4月15日(木)紺選択「孤立」 この分校の席順は、学年など関係無しに五十音順になっている。 よって、顔見知りであり、家族でもある紺ちゃんがいる班を選んでみたのだが…… 紳士「あれ? 紺ちゃんはこの班じゃないの?」 紺ちゃんの座っている席はどこにあるか知っていたのだが、 席はあれども紺ちゃんの姿がないので、 紺ちゃんと同じ班であろう子供達に声を掛けてみた。 女の子A「紺ちゃん……ですか? あの子はちょっと……」 女の子B「え〜っと……その〜、何て言ったらいいか……」 雨竜  「ああ、あいつは空気読んで一人で飯食ってんだよwwwwwwwwwwwwww」 女の子達が僕に何と言うべきか困っている所に、 そんな事は我関せずとばかりに、口を開くテンション高めの男の子がいた。 紳士「ええっと、君は」 雨竜「俺は高根雨竜。紺と同じ四年生だ。カレーパーティの時にもいたんだけどなーwwwwwwwwwwwwwww」 紳士「ごめん、まだ名前が覚えきれなくて……」 雨竜「まー、頼子やリアに比べりゃ、俺のキャラなんてミジンコみたいなもんだから覚えられなくても仕方ないけどなwwwwwwwwww    俺、テラヨワスwwwwwwwwwうぇっwwwwwwwwwうぇっwwwwwwwwwwww」 バンバンと机を叩きながら、一人楽しそうに笑い転げる雨竜君。 僕が子供の頃にもクラスに一人はいたよなあ、こういう無駄にテンション高い奴。 紳士「それで、紺ちゃんが一人でご飯食べているってどういう事なの?」 雨竜「あいつ、苛められてるんだ……」 紳士「何だって!」 もしやとは思ったが、まさかこんな純朴そうな子供達の間でも、 そんな悲しい事が起こってしまうなんて…… いや、悲しんでばかりではいられない。僕もこの学校の一職員として子供達の心の闇に立ち向かわなくては! 雨竜「っていうのは嘘800wwwwwwwwwwwwwwwwww」    ハハッ! 嘘よろずの神乙wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」 子供達の間からいじめを根絶しようと決意を新たにした瞬間、 気の抜けるような嘘宣言を食らって、僕は思わずがっくりときた。 雨竜「いじめってのは嘘だけど、紺が一人で飯食ってるってのは本当だぜ」 紳士「どうして、紺ちゃんは一人でご飯を食べるんだい?    せっかくのご飯なんだ。みんなで食べる方が美味しいに決まってるのに……」 雨竜「前は一緒に食ってたんだけどな。    アイツのおとんとおかんが色々あったせいで、すげー落ち込んで、性格も暗くなっちゃっただろ?    だからアイツなりに空気を読んで、一人で飯を食うようになったのさ」 紳士「そんな……みんなで励ましてあげたりしなかったの?」 雨竜「あんたが思っているような事はみんなでやったさ。紺がまた笑えるように……ってな。    でもまあ、やればやるほど逆効果っていうか、    一人、また一人ってな感じであいつと関わるようになるのをみんな避けていったんだ」 紳士「紺ちゃんはどこでご飯を食べているのか分かるかい?」 雨竜「多分、給食室で食ってるぜ。飯食ってる時は誰もいないしな、あそこ」 僕は雨竜君の言葉を全て聞き終わる前に、自分の配膳を持って席を立ち、早足に教室を出た。 雨竜「ちょwwwwwwwww脇目も振らずに紺まっしぐらかよwwwwwwwwwwwwwwwww    でも、紳士さん期待してるぜ……アンタにはよ」 ガラララララララッ! 大きく音を立てながら給食室の扉を開くと、 雨竜君の言うように一人で給食を食べていた紺ちゃんの背中がびくりと震えた。 紳士「ごめん、おどろかせちゃったね」 紺 「……………………」 何も言わずに紺ちゃんはじっと僕の顔を見上げる。 紳士「僕もここでご飯を食べたいんだけど、いいかな?」 紺 「ご、ごめんなさい……それじゃあ、私、出ていきます」 紳士「駄目だよ、出ていったら。言ったでしょ?    僕もここでご飯を食べたいんだって」 紺 「でも、私がいたら……」 私がいたら……何だというのだろう。 多分、空気が悪くなるとか、ご飯が美味しくなくなるとか、そういう事を言いたいのだろうが、 紺ちゃんの口からそういう話を聞きたくない僕は、それを軽く受け流す。 紳士「毎日、家で一緒にご飯食べているじゃない。    それとも、僕とご飯を一緒に食べるのは嫌だったの?」 紺 「嫌なんかじゃないけど……でも…………」 紳士「じゃあ、一緒に食べよう。今日の給食は僕が初めて作る給食だから自信作なんだ。    気に入った物があったら、家でも作ってあげるよ」 紺 「えっと……ポテトサラダ、美味しいです」 紳士「ああ、これは卵の使い方がポイントでね」 紺 「卵? ポテトサラダに卵を使うんですか?」 紳士「そ、卵。使うのはただの卵だけどちょっと下ごしらえをするとね……」 家で一緒にご飯を食べていたというアドバンテージがあったせいか、 重苦しい雰囲気にはならず、家でご飯を食べる時以上に紺ちゃんとの会話が楽しめた。 今は二人だけの給食だけど、いつかは紺ちゃんを教室に連れていければいいなと思う。