山 の科学 ・山 と川 (三)
理学博士 三、川 と谷
(一)川の形
(イ)川と谷。 これまでお川といっても、いつも水が流れているとはかぎりません。シナや
川は
川の水は、そのもとを雨ばかりに
(ロ)川のできかた。 わりあいに
それが山の
もう一つは、これも前にお
(ハ)川の
川の上流部は、勾配が
それが中流部になりますと、流れのいきおいはだんだん
それから、さらに下流部になりますと、今度はもはや浸食作用をする力はほとんどなくなり、運んできた
以上お
ですから、同じ一つの川を現在のまま、しいて幼年・青年・老年と
日本は山の多い国ですから、地形の上から見て、老年の川というのはわりあいに少なく、北海道では
日本北アルプスの
(ニ)川のうねり。 川が
(二)河流 の浸食
(イ)浸食のしかた。 川の流れが第二は、川の流れが岸や
こういう
(ロ)
今、そのばあいを考えてみますと、
川の
日本各地の山は、わりあい新しく
つぎに、
そんなわけで、
そのもっともよい例としてあげられるのは、北アメリカの
いろいろ調べられたところによりますと、このナイアガラ
(ニ)
アメリカ
しかし、世界の多くの川を見ますと、まずミシシッピー川ぐらいの
ついでに、いま
(三)河水 の運搬 する働 き
(イ)川の流れが物質を
シナの
(ロ)
それでも、アフリカやアメリカなどにある大きな川になると、
これらの
(四)河水 の沈殿 する働 き
(イ)川の作った流れの速さがゆるやかになると、前にもお
こうしてできた平地は、ふつう、川の
しかし、川はときどき
エジプトのナイル川は、
(ロ)川のつくった
扇状地は、山のふもとに行けばどこにでも見ることができ、小さい川は小さいなりに、せまい
北アメリカのカリフォルニア
日本でも
(ハ)
デルタは、土地が
底本:
1982(昭和57)年6月20日発行
親本:
1927(昭和2)年10月3日発行
入力:しだひろし
校正:
xxxx年xx月xx日作成
青空文庫作成ファイル:
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山の科學・山と河(三)
理學博士 今井半次郎-------------------------------------------------------
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)山《やま》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)明治《めいじ》四三|年《ねん》一一|月《がつ》
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(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28]
/\:二倍の踊り字(
(例)人々《ひと/″\》
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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河《かは》と谷《たに》
(一)河《かは》の形《かたち》
(イ)河《かは》と谷《たに》。 これまでお話《はなし》したように、いろ/\の事情《じじよう》で陸地《りくち》の表面《ひようめん》にでこぼこ[#「でこぼこ」に傍点]が出來《でき》ますと、水《みづ》はみんな低《ひく》いところに溜《たま》らうとして流《なが》れはじめます。これ等《ら》、水《みづ》の通路《つうろ》となる細長《ほそなが》い凹地《くぼち》を河《かは》(川《かは》)とも谷《たに》ともいふのです。普通《ふつう》、『河《かは》』と『川《かは》』とは區別《くべつ》をしませんが、『谷《たに》』といふのは一般《いつぱん》に山地《やまち》にある河《かは》をいつてゐるようです。しかし、廣《ひろ》い意味《いみ》では、いはゆる谷地《たにち》と川《かは》全體《ぜんたい》とをくるめて『谷《たに》』とよぶこともあります。
河《かは》といつても、いつも水《みづ》が流《なが》れてゐるとは限《かぎ》りません。支那《しな》や朝鮮《ちようせん》の禿《は》げ山《やま》地方《ちほう》に行《ゆ》くと河《かは》は雨《あめ》が降《ふ》るときだけ水《みづ》が流《なが》れ、へいぜいは干上《ひあが》つてゐるものも少《すくな》くありません。
河《かは》は通常《つうじよう》、樹木《じゆもく》の幹《みき》のように、一本《いつぽん》の主《おも》な流《なが》れ(本流《ほんりゆう》)と、それへ注《そゝ》ぎこむ澤山《たくさん》の枝《えだ》の流《なが》れ(支流《しりゆう》)とから出來《でき》てゐます。その本流《ほんりゆう》と支流《しりゆう》との流《なが》れこんでゐる地方《ちほう》をひっくるめて、その河《かは》の『流域《りゆういき》』といひます。河《かは》の二《ふた》つの流域《りゆういき》の界《さかひ》となつてゐる山《やま》の嶺《みね》を、『分水界《ぶんすいかい》』といひます。ですから、分水界《ぶんすいかい》は、つまり河《かは》の源《みなもと》です。
河《かは》の水《みづ》は、そのもとを雨《あめ》ばかりに仰《あふ》いでゐたのでは、今《いま》もお話《はなし》したように、雨《あめ》がやめば數日《すうじつ》のうちに河《かは》はから/\にかれてしまひます。しかし、水源《すいげん》の山《やま》に樹木《じゆもく》が茂《しげ》つてゐると、雨水《あまみづ》は大部分《だいぶぶん》その蔭《かげ》の地中《ちちゆう》に吸《す》ひ取《と》られて地下水《ちかすい》となり、それが再《ふたゝ》び泉《いずみ》となつてわき出《で》て來《き》ますから、河《かは》も水《みづ》が容易《ようい》に盡《つ》きません。また高《たか》い山《やま》ですと、萬年雪《まんねんゆき》や氷河《ひようが》があり、それが少《すこ》しづゝとけて水源《すいげん》になりますし、ところによると山中《さんちゆう》に湖水《こすい》があつて、それが河《かは》の源《みなもと》になることもあります。
(ロ)河《かは》の出來方《できかた》。 わりあひに平《たひら》な、きれいな鋪裝《ほそう》道路《どうろ》や、又《また》は空《あ》き地《ち》のようなところに雨水《うすい》が流《なが》れるあり樣《さま》を見《み》ますと、さういふ場所《ばしよ》にも、どことはなしに多少《たしよう》は凹《くぼ》いところがあつて、雨水《うすい》は主《おも》にそこを流《なが》れて、小《ちひ》さい川《かは》のようになることがあります。たび/\雨《あめ》が降《ふ》れば、水《みづ》はいつも同《おな》じくぼみを流《なが》れるために、そこがだん/\と削《けづ》りひろげられ、修繕《しゆうぜん》をしないとしまひにはほんとうの川《かは》みたいになつてしまひます。
それが山《やま》の斜面《しやめん》のようなところですと、水《みづ》の流《なが》れが急《きゆう》ですから、地面《じめん》は一層《いつそう》早《はや》く削《けづ》られて、深《ふか》い谷《たに》が出來上《できあが》ります。ですから、どんな原因《げんいん》からでも山《やま》が出來《でき》さへすれば、すぐひきつゞきその表面《ひようめん》に谷《たに》が作《つく》られ始《はじ》めます。かうして出來《でき》た谷《たに》を『浸蝕谷《しんしよくこく》』といひます。われ/\が見《み》るたいていの谷《たに》や河《かは》はそれなのです。
しかし、谷《たに》や河《かは》は、まだほかの方法《ほうほう》でも出來《でき》ます。その主《おも》なものを上《あ》げて見《み》ますと、第一《だいいち》は前《まへ》にもお話《はなし》した土地《とち》の食《く》ひ違《ちが》ひ(斷層《だんそう》)によつて高低《こうてい》が出來《でき》、その低《ひく》い斷層線《だんそうせん》のところに水《みづ》が流《なが》れて河《かは》になるものですから、それを『斷層谷《だんそうこく》』といひます。斷層谷《だんそうこく》はたいてい眞直《まつす》ぐで曲《まが》りが少《すくな》く、その附近《ふきん》の大《おほ》きな山《やま》の嶺《みね》と平行《へいこう》して流《なが》れ、またその右岸《うがん》の方《ほう》と左岸《さがん》の方《ほう》との岩《いは》の質《しつ》が違《ちが》つてゐることがあります。本州《ほんしゆう》の北部《ほくぶ》で最《もつと》も廣《ひろ》い流域《りゆういき》をもつ北上川《きたかみがは》、四國《しこく》で一番《いちばん》大《おほ》きな阿波《あは》の吉野川《よしのがは》などは、この斷層谷《だんそうこく》であらうと思《おも》はれます。一般《いつぱん》に山《やま》の嶺《みね》に平行《へいこう》して流《なが》れる河《かは》を『縱谷《じゆうこく》』といひ、嶺《みね》を横《よこ》ぎつて流《なが》れる河《かは》を『横谷《おうこく》』といひます。
[#図版(27.png)、斷層の谷(模型圖)]
もう一《ひと》つは、これも前《まへ》にお話《はなし》した、皺《しわ》の山《やま》(褶曲山《しゆうきよくざん》)が出來《でき》ると、その皺《しわ》の低《ひく》いところを水《みづ》が流《なが》れて谷《たに》になります、これを『褶曲谷《しゆうきよくこく》』といひます。しかし褶曲山《しゆうきよくざん》は、後《のち》にはげしい浸蝕《しんしよく》作用《さよう》を受《う》けて、その山《やま》だつたところが山《やま》でなく、却《かへ》つて谷《たに》になる場合《ばあひ》もあるくらゐですから、今日《こんにち》褶曲谷《しゆうきよくこく》がそのまゝ殘《のこ》つてゐる例《れい》はわりあひに少《すくな》く、日本《につぽん》などでは、はっきりしたものが見《み》つかりません。
(ハ)河《かは》の老幼《ろうよう》。 河《かは》が山《やま》から流《なが》れ下《くだ》つて平野《へいや》を通《とほ》り、つひに海《うみ》に注《そゝ》ぐまでの全體《ぜんたい》の過程《かてい》を見渡《みわた》しますと、水源《すいげん》に近《ちか》い、勾配《こうばい》の急《きゆう》な上流部《じようりゆうぶ》と、だん/\勾配《こうばい》がゆるくなつて平野《へいや》に移《うつ》らうとする中流部《ちゆうりゆうぶ》と、最後《さいご》にゆる/\と平野《へいや》を流《なが》れて海《うみ》に注《そゝ》ぐ下流部《かりゆうぶ》と、この三《みつ》つの部分《ぶぶん》に分《わか》つことが出來《でき》ます。
河《かは》の上流部《じようりゆうぶ》は、勾配《こうばい》が急《きゆう》ですから水《みづ》は勢《いきほひ》よく流《なが》れ、所謂《いはゆる》激流《げきりゆう》となつて兩岸《りようがん》や川底《かはぞこ》をぐん/\削《けづ》り取《と》ります。從《したが》つて、谷《たに》は非常《ひじよう》に深《ふか》くなり、かりに横《よこ》に切《き》つて見《み》るとしますと、その切《き》り口《くち》はV字形《ぶいじがた》になつてゐるわけです。そのため、たいてい兩岸《りようがん》はけはしい懸崖《けんがい》絶壁《ぜつぺき》となつてをり、峽谷《きようこく》を作《つく》ることもしば/\あり、ところ/″\に瀧《たき》がかゝつてゐるところもあります。
それが中流部《ちゆうりゆうぶ》になりますと、流《なが》れの勢《いきほひ》はだん/\減《げん》じ、多少《たしよう》は浸蝕《しんしよく》作用《さよう》もしますが、また一方《いつぽう》では、今《いま》まで運《はこ》んで來《き》たあら目《め》の、やゝ大《おほ》きな石《いし》ころなどを河底《かてい》に沈積《ちんせき》します。
それから、さらに下流部《かりゆうぶ》になりますと、今度《こんど》はもはや浸蝕《しんしよく》作用《さよう》をする力《ちから》はほとんどなくなり、運《はこ》んで來《き》た細《こま》かい土砂《どしや》を沈積《ちんせき》するばかりになります。
以上《いじよう》お話《はなし》したことは、一《ひと》つの河《かは》について、その上《じよう》、中《ちゆう》、下流《かりゆう》の樣子《ようす》のちがふところを區別《くべつ》してみたのでありますが、これをまた、河《かは》の生《うま》れはじめからだん/\年月《ねんげつ》がたつて古《ふる》くなるまでの生長《せいちよう》のあり樣《さま》と比《くら》べて見《み》ても、やはり同《おな》じことがいへるのです。河《かは》が生《うま》れてから間《ま》もない間《あひだ》は、ちょうど今《いま》いつた上流部《じようりゆうぶ》のような形《かたち》をしてゐますが、少《すこ》し年月《ねんげつ》がたつと中流部《ちゆうりゆうぶ》のようなあり樣《さま》となり、終《しま》ひに古《ふる》くなつてくると下流部《かりゆうぶ》のような状態《じようたい》になります。その、上流部《じようりゆうぶ》のようなあり樣《さま》をした河《かは》を『幼年《ようねん》の河《かは》』、中流部《ちゆうりゆうぶ》のようなものを『青年《せいねん》の河《かは》』、下流部《かりゆうぶ》のような状態《じようたい》の河《かは》を『老年《ろうねん》の河《かは》』と、呼《よ》ぶこともあります。
ですから、同《おな》じ一《ひと》つの河《かは》を現在《げんざい》のまゝ、しひて幼年《ようねん》、青年《せいねん》、老年《ろうねん》と分《わ》けようとすると、一《ひと》つの河《かは》でも上流《じようりゆう》のところは幼年《ようねん》の河《かは》、下流《かりゆう》のところは老年《ろうねん》の河《かは》といふことになります。
日本《につぽん》は山《やま》の多《おほ》い國《くに》ですから、地形《ちけい》の上《うへ》から見《み》て、老年《ろうねん》の河《かは》といふのはわりあひに少《すくな》く、北海道《ほつかいどう》では釧路川《くしろがは》、石狩川《いしかりがは》、本州《ほんしゆう》では北上川《きたかみがは》、信濃川《しなのがは》、淀川《よどがは》、朝鮮《ちようせん》では鴨緑江《おうりよつこう》、大同江《だいどうこう》、漢江《かんこう》ぐらゐに過《す》ぎません。あとはたいてい幼年《ようねん》か青年《せいねん》の河《かは》で、つまり上流《じようりゆう》と中流《ちゆうりゆう》だけがあつて下流《かりゆう》の状態《じようたい》を缺《か》いてゐるものが多《おほ》いようです。
日本《につぽん》北《きた》アルプスの黒部《くろべ》峽谷《きようこく》、天龍川《てんりゆうがは》上流《じようりゆう》の天龍峽《てんりゆうきよう》、日光《につこう》の大谷川《だいやがは》、鹽原《しおばら》附近《ふきん》の箒川《はうきがは》[#読点なしは底本のまま]武藏《むさし》の青梅《をうめ》附近《ふきん》の多摩川《たまがは》上流《じようりゆう》、その他《た》、木曾川《きそがは》、富士川《ふじがは》、大井川《おほゐがは》などの上流《じようりゆう》は、みんなV字谷《ぶいじだに》の幼年《ようねん》の河《かは》で、いづれも名高《なだか》い勝地《しようち》となつてゐます。
(ニ)河《かは》のうねり。 河《かは》が若《わか》い間《あひだ》は流《なが》れの勢《いきほひ》が強《つよ》いために兩岸《りようがん》を浸蝕《しんしよく》して、こはれた岩屑《いはくづ》を運《はこ》んでいくばかりでなく、途中《とちゆう》に多少《たしよう》の障碍物《しようがいぶつ》があつても、それを突《つ》き破《やぶ》つて進《すゝ》んでいきますが、それが中流《ちゆうりゆう》から下流《かりゆう》になつて年寄《としよ》つて來《き》ますと、流《なが》れの勢《いきほひ》がおとろへてゆるやかになつて來《く》るので、運《はこ》んで來《き》た土砂《どしや》や礫《こいし》を河底《かてい》に沈積《ちんせき》するばかりでなく、ちよっとした障碍《しようがい》にあつても、それを突《つ》き破《やぶ》つて進《すゝ》むことが出來《でき》ず、すぐに流《なが》れの方向《ほうこう》を轉《てん》ずるようになります。河《かは》がうねり/\してゐるのはそのためです。
一度《いちど》河《かは》がうねり出《だ》すと、その曲《まが》りの外《そと》の方《ほう》にある岸《きし》は、水《みづ》の突《つ》き當《あた》る力《ちから》がます/\強《つよ》く從《したが》つて、流《なが》れが急《きゆう》になるために、なほだん/\深《ふか》く浸蝕《しんしよく》され、その反對《はんたい》の内側《うちがは》の方《ほう》は流《なが》れが緩《ゆる》やかですから土砂《どしや》を沈澱《ちんでん》します。そこでまた外側《そとがは》へ向《むか》つて方向《ほうこう》をかへるようになり、かうして、ちょうど動物《どうぶつ》の腸《はらわた》のようにうね/\とまがりまがつて來《く》るのです。その形《かたち》は蛇《へび》ののたくるようでもありますから、それを河《かは》の『蛇曲《だきよく》』といひます。
[#図版(28.png)、河の蛇曲と三日月沼]
平野《へいや》を流《なが》れる老年《ろうねん》の河《かは》は、この蛇曲《だきよく》が一《いつ》そう甚《はなは》だしくなつて、しまひには蛇曲《だきよく》のはじまりの部分《ぶぶん》と終《をは》りの部分《ぶぶん》とが、くびれるように狹《せま》くなり、あるものはその間《あひだ》が切《き》れて、後《のち》に三日月形《みかづきがた》の古《ふる》い河《かは》を殘《のこ》すこともあります。北海道《ほつかいどう》や樺太《からふと》には、かういふ河《かは》が澤山《たくさん》あります。中《なか》でも、石狩川《いしかりがは》はよく例《れい》に引《ひ》かれて有名《ゆうめい》です。
(二)河流《かりゆう》の浸蝕《しんしよく》
(イ)浸蝕《しんしよく》の仕方《しかた》。 河《かは》の流《なが》れが岸《きし》や河《かは》の底《そこ》をゑぐつて、次第《しだい》に河幅《かははゞ》や深《ふか》さを廣《ひろ》げていく状態《じようたい》を見《み》ますと、およそ三通《みとほ》りにわかれます。一《ひと》つは、河《かは》の水《みづ》が溶《と》けやすい岩《いは》を溶《と》かして行《ゆ》くことで前《まへ》にお話《はなし》したように、石灰岩《せつかいがん》で出來《でき》た地方《ちほう》だとか、又《また》は石灰分《せつかいぶん》を澤山《たくさん》に含《ふく》んだ岩《いは》から出來《でき》てゐるところでは、それが殊《こと》に著《いちじる》しいのです。
第二《だいに》は、河《かは》の流《なが》れが岸《きし》や河底《かはぞこ》の岩《いは》に突《つ》き當《あた》つて、それを洗《あら》ひ流《なが》し、削《けづ》り取《と》つていく働《はたら》きで、これもなか/\馬鹿《ばか》にはなりません。
しかし、なんといつても河《かは》の浸蝕《しんしよく》の働《はたら》きのうちで、一番《いちばん》はげしいのは、河《かは》の中《なか》をごろ/\轉《ころ》げて流《なが》れてゐる轉石《ごろいし》の働《はたら》きです。河原《かはら》に行《い》つて見《み》ると、よく一面《いちめん》に、黒《くろ》、白《しろ》、赤《あか》または緑《みどり》など、さま/″\の色《いろ》をした、圓《まる》く滑《すべ》っこい礫《こいし》が澤山《たくさん》堆積《たいせき》してゐるのを見《み》うけます。そのうちで小《ちひ》さいものは道路《どうろ》に敷《し》いたり、せめんと[#「せめんと」に傍点]や砂《すな》と混《ま》ぜてこんくりーと[#「こんくりーと」に傍点]を作《つく》るに使《つか》ひます。上流《じようりゆう》に進《すゝ》むほどその轉石《ごろいし》の形《かたち》は大《おほ》きくなり、頭《あたま》ぐらゐのや、西瓜《すいか》ぐらゐの大《おほ》きなものや、のちには一抱《ひとかゝ》へも二抱《ふたかゝ》へにもなるものもあり、更《さら》にもっと大《おほ》きなものもあります。それらは、いづれも角《かど》が磨《す》りつぶされてゐて、みんな圓《まる》っこくなつてゐます。
[#図版(29.png)、河を浸蝕する轉石]
かういふ轉石《ごろいし》は、前《まへ》にお話《はなし》した風化《ふうか》作用《さよう》や浸蝕《しんしよく》作用《さよう》で山《やま》の部分《ぶぶん》がこはされたのが、中《なか》に落《お》ちこんで來《き》たものが主《おも》ですが、中《なか》には水《みづ》の流《なが》れで打《う》ちこはされたものもありませう。いづれにしても、それらは、みんな始《はじ》めは角《かど》ばつた、鋭《するど》い鑿《のみ》のような刄《は》をもつてゐたものです。そんな岩《いは》が水《みづ》の勢《いきほひ》でごろ/\列《れつ》を亂《みだ》して流《なが》れ下《くだ》るのですからたまりません。中《なか》には互《たがひ》に衝突《しようとつ》して碎《くだ》けるものもありませう。碎《くだ》ければ刄《は》はなほ鋭《するど》くなります。さういふ鑿《のみ》のような刄先《はさき》が河《かは》の底《そこ》や兩岸《りようがん》を刻《きざ》み刻《きざ》んで、河《かは》をます/\深《ふか》く、廣《ひろ》くして行《ゆ》くのです。そして、自分《じぶん》自身《じしん》も、つひには使《つか》ひつくした鑿《のみ》のように刄先《はさき》が圓《まる》く、滑《すべ》っこい、普通《ふつう》の轉石《ごろいし》となつてしまふのです。
(ロ)浸蝕《しんしよく》のわりあひ。 以上《いじよう》で、河流《かりゆう》が岩《いは》を浸蝕《しんしよく》する三《み》とほりの働《はたら》きがわかりました。今度《こんど》は見方《みかた》をかへて、それらの作用《さよう》はどういふ場合《ばあひ》に最《もつと》もよく行《おこな》はれるかといふことを調《しら》べてみませう。
彫刻師《ちようこくし》や大工《だいく》が、いくらしっかりした腕《うで》や、切《き》れ味《あぢ》のよい鑿《のみ》をもつてゐても、材料《ざいりよう》が堅《かた》いものだと爲事《しごと》はなか/\はかどりません。また、怠《なま》けて爲事《しごと》に精《せい》を出《だ》さない場合《ばあひ》にも、はか[#「はか」に傍点]がいかないのはいふまでもありません。これと同《おな》じことで、河《かは》の浸蝕《しんしよく》のわりあひも、それを刻《きざ》む道具《どうぐ》のほかに、いろ/\の事情《じじよう》で變《かは》つて來《き》ます。
今《いま》その場合《ばあひ》を考《かんが》へてみますと、(1)河水《かすい》の分量《ぶんりよう》、(2)流《なが》れの速《はや》さ、(3)河《かは》の勾配《こうばい》、(4)河底《かてい》の岩《いは》の硬《かた》さ、(5)河《かは》の運《はこ》ぶ轉石《ごろいし》の大きさ、かういふものでちがつて來《く》るだらうと思《おも》はれます。
河《かは》の水量《すいりよう》が多《おほ》くなればなるほど、また流《なが》れの速《はや》さが早《はや》ければ早《はや》いほど、川《かは》の働《はたら》きは強《つよ》くなり、浸蝕《しんしよく》する度《ど》あひが著《いちじる》しくなつて來《き》ます。流《なが》れの速《はや》さは河底《かてい》の勾配《こうばい》の強《つよ》さできまつてくるもので、一般《いつぱん》に河口《かはぐち》から遠《とほ》く溯《さかのぼ》るほど勾配《こうばい》は急《きゆう》です。浸蝕《しんしよく》の力《ちから》は流《なが》れの速《はや》さの二倍《にばい》のわりあひで強《つよ》くなつていくもので、流《なが》れの速《はや》さが現在《げんざい》よりも二倍《にばい》になれば浸蝕《しんしよく》の力《ちから》は四倍《しばい》になり、流《なが》れの速《はや》さが三倍《さんばい》になれば浸蝕《しんしよく》の力《ちから》は九倍《くばい》になるといふ風《ふう》に、次第《しだい》に増《ま》していくのです。
日本《につぽん》各地《かくち》の山《やま》はわりあひ新《あたら》しく隆起《りゆうき》したもので、地貌《ちぼう》はだいたいに若《わか》いものが多《おほ》く、從《したが》つて谷《たに》も幼《をさな》いものが多《おほ》いのですから、流《なが》れの速《はや》い、急流《きゆうりゆう》といはるゝものがすいぶんたくさんあります。最上川《もがみがは》、木曾川《きそがは》、天龍川《てんりゆうがは》、富士川《ふじがは》、阿賀《あが》の川《がは》を始《はじ》め、日光《につこう》の大谷川《だいやがは》、山城《やましろ》の保津川《ほつがは》、肥後《ひご》の球磨川《くまがは》などは、その景色《けしき》の勝《すぐ》れてゐるのと急流《きゆうりゆう》の河下《かはくだ》りとで名高《なだか》くなつてゐます。
次《つ》ぎに、河底《かはぞこ》の岩《いは》と河水《かすい》の浸蝕《しんしよく》するわりあひとを考《かんが》へて見《み》ますと、岩《いは》が硬《かた》ければ硬《かた》いほど、浸蝕《しんしよく》に手間《てま》どることはいふまでもありませんが、河底《かはぞこ》の岩《いは》はどこでも同《おな》じ硬《かた》さをもつてゐるとは限《かぎ》りません。また、前《まへ》にお話《はなし》したように、岩《いは》にはたいてい割《わ》れ目《め》(節理《せつり》)が發達《はつたつ》してゐますから、軟《やはらか》いところや、割《わ》れ目《め》のあるところは多《おほ》く削《けづ》られたり、壞《こは》されたりします。そこで河《かは》の床《とこ》には高低《こうてい》さま/″\のでこぼこ[#「でこぼこ」に傍点]が出來《でき》、水《みづ》はそのために激《げき》して白《しろ》いしぶきを飛《と》ばします。深《ふか》くゑぐられたところは淀《よど》んで碧《あを》い淵《ふち》となり、木曾《きそ》の寢覺《ねざめ》の床《とこ》や、秩父《ちゝぶ》の長瀞《ながとろ》のような美《うつく》しい景色《けしき》をつくります。
[#図版(30.png)、巨人の釜]
それから又《また》、ところ/″\に面白《おもしろ》い『巨人《きよじん》の釜《かま》』(甌穴《おうけつ》)といふ圓《まる》い深《ふか》い穴《あな》を作《つく》ることもあります。この釜穴《かまあな》は河底《かはぞこ》の岩《いは》のくぼんだところや、割《わ》れ目《め》に小石《こいし》がひっかゝり、急《きゆう》な流《なが》れのために同《おな》じ場所《ばしよ》でぐる/\廻轉《かいてん》して、錐《きり》もみのようにもみこんで出來《でき》たのです。寢覺《ねざめ》の床《とこ》の釜穴《かまあな》は、その形《かたち》の完全《かんぜん》なので名高《なだか》く、但馬《たぢま》揖保川《いひほがは》の支流《しりゆう》の鹿《しか》が坪《つぼ》では、十個《じつこ》ばかりの釜穴《かまあな》が連《つら》なつて列《なら》んでをり、越後《えちご》田代《たしろ》の七《なゝ》つ釜《がま》は材木岩《ざいもくいは》に出來《でき》た七《なゝ》つの釜穴《かまあな》が續《つゞ》いてゐるので、さういふ名《な》がついたのです。このほか、秩父《ちゝぶ》長瀞《ながとろ》、日向《ひうが》の都城《みやこのじよう》附近《ふきん》の關尾《せきを》、日光《につこう》の含滿《がんまん》が淵《ふち》、三河《みかは》長篠《ながしの》の瀧川《たきかは》などは同《おな》じく釜穴《かまあな》で名高《なだか》いところですが、岩《いは》から出來《でき》た河底《かはぞこ》で流《なが》れが急《きゆう》なところなら、どこにでも一《ひと》つや二《ふた》つの釜穴《かまあな》のないところはありません。
河底《かはぞこ》の勾配《こうばい》がわりあひに急《きゆう》で、そこに硬《かた》い岩《いは》と軟《やはらか》い岩《いは》との兩方《りようほう》があらはれてゐる場合《ばあひ》には、軟《やはらか》い岩《いは》ははげしく浸蝕《しんしよく》され、硬《かた》い岩《いは》ばかり殘《のこ》つて段《だん》が出來《でき》ます。そして、そこへ瀧《たき》を生《しよう》ずるようになります。水成岩《すいせいがん》ではおこし[#「おこし」に傍点]のように小石《こいし》の固《かた》まつて出來《でき》た礫岩《れきがん》は、普通《ふつう》ほかの岩《いは》よりも硬《かた》いので、よく瀧《たき》をつくることがあります。また砂《すな》の固《かた》まつた砂岩《しやがん》と、泥土《でいど》の固《かた》まつた泥板岩《でいばんがん》とが層《そう》をなしてゐる場合《ばあひ》には、砂岩《しやがん》の部分《ぶぶん》が殘《のこ》つて瀧《たき》をつくり出《だ》すこともあります。また火山《かざん》地方《ちほう》では、軟《やはらか》い火山灰《かざんばひ》の部分《ぶぶん》がおほく削《けづ》られ、硬《かた》い熔岩《ようがん》や、集塊岩《しゆうかいがん》の部分《ぶぶん》が取《と》り殘《のこ》されて瀧《たき》が出來《でき》ることもあります。日光《につこう》の華嚴《けごん》の瀧《たき》はかうして出來《でき》たものです。
(ハ)瀧《たき》のあとすざり。 一滴《いつてき》づゝの水《みづ》のしづくでも、永《なが》い間《あひだ》には岩《いは》に孔《あな》をうがちます。まして一塊《ひとかたまり》となつて落《お》ちる瀧《たき》の水《みづ》が、非常《ひじよう》に大《おほ》きな爲事《しごと》をすることは想像《そうぞう》してもわかるでせう。われ/\はその力《ちから》を利用《りよう》して大《おほ》きな車《くるま》を廻《まは》し、水力《すいりよく》電氣《でんき》を起《おこ》したりします。
そんなわけで、瀧《たき》がどん/\落《お》ちる足《あし》もとには、岩《いは》がゑぐられて『瀧壺《たきつぼ》』が出來《でき》ます。そればかりでなく、瀧《たき》のかゝる岩《いは》の崖《がけ》も次第《しだい》に削《けづ》られて、だん/\後《あと》すざりすることもかなり著《いちじる》しいことです。
その最《もつと》もよい例《れい》としてあげられるのは、北《きた》アメリカの名《な》とともにすぐ思《おも》ひ出《だ》されるナイアガラ瀑布《ばくふ》です。ナイアガラ瀑布《ばくふ》は、エリー湖《こ》とオンタリオ湖《こ》との間《あひだ》にあつて、中《なか》にゴート島《とう》をはさみ、それによつてカナダ側《がは》と合衆國《がつしゆうこく》側《がは》との二《ふた》つに分《わか》れてゐます。合衆國《がつしゆうこく》側《がは》のものは、瀧《たき》の高《たか》さ百《ひやく》七十尺《しちじつしやく》、幅《はゞ》千尺《せんじやく》、カナダ側《がは》のものは落《お》ち口《くち》の縁《へり》が馬《うま》の蹄形《ひづめがた》にくぼんでをり、その曲《まが》りに沿《そ》うて測《はか》ると幅《はゞ》二千五百《にせんごひやく》五十尺《ごじつしやく》、高《たか》さ百《ひやく》六十尺《ろくじつしやく》あります。幅《はゞ》のわりあひに高《たか》さは低《ひく》いのですが、水量《すいりよう》が非常《ひじよう》に多《おほ》く、そのごう/\と轟《とゞろ》く音《おと》と、高《たか》く飛《と》び散《ち》る水煙《すいえん》とは、數《すう》まいる[#「まいる」に傍点]の遠方《えんぽう》からも見《み》られ得《う》る壯觀《そうかん》であります。
[#図版(31.png)、エリー湖とオンタリオ湖]
いろ/\調《しら》べられたところによりますと、このナイアガラ瀑布《ばくふ》は、浸蝕《しんしよく》のために一箇年《いつかねん》に凡《およ》そ一尺《いつしやく》から二尺《にしやく》ぐらゐづゝ後《あと》すざりしてゐるといふことです。ですから今後《こんご》およそ七萬年《しちまんねん》もたつと、エリー湖《こ》のすぐ出口《でぐち》のところまで退《の》いてしまふといつてゐる人《ひと》もあります。日本《につぽん》でも、日光《につこう》の裏見《うらみ》の瀧《たき》などは、わりあひに後《あと》すざりの眼《め》につくものだといはれてゐます。
(ニ)浸蝕《しんしよく》の分量《ぶんりよう》。 以上《いじよう》お話《はなし》した手《て》つゞきで、河《かは》の流《なが》れが土地《とち》の表面《ひようめん》を浸蝕《しんしよく》していく分量《ぶんりよう》はどのくらゐかといひますと、それはなか/\大《おほ》きなもので次《つ》ぎの例《れい》でもおほよそおわかりになると思《おも》ひます。
アメリカ合衆國《がつしゆうこく》のミシシッピー河《がは》は、流域《りゆういき》がおよそ百《ひやく》二十萬《にじゆうまん》平方《へいほう》まいる(凡《およ》そ日本《につぽん》の總面積《そうめんせき》の三倍《さんばい》)もあつて、年々《ねん/\》約《やく》七十五億《しちじゆうごおく》立方尺《りつぽうしやく》(約《やく》四億《しおく》とん)の土砂《どしや》をおし流《なが》して海《うみ》に運《はこ》んでゐます。つまり、四千《しせん》六百《ろつぴやく》年間《ねんかん》に、一尺《いつしやく》づゝその流域《りゆういき》の地面《じめん》を削《けづ》り取《と》つていく勘定《かんじよう》です。しかし、インドにあるガンヂス河《がは》は流域《りゆういき》が僅《わづか》に四十萬《しじゆうまん》平方《へいほう》まいる、つまり日本《につぽん》の面積《めんせき》に大體《だいたい》似《に》たものですが、それが年々《ねん/\》運《はこ》び去《さ》る土砂《どしや》の量《りよう》は、ミシシッピー河《がは》の運《はこ》ぶ分量《ぶんりよう》に大體《だいたい》近《ちか》いのですから、實《じつ》にすばらしいものです。そのわけは、インドでは一年《いちねん》のうち半年《はんとし》は大雨《おほあめ》が降《ふ》りつゞくのと、河《かは》の流《なが》れが急《きゆう》だからだといはれてゐます。
しかし、世界《せかい》の多《おほ》くの河《かは》を見《み》ますと、まづミシシッピー河《がは》ぐらゐの浸蝕《しんしよく》をするものが最《もつと》も普通《ふつう》で、地球上《ちきゆうじよう》の大陸《たいりく》はおほよそ五千《ごせん》年間《ねんかん》に平均《へいきん》一尺《いつしやく》ぐらゐづゝのわりあひで地面《じめん》から削《けづ》られ、だん/\低《ひく》くなつていくのだといはれてゐます。
ついでに、今《いま》一言《ひとこと》お話《はなし》して置《お》きたいのは、河《かは》の浸蝕《しんしよく》によつて、農作物《のうさくぶつ》に適《てき》した土壤《どじよう》と、その中《なか》に含《ふく》まれてゐる作物《さくもの》[#「さくもの」は底本のまま]の滋養分《じようぶん》とが一《いつ》しよに運《はこ》び去《さ》らるゝことで、その養分《ようぶん》だけについていへば、作物《さくもつ》が土壤《どじよう》から養分《ようぶん》を吸《す》ひ取《と》つて、それが無《な》くなる分量《ぶんりよう》よりも、河《かは》の流《なが》れによつて失《うしな》はるゝ分量《ぶんりよう》の方《ほう》が二十倍《にじゆうばい》も多《おほ》いといふことです。近頃《ちかごろ》アメリカ合衆國《がつしゆうこく》で調《しら》べられたところによりますと、同國《どうこく》だけで、かうして失《うしな》はれる肥料分《ひりようぶん》は毎年《まいねん》金額《きんがく》に見積《みつも》つて約《やく》四億圓《しおくえん》以上《いじよう》にも及《およ》び、その流失《りゆうしつ》する土壤《どじよう》の分量《ぶんりよう》は約《やく》十億《じゆうおく》とん[#「とん」に傍点]にも達《たつ》するといふことです。考《かんが》へてみると、河《かは》の作用《さよう》もまた、實《じつ》に驚《おどろ》くべきものではありませんか。
(三)河水《かすい》の運搬《うんぱん》する働《はたら》き
(イ)河流《かりゆう》の運搬《うんぱん》する力《ちから》。 河《かは》の流《なが》れは、大《おほ》きくて重《おも》いものは河底《かはぞこ》をごろ/″\轉《ころ》がしながら、小《ちひ》さくて輕《かる》いものは水《みづ》の中《なか》に浮《うか》ばせながら、下《した》へ/\と運《はこ》んでいきます。水《みづ》の中《なか》に浮《うか》んだものも、水《みづ》の流《なが》れがゆるやかになると河底《かはぞこ》に沈《しづ》み、一時《いちじ》とゞまつてゐることもありますが、雨《あめ》が降《ふ》つて水《みづ》の量《りよう》が増《ま》し、流《なが》れが急《きゆう》になるとまた旅人《たびびと》のように流《なが》れはじめます。
河《かは》の流《なが》れが物質《ぶつしつ》を運搬《うんぱん》する量《りよう》は、前《まへ》にもお話《はなし》したようになか/\大《おほ》きなもので、ミシシッピー河《がは》が一箇年《いつかねん》に運搬《うんぱん》する土砂《どしや》を、かりに一《いち》まいる四方《しほう》の面積《めんせき》の上《うへ》に積《つ》みあげることにしますと、二百《にひやく》六十八尺《ろくじゆうはつしやく》もある高《たか》い山《やま》が出來上《できあが》ります。ある人《ひと》はこれから勘定《かんじよう》して、地球上《ちきゆうじよう》のすべての河《かは》が海《うみ》に運《はこ》ぶ土砂《どしや》の量《りよう》は、一箇年《いつかねん》だけでミシシッピー河《がは》の約《やく》四十倍《しじゆうばい》はあるといはれます。ですから、地球上《ちきゆうじよう》の河《かは》は、年々《ねん/\》一《いち》まいる四方《しほう》の上《うへ》に築《きづ》きあげられた、高《たか》さ一千尺《いつせんじやく》あまりの山《やま》を一《ひと》つづゝ海《うみ》に運《はこ》んでゐる勘定《かんじよう》になります。
支那《しな》の黄海《こうかい》は、黄河《こうが》といふ大《おほ》きな河《かは》が、その流域《りゆういき》一面《いちめん》を蔽《おほ》うてゐる黄土《おうど》を洗《あら》ひ流《なが》して來《く》るために、黄色《きいろ》く濁《にご》つてゐます。河《かは》の流《なが》れが土砂《どしや》を運搬《うんぱん》する力《ちから》は、流《なが》れの速《はや》さによりちがつて來《く》るので、その速《はや》さが二倍《にばい》になると運搬力《うんぱんりよく》は六十四倍《ろくじゆうしばい》にも増加《ぞうか》します。ですから、今《いま》一時間《いちじかん》十《じゆう》まいる[#「まいる」に傍点]の速《はや》さで流《なが》れてゐる河《かは》が、一《いつ》とん半《はん》だけの土砂《どしや》を運《はこ》んでゐるとしたら、一時間《いちじかん》二十《にじゆう》まいる[#「まいる」に傍点]の速《はや》さで流《なが》れてゐる河《かは》は、同《おな》じ時間《じかん》におよそ百《ひやく》とん[#「とん」に傍点]の土砂《どしや》を運《はこ》ぶことになります。
(ロ)河水《かすい》の篩《ふる》ひ分《わ》け。 河《かは》の水《みづ》がさま/″\なものを運《はこ》んでゐるのを見《み》ますと、水《みづ》に溶《と》けた物質《ぶつしつ》や、細《こま》かい泥《どろ》のようなものは、水《みづ》の流《なが》れていくところへどこまでも運《はこ》ばれますが、少《すこ》し大《おほ》きな砂《すな》や礫《こいし》になると、途中《とちゆう》までしか下《くだ》つていくことが出來《でき》ません。
それでも、アフリカやアメリカなどにある大《おほ》きな河《かは》になると、角《かど》のつぶれて圓《まる》くなつた礫《こいし》が、四百《しひやく》まいる[#「まいる」に傍点]以上《いじよう》も運《はこ》ばれた例《れい》が少《すくな》くありません。海岸《かいがん》で見《み》る砂利濱《じやりはま》や、砂濱《すなはま》の礫《こいし》や、砂《すな》は、みな河《かは》が運《はこ》んで來《き》たもので、その礫《こいし》の質《しつ》を河《かは》の上流《じようりゆう》を形造《かたちづく》つてゐる岩《いは》と比《くら》べて見《み》るとすぐに、それがどこ/\から來《き》たかといふことがわかります。
これらの泥《どろ》や、砂《すな》や、礫《こいし》が河《かは》の中《なか》を運《はこ》ばれる間《あひだ》には、水《みづ》の流《なが》れと浪《なみ》のために絶《た》えずかき混《ま》ぜられもしますが、それでもその大《おほ》きさと重《おも》さとによつて、ちょうど篩《ふるひ》にでもかけたように、ほゞ同《おな》じもの同士《どうし》が別々《べつ/\》に選《よ》り分《わ》けられ、泥《どろ》は泥《どろ》、砂《すな》は砂《すな》、礫《こいし》は礫《こいし》といふ風《ふう》にわかれわかれになつて堆積《たいせき》します。このように、水《みづ》で篩《ふる》ひ分《わ》けられることを『水選《すいせん》』せられるといひます。このわけは、われ/\が陶土《とうど》や澱粉《でんぷん》を精製《せいせい》したりするときにも應用《おうよう》し、また鑛山《こうざん》で、鑛石《こうせき》や石炭《せきたん》の品質《ひんしつ》や大《おほ》きさをより分《わ》けたりする時《とき》にも應用《おうよう》します。
砂金《しやきん》や砂鐵《しやてつ》が、河《かは》の床《とこ》や海岸《かいがん》の砂《すな》の中《なか》にあつて、一《ひと》ところに多《おほ》く集《あつま》つてゐるのもこのためです。
(四)河水《かすい》の沈澱《ちんでん》する働《はたら》き
(イ)河《かは》の作《つく》つた平地《へいち》。 河《かは》が持《も》ち運《はこ》んで來《き》た土砂《どしや》や礫《こいし》も、何《なに》かの調子《ちようし》で流《なが》れの速《はや》さがゆるやかになると、その持《も》ちきれない餘分《よぶん》のものだけをそこに沈澱《ちんでん》させて、置《お》いたまゝいきます。
流《なが》れの速《はや》さがゆるやかになると、前《まへ》にもお話《はなし》したとほり、おもに河床《かはどこ》の勾配《こうばい》がゆるくなつて來《く》るとか、河《かは》が曲《まが》るとかする場合《ばあひ》に起《おこ》るものですから、沈澱《ちんでん》の起《おこ》るのもおもに中流《ちゆうりゆう》から下流《かりゆう》のところか、河《かは》の曲《まが》つた内側《うちがは》のところとかで、そこへはよく砂《すな》や、泥《どろ》や、礫《こいし》のまじつた平地《へいち》が出來《でき》ます。
かうして出來《でき》た平地《へいち》は、普通《ふつう》、河《かは》の兩岸《りようがん》に細長《ほそなが》く沿《そ》うてゐて、あまり廣《ひろ》いものではありませんが、土地《とち》が肥《こ》えてゐるため、作物《さくもつ》の栽培《さいばい》に適《てき》してゐます。
しかし、河《かは》はとき/″\洪水《こうずい》を起《おこ》し、その水《みづ》が兩岸《りようがん》からあふれて、廣《ひろ》くその流域《りゆういき》一面《いちめん》に流《なが》れ出《で》ることがあります。そして、水《みづ》のひいた後《のち》には、その廣《ひろ》い平野《へいや》一面《いちめん》に土砂《どしや》を沈澱《ちんでん》してゐます。水《みづ》の流《なが》れがはげしい場合《ばあひ》には、しぜんあらい大《おほ》きな礫《こいし》を殘《のこ》していきますが、わりあひに靜《しづ》かな流《なが》れの氾濫《はんらん》である場合《ばあひ》には、細《こま》かい泥土《でいど》ばかりを沈澱《ちんでん》して、非常《ひじよう》に肥沃《ひよく》な平地《へいち》をつくります。
エジプトのナイル河《がは》は、源《みなもと》を遠《とほ》くビクトリア・ニアンザ湖《こ》に發《はつ》し、途中《とちゆう》沙漠《さばく》地方《ちほう》を通過《つうか》してあまり澤山《たくさん》な支流《しりゆう》はもつてゐませんが、その流《なが》れの長《なが》さは約《やく》一千《いつせん》まいる[#「まいる」に傍点]もあつて、青森《あをもり》から下《しも》の關《せき》に至《いた》るくらゐの距離《きより》があります。それが年々《ねん/\》七月《しちがつ》の雨期《うき》になりますと、中流《ちゆうりゆう》から下流《かりゆう》の、およそ五百《ごひやく》まいる[#「まいる」に傍点]ぐらゐの間《あひだ》が氾濫《はんらん》し、河幅《かははゞ》が五《ご》まいる[#「まいる」に傍点]から十五《じゆうご》まいる[#「まいる」に傍点]ぐらゐにひろがります。河口《かこう》に近《ちか》いカイロ附近《ふきん》では、水嵩《みづかさ》が二十五尺《にじゆうごしやく》も高《たか》まるといひます。その水《みづ》がひいた後《あと》には細《こま》かい肥《こ》えた泥《どろ》がのこるので、農夫《のうふ》は別《べつ》に肥料《こやし》をほどこす必要《ひつよう》もなく、そこに作物《さくもつ》を植《う》ゑつけます。その沈澱《ちんでん》した泥土《でいど》は百年《ひやくねん》ごとに約《やく》四寸《しすん》から五寸《ごすん》ぐらゐづゝのわりあひで厚《あつ》さを増《ま》していくそうです。
(ロ)河《かは》のつくつた扇形《あふぎがた》の土地《とち》。 水源《すいげん》地方《ちほう》の山地《さんち》から、わりあひに急《きゆう》な速度《そくど》で流《なが》れ下《くだ》つて來《き》た河《かは》が、平野《へいや》の開《ひら》けた、ゆるやかなところに來《く》ると、その移《うつ》りかはりのところから、運《はこ》んで來《き》た土砂《どしや》や礫《こいし》を急《きゆう》に沈澱《ちんでん》し始《はじ》めます。そして、下《した》に行《ゆ》くほど扇《あふぎ》をひろげたように、沈澱《ちんでん》の區域《くいき》をひろげていきます。かうして出來《でき》た河《かは》の、新《あたら》しい沈積地《ちんせきち》を『扇状地《せんじようち》』とよんでゐます。
[#図版(32.png)、山麓の扇状地]
扇状地《せんじようち》は、山《やま》の麓《ふもと》にいけばどこにでも見《み》ることが出來《でき》、小《ちひ》さい河《かは》は小《ちひ》さいなりに、狹《せま》い小形《こがた》の扇状地《せんじようち》を作《つく》つてゐます。これは、崖《がけ》が崩《くづ》れてその麓《ふもと》に出來《でき》た、錐積層《すいせきそう》と間違《まちが》へてはいけません。
大《おほ》きな河《かは》はまた大《おほ》きいなりに、たいそう廣《ひろ》い扇状地《せんじようち》をつくります。河《かは》の勾配《こうばい》がゆるければゆるいほど、扇状地《せんじようち》のひろがる面積《めんせき》も大《おほ》きくなつて、たまには何千《なんぜん》平方《へいほう》まいる[#「まいる」に傍点]といふように廣大《こうだい》なものもあります。こんな大《おほ》きな扇状地《せんじようち》になると、一方《いつぽう》では河《かは》の浸蝕《しんしよく》作用《さよう》が行《おこな》はれると同時《どうじ》に、他方《たほう》では沈澱《ちんでん》がつゞいて大變《たいへん》不規則《ふきそく》な形《かたち》なものになつて來《き》ます。
北《きた》アメリカのカリフォルニア州《しゆう》にあるメルセッド河《がは》、ヨーロッパのピレニース山脈《さんみやく》の北方《ほつぽう》を流《なが》れるガロンヌ河《がは》、インドのインド河《がは》、ガンヂス河《がは》、支那《しな》の黄河《こうが》などは、廣大《こうだい》な扇状地《せんじようち》をもつてゐるので世界中《せかいじゆう》でも有名《ゆうめい》です。ことに、黄河《こうが》の扇状地《せんじようち》は、頭《あたま》の尖《とが》つたところが海岸《かいがん》から三百《さんびやく》まいる[#「まいる」に傍点]もはなれたところにあり、そこの高《たか》さは海拔《かいばつ》わづかに四百《しひやく》尺《しやく》ぐらゐで、ゆるやかな勾配《こうばい》で海《うみ》の方《ほう》にひろがつてゐます。
日本《につぽん》でも大阪《おほさか》附近《ふきん》の攝津《せつつ》平野《へいや》や河内《かはち》平野《へいや》は、淀川《よどがは》や大和川《やまとがは》のつくつた扇状地《せんじようち》ですし、名古屋《なごや》附近《ふきん》の濃尾《のうび》平野《へいや》は主《おも》に木曾川《きそがは》のつくつた扇状地《せんじようち》といへます。その他《た》、かういふ例《れい》は數《かぞ》へきれないほど澤山《たくさん》あります。
(ハ)三角洲《さんかくす》。 河《かは》が海《うみ》や湖《みづうみ》に注《そゝ》ぐところは、その海《うみ》や湖《みづうみ》の水《みづ》のために河《かは》の流《なが》れがはゞまれ、速《はや》さが急《きゆう》にゆるやかになるので、ちょうど山地《さんち》から平野《へいや》に出《で》た河《かは》が、扇状地《せんじようち》を作《つく》ると同《おな》じように、河口《かはぐち》へ今《いま》まで運《はこ》んで來《き》た土砂《どしや》を沈澱《ちんでん》して、三角形《さんかくがた》の平地《へいち》をつくります。これを『三角洲《さんかくす》』といひますが、その形《かたち》がギリシャの△《でるた》といふ文字《もじ》に似《に》てゐるので、そのまゝでるた[#「でるた」に傍点]と呼《よ》ばれてゐます。海岸《かいがん》の波《なみ》の荒《あら》いところでは、せっかく河口《かはぐち》に沈澱《ちんでん》が出來《でき》ても、すぐ波《なみ》のために洗《あら》ひ流《なが》されてしまひますから、さういふところにはでるた[#「でるた」に傍点]は發達《はつたつ》しません。でるた[#「でるた」に傍点]は波《なみ》の靜《しづ》かな内海《うちうみ》とか、湖《みづうみ》とかにそゝぐ河口《かはぐち》によくできるものです。
[#図版(33.png)、ナイル河の三角洲]
地中海《ちちゆうかい》にそゝぐナイル河《がは》の河口《かはぐち》のでるた[#「でるた」に傍点]は、世界《せかい》で最《もつと》も標本的《ひようほんてき》のものといはれる立派《りつぱ》なものですが、日本《につぽん》でも隅田川《すみだがは》、木曾川《きそがは》、淀川《よどがは》、筑後川《ちくごがは》のような、わりあひに靜《しづ》かな内海《うちうみ》に注《そゝ》ぐ河《かは》には、かなりよくでるた[#「でるた」に傍点]が發達《はつたつ》してゐます。利根川《とねがは》や日向《ひうが》の河《かは》のように、外洋《がいよう》にそそぐ河《かは》にはあまり立派《りつぱ》なでるた[#「でるた」に傍点]は出來《でき》ません。
でるた[#「でるた」に傍点]は、土地《とち》が平《たひら》で肥《こ》えてゐるばかりでなく、海《うみ》との交通《こうつう》がよく、また河《かは》を應用《おうよう》して内地《ないち》との交通《こうつう》運搬《うんぱん》の便《べん》も得《え》られますから、しぜんと、そこに人《ひと》が多《おほ》く集《あつま》つて來《き》て、立派《りつぱ》な都會《とかい》が出來《でき》ます。これは地圖《ちず》をひらいてごらんになると、すぐわかることです。エジプトが世界《せかい》で最《もつと》も古《ふる》い文明國《ぶんめいこく》として、早《はや》く開《ひら》けたのもおもにナイル河《がは》のでるた[#「でるた」に傍点]のおかげだつたといつてもさしつかへないでせう。
※ 底本中の「鐘乳洞」「鐘乳石」はそのままにした。
底本:『山の科学 No.47』復刻版 日本児童文庫、名著普及会
1982(昭和57)年6月20日発行
親本:『山の科學』日本兒童文庫、アルス
1927(昭和2)年10月3日発行
入力:しだひろし
校正:
xxxx年xx月xx日作成
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*地名
(※ 市町村名は、平成の大合併以前の表記のまま。一般的な国名・地名などは解説省略。- [朝鮮] ちょうせん
- 鴨緑江 おうりょっこう (Amnok-kang; Yalu Jiang) 朝鮮と中国東北部との国境をなす川。白頭山(長白山)に発源し、南西流して黄海に注ぐ。全長795km。朝鮮第一の長流。
- 大同江 だいどうこう/テドンガン (Taedong-gang) 朝鮮半島北西部、平安南道の大河。慈江道・咸鏡南道境の小白山に発源、平壌市街を貫流して黄海に注ぐ。長さ約430km。
- 漢江 かんこう (Han-gang) 朝鮮半島屈指の大河。太白山脈中の五台山に発源、春川江・臨津江などの支流を合わせ、ソウルの中央を流れて京畿湾に注ぐ。流域は工業地帯として発展し、1970年代の韓国の経済急成長を「漢江の奇跡」と呼ぶ。長さ514km。漢水。ハンガン。
- カラフト 樺太。サハリンの日本語名。唐太。
- サハリン Sakhalin 東はオホーツク海、西は間宮(タタール)海峡の間にある細長い島。1875年(明治8)ロシアと協約して日露両国人雑居の本島をロシア領北千島と交換、1905年ポーツマス条約により北緯50度以南は日本領土となり、第二次大戦後、ソ連領に編入。現ロシア連邦サハリン州の主島。北部に油田がある。面積7万6000平方km。樺太。サガレン。
- [北海道]
- 釧路川 くしろがわ 北海道南東部、釧路平野を南流する川。屈斜路湖に源を発し、久著呂川・雪裡川などを合わせて釧路市で太平洋に注ぐ。昭和6(1931)新釧路川を開削。全長154km。
- 石狩川 いしかりがわ 北海道第一の川。石狩岳に発源し、石狩平野を貫流して石狩湾に注ぐ。長さ268km。流域約1万4000平方km。
- [青森県]
- 青森 あおもり 青森県の市。県庁所在地。津軽藩の外港として発展。東北本線・奥羽本線・津軽線の結節点。ねぶた祭は東北三大祭の一つとして有名。産業は食品・製材等の諸工業。人口31万2千。
- [岩手県]
- 北上川 きたかみがわ 岩手県北部の七時雨山付近に発し、奥羽山脈と北上高地の間を南流し、同県中央部、宮城県北東部を貫流して追波湾に注ぐ川。石巻湾に直流する流路は旧北上川と称する。長さ249km。
- [山形県]
- 最上川 もがみがわ 山形県の南境、飯豊山および吾妻火山群に発源、米沢・山形・新庄の各盆地を貫流し、庄内平野を経て酒田市で日本海に注ぐ川。富士川・球磨川とともに日本三急流の一つ。古くから水運に利用。長さ229km。
- [新潟県]
- 越後 えちご 旧国名。今の新潟県の大部分。古名、こしのみちのしり。
- 信濃川 しなのがわ 長野・新潟両県にまたがる川。本流千曲川は秩父山地に発源し、最大の支流犀川は飛騨山脈に発し、長野市南東部で合流した後、北東に流れ新潟県に入って信濃川と称し、魚野川を合わせて新潟市で日本海に注ぐ。日本で第1位の長流で、長さ367km。
- 阿賀の川 あがのがわ → 阿賀野川
- 阿賀野川 あがのがわ 福島県会津盆地から西へ新潟県北部を流れ、新潟市東方で日本海にそそぐ川。上流は猪苗代湖・只見川・大川など。包蔵水力大で、大型の水力発電所が多数ある。長さ210km。
- 田代 たしろ 現、新潟県中魚沼郡中里村田代。中里村は郡の東に位置する。田代は釜川の上流。
- 七つ釜 ななつがま 七ツ釜。現、新潟県中魚沼郡中里村田代。田代集落の上方にある。釜とは滝や急流がうがった深淵のことで、川名も淵名もこれに由来する。手洗い釜・みそぎ釜・観音釜・中の釜・不動釜・弁天釜・大滝の釜、の七つ。両岸に絶壁が垂直に近い角度で切り立つ。岩石は輝石安山岩あるいは玄武岩。釜川のこの部分は断層をなし、左岸は柱状石が直立し、右岸は柱石が横に重なり、切口を現す。
- [栃木県]
- 日光 にっこう 栃木県北西部の市。奈良末期、勝道上人によって開かれ、江戸時代以後、東照宮の門前町として発達。日光国立公園の中心をなす観光都市。二荒山神社・東照宮・輪王寺の建造物群と周辺は「日光の社寺」として世界遺産。人口9万4千。
- 大谷川 だいやがわ 栃木県西部の川。中禅寺湖の水が落下して華厳滝となり、含満ヶ淵・日光市をへて鬼怒川に合流する。長さ約30km。流域は景勝に富む。
- 華厳の滝 けごんのたき 栃木県日光山中の滝。溶岩流の断崖にかかり、高さ約97m、幅約7m。中禅寺湖から流れ出て、その末は大谷川となる。霧降滝・裏見滝とともに日光三名瀑の一つ。
- 含満が淵 がんまんがふち 現、日光市街地の南2キロ、鳴虫山北麓大谷川沿いにある。日光八景の一つ。含満は本来憾満(かんまん)と記し、晃海によって開かれた霊場で、阿弥陀・地蔵・慈眼大師(天海)の像を安置する慈雲寺があったが、明治35(1902)洪水で流失。
- 裏見の滝 うらみのたき 現、栃木県日光市。荒沢川にある滝。華厳の滝、霧降の滝とともに日光の三大瀑布の一つ。荒沢滝。
- 塩原 しおばら 栃木県那須塩原市の一地区。箒川の渓谷に沿った温泉地で、塩原十一湯として古くから知られる。
- 箒川 ほうきがわ 栃木県那須郡。塩原町西部の白倉山南東斜面に発し、ほぼ南東流しながら大田原市を抜け、湯津上村・小川町境東端で那珂川右岸に合流する。流路延長49.5km。おもな支流には左岸に合流する蛇尾川がある。上流部では塩原盆地を形成。那須野ヶ原南縁部には細長い沖積地が発達し、ここに多くの村が発達した。
- [埼玉県]
- 秩父 ちちぶ 埼玉県西端の市。東部の市街地は秩父盆地の中心をなし、荒川上流の形成する河岸段丘上に発達。秩父銘仙を産する。セメント工業が盛ん。人口7万1千。
- 長瀞 ながとろ 埼玉県秩父郡北東部の名勝地。荒川の渓谷に沿い、灰緑色の結晶片岩の板状節理が水食によってあらわれ、独特の峡谷美を形成。
- [東京都]
- 利根川 とねがわ 関東平野を貫流する大川。一名、坂東太郎。新潟県と群馬県の県境の大水上山に発源し、南東へ流れ、銚子市で太平洋に注ぐ。流域は群馬・栃木・埼玉・東京・茨城・千葉の1都5県にまたがり、1万6840平方kmで日本最大。長さ322km。
- 武蔵 むさし (古くはムザシ) 旧国名。大部分は今の東京都・埼玉県、一部は神奈川県に属する。武州。
- 隅田川 すみだがわ (古く墨田川・角田河とも書いた) 東京都市街地東部を流れて東京湾に注ぐ川。もと荒川の下流。広義には岩淵水門から、通常は墨田区鐘ヶ淵から河口までをいい、流域には著名な橋が多く架かる。隅田公園がある東岸の堤を隅田堤(墨堤)といい、古来桜の名所。大川。
- 青梅 おうめ 東京都西部の市。青梅街道の要衝。機業が盛んであった。人口14万2千。
- 多摩川 たまがわ 多摩川・玉川。山梨県北東部、秩父山地の笠取山に発源し、南東へ流れ、東京都と神奈川県の境で東京湾に注ぐ川。下流を六郷川という。上流は東京都の上水道の水源、奥多摩の景勝がある。長さ138km。
- [富山県]
- 日本北アルプス 飛騨山脈の通称。
- 飛騨山脈 ひだ さんみゃく 本州中央部、新潟・長野・富山・岐阜4県の境に連なる山脈。山頂近くにカールが残る。立山・剣岳・白馬岳・槍ヶ岳・乗鞍岳などを含み、最高峰は奥穂高岳(3190m)。大部分、中部山岳国立公園に入る。北アルプス。
- 黒部峡谷 くろべ きょうこく 富山県東部、黒部川上流部の峡谷。右岸の後立山連峰、左岸の立山連峰にはさまれ、黒部湖から上流を上廊下、下流を下廊下と呼ぶ。猿飛、十字峡などの奇勝が続く。
- 黒部 くろべ 富山県北東部、黒部川流域の市。扇状地上に位置する中心部はもと市場町で、宇奈月温泉・黒部峡谷への入口。人口4万3千。
- [長野県]
- 天竜川 てんりゅうがわ 中部地方南部を流れる川。源を長野県諏訪湖の北西端に発し、南下して静岡県浜松市東部で遠州灘に注ぐ。長さ213km。
- 天竜峡 てんりゅうきょう 長野県飯田市にある天竜川中流の峡谷。風景絶佳の名勝で舟下りが有名。
- 木曽 きそ → きそだに(木曾谷)
- 木曾谷 きそだに 長野県の南西部、木曾川上流の渓谷一帯の総称。古来中山道が通じ、重要な交通路をなす。木曾桟道・寝覚の床・小野滝の三絶勝があり、ヒノキその他の良材の産地。木曾。
- 寝覚の床 ねざめのとこ 長野県南西部、木曾郡上松町にある木曾街道の一名勝。木曾川の急流に沿い、花崗岩の柱状節理が両岸・河中に起伏する。
- 木曽川 きそがわ 木曾川。長野県の中部、鉢盛山に発源、長野・岐阜・愛知・三重の4県を流れる川。王滝川・飛騨川などの支流を合し伊勢湾に注ぐ。長さ227km。
- [静岡県]
- 富士川 ふじがわ 赤石山脈に発源する釜無川と秩父山地に発源する笛吹川とが甲府盆地の南で合して南流し、山梨・静岡両県の中央部を貫流して駿河湾に注ぐ川。最上川・球磨川と共に日本三急流の一つ。長さ128km。
- 大井川 おおいがわ 静岡県中部、駿河・遠江の境を流れる川。赤石山脈に発源し、駿河湾に注ぐ。長さ168km。江戸時代には、架橋・渡船が禁じられ、旅人は必ず人足を雇って肩車または輦台で渡った。
- [愛知県]
- 三河 みかわ 旧国名。今の愛知県の東部。三州(さんしゅう)。参州。
- 長篠 ながしの 愛知県新城市の地名。豊川の上流、寒狭川・宇連川の合流点。1575年(天正3)織田信長・徳川家康の連合軍が新兵器の鉄砲を使用して武田勝頼を破った地。
- 滝川 たきかわ 現、愛知県豊田市、巴川の支流、滝川か。水源は市内豊松町羽明。
- 名古屋 なごや 愛知県西部の市。濃尾平野の南東端に位置する。県庁所在地。政令指定都市の一つ。古くは那古野、ついで名児屋・名護屋と書いた。もと御三家の筆頭尾張徳川氏62万石の城下町。中部日本の商業・交通・行政の中心で、中京工業地帯の中核。人口221万5千。中京。
- 濃尾平野 のうび へいや 岐阜・愛知両県にまたがる広大な平野。木曾川・長良川・揖斐川などがその間を流れ、下流には輪中が発達。
- [大阪府]
- 摂津平野 せっつ へいや
- 河内平野 かわち へいや → 大阪平野か
- 大阪平野 おおさか へいや 大阪湾の沿岸、大阪府と兵庫県南東部にまたがる、近畿地方最大の平野。淀川・大和川などが流れる。
- 淀川 よどがわ 琵琶湖に発源し、京都盆地に出て、盆地西端で木津川・桂川を合わせ、大阪平野を北東から南西に流れて大阪湾に注ぐ川。長さ75km。上流を瀬田川、宇治市から淀までを宇治川という。
- 大和川 やまとがわ 奈良県北西部から大阪府の中央を経て、堺市で大阪湾に流入する川。笠置山地に発源する。長さ68km。
- [山城] やましろ 旧国名。五畿の一つ。今の京都府の南部。山州。城州。雍州。
- 保津川 ほつがわ/ほづがわ 大堰川の一部。通常、亀岡盆地と京都盆地との間の山地を流れる部分をいう。嵐山付近から下流は桂川となる。保津川下りで有名。ほうづがわ。
- [但馬] たじま 旧国名。今の兵庫県の北部。但州。
- 揖保川 いぼがわ 兵庫県西部を北から南に流れる川。兵庫県の最高峰氷ノ山(1509.8m)の南東、一宮町北部に源を発して、引原川・伊沢川・菅野川・栗栖川・林田川を合わせ、姫路市の網干区で瀬戸内海にそそぐ。全長70km。古くは伊保川、大川などとも記した。上流部・中流部は中国山地の東端部にあたる播但山地に深い谷を刻みつつ流れ、県内としては最も険しい山地を形成している。
- 鹿が坪 しかがつぼ → 鹿ヶ壷か
- 鹿ヶ壷 しかがつぼ 現、兵庫県宍粟郡安富町関。宍粟郡は県の中西部、安富町は郡の南東部に位置する。県指定名勝で、林田川の最源流部に近い小支流の河底に形成された甌穴群。
- [四国]
- [阿波] あわ 旧国名。今の徳島県。粟国。阿州。
- 吉野川 よしのがわ 四国の川。高知・愛媛両県境の石鎚山脈中に発源、高知県北部を東流、北転して徳島県に入ってその北部を東流、徳島市街の北で紀伊水道に注ぐ。上流に大歩危・小歩危の峡谷がある。長さ194km。四国三郎。
- 下の関 しものせき → 下関
- 下関 しものせき (周防灘に面する上関・中関に対していう) 山口県の南西端にある市。漁業基地で、漁業関連工業が盛ん。関門海峡を隔て、北九州市の門司と相対し、九州へは海底トンネル・関門橋が通ずる。古くは赤間関・馬関と呼ばれ、東方に源平の古戦場壇ノ浦がある。人口29万1千。
- [筑後] ちくご 旧国名。今の福岡県の南部。
- 筑後川 ちくごがわ 熊本・大分・福岡・佐賀の4県を流れる九州第一の川。熊本県阿蘇山北側に発源する大山川と、大分県九重山に発する玖珠川とを水源とし、日田盆地を経て筑紫平野を流れて有明海に注ぐ。長さ143km。筑紫次郎。
- [肥後] ひご 旧国名。今の熊本県。
- 球磨川 くまがわ 熊本県南部の川。人吉盆地を流れ、八代で八代海に注ぐ。長さ115km。富士川・最上川と共に日本三急流の一つ。
- [日向] ひゅうが (古くはヒムカ) 旧国名。今の宮崎県。
- 都城 みやこのじょう 宮崎県南西部の市。もと薩摩藩支藩、北郷氏(のち島津姓)3万石の城下町。日豊本線・吉都線の分岐点。人口17万1千。
- 関尾 せきお → 関之尾か
- 関之尾 せきのお 現、宮崎県都城市関之尾町。関之尾の滝は町の西端にある庄内川(安永川)にかかる滝。高さ約18m、幅約40mで、庄内川のつくる谷をうめた溶結凝灰岩を造瀑層とし、男滝・女滝・大滝の三つからなる。とくに、滝の上流およそ600mにわたって河床に甌穴群がみられる。国指定天然記念物。
- 日向の川 ひゅうがのかわ 宮崎県。大淀川? 五ヶ瀬川?
- [北アメリカ]
- [カナダ]
- [アメリカ合衆国]
- ミシシッピー川 Mississippi 北アメリカの大河。ミネソタ州のイタスカ湖に発源し、中央大平原を南流し、メキシコ湾に注ぐ。支流ミズーリ川の源流から本流河口部までの長さ6210km。
- カリフォルア州 -しゅう California アメリカ合衆国太平洋岸の州。州都サクラメント。経済規模は合衆国の州のうち最大。農業のほか電子工業・航空宇宙産業が盛ん。加州。
- メルセッド川
- ナイアガラ Niagara アメリカ合衆国とカナダとの国境を流れるナイアガラ川にある大瀑布。エリー湖の流出口から約35kmの地に位置し、ゴート島で二分されてカナダ瀑布・アメリカ瀑布となる。前者は幅約700m、高さ54m、後者は幅約300m、高さ56m。
- エリー湖 エリーこ (Lake Erie) 北アメリカ五大湖の一つ。ナイアガラの瀑布でオンタリオ湖に通ずる。面積約2万5000平方km。湖岸に工業都市が多い
- オンタリオ湖 オンタリオこ (Lake Ontario) 北アメリカ五大湖の一つ。五大湖中最小で東端に位置。面積1万9000平方km。ナイアガラ瀑布の水を受けセント‐ローレンス川に続く。
- ゴート島 ゴートとう Goat エリー湖から流れ出たナイアガラ川がオンタリオ湖に向かって北流するところにナイアガラ滝が形成。滝の直前のゴート島の左側がカナダ滝(幅900m、落差48m)
、右側がアメリカ滝(幅305m、落差51m)となる。 (外国地名コン) - [ヨーロッパ]
- ピレニース山脈 → ピレネーか
- ピレネー Pyrenees フランスとスペインとの国境をなす山脈。長さ約400km、主峰はアネト山(標高3404m)。
- ガロンヌ川 Garonne フランス南西部、アキテーヌ地方の川。ピレネー山脈に発し、ジロンドの三角江を経て大西洋に注ぐ。長さ647km。
- [インド]
- インド川 → インダスか
- インダス Indus インド北西部からパキスタンを流れる川。チベットに発源、パンジャブ地方・タール砂漠西辺を経て、アラビア海に注ぐ。全長約2900km。流域では、前2300〜前1800年頃インダス文明が栄えた。
- ガンジス川 Ganges インドの大河。西部ヒマラヤ山脈に発源、諸支流を合わせて南東に流れ、ベンガル湾に注ぐ。長さ約2500km。ヒンドスタン大平原を形成、下流はインドの主要米作地帯。三角洲はブラマプトラ川と合し、広大。ヒンドゥー教徒の崇拝の対象で、流域に聖地が多い。恒河。ガンガー。
- [中国]
- シナ 支那 (
「秦(しん) 」の転訛) 外国人の中国に対する呼称。初めインドの仏典に現れ、日本では江戸中期以来第二次大戦末まで用いられた。戦後は「支那」の表記を避けて多く「シナ」と書く。 - 黄海 こうかい (Huang Hai) 中国長江の河口以北、遼東・山東両半島と朝鮮半島とに挟まれた海洋。黄河の水の流入により黄濁している。
- 黄河 こうが (Huang He) (水が黄土を含んで黄濁しているからいう)中国第2の大河。青海省の約古宗列盆地の南縁に発源し、四川・甘粛省を経て陝西・山西省境を南下、汾河・渭河など大支流を合わせて東に転じ、華北平原を流れて渤海湾に注ぐ。しばしば氾濫し、人民共和国建国後に大規模な水利工事が行われた。近年下流部で水量の減少が著しい。全長5464km余。流域は中国古代文明の発祥地の一つ。河。
- [エジプト]
- ナイル川 Nile アフリカ大陸北東部を北流する世界最長の大河。ヴィクトリア湖西方の山地に発源、同湖とアルバート湖とを経、白ナイルと呼ばれて北流、南スーダンを過ぎ、ハルツーム付近で東方エチオピア高原から流下する青ナイルと合して、エジプトを貫流し、地中海に注ぐ。長さ6650km。下流域は灌漑による農業地帯で、古代文明発祥の地。
- ビクトリア・ニアンザ湖 -こ → ビクトリア湖
- ビクトリア/ヴィクトリア湖 Victoria, Lake アフリカのケニア、ウガンダ、タンザニア三国にまたがる湖。海抜高度1134m、水深約80m。面積6万8800km
2 で、淡水湖として世界第二位の広さを持つ。/別称、ビクトリア・ニアンザ湖(Victoria Nyanza, Lake)。長さ402km、幅322km。(外国地名コン)/アフリカ東部、タンザニア・ケニア・ウガンダにまたがる淡水湖。ナイル川の水源。標高1134m、面積は世界第3位、6万9000平方km。最大深度82m。 (広辞苑) - カイロ Cairo エジプト‐アラブ共和国の首都。ナイル川三角洲の頂点にあり、中東・北アフリカ地域最大の都市。多数のモスクがあり、現在もアラブ文化の中心。旧市街は世界遺産。人口680万1千(1996)。
- 地中海 ちちゅうかい (Mediterranean Sea) ヨーロッパ南岸・アフリカ北岸およびアジア西岸に挟まれた海。東西3500km、南北1700km、面積297万平方km、日本海の約3倍。古代にはエジプト・フェニキア・ギリシア・ローマが相次いで支配、いわゆる地中海文化を形成。
◇参照:Wikipedia、
*難字、求めよ
- 山地 やまち/さんち (1) 山の多い地。山の中の土地。(2) 陸地の突起部、すなわち、山の集合したもの。北上山地の類。
- 谷地 たにち/やち 谷・谷地。(1) (東日本で) 低湿地。やつ。やと。(2) (北海道で) 泥炭地の俗称。
- 分水界 ぶんすいかい 地表の水が二つ以上の水系に分かれる境界。分水線。
- 地下水 ちかすい 地層・岩石のすき間や割れ目に存在し、重力の作用によって流動する水。飲料・灌漑・工業用水などに利用。
- 万年雪 まんねんゆき 山地で雪線以上の所に年々降り積もる雪が、その重みによる圧縮その他の原因により、性質が変化して次第に粒状構造の氷塊になったもの。
- 氷河 ひょうが 高山の雪線以上のところで凝固した万年雪が、上層の積雪の圧力の増加につれて、氷塊となり、低地に向かって流れ下るもの。流速は、山岳氷河では一般に年50〜400m、海に流れ出る氷河では年1000mを超えるものもある。
- 湖水 こすい みずうみ。
- 凹い・窪い くぼい (1) 周囲が高く中央が低い。へこんでいる。
- 浸食・浸蝕 しんしょく
〔地〕流水・氷河・波浪・風などが地表面を掘り削る作用。 - 浸食谷 しんしょくこく 浸食作用のために生じた谷。
- 断層 だんそう 地層や岩石に割れ目を生じ、これに沿って両側が互いにずれている現象。ずれかたによって図のように分類する。比喩的にも使う。
- 断層線 だんそうせん 断層面と地表面との交線。
- 断層谷 だんそうこく fault valley 断層変位の直接の結果生じた谷。断層線に沿って、直線状あるいはゆるやかな弧状にのびる。断層崖の前面に傾動盆地が形成される場合、狭い地溝が形成される場合などに生ずる。
(地学) - 縦谷 じゅうこく 山脈の走向と平行する谷。山脈と山脈との間の谷。北アルプスの黒部渓谷の類。
- 横谷 おうこく 山脈の軸に直角をなす谷。
- 褶曲山 しゅうきょくざん
- 褶曲山脈 しゅうきょく さんみゃく 地殻変動によって地層が褶曲している山脈。ヒマラヤ・アルプスなど陸上の大山脈はすべてこれに属する。
- 褶曲 しゅうきょく 堆積当時水平であった地層が、地殻変動のため、波状に曲がる現象。また、それが曲がっている状態。
- 褶曲谷 しゅうきょくこく
- 平野 へいや 起伏が小さく、ほとんど平らで広い地表面。ほぼ水平な古い地質時代の地層から成る構造平野(西シベリア低地の類)
、河川の沖積作用でできた沖積平野、浅海底の隆起した海岸平野などに分けられる。 - 懸崖 けんがい (1) 切り立ったようながけ。きりぎし。
- 絶壁 ぜっぺき けわしく切り立ったがけ。
- 峡谷 きょうこく 幅の割に深く細長い谷。
- 滝 たき (1) (古くはタギ) 河の瀬の傾斜の急な所を勢いよく流れる水。激流。奔流。(2) 高いがけから流れ落ちる水。瀑布。たるみ。
- 河底 かてい 河のそこ。かわぞこ。
- V字谷 ブイじだに/ブイじこく 横断面の形がV字をなす谷。川の浸食により作られる。氷河の浸食によるU字谷に対していう。
- 沈積 ちんせき 水中にある物質が水底に沈みつもること。堆積。
- 蛇曲 だきょく
- 蛇行 だこう (1) 蛇のように曲がりくねって行くこと。(2) 〔地〕(meander) 河流がうねうねと曲がっているもの。多くのS字型をつないだ形のものをいう。曲流。
- 三日月沼 → 三日月湖、河跡湖
- 三日月湖 みかづきこ (→)河跡湖の俗称。
- 河跡湖 かせきこ 蛇行の甚だしい河川の一部が河道から断たれて生じた湖。三日月形のものが多い。石狩川流域にその例が見られる。三日月湖。
- 河流 かりゅう 河のながれ。
- 石灰岩 せっかいがん 堆積岩の一種。炭酸カルシウムから成る動物の殻や骨格などが水底に積もって生じる。主に方解石から成り、混在する鉱物の種類によって各種の色を呈する。建築用材または石灰およびセメント製造の原料。石灰石。
- 石灰 せっかい (lime) 生石灰(酸化カルシウム)
、およびこれを水和して得る消石灰(水酸化カルシウム)の通称。広義には石灰石(炭酸カルシウム)を含む。いしばい。 - 転石 ごろいし
- 転石 てんせき (1) 岩盤から離れ、流水などに押し流されてまるくなった岩石。(2) ころがっている石。
- セメント cement 石灰石・粘土・酸化鉄を焼成・粉砕した灰白色の粉末。コンクリートやモルタルを作る際の主原料で、水で練ると速やかに凝結・固化する。また広くは硬化性を示す無機材料のことで、歯科用充填材、接着剤などをいう。セメン。
- コンクリート concrete (1) 具体的なさま。(2) セメント・砂・砂利・水を調合し、こねまぜて固まらせた一種の人造石。製法が簡単で、圧縮に対して抵抗力が強く、耐火・耐水性が大きいので鋼材と併用し、土木建築用構造材料として使用。混凝土。コンクリ。
- 風化 ふうか (2) 地表およびその近くの岩石が、空気・水などの物理的・化学的作用で次第にくずされること。岩石が土に変わる変化の過程。比喩的に、心にきざまれたものが弱くなって行くこと。(3) 硫酸ナトリウムの十水和物、炭酸ナトリウムの十水和物などのように結晶水を含んだ結晶が、空気中で漸次水分を失って、粉末状の物質に変わる現象。風解。
- 浸食作用 しんしょく さよう
- 隆起 りゅうき (1) 高くもりあがること。(2) 土地が基準面に対して相対的に高まること。
- 地貌 ちぼう 地表面の形状、すなわち高低・起伏・斜面などの状態。
- 川下り かわくだり 上流から下流へ向けて川を下ること。木材を筏に組んで運び、また、舟に乗って景観をたのしむ。
- 節理 せつり (1) 物の表面のあや。きめ。(2) 物事のすじみち。(3) 岩石、特に火成岩に見られるやや規則的な割れ目。マグマが冷却固結した結果生じたもので、板状・柱状・球状などの種類がある。
- 激する げきする (1) はげしくなる。(2) あらくなる。(3) はげしくつき当たる。衝突する。
- 巨人の釜 きょじんのかま
- 甌穴 おうけつ 急流の河床の岩石面に生じた鍋状の穴。くぼみに入った石が渦流で回転して岩をけずったもの。かめ穴。ポットホール。
- 釜穴 かまあな
- きりもみ 錐揉み。(1) 錐を両手でもみながら穴をあけること。(2) 飛行機が、失速した後、螺旋状に旋回しながら急降下する状態。錐揉み降下。スピン。
- 材木岩 ざいもくいわ 柱状節理をなして露出し、材木を並列したようなさまをなす岩石。安山岩・玄武岩に多く、兵庫県の玄武洞や栃木県那須塩原の福渡などにある。材木石。
- 水成岩 すいせいがん 堆積岩の一種。岩石の砕けた砕屑粒子や粘土、生物の遺骸などが水によって運ばれ、または水中に堆積し生成したもの。堆積岩の大部分を占めるので、それとほぼ同義。
- おこし ッュ・興し。糯米や粟などを蒸した後、乾かして炒ったものを水飴と砂糖とで固めた菓子。胡麻・豆・クルミ・落花生・海苔などを加える。
- 礫岩 れきがん 堆積岩の一種。礫が河川あるいは浅海に堆積して、砂などとともに膠着・固結したもの。
- 砂岩 さがん (sandstone) 堆積岩の一種。砂が固まってできた岩石。建築・土木用の石材、砥石の材料とする。しゃがん。
- 泥土 でいど きわめて微細な土状の沈殿物。どろ。また、水にとけた土。また、ねうちのないもの。つまらないもの。
- 泥板岩 でいばんがん 頁岩に同じ。
- 頁岩 けつがん 堆積岩の一種。泥が固結した岩石のうち、薄くはげる性質のあるもの。色は淡灰・暗灰・黒褐など。石灰岩・砂岩などと相重なり、中生層・第三紀層などの地層をなす。泥板岩。
- 溶岩 ようがん 溶岩・熔岩。〔地〕(lava) マグマが溶融体または半溶融体として地表に噴出したもの、また、それが冷却固結して生じた岩石。
- 集塊岩 しゅうかいがん 粗い火山噴出物を主体とする岩石。浸食に対する抵抗力が部分によって異なるので種々の奇景を作る。妙義山・耶馬渓・寒霞渓は集塊岩の形成した奇景として名高い。
- あとすざり あとずさり、あとすさりに同じ。
- 水力電気 すいりょく でんき → 水力発電
- 水力発電 すいりょく はつでん 発電の一方式。水力によって発電機を運転し、電力を発生する方式。ダム式・水路式・揚水式などがある。
- 滝壷 たきつぼ 滝壺。滝の落ち込む淵。
- 瀑布 ばくふ たき。飛泉。
- 土壌 どじょう (1) 陸地の表面にあって、光・温度・降水など外囲の条件が整えば植物の生育を支えることができるもの。岩石の風化物やそれが水や風により運ばれ堆積したものを母材とし、気候・生物(人為を含む)
・地形などの因子とのある時間にわたる相互作用によって生成される。生態系の要にあり、植物を初めとする陸上生物を養うとともに、落葉や動物の遺体などを分解して元素の正常な生物地球化学的循環を司る。大気・水とともに環境構成要素の一つ。つち。 - 作物 さくもの (2) 農作物。さくもつ。
- 滋養分 じようぶん 滋養となる成分。
- 滋養 じよう 身体の栄養となること。また、その食物。
- 黄土 おうど (1) 中国北部・ヨーロッパ・アメリカ合衆国中央部などに広く分布している厚い黄灰色の主として風成の堆積物。更新世の氷期に大陸氷の周辺地域や、氷河・周氷河作用をうけた高山帯山麓の沖積平野の堆積物が風で運ばれて堆積。レス。
- 砂利浜 じゃりはま 砂利ばかりの浜辺。
- 砂浜 すなはま 砂の堆積した海岸。
- 水選 すいせん
- 陶土 とうど 陶磁器の素地に用いる粘土類。カオリン・木節粘土・蛙目粘土など。磁器に用いるものは磁土ともいう。陶石。
- 精製 せいせい (1) 念を入れて製造すること。(2) 粗製品に手を加えて精良な品物にすること。純度の高いものにすること。
- 鉱山 こうざん 有用な鉱物を鉱床から採掘する事業場。やま。
- 鉱石 こうせき (ore) 有用成分を経済的に有利に採取し得る鉱物またはその集合体。
- 石炭 せきたん 過去の植物の遺体が地殻中に埋没・堆積し、漸次分解・炭化して生じた物質。炭化の程度によって泥炭・褐炭・瀝青炭・無煙炭・石墨に分けるが、一般には褐炭から無煙炭までを指す。粘土・頁岩・砂岩などの互層間に層をなして存在。多くは古生代の後半、特に石炭紀に起源するが、日本の石炭は古第三紀のものが主。燃料・化学工業などに使用。
- 砂金 さきん 砂金・沙金。(シャキンとも) 風化・浸食作用によって破砕・分離した金鉱床の金粒が、流水に運搬され、砂礫と共に河床または海岸に沈積したもの。普通、丸みをおびた小粒または鱗片状をなして産する。すながね。
- 砂鉄 さてつ 岩石中に存在する磁鉄鉱が、岩石の風化分解によって流され、河床または海岸・海底に堆積したもの。近代製鉄以前、たたら製鉄での重要な原料。チタンを含むことがある。しゃてつ。
- 平地 へいち たいらな地面。ひらち。へいじ。
- 河床 かわどこ 河水の流れる地面。かしょう。
- 洪水 こうずい (1) 降雨・雪どけなどによって、河川の水量が平常よりも増加すること。また、堤防から氾濫し、流出すること。おおみず。(2) 物があふれるほど多くあるたとえ。
- 平野 へいや 起伏が小さく、ほとんど平らで広い地表面。ほぼ水平な古い地質時代の地層から成る構造平野(西シベリア低地の類)
、河川の沖積作用でできた沖積平野、浅海底の隆起した海岸平野などに分けられる。 - 扇状地 せんじょうち 川が山地から平地へ流れる所にできた、下流に向かって扇状に拡がる地形。流れの勢いが急に緩やかになって砂礫を堆積した結果、形成されたもの。
- 錐積層 すいせきそう
- 三角洲・三角州 さんかくす 河水の運搬した土砂が、河口に沈積して生じたほぼ三角形の土地。デルタ。
- デルタ Δ・δ (delta)(ギリシア語の第4字母) (1) (大文字の形が三角形であることから) 三角洲。
- 外洋 がいよう 広々とした大洋。そとうみ。
◇参照:
*後記(工作員 日記)
メモ。
巨摩山地 こま さんち 山梨県。赤石山地の東に南流する早川を隔て、甲府盆地の西を限る巨摩山地が南北に走る。おもに海底火山の噴出物や堆積物からなる若い山地で、甲府盆地との比高は一千数百メートルにおよぶ。
身延山地か、もしくはそれに近いところか。
水選。
風選。脱穀したあとの稲籾を、風力と重さで選別するのが唐箕(とうみ)。幼いころ、クルクルまわして遊んだ記憶がある。
塩水選。種籾を、濃度の高い塩水に入れて、軽いもの、クズなど浮かんだものを取り除いて、沈んだ重い種籾だけを播種に使う。二月下旬、農家の仕事がここからスタートする。
水選も風選も塩水選も、いたって単純な原理であって小学校の理科でならうレベルの事象だけれど、本文中、
砂金取りの風景でよく見かける、黒い漆塗りの椀の中で砂にまじった砂金を水といっしょにクルクルまわして、比重の重い砂金だけがのこる……あれも「水選」だろう。
エントロピーの法則。すべてのものは、分離、分散、均一に拡散する方向へむかっているはず。固い金属であっても、長い年月のあいだに腐蝕され、分子レベルで分散されて、不変の物などない。
そのはずなのに、川の力によって砕かれて細かくなった砂が、水の力と自身の重さ(重力)の作用のみによって、峻別され、同じサイズのものばかりが同じ所に蓄積する。まるで、エントロピーの法則に反対するかのように、同じ物どうしが選ばれて層を作る。まるで、だれかの意志がはたらいているかのように。
*次週予告
第五巻 第三〇号
菜穂子(一) 堀 辰雄
第五巻 第三〇号は、
二〇一三年二月一六日(土)発行予定です。
定価:200円
T-Time マガジン 週刊ミルクティー* 第五巻 第二九号
山の科学・山と河
発行:二〇一三年二月九日(土)
編集:しだひろし / PoorBook G3'99
http://www33.atwiki.jp/asterisk99/
出版:*99 出版
〒994-0024 山形県天童市鎌田2丁目
アパートメント山口A−202
販売:DL-MARKET
※ T-Timeは(株)ボイジャーの商標・製品です。
- T-Time マガジン 週刊ミルクティー* *99 出版
- バックナンバー
※ おわびと訂正
長らく、創刊号と第一巻第六号の url 記述が誤っていたことに気がつきませんでした。アクセスを試みてくださったみなさま、申しわけありませんでした。(しょぼーん)/2012.3.2 しだ
- 第一巻
- 創刊号 竹取物語 和田万吉
- 第二号 竹取物語小論 島津久基(210円)
- 第三号 竹取物語の再検討(一)橘 純一(210円)
- 第四号 竹取物語の再検討(二)橘 純一(210円)
「絵合」 『源氏物語』より 紫式部・与謝野晶子(訳) - 第五号
『国文学の新考察』より 島津久基(210円)- 昔物語と歌物語 / 古代・中世の「作り物語」/
- 平安朝文学の弾力 / 散逸物語三つ
- 第六号 特集 コロボックル考 石器時代総論要領 / コロボックル北海道に住みしなるべし 坪井正五郎 マナイタのばけた話 小熊秀雄 親しく見聞したアイヌの生活 / 風に乗って来るコロポックル 宮本百合子
- 第七号 コロボックル風俗考(一〜三)坪井正五郎(210円)
- シペ物語 / カナメの跡 工藤梅次郎
- 第八号 コロボックル風俗考(四〜六)坪井正五郎(210円)
- 第九号 コロボックル風俗考(七〜十)坪井正五郎(210円)
- 第十号 特集 コロボックル考 喜田貞吉
- 日本太古の民族について / 日本民族概論 / 土蜘蛛種族論につきて
- 第十一号 特集 コロボックル考 喜田貞吉
- 東北民族研究序論 / 猪名部と佐伯部 / 吉野の国巣と国樔部
- 第十二号 日高見国の研究 喜田貞吉
- 第十三号 夷俘・俘囚の考 喜田貞吉
- 第十四号 東人考 喜田貞吉
- 第十五号 奥州における御館藤原氏 喜田貞吉
- 第十六号 考古学と古代史 喜田貞吉
- 第十七号 特集 考古学 喜田貞吉
- 遺物・遺蹟と歴史研究 / 日本における史前時代の歴史研究について / 奥羽北部の石器時代文化における古代シナ文化の影響について
- 第十八号 特集 考古学 喜田貞吉
- 日本石器時代の終末期について /「あばた」も「えくぼ」、
「えくぼ」も「あばた」― ―日本石器時代終末期― ― - 第十九号 特集 考古学 喜田貞吉
- 本邦における一種の古代文明 ―
―銅鐸に関する管見― ― / - 銅鐸民族研究の一断片
- 第二〇号 特集 考古学 喜田貞吉
「鐵」の字の古体と古代の文化 / 石上神宮の神宝七枝刀 / - 八坂瓊之曲玉考
- 第二一号 博物館(一)浜田青陵
- 第二二号 博物館(二)浜田青陵
- 第二三号 博物館(三)浜田青陵
- 第二四号 博物館(四)浜田青陵
- 第二五号 博物館(五)浜田青陵
- 第二六号 墨子(一)幸田露伴
- 第二七号 墨子(二)幸田露伴
- 第二八号 墨子(三)幸田露伴
- 第二九号 道教について(一)幸田露伴
- 第三〇号 道教について(二)幸田露伴
- 第三一号 道教について(三)幸田露伴
- 第三二号 光をかかぐる人々(一)徳永 直
- 第三三号 光をかかぐる人々(二)徳永 直
- 第三四号 東洋人の発明 桑原隲蔵
- 第三五号 堤中納言物語(一)池田亀鑑(訳)
- 第三六号 堤中納言物語(二)池田亀鑑(訳)
- 第三七号 堤中納言物語(三)池田亀鑑(訳)
- 第三八号 歌の話(一)折口信夫
- 第三九号 歌の話(二)折口信夫
- 第四〇号 歌の話(三)
・花の話 折口信夫- 第四一号 枕詞と序詞(一)福井久蔵
- 第四二号 枕詞と序詞(二)福井久蔵
- 第四三号 本朝変態葬礼史 / 死体と民俗 中山太郎
- 第四四号 特集 おっぱい接吻
- 乳房の室 / 女の情欲を笑う 小熊秀雄
- 女体 芥川龍之介
- 接吻 / 接吻の後 北原白秋
- 接吻 斎藤茂吉
- 第四五号 幕末志士の歌 森 繁夫
- 第四六号 特集 フィクション・サムライ 愛国歌小観 / 愛国百人一首に関連して / 愛国百人一首評釈 斎藤茂吉
- 第四七号
「侍」字訓義考 / 多賀祢考 安藤正次- 第四八号 幣束から旗さし物へ / ゴロツキの話 折口信夫
- 第四九号 平将門 幸田露伴
- 第五〇号 光をかかぐる人々(三)徳永 直
- 第五一号 光をかかぐる人々(四)徳永 直
- 第五二号
「印刷文化」について 徳永 直- 書籍の風俗 恩地孝四郎
- 第二巻
- 第一号 奇巌城(一)モーリス・ルブラン
- 第二号 奇巌城(二)モーリス・ルブラン
- 第三号 美し姫と怪獣 / 長ぐつをはいた猫 楠山正雄(訳)
- 第四号 毒と迷信 / 若水の話 / 麻薬・自殺・宗教 小酒井不木 / 折口信夫 / 坂口安吾
- 第五号 空襲警報 / 水の女 / 支流 海野十三 / 折口信夫 / 斎藤茂吉
- 第六号 新羅人の武士的精神について 池内 宏
- 第七号 新羅の花郎について 池内 宏
- 第八号 震災日誌 / 震災後記 喜田貞吉
- 第九号 セロ弾きのゴーシュ / なめとこ山の熊 宮沢賢治
- 第一〇号 風の又三郎 宮沢賢治
- 第一一号 能久親王事跡(一)森 林太郎
- 第一二号 能久親王事跡(二)森 林太郎
- 第一三号 能久親王事跡(三)森 林太郎
- 第一四号 能久親王事跡(四)森 林太郎
- 第一五号 能久親王事跡(五)森 林太郎
- 第一六号 能久親王事跡(六)森 林太郎
- 第一七号 赤毛連盟 コナン・ドイル
- 第一八号 ボヘミアの醜聞 コナン・ドイル
- 第一九号 グロリア・スコット号 コナン・ドイル
- 第二〇号 暗号舞踏人の謎 コナン・ドイル
- 第二一号 蝦夷とコロボックルとの異同を論ず 喜田貞吉
- 第二二号 コロポックル説の誤謬を論ず 上・下 河野常吉
- 第二三号 慶長年間の朝日連峰通路について 佐藤栄太
- 第二四号 まれびとの歴史 /「とこよ」と「まれびと」と 折口信夫
- 第二五号 払田柵跡について二、三の考察 / 山形県本楯発見の柵跡について 喜田貞吉
- 第二六号 日本天変地異記 田中貢太郎
- 第二七号 種山ヶ原 / イギリス海岸 宮沢賢治
- 第二八号 翁の発生 / 鬼の話 折口信夫
- 第二九号 生物の歴史(一)石川千代松
- 第三〇号 生物の歴史(二)石川千代松
- 第三一号 生物の歴史(三)石川千代松
- 第三二号 生物の歴史(四)石川千代松
- 第三三号 特集 ひなまつり
- 雛 芥川龍之介 / 雛がたり 泉鏡花 / ひなまつりの話 折口信夫
- 第三四号 特集 ひなまつり
- 人形の話 / 偶人信仰の民俗化並びに伝説化せる道 折口信夫
- 第三五号 右大臣実朝(一)太宰 治
- 第三六号 右大臣実朝(二)太宰 治
- 第三七号 右大臣実朝(三)太宰 治
- 第三八号 清河八郎(一)大川周明
- 第三九号 清河八郎(二)大川周明
- 第四〇号 清河八郎(三)大川周明
- 第四一号 清河八郎(四)大川周明
- 第四二号 清河八郎(五)大川周明
- 第四三号 清河八郎(六)大川周明
- 第四四号 道鏡皇胤論について 喜田貞吉
- 第四五号 火葬と大蔵 / 人身御供と人柱 喜田貞吉
- 第四六号 手長と足長 / くぐつ名義考 喜田貞吉
- 第四七号
「日本民族」とは何ぞや / 本州における蝦夷の末路 喜田貞吉- 第四八号 若草物語(一)L.M. オルコット
- 第四九号 若草物語(二)L.M. オルコット
- 第五〇号 若草物語(三)L.M. オルコット
- 第五一号 若草物語(四)L.M. オルコット
- 第五二号 若草物語(五)L.M. オルコット
- 第五三号 二人の女歌人 / 東北の家 片山広子
- 第三巻
- 第一号 星と空の話(一)山本一清
- 第二号 星と空の話(二)山本一清
- 第三号 星と空の話(三)山本一清
- 第四号 獅子舞雑考 / 穀神としての牛に関する民俗 中山太郎
- 第五号 鹿踊りのはじまり 宮沢賢治 / 奥羽地方のシシ踊りと鹿供養 喜田貞吉
- 第六号 魏志倭人伝 / 後漢書倭伝 / 宋書倭国伝 / 隋書倭国伝
- 第七号 卑弥呼考(一)内藤湖南
- 第八号 卑弥呼考(二)内藤湖南
- 第九号 卑弥呼考(三)内藤湖南
- 第一〇号 最古日本の女性生活の根底 / 稲むらの陰にて 折口信夫
- 第一一号 瀬戸内海の潮と潮流(他三編)寺田寅彦
- 瀬戸内海の潮と潮流 / コーヒー哲学序説 /
- 神話と地球物理学 / ウジの効用
- 第一二号 日本人の自然観 / 天文と俳句 寺田寅彦
- 第一三号 倭女王卑弥呼考(一)白鳥庫吉
- 第一四号 倭女王卑弥呼考(二)白鳥庫吉
- 第一五号 倭奴国および邪馬台国に関する誤解 他 喜田貞吉
- 倭奴国と倭面土国および倭国とについて稲葉君の反問に答う /
- 倭奴国および邪馬台国に関する誤解
- 第一六号 初雪 モーパッサン 秋田 滋(訳)
- 第一七号 高山の雪 小島烏水
- 第一八号 光をかかぐる人々 続『世界文化』連載分(一)徳永 直
- 第一九号 光をかかぐる人々 続『世界文化』連載分(二)徳永 直
- 第二〇号 光をかかぐる人々 続『世界文化』連載分(三)徳永 直
- 第二一号 光をかかぐる人々 続『世界文化』連載分(四)徳永 直
- 第二二号 光をかかぐる人々 続『世界文化』連載分(五)徳永 直
- 第二三号 銀河鉄道の夜(一)宮沢賢治
- 第二四号 銀河鉄道の夜(二)宮沢賢治
- 第二五号 ドングリと山猫 / 雪渡り 宮沢賢治
- 第二六号 光をかかぐる人々 続『世界文化』連載分(六)徳永 直
- 第二七号 特集 黒川能・春日若宮御祭 折口信夫
- 黒川能・観点の置き所 / 村で見た黒川能
- 能舞台の解説 / 春日若宮御祭の研究
- 第二八号 面とペルソナ / 人物埴輪の眼 他 和辻哲郎
- 面とペルソナ / 文楽座の人形芝居
- 能面の様式 / 人物埴輪の眼
- 第二九号 火山の話 今村明恒
- 第三〇号 現代語訳『古事記』
(一)上巻(前編) 武田祐吉(訳)- 第三一号 現代語訳『古事記』
(二)上巻(後編) 武田祐吉(訳)- 第三二号 現代語訳『古事記』
(三)中巻(前編) 武田祐吉(訳)- 第三三号 現代語訳『古事記』
(四)中巻(後編) 武田祐吉(訳)- 第三四号 山椒大夫 森 鴎外
- 第三五号 地震の話(一)今村明恒
- 第三六号 地震の話(二)今村明恒
- 第三七号 津波と人間 / 天災と国防 / 災難雑考 寺田寅彦
- 第三八号 春雪の出羽路の三日 喜田貞吉
- 第三九号 キュリー夫人 / はるかな道(他)宮本百合子
- 第四〇号 大正十二年九月一日よりの東京・横浜間 大震火災についての記録 / 私の覚え書 宮本百合子
- 第四一号 グスコーブドリの伝記 宮沢賢治
- 第四二号 ラジウムの雁 / シグナルとシグナレス(他)宮沢賢治
- 第四三号 智恵子抄(一)高村光太郎
- 第四四号 智恵子抄(二)高村光太郎
- 第四五号 ヴェスヴィオ山 / 日本大地震(他)斎藤茂吉
- 第四六号 上代肉食考 / 青屋考 喜田貞吉
- 第四七号 地震雑感 / 静岡地震被害見学記(他)寺田寅彦
- 第四八号 自然現象の予報 / 火山の名について 寺田寅彦
- 第四九号 地震の国(一)今村明恒
- 第五〇号 地震の国(二)今村明恒
- 第五一号 現代語訳『古事記』
(五)下巻(前編) 武田祐吉(訳)- 第五二号 現代語訳『古事記』
(六)下巻(後編) 武田祐吉(訳)
- 第四巻
- 第一号 日本昔話集 沖縄編(一)伊波普猷・前川千帆(絵)
- 第二号 日本昔話集 沖縄編(二)伊波普猷
- 第三号 アインシュタイン(一)寺田寅彦
- 物質とエネルギー / 科学上における権威の価値と弊害 /
- アインシュタインの教育観
- 第四号 アインシュタイン(二)寺田寅彦
- アインシュタイン / 相対性原理側面観
- 第五号 作家のみた科学者の文学的活動 / 科学の常識のため 宮本百合子
- 第六号 地震の国(三)今村明恒
- 第七号 地震の国(四)今村明恒
- 第八号 地震の国(五)今村明恒
- 第九号 地震の国(六)今村明恒
- 第一〇号 土神と狐 / フランドン農学校の豚 宮沢賢治
- 第一一号 地震学の角度から見た城輪柵趾 今村明恒
- 第一二号 庄内と日高見(一)喜田貞吉
- 第一三号 庄内と日高見(二)喜田貞吉
- 第一四号 庄内と日高見(三)喜田貞吉
- 第一五号 私は海をだきしめてゐたい / 安吾巷談・ストリップ罵倒 坂口安吾
- 第一六号 三筋町界隈 / 孫 斎藤茂吉
- 第一七号 原子力の管理(他)仁科芳雄
- 原子力の管理 / 日本再建と科学 / 国民の人格向上と科学技術 /
- ユネスコと科学
- 第一八号 J・J・トムソン伝(他)長岡半太郎
- J・J・トムソン伝 / アインシュタイン博士のこと
- 第一九号 原子核探求の思い出(他)長岡半太郎
- 総合研究の必要 / 基礎研究とその応用 / 原子核探求の思い出
- 第二〇号 蒲生氏郷(一)幸田露伴
- 第二一号 蒲生氏郷(二)幸田露伴
- 第二二号 蒲生氏郷(三)幸田露伴
- 第二三号 科学の不思議(一)アンリ・ファーブル
- 第二四号 科学の不思議(二)アンリ・ファーブル
- 第二五号 ラザフォード卿を憶う(他)長岡半太郎
- ラザフォード卿を憶う / ノーベル小伝とノーベル賞 / 湯川博士の受賞を祝す
- 第二六号 追遠記 / わたしの子ども時分 伊波普猷
- 第二七号 ユタの歴史的研究 伊波普猷
- 第二八号 科学の不思議(三)アンリ・ファーブル
- 第二九号 南島の黥 / 琉球女人の被服 伊波普猷
- 第三〇号
『古事記』解説 / 上代人の民族信仰 武田祐吉・宇野円空 - 第三一号 科学の不思議(四)アンリ・ファーブル
- 第三二号 科学の不思議(五)アンリ・ファーブル
- 第三三号 厄年と etc. / 断水の日 / 塵埃と光 寺田寅彦
- 第三四号 石油ランプ / 流言蜚語 / 時事雑感 寺田寅彦
- 第三五号 火事教育 / 函館の大火について 寺田寅彦
- 第三六号 台風雑俎 / 震災日記より 寺田寅彦
- 第三七号 火事とポチ / 水害雑録 有島武郎・伊藤左千夫
- 第三八号 特集・安達が原の黒塚 楠山正雄・喜田貞吉・中山太郎
- 第三九号 大地震調査日記(一)今村明恒
- 第四〇号 大地震調査日記(二)今村明恒
- 第四一号 大地震調査日記(続)今村明恒
- 第四二号 科学の不思議(六)アンリ・ファーブル
- 第四三号 科学の不思議(七)アンリ・ファーブル
- 第四四号 震災の記 / 指輪一つ 岡本綺堂
- 第四五号 仙台五色筆 / ランス紀行 岡本綺堂
- 第四六号 東洋歴史物語(一)藤田豊八
- 第四七号 東洋歴史物語(二)藤田豊八
- 第四八号 東洋歴史物語(三)藤田豊八
- 第四九号 東洋歴史物語(四)藤田豊八
- 第五〇号 東洋歴史物語(五)藤田豊八
- 第五一号 科学の不思議(八)アンリ・ファーブル
- 第五二号 科学の不思議(九)アンリ・ファーブル
- 第五巻
- 第一号 校註『古事記』
(一) 武田祐吉- 第二号 校註『古事記』
(二) 武田祐吉- 第三号 校註『古事記』
(三) 武田祐吉- 第四号 兜 / 島原の夢 / 昔の小学生より / 三崎町の原 岡本綺堂
- 第五号 新旧東京雑題 / 人形の趣味(他)岡本綺堂
- 第六号 大震火災記 鈴木三重吉
- 第七号 校註『古事記』
(四) 武田祐吉- 第八号 校註『古事記』
(五) 武田祐吉- 第九号 校註『古事記』
(六) 武田祐吉- 第一〇号 校註『古事記』
(七) 武田祐吉- 第一一号 大正十二年九月一日の大震に際して(他)芥川龍之介
- オウム―
―大震覚え書きの一つ― ― - 第一二号 日本歴史物語〈上〉
(一) 喜田貞吉- 第一三号 日本歴史物語〈上〉
(二) 喜田貞吉- 第一四号 日本歴史物語〈上〉
(三) 喜田貞吉- 第一五号 日本歴史物語〈上〉
(四) 喜田貞吉- 第一六号 校註『古事記』
(八) 武田祐吉- 第一七号 校註『古事記』
(九) 武田祐吉- 第一八号 校註『古事記』
(一〇) 武田祐吉- 第一九号 校註『古事記』
(一一) 武田祐吉- 語句索引 / 歌謡各句索引
- 第二〇号 日本歴史物語〈上〉
(五) 喜田貞吉- 第二一号 日本歴史物語〈上〉
(六) 喜田貞吉- 第二二号 日本歴史物語〈上〉索引 喜田貞吉
- 語句索引 / 人名索引 / 地名一覧
- 第五巻 第二三号 クリスマスの贈り物/街の子/少年・春 竹久夢二
- 「い」とあなたがいうと
- 「それから」と母(かあ)さまはおっしゃった。
- 「ろ」
- 「それから」
- 「は」
- あなたは母さまのひざに抱(だ)っこされていた。外では凩(こがらし)がおそろしくほえ狂(くる)うので、地上のありとあらゆる草も木も悲しげに泣(な)きさけんでいる。
- そのときあなたは慄(ふる)えながら、母さまの首へしっかりとしがみつくのでした。
- 凩(こがらし)がすさまじくほえ狂(くる)うと、ランプの光が明るくなって、テーブルの上のリンゴはいよいよ紅(あか)く、暖炉(だんろ)の火はだんだん暖かくなった。
- あなたのひざの上には絵本が置かれ、悲しい話のところが開かれてあった。それを母さまは読んでくださる。―
―それは、もうまえに百ぺんも読んでくださった物語であった。― ―そのときの母さまの顔色の眼はしずんで、声は低く悲しかった。あなたは呼吸をころして一心(いっしん)に聞き入るのでした。 - 誰(た)ぞ、コマドリを殺せしは?
- スズメはいいぬ、われこそ! と
- わがこの弓と矢をもちて
- わがコマドリを殺しけり。
- (
「少年・春」より)
- 第五巻 第二四号 風立ちぬ(一)堀 辰雄
- それらの夏の日々、一面に薄(すすき)の生いしげった草原の中で、おまえが立ったまま熱心に絵を描いていると、わたしはいつもそのかたわらの一本の白樺の木陰に身をよこたえていたものだった。そうして夕方になって、おまえが仕事をすませてわたしのそばにくると、それからしばらくわたしたちは肩に手をかけあったまま、はるか彼方の、縁だけ茜色をおびた入道雲のむくむくした塊りにおおわれている地平線のほうをながめやっていたものだった。ようやく暮れようとしかけているその地平線から、反対になにものかが生まれて来つつあるかのように……
- そんな日のある午後、
(それはもう秋近い日だった)わたしたちは、おまえの描きかけの絵を画架に立てかけたまま、その白樺の木陰に寝そべって果物をかじっていた。砂のような雲が空をサラサラと流れていた。そのとき不意に、どこからともなく風が立った。わたしたちの頭の上では、木の葉の間からチラッとのぞいている藍色が伸びたり縮んだりした。それとほとんど同時に、草むらの中に何かがバッタリと倒れる物音をわたしたちは耳にした。それはわたしたちがそこに置きっぱなしにしてあった絵が、画架とともに、倒れた音らしかった。すぐ立ち上がって行こうとするおまえを、わたしは、いまの一瞬のなにものをも失うまいとするかのように無理にひきとめて、わたしのそばから離さないでいた。おまえはわたしのするがままにさせていた。 - 風立ちぬ、いざ生きめやも。
( 「序曲」より)
- 第五巻 第二五号 風立ちぬ(二)堀 辰雄
- その危機は、しかし、一週間ばかりで立ち退(の)いた。
- ある朝、看護婦がやっと病室から日覆(ひおおい)を取り除(の)けて、窓の一部を開け放して行った。窓からさしこんでくる秋らしい日光をまぶしそうにしながら、
- 「気持ちがいいわ」と病人はベッドの中からよみがえったように言った。
- 彼女の枕元で新聞をひろげていたわたしは、人間に大きな衝動をあたえる出来事なんぞというものは、かえってそれが過ぎ去った跡はなんだかまるで他所(よそ)のことのように見えるものだなあと思いながら、そういう彼女のほうをチラリと見やって、おもわず揶揄(やゆ)するような調子で言った。
- 「もうお父さんがきたって、あんなに興奮しないほうがいいよ」
- 彼女は顔を心持ち赧(あか)らめながら、そんなわたしの揶揄(やゆ)をすなおに受け入れた。
- 「こんどはお父さまがいらっしたって、知らん顔をしていてやるわ」
- 「それがおまえにできるんならねえ……」
- そんなふうに冗談でも言い合うように、わたしたちはお互いに相手の気持ちをいたわり合うようにしながら、いっしょになって子どもらしく、すべての責任を彼女の父におしつけ合ったりした。
- そうしてわたしたちはすこしもわざとらしくなく、この一週間の出来事がほんの何かの間違いにすぎなかったような、気軽な気分になりながら、いましがたまでわたしたちを肉体的ばかりでなく、精神的にも襲いかかっているように見えた危機を、こともなげに切り抜け出していた。少なくとも、わたしたちにはそう見えた。
……
- 第五巻 第二六号 風立ちぬ(三)堀 辰雄
- 十一月二十日(略)
- 「なにを考えているの?」とうとう彼女が口を切った。
- わたしは、それにはすぐ返事をしないでいた。それから急に彼女のほうへふり向いて、不確かなように笑いながら、
- 「おまえにはわかっているだろう?」と問い返した。
- 彼女はなにか罠(わな)でも恐れるかのように、注意深くわたしを見た。それを見て、わたしは、
- 「オレの仕事のことを考えているのじゃないか」と、ゆっくり言い出した。
「オレにはどうしてもいい結末が思い浮かばないのだ。オレはオレたちが無駄に生きていたようには、それを終わらせたくはないのだ。どうだ、ひとつおまえもそれをオレといっしょに考えてくれないか?」 - 彼女はわたしに微笑んで見せた。しかし、その微笑みはどこかまだ不安そうであった。
- 「だって、どんなことをお書きになったんだかも知らないじゃないの」彼女はやっと小声で言った。
- 「そうだっけなあ……」とわたしはもう一度、不確かなように笑いながら言った。
「それじゃあ、そのうちにひとつ、おまえにも読んで聞かせるかな。しかしまだ、最初のほうだって人に読んで聞かせるほどまとまっちゃいないんだからね」 - わたしたちは部屋の中へもどった。わたしがふたたび明かりのそばに腰をおろして、そこにほうりだしてあるノートをもう一度手に取り上げて見ていると、彼女はそんなわたしの背後に立ったまま、わたしの肩にそっと手をかけながら、それを肩ごしにのぞきこむようにしていた。(略)
- 十一月二十六日(略)
- 節子はもう目を覚ましていた。しかし、立ち戻ったわたしを認めても、わたしのほうへは物憂げにチラッと目をあげたきりだった。そして、さっき寝ていたときよりもいっそう蒼いような顔色をしていた。わたしが枕もとに近づいて、髪をいじりながら額に接吻しようとすると、彼女は弱々しく首をふった。わたしはなんにも訊かずに、悲しそうに彼女を見ていた。が、彼女はそんなわたしをというよりも、むしろ、そんなわたしの悲しみを見まいとするかのように、ぼんやりした目つきで空(くう)を見入っていた。
- 第五巻 第二七号 山の科学・山と川(一)今井半次郎
- 一、山の生まれるまで
- 山の力と人の力
- 地球の誕生
- 山のできたわけ
- (一)地殻のしわ
- (二)しわの山
- 地球の表面
- (一)水の世界と陸の世界
- (二)桑滄(そうそう)の変
- (三)陸地の表面の形
- (四)平原
- (五)高原
- (六)盆地
- (七)段丘
- (八)斜面と崖
- 二、山のいろいろとその形
- 山のいろいろ
- (一)生まれ出た山
- (二)こわれ残った山
- (三)山の高さ
- (四)山の形をあらわす図面
- (ニ)しわの山。 これはすでに前にお話しした、横圧力でできた褶曲山のことです。世界の大きな山脈はたいてい、この褶曲山であることも、ちゃんとおぼえておいでのことと思います。
- (ホ)断層の山。 ところが、地殻のしわも、だんだん強くなると、ついにはそこに割れ目や裂け目のひびができます。青竹を力いっぱい曲げてみると、はじめのうちはだんだん曲がって山ができますが、後にはそのいちばんはりつめた山の頂上のところにひびができ、しまいには竹が折れます。これと同じ理屈で土地もしまいにはその裂け目に沿うて折れて、一方がすべり落ちて食いちがいの形になることがあります。これを「断層」ができたといいます。そして裂け目のところを「断層線」といいます。
- 断層で一方の土地がすべり落ちると、そこは谷となり、残った一方の土地は山となります。これが断層の山です。断層は、ときにいくつもいくつも互いに平行しておこることがあります。このばあいは、階段を平らにしてみたときのように、あるいはレンガ畳の道路がこわれてデコボコになったときのように、いくつもの平行した断層の谷と山とができあがります。
- 断層でできた山は、日本にも外国にも例が多いようです。外国の例でよくひきあいに出されるのは、北アメリカ合衆国にあるシエラネバダ大山脈です。これは比較的たいらな土地におこった断層で、いっぽうが持ちあがり、いっぽうがすべり落ちてできたもので、断層のできたほうはけわしい崖となり、その反対の側はしだいにサクラメント平原にむかって、ゆるやかな傾斜を作っています。
( 「二、山のいろいろとその形(一)生まれ出た山」より)
- 第五巻 第二八号 山の科学・山と川(二)今井半次郎
- 二、山のいろいろとその形
- 山の美しい形
- (一)孤立の山
- (二)連山
- 山をつくる岩
- (一)岩とは何か
- (二)岩の区別
- 水成岩の山
- (一)地層とは何か
- (二)地層のしわ
- (三)化石
- 火成岩の山
- (一)二とおりの火成岩
- (二)火成岩のひび
- (三)岩脈
- 変成岩の山
- (一)岩の変質
- (二)秩父の長瀞
- 山の寿命
- (一)地貌の輪廻
- (二)地球の年齢
- 山の彫刻と破壊
- (一)空気の働き
- (二)水の働き
- (三)生物の働き
- 空気中の水分は雨となって降ってきます。それが岩の目にしみこんで、おそろしい働きをします。その降った雨がこおって氷となると、なおのことです。氷は山の斜面を流れると、いよいよひどく岩をこわします。このように雨や風によって岩が直接けずり取られる働きを、とくに「浸食作用」と名づけます。また、雨や風によって岩がボロボロにこわされることを「風化作用」といいます。
(略) - (ハ)氷の力。 山をこわすもととなるもので、いちばん見のがすことのできないものは氷の力です。水は液体として岩の割れ目にしみこみますが、それが寒さのひどい時季になると氷となります。氷は水のときよりもかさが大きくなりますから、岩の内部をおしつけます。そのために、岩はボロボロに壊れるのです。冬の寒い朝、水道の鉄管の中の水がこおって、あの固い鉄管が破裂するのを見ても想像がつくでしょう。
- 春先、暖かくなってから、山の急な斜面のふもとや崖下(がけした)などに行って見ると、大小の角(かど)ばったゴロ石が新しく積みかさなっているのを見ることがあります。これは、みんな冬のあいだに氷で壊されたのが、おちてできたのです。
- 高山の頂上にあらわれている岩は、とくによく氷で破壊されるもので、その峰はたいていするどくつき立った尖塔状(せんとうじょう)をしています。アルプス山脈のモン・ブラン(白山)の西北にあるシャモニの尖峰(せんぽう)などは、そのいい例です。日本アルプスの頂上にも、ところどころイヌの牙のようにとがったところがあります。
( 「山の彫刻と破壊(二)水の働き」より)
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