の給食の時間は、それ以上話が続かなかった……