4月15日(木)リア選択「撃墜王」 この分校の席順は、学年など関係無しに五十音順になっている。 担任の先生が名前の順が早い班で食べるようなので、僕は名前の順が後ろからの班で給食を食べる事にした。 リア「もぐもぐ……」 紳士「…………」 リア「もぐもぐ……」 紳士「……………………」 リア「もぐもぐ……」 紳士「………………………………」 リア「どうしたの、お兄さん? じっと見つめられると気になって食べるのに集中出来ないんだけど」 紳士「いや、どうしてリアちゃんだけ机が二つあるのかなあって思って……」 リア「これ? 別に私の机じゃないわよ。使っていない机を持ってきただけ」 紳士「それで、使っていない机にどうしてプリンの器が10個近く並んでるのかなぁ……」 リアちゃんの席の隣には、椅子の無い空の机が一つ置いてあり、 その机の上には今日のデザートになるマンゴープリンがずらりと並べられていた。 リア「ひょっとして欲しいの? でも駄目よ。それは頑張った私へのご褒美なんだから」 紳士「ご褒美?」 一昔前の女性誌によく出てきたフレーズをリアちゃんが口にする。 リア「そっ。そこのプリンの数が今日の私の撃墜数よ」 撃墜数? ますます意味が分からない。 美恵「リアちゃんはすっごくドッジボールが強いんですよ。    ううん、ドッジボールだけじゃなくて、どんな運動でも男子に負けないくらい凄いんです!」 少し興奮気味にまくし立てる女の子の名前は、深知 美恵(ふかし みえ)ちゃん。 学年はリアちゃんの一つ下の三年生らしい。 リア「男子に勝ててもねぇ……結局、ヨリに勝てなきゃしょうがないのよね〜」 美恵「でも、頼子ちゃんが本気で勝負出来る子なんて、    リアちゃんが転校してくるまで一人もいなかったんだから、リアちゃんは本当に凄いよ」 リア「グラッチェ、美恵」 リアちゃんがぽんぽんと美恵ちゃんの頭を撫でると、美恵ちゃんはえへへと首を少しすくめて喜ぶ。 紳士「それで、ドッジボールとプリンの関係は?」 リア「今日の体育の時間のドッジボールで、デザートを賭けて男子達と勝負をしたのよ。    私にボールを当てる事が出来たら今日のデザートをあげるけど、    もし私に当てられたらあんたのデザートは私の物ってね。    その結果がこのプリンの数ってわけ」 紳士「それは凄いな……」 周りを良く見てみると、なるほど、ほとんどの男子の机の上には今日のデザートの器が無い。 いくら体格差がまだそれほど開きがない小学生とは言え、 一人でこれだけの男子から星を上げるリアちゃんの身体能力はきっと大した物なんだろう。 美恵「今日の撃墜王は間違いなくリアちゃんです」 リア「撃墜数が多くても、ゲームに負けたら意味ないのよ。    そりゃあ、私はこうやってプリンを独占してるからそれなりに満足だけど、    勝利の味ってのはみんなで味あわないと、美味しさが下がっちゃうわ」 紳士「これだけ男子をやっつけたのに、リアちゃんのチームは負けたの?」 リア「いっつもそうなのよ。何をやっても最後はヨリには勝てないの」 どことなく陰を感じる表情で、ご飯を食べ終わったリアちゃんは、一つ目のマンゴープリンに手をつける。 美恵「げ、元気出して、リアちゃん。    そ、そうだ! お、お兄さんっ! リアちゃんが頼子ちゃんに負けないような給食を作ってあげて下さいっ!」 紳士「いやあ、頼子ちゃんの僕の作る給食を食べるから、それはあんまり意味がないんじゃないかなぁ……」 美恵「あっ、そっか……」 美恵ちゃんはしゅんと肩を落としながら、もそもそといわしの頭を齧る。 リア「私は美恵の気持ちが嬉しいわよ。    お兄さんのご飯も美味しいし、次は負けないわよ!」 美恵「応援しますっ!」