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復刻版『らりるれろ探偵団』
1
復刻版『らりるれろ探偵団』
投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時06分37秒
過去ログが読めないままなので、もう一度更新したいと思います
↓ここまでは読めるので、この続きから始めたいと思います
http://221.254.11.189/log/tentele/070923205005a.html
2投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時21分51秒
原村に、ようやく朝日が昇った。
ハセヤンズハウスの千秋の部屋にも、朝の光が差し込んだ。
「千秋君!起きて!千秋君ってば…!!」
千秋の顔面に、マクラがバシバシと叩きつけられる。
「う…ううん…?な、何だよ…瑠璃…」
瑠璃が、寝ぼけている千秋の顔を覗き込んでいる。
「行こうよ!ラジオ体操!」
「ラ、ラジオ体操…?い、行くの…?」
「もちろん!皆勤賞狙ってるんだから…!」
「そんな…皆勤賞なんて…どうでもいいじゃん…」
「どうでもよくないよ!だって、色鉛筆セットもらえるんだよ?あと、お手紙セットも…」
「ん〜?そんなに欲しいの?」
「吉田のおじさんに…毎日、お手紙書きたい…」
千秋はガバっと起き上がった。
「…うん…。行こう…。ラジオ体操…」
3投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時22分28秒
しかし、会場の神社に向かうと、学校の同級生達やお年寄りがゾロゾロと来た道を帰っていく。
「あれ…?どうしたんだろ…?」
千秋は、戻っていく子供一人に訊ねてみた。
「中止だってさ。なんか、警察の人が言ってた」
「警察が?」
「サーカスの動物が逃げ出したんだってさ…。ライオンとか、虎とか、熊とかさ…」
千秋は、瑠璃と顔を見合わせた。
「ど…動物が逃げた…?昨夜は象だけじゃなかったの?」
あれから、全ての動物が脱走してしまったのだろうか?
市民病院のある諏訪市に行ってしまったから、わからなかったが…。
「ね、ねぇ…!今の話し、本当なの?」
不意に声をかけられて、千秋と瑠璃が後ろを振り向く。
モニークが立っていた。
「あ!モニクロ先生!おはよう!」
瑠璃は、モニークに抱きついた。
「ねえ…!昨日、あれからどこに行ってたの?」
「え?ま、まあ…ね…。と、ところで、さっきの話し…」
「う…うん…。詳しくはわからないけど…サーカスの動物が逃げ出したって…」
「わ、私、警察に聞いてくるね。神社にいるんでしょ?」
モニークは神社へと急ぐ。
4投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時22分40秒
「あ、モニーク先生!おはよう!」
「グッモーニング!ミス・モニーク!!」
行き会う子供、一人一人から挨拶されるモニーク。
手短に挨拶を交わしながらも、モニークは、なかなか神社へ到着できない。
5投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時23分28秒
神社へと登る階段に、警官が2人、狛犬の様に左右に立っていた。
「す、すみません!あの…聞きたいことがあるんですけど…」
黒人女性が、流暢な日本語で話しかけてきたので、2人の警官は少し面食らった。
「な、何でしょう?」
「サーカスの動物達が…全て逃げ出したって、本当ですか?」
「はい。チンパンジーやオランウータンなどの猿は全て捕獲しましたが、ライオンや虎や熊などの猛獣は、まだ見つかっていません。危険ですので、厳戒令が解かれるまで自宅で避難していてください」
「そ、その…猛獣の類は、見つかり次第、射殺されるのでしょうか?」
「はい…。今、猟友会の方々が猟銃を持って山間部の方へ…」
「そんなのはダメです!!」
モニークの怒鳴り声に、2人の警官は驚いた。
「動物達は…何も罪はありません!!殺してしまうなんて…私は許しません!!」
「で、でも…村民の安全を考えると…止む終えないんです…!」
「もう、いいです!私が何とかします!!」
「な、何とかって…ちょっと…!」
モニークは、踵を返すと来た道をまた走って行った。
6投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時23分38秒
「あ…!モニーク先生!ど、どうしたんですか?」
千秋と瑠璃は、走って帰って来たモニークとまた行き会った。
「あ、千秋君!君達は早く家に戻って!」
「え?モニーク先生は?」
「私は…動物達を救いに行くから…!」
「え?ど、動物達を…救う?」
「いいから、二人は家に帰るんだよ?わかった?」
2人の返事を待たずに、モニークは、山間部へと急いだ。
7投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時24分10秒
千秋と瑠璃は、トボトボと家路につく。
「動物達…みんな見つかるかな…」
「うん…。見つかるといいね…」
しかし、千秋は知っていた。
熊などの猛獣は、見つかり次第撃ち殺されるのだ。
その猛獣を救い出すと、モニークは山へと向かった。
獣医志望と言うだけで、どうやって動物達を救うというのか?
千秋は、梨生奈のことも心配だったが、モニークのことも、もっと心配だった。
「あ…そうだ…。ハセヤンに、朝食用の卵を買ってきてくれって頼まれたんだった…」
いつもなら、養鶏場の人に直接届けてもらうのだが、今朝は道路が封鎖されていて来られないと、電話があった。
それは、こういうワケだったのだ。
原村の、数少ないコンビニの内の一軒に、千秋と瑠璃は入る。
自動ドアが開き、ベレー帽を目深に被った男とぶつかりそうになる。
その男は、両手に商品のたくさん入った大きなレジ袋を幾つも提げているため、千秋は思わずその袋を足にぶつけてしまった。
「あ、すみません…」
千秋は軽く会釈をするが、男は何も言わず、顔も見せずに、足早に店外へ出る。
しかし、背の低い瑠璃には、その男の顔を見上げることができた。
「ち…千秋君…!」
瑠璃は、千秋の腕を引っ張る。
「何?どうしたの?」
「あ…あの人…!団長さんだ!サーカスの団長さんだ!」
8投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時24分32秒
「団長さん?本当に?」
安田団長は地味な顔の為、今ひとつ千秋は思い出せなかった。
「ほ、本当に?見間違いじゃないの?」
「本当だって!間違いない!」
瑠璃は、自信満々だった。
「も、もし、本当なら…は、早く知らせないと…」
千秋は、梨生奈から預かった携帯を取り出した。
ここは、梨生奈に掛けるべきか…それとも、警察か…?
梨生奈には、危険な目に遭ってほしくない…。
ここは、警察に掛けよう!!
そう千秋が決心した時、ふと瑠璃の姿が見えなくなったのに気がついた。
「え…?る、瑠璃…?」
瑠璃が、団長と思われる男の後を追い駆けるのが見えた。
男は駐車場に車を止めていないのだろうか、道路を横切って行く。
瑠璃も追い駆ける。尾行と呼べる代物ではない。
男は、すでに廃屋となっている一軒屋の庭に入って行く。
瑠璃も同じく庭へ…。
「瑠璃!」
千秋は、駆け足で追い駆けた。
9投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時25分08秒
庭に入った時、千秋は固まった。
団長…やはりあの男が…瑠璃の口を押さえ、ナイフを突きつけていたからだ。
「あ…!る…瑠璃…!」
瑠璃は、目に涙をいっぱい溜めて、小刻みに震えている。
「やっぱり…自分等だったんかい…。俺を尾行して、どないするつもりやった?」
団長は、幼い瑠璃に対しても、一切躊躇しない、という姿勢のようだ。
「ど…どうするつもりなんて…」
千秋は、何て言ったらいいのか、咄嗟に言葉が出てこない。
「せやったら、その手に持ってるモンは、何じゃい!?」
「う…」
千秋の手には、梨生奈の携帯が握られていた。
「もしかして…警察に知らせたんやないやろうな?」
「そ、そんなこと…」
「こっち、投げて寄越せ!!」
千秋は、観念して団長に向かって、山なりに投げた。
10投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時25分20秒
しかし、生来のノーコン…携帯は大きく右に反れた。
「ど、どこに投げとんじゃい!」
団長は、瑠璃を抱えながら携帯を拾いに行く。
団長の、瑠璃の押さえる力が僅かに弱まった。
瑠璃は思いっきり、団長の手に噛み付いた。
「あいたた!!」
思わず団長は、瑠璃を放した。
11投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時25分42秒
「逃げろ!瑠璃!」
千秋は叫んだ。
瑠璃は真っ直ぐに、千秋の方に駆け寄る。
「ま、待たんかい!!」
団長は、当然、瑠璃を追い駆ける。
千秋は、団長から逃げることはせず、逆に立ち向かって行った。
そして、低い姿勢からタックル。
「ぐ…!」
千秋と団長は、転がりながら揉み合った。
「こ、この…!」
団長は、ナイフを振り上げた。
そして、千秋の背中に振り下ろす…。
だが、団長はそのナイフを落としてしまった。
何故なら…何と、瑠璃が団長のナイフを持った腕を蹴り上げたからだ。
12投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時26分06秒
「る…瑠璃…!?」
「千秋君…!逃げるよ!!」
瑠璃は、千秋の手を引っ張って走り出した。
「ま、待たんかい!!」
団長の声が背中に飛ぶ。
2人は勿論、団長の言葉を無視して逃げ出すが…目の前に軽トラックが横付けされた。
千秋と瑠璃は、思わず腰を地面に落とした。
中から、大柄なスキンヘッドの男…クロが降りてきた。
「ふふふ…。観念せい…!」
団長は、ジリジリとにじり寄って来る。
「団長…。この子達…どうするんですか?」
キンキン声で、クロが聞く。
「どうするて…このままにしておくワケにいかんやろ…」
団長とクロは、千秋と瑠璃を見下ろした。
「千秋君…」
瑠璃は千秋に身を寄せる。
「大丈夫…。僕がついてる…」
千秋は、瑠璃の肩を抱き締めた。
ガタガタと震えている。
それは瑠璃なのか、自分なのか…千秋にはわからなかった。
13投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時26分48秒
一方、モニークは山奥に足を踏み入れて、丹念に地面を見詰めている。
熊の足跡を見つけたのだ。
『TTK』時代から追跡術も身に着けていた。
人間相手の訓練だったが、動物にも有効だ。
そして、動物の生態に詳しいモニークなら、動物の追跡は、彼女特有の技と言ってもいい。
杉の木の幹に、爪で引っ掻いた跡がある。
長年、サーカスに飼われていたとはいえ、森に放たれれば野生の習慣が蘇ったのだろう。
「近くにいる…」
モニークは、全神経を集中させる。
「北へ50メートル…」
モニークは、できるだけ音を立てずに森を分け入って行く。
彼女の目の前に、何か黒い物が蠢いていた。
熊だ…。月の輪熊…。
先ずは一頭…。
しかし、モニークには捕獲する為の道具など一切持っていない。
例の…『TTK』時代に愛用していた専門武器…爪付きのグローブくらいだ。
しかし、これは人を殺傷する為の道具…。
動物を救う為の道具ではない。
しかしモニークは、もう一つ武器を持っているのだ。
誰にも明かしたことの無い…秘密の武器が…。
14投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時27分14秒
熊がモニークに気がついた。
そして、後ろ足二本で立ち上がる。
威嚇しているのだ。
この段階で逃げ出せば、熊は必要以上に人間を襲わない。
しかし、モニークは逃げ出すワケにはいかない。
この熊を救いに来たのだから…逃げ出してどうする?
モニークは、じっと熊の目を見る。
「大丈夫…。恐くないよ…」
モニークは、ジリジリと熊に、にじり寄る。
「落ち着いて…。落ち着いて…」
熊は、大きく振り上げた前足を降ろした。
そして、モニークの目を見詰めると、腹を地面に擦り付けて、頭を低く垂れた。
「よし、よし…。いい子だね…」
モニークは熊の頭を撫でる。
そう…これがモニークのもう一つの武器…『催眠術』…。
15投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時28分02秒
モニークがオランウータンに、ライオンに、そして暴れまわる象に使ったのも、この催眠術だったのだ。
もちろん、対人間用の技なのだが、邪心の無い動物の方が利きやすい。
人間に対して使う場合は、それなりの信頼関係、そして絶対的な上下関係が必要なのだが…。
そして、この催眠術には欠点がある。
一対一でなければ使えない。
今回の様に邪魔する者がいなければ問題は無いのだが、もし、数匹のライオンや虎に囲まれた場合、とてもじゃないが、悠長に使っていられない。
だからこそ、梨生奈や羅夢の協力が必要なのだ。
2人に多くの動物達を引き付けてもらっている間に、一匹一匹、催眠術を施していく…。
モニークが、2人に捜査を協力すると言い出したのも、2人に貸しを作っておいて協力させやすくする為だ。
羅夢はともかく、梨生奈なら話しを聞いてくれるだろう。
そして、羅夢を説得してくれる…。
そう、考えていた。
だが…もう一つ、この催眠術には欠点がある。
催眠術を使っている間…全神経を対象に集中させなければならない。
つまり、この間は、何事においても無防備になる…。
そして、その欠点が、最大の悲劇を引き起こしたのだ。
16投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時28分24秒
ターン…。
銃声が響いた。
モニークの耳が、一瞬麻痺した。
何が起ったのか…理解が遅れた。
全てを察したのは…目の前の…今、たった今、救い出せたはずの熊が、血を流して倒れているのを見た時だった。
犬の鳴き声がする。
今、気がついた。
「お〜い、大丈夫か〜!?」
「え…?」
モニークは、後ろを振り向いた。
そこには、二匹のどっしりとした体型の犬と、猟銃を持った老人がいた。
銃口からは、白くて細い煙が立ち昇っている。
「おんや?これはこれは…モニーク先生じゃねぇの…。いつも、孫がお世話になっとります」
老人はペコリとお辞儀した。
「………」
モニークは、呆然と老人を見詰めている。
「しかし、危ねぇな…先生!もう少しで熊に襲われるところだったじゃねぇの…!」
(何を言っている…?何を…?今、たった今、救い出したところだったのに…!)
「しかし間一髪だったなぁ…。ワシが駆けつけなかったら…今頃、モニーク先生、お陀仏だったろう…」
(何故だ…?何故、殺した…)
モニークは、頭の中が真っ白になった。
17投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時28分56秒
「何故…。何故…殺した…」
モニークが呟いた。
「え?何です?」
老人は聞き返す。
犬は、モニークの殺気を感じ取った。
凄まじい勢いで吠えまくり、モニークに飛び掛ろうとする。
「コラ!大人しくしろ!先生に失礼だろ!?」
老人は、飼い主の命を救おうとする2匹を叱り付けた。
「すいませんねぇ…。躾はしっかりしておいたつもりなんですが…」
老人の言葉は、モニークの耳には入っていない。
モニークの指が、猛獣の様に、鋭く鉤状になる。
(許さん…!殺す…!)
モニークは、凄まじい眼光を老人に向ける。
「キャゥン…」
2匹の犬は、一瞬で尻尾を丸めて体を伏せた。
「ん?どうした?」
犬に目を向けていた老人は、モニークの異変に気がついていない。
しかし、モニークは老人を殺す前に、我に帰ることになる。
彼女の携帯が震えたのだ。
「…!?」
動物を追跡していたので、マナーモードに切り替えていたのだ。
18投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時29分23秒
モニークは、怒りを沈めて携帯を手に取る。
「失礼…電話に出ても?」
「ああ、どうぞ」
命の危機が迫っていたにも関わらず、老人は呑気に答える。
掛けてきたのは、ハセヤンだった。
「もしもし、モニークですが…」
〔あ、モニーク先生!あの…千秋君と瑠璃、見てないですか?〕
「え?帰ってないんですか?」
〔ええ…。ラジオ体操に出かけて行ったついでに、卵を買ってくるように言ったんですが…〕
「確かに、ラジオ体操に行く途中で、2人に会いましたが…。学校の友達には?」
〔掛けました…。しかし、どこにも…〕
「梨生奈ちゃんや、羅夢ちゃんには?」
〔番号を知らないんです。吉田さんは入院してるし…。そう言えば、2人の姿も見えません。一緒にいるのでしょうか?〕
「わ、わかりました…。私の方から掛けてみます」
〔お願いします。サーカスの動物が全て逃げ出したらしいですから…心配で心配で…〕
「そ…そうですよね…。心配です…」
モニークは、苦々しい思いで熊の死体を横目で見た。
「で、では、詳しいことがわかり次第、連絡しますから…警察には、その後でいいでしょう」
モニークは電話を切ると、熊を殺した老人に対して、怒りに打ち震えながら礼を言うと、足早にその場を離れた。
19投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時30分11秒
「いやん!痛〜い!!」
荷台から、例のキンキン声が聞こえてきた。
軽トラックは、デコボコの山道を駆け上がっている。
運転しているのは団長で、その隣には、ロープで縛られた千秋と瑠璃が…。
クロは仕方なく、荷台に乗せられている。
「あ…あの…。ぼ、僕達を…どうするつもりなんですか…?」
千秋は、勇気を振り絞って団長に訊ねた。
「さあ…。どないしようかな…」
団長は、運転に集中している。
このトラックは、どんどん山を駆け登って行く。
一体、どこに向かっているのか?
「あ…あの…。この子…瑠璃だけでも逃がしてくれませんか?ぼ、僕が人質になりますから…」
「あん?カッコええな、あんちゃん…。でも、アカン!」
「な、何故ですか?」
「もし、どっちか一方を人質にするんやったら、コッチのちっちゃいお嬢ちゃんや!」
「そ、そんな…!」
「あんちゃん、勇ましかったもんなぁ…。その子も、俺のナイフ蹴っ飛ばしたりして、元気ええけど…」
20投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時30分25秒
すると、車内にEXILEの『Choo Choo TRAIN』が響く。
「ん?」
団長のポケットの中の…先ほど千秋から取り上げた…梨生奈の携帯である。
団長は、トラックを止めた。そして、携帯を取り出す。
携帯に表示された電話番号を千秋に突きつける団長。
「この番号…誰や?」
「さ…さあ…?ハセヤンじゃないし…」
羅夢でもない。『ライトニング・ボルト』と表示されるはずだ。
「出ぇ!余計なこと、喋んなや!」
21投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時30分50秒
モニークは、イライラしながら呼び出し音を聞く。
早く、一匹でも多く動物達を保護しなければならない…。
さっきの熊の様に、猛獣は見つかり次第、射殺されてしまう運命なのだ。
そして、千秋や瑠璃の無事も確認しなければ…。
「早く…!早く出て!梨生奈!」
〔もしもし…〕
「…!?」
梨生奈の声じゃない。
「千秋君?」
〔はい…〕
「よ、よかった…!今、どこにいるの…?」
間が空いた…。
「…?」
モニークは不可解に思った。
しばらくして、千秋の声が聞こえる。
〔え…と…。今、買い物してます…〕
「買い物?るりるりも一緒なの?」
〔あ…はい…。一緒です…〕
何か、千秋の受け答えが硬い…。
22投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時31分37秒
モニークは耳を澄ませる。
エンジン音が…。
「千秋君…。今、車に乗ってる?」
〔あ…。は、はい…。乗ってます〕
「誰の車…?」
〔…ハセヤンです…〕
決まりだ…!千秋はウソをついている…いや、ウソを言わされている。
「るりるりも一緒なの?代わってくれる?」
〔はい…。瑠璃、モニーク先生…〕
しばらくして、瑠璃の声…。
〔もしもし、モニクロ先生?〕
「るりるり…。今日は、外に遊びに行けないね。残念だね」
〔…うん…。早く、外で遊びたい…〕
「そうだね…。じゃあ、千秋君に代わって」
〔はい…〕
敬語を使っている…。誰か、『恐い人』と一緒にいる…!
23投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時31分50秒
〔もしもし…〕
「千秋君…。何で、梨生奈ちゃんの携帯を持ってるの?」
〔い…今、梨生奈ちゃんと羅夢ちゃんは2人出かけてて…それで、連絡がとりやすいように携帯を借りたんです…〕
「ふ〜ん…。じゃあ、千秋君から、羅夢ちゃんの携帯に掛けてよ。サーカスの動物が逃げ出して危ないから、早く家に戻るように…」
〔はい…。わかりました…。そ、それじゃあ…これで…〕
「はい…。じゃあね…」
ブツリと電話は切れた。
24投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時32分12秒
「さてと…」
モニークは、大きく息をついた。
「次から次へと…まったく…」
モニークは、五分程時間をやり過ごし、羅夢の携帯に掛ける。
〔もしもし…モニーク?〕
出たのは梨生奈だった。
「千秋君から、電話あった?」
〔…?いいえ…〕
「やっぱり…」
〔あの…〕
「今、余裕がないから、必要最低限のことを言うよ?」
〔え?ええ…〕
「今から、あんたの携帯に…千秋君に掛けてみなよ」
〔どうして?て、いうか、私の電話に掛けたの?〕
「いいから、掛けてみて。そして、また私に掛けてきて」
モニークは、電話を切った。
「さあ…。梨生奈も頭のいい子だ…。何の先入観もない状況で…千秋君の異変に気がついてくれればいいんだけど…」
モニークは、下山の準備をする。
動物達の命も大切だが…優先させるべきは、やはり千秋と瑠璃だ。
モニークは、気持ちの切り替えも早かった。
25投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時32分46秒
トラックの中の千秋、瑠璃、団長…そして荷台のクロ。
「団長〜!運転代わりましょうか?」
荷台から、クロが今にも泣き出しそうな声で、団長に聞いた。
「あん?別に代わってくれへんでもええよ…」
団長は、素っ気無く答えた。
「て、言うか、僕が代わって欲しいんですぅ〜!もう、さっきから、お尻が痛くて痛くて…もう限界!!」
クロはとうとう不満をぶちまけた。
「ねぇ…。代わってあげたら?可哀そうだよ…」
瑠璃も団長に、口添えしてあげた。
「ええの!それより、自分の心配をしなさい!」
団長は瑠璃の申し出も却下する。
26投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時33分02秒
すると、また『Choo Choo TRAIN』が鳴り響く。
「何や、自分…えらい人気者やなぁ〜…。さっきから掛かりっぱなしやん…」
「い、いえ…。これ、僕の携帯じゃないですから…」
今度は、トラックは止まらない。
運転しながら、団長は携帯を確認する。
「何々…?『ライトニング・ボルト』…?ケッタイな名前やな…」
「『ライトニング・ボルト』…あ、羅夢ちゃんだ!」
「ラムちゃん…?自分、その年でキャバクラ通ってるん?」
「ち、違いますよ!何てこと言うんですか!僕の友達です!」
千秋は、人質という立場だが、団長を怒鳴りつけた。
「ご、ごめんな…。と、とにかく電話に出ぇ。余計なこと、言いなや!?」
団長は、片手でハンドルを握り、もう片方の手で携帯を持ち、千秋に向ける。
27投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時33分42秒
「どうだ?千秋君、出たか?」
「ううん…。まだ…」
梨生奈は、モニークに言われた通り千秋に電話を掛けてみた。
「どういうつもりなのかしら…モニーク…」
「なぁ…モニーク、アタイ等が抜け駆けしたこと、ムカついてた?」
「ううん…。そういう雰囲気じゃなかったけど…あ、千秋君?」
〔うん…。どうしたの?梨生奈ちゃん…〕
「い…いや…その…ど、どうしてるかな…て…」
〔あ…うん…。ぼ、僕は大丈夫…。そ、それより、梨生奈ちゃん達は?〕
「え…?ええ…。わ、わたしも…今の所、大丈夫…」
会話がぎこちない…。それは、梨生奈も同じだが…一体、モニークはどういうつもりで千秋に電話を掛けろと言ったのか?
「ねぇ…。今、何してるの?」
〔今…?う、うん…買い物…〕
「買い物?こんな朝早く?何を買うの?」
〔卵…〕
「卵?」
〔うん…。いつも届けてくれる養鶏場の人が、来られないから…。何でも、サーカスの動物達がみんな逃げちゃって、道路が封鎖されちゃってて…〕
「あ…ああ…。それなら、知ってる…。千秋君、一人?」
〔ううん…瑠璃といるよ…〕
千秋の方から、話題を振ってくることがない。
28投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時34分03秒
梨生奈は、携帯から聞こえてくる、ガタガタという音が気になった。
何やら、車のエンジン音が聞こえる…。
その時だった。
〔『痛い!』…『じゃかし!』〕
携帯から、千秋と瑠璃以外の声が聞こえた。
どこかで聞き覚えのある声…。
「千秋君…。他に誰かいる?」
〔え…?誰かいるって…?〕
「だって、今、声が…」
〔あ…ああ…ラジオの声ね…〕
「ラジオ?」
〔今、車の中だから…〕
車?だって、今、瑠璃と一緒にいるのではないのか?
「誰が運転してるの?」
〔ハ、ハセヤンだよ〕
「ハセヤン…?」
だったら、何でハセヤンも一緒にいる、と言わなかったのか…。
〔じゃ、じゃあ、梨生奈ちゃん、仕事がんばってね…!〕
一方的に、電話が切られた。
29投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時34分33秒
「………」
通話の切れた携帯を、じっと見詰める梨生奈。
「どうした?梨生奈?」
羅夢が訊ねる。
「…わからないけど…何かおかしい…」
梨生奈は、もう一度、千秋に携帯を掛ける。
〔お掛けになった電話番号は、電源を切っているか、電波の届かない所に…〕
「つながらない!」
梨生奈は、早速モニークに掛けた。
「もしもし!モニーク?」
〔梨生奈…。どうだった?〕
「千秋君…様子が変だった!」
〔梨生奈はどう思ったの?率直な印象を言ってみな!〕
「千秋君と瑠璃ちゃん…誰かと一緒にいる…!ウソを言わされている…!つまり…」
〔つまり…?〕
「誘拐されている!?」
〔私も、そう思うよ…〕
「あの、サーカスの連中!?」
〔そうかもしれないね…。90%そうだろう…〕
「あ、あのサーカスの連中、千秋君達をさらったのか!?」
羅夢も、ようやくこの事態を飲み込めた。
30投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時34分54秒
「と…とにかく…!千秋君達を助けないと!」
〔おそらく、やつ等の隠れ家に連れて行かれると思う…でも、心配ないよ。私は、やつ等がどこにいるか、当てることができる…!〕
「ええ…!?ど、どうして…?」
〔勘さ…〕
「勘!?ちょっと!ふざけないで!」
〔ふざけてる?どうして?〕
「な、何の根拠も無いのに、勘だなんて…!」
〔梨生奈…私の勘が、外れたことがあった?〕
「そ、そんなの、知らないわよ!あなたとは、そんな深い関係でもなかったし…勘だけで全てがわかれば、誰も苦労しないわよ!」
〔苦労…?梨生奈、今、『苦労』って言ったね?〕
「え…?」
〔私が、この『勘』を手に入れるまで…どんなに『苦労』したか、知らないだろ?〕
「な、何よ…。その、苦労って…」
〔いや…。正確に言うなら、『手間』かな…?〕
「手間…?」
〔今、どこにいる?〕
「今…?廃校になった学校から東へ1キロって所だけど…」
〔わかった。とにかく、私から連絡があるまで、そこを動くんじゃないよ?わかった?〕
「ちょ、ちょっと、モニーク!!」
電話は、また一方的に切られた。
31投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時35分14秒
「まったく…!ふざけてるわよ!」
梨生奈は、珍しく感情的に怒鳴った。
「お、おい…。梨生奈…。モニーク、何だって?」
「話しにならない!勘だってさ!もし、その勘が外れたら、千秋君達はどうなるのよ!」
「お、おい!落ち着けよ、梨生奈!おまえが興奮してどうすんだよ!?そういうのは、アタイの役割だろ!?」
羅夢にそう言われ、梨生奈はさすがに我に帰った。
「そ…そうだったね…。ごめん…」
「千秋君達が、危険な目に遭ってるんだ…。無理もないよ…。で、どうするの?」
「モニークには、連絡があるまで動くなって言われたけど…そんな悠長なことしてられない!やつ等が隠れそうな所なら、もう絞り込めてる…!」
「発電所と…ダムだな?」
「今、私達は発電所に向かっている…。さっきの学校の位置と、検問の張り巡らされ方を考えたら、7割以上は、発電所にいるって予想したから…」
「今からダムに行ってたら、時間のロスだもんな!」
「ええ…!羅夢、このまま発電所に急ぐよ!」
梨生奈と羅夢は、そのまま坂道を駆け上って行く。
32投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時36分03秒
一方…梨生奈達に待機するように、と命じたモニークは、ハセヤンに電話を掛けていた。
〔もしもし、ハセヤンズハウスです〕
「ハセヤンですか?モニークです」
〔あ…先生!ち、千秋君と瑠璃は?〕
「ええ…。さっき、ばったり会いまして…。で、今動物達が逃げ出していて危険な状態なので、とりあえず私のアパートにいます」
〔モ、モニーク先生の家に?梨生奈ちゃんと羅夢ちゃんは?〕
「一緒ですよ?代わりましょうか?」
〔え、ええ…。お願いします〕
モニークは、喉元を親指と人差し指で押さえると、また電話に出る。
「ああ、ハセヤン?ごめんね、連絡しようと思ったんだけど…」
モニークは、千秋そっくりの声色で喋った。
〔もう、千秋君…。心配させるなよ…。卵はどうするの?〕
「あ…!忘れてた!どうしよう?」
〔いいよ、いいよ。俺が買ってくるから…。梨生奈ちゃんは?〕
「え…?いるよ。代わる?」
〔うん。頼むよ〕
33投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時36分20秒
モニークは、一つ溜息をつく。
「ふぅ…。梨生奈か…。ちょっと自信ないけど…やってみるか…」
あ〜、あ〜と少し小声で発生練習をして、再び電話に出るモニーク。
「もしもし…。梨生奈です…」
〔あ、梨生奈ちゃん、無事だったんだね。良かったぁ〜…。吉田さんから預かってるからさ…。ハセヤン心配で、心配で…〕
「ごめんなさい…。でも、心配ないですから…」
(やれやれ…。これで、4人とも無事に返すしかなくなっちゃったね…)
モニークは、梨生奈の声を出しながら、そう思った。
34投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時37分51秒
手足を縛られた千秋と瑠璃は、四方をコンクリートの打ちっ放しの壁に囲まれた狭い殺風景な部屋に押し込められた。
「こ、これから、僕達をどうするつもりですか!?」
自分達を見下ろす安田大サーカスの3人に、千秋は臆することなく聞いた。
只でさえ狭い部屋、クロとHIROがいるだけで、途端に暑苦しくなる。
「心配すな!命を取ろうやなんて、物騒なことは言わへん」
団長は、それでも厳しい顔を千秋達に向ける。
「ワシ等は、動物には非情やけど、人間には優しいねん」
「そうよ!あなた達、動物をいじめてるでしょ!?」
瑠璃は団長に怒鳴った。
35投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時38分02秒
「いじめてる?アホ言いな!大切に扱うてるよ!大事な商売道具や」
「商売道具ってどういうこと?サーカスの?」
「ちゃう…。麻薬を運ぶ為の道具や…」
「マヤク?マヤクって何?千秋君…」
「麻薬ってのは…人をダメにする悪魔の薬だよ…」
「人をダメにする?お薬って、病気を治す為のものじゃないの?」
「いや…人を病気にする薬ってのもあるんだよ…」
「で…その薬と動物とどういう関係があるの?」
「おっと…これ以上は言われへんな…。こんな純粋なお嬢ちゃんに、こない残酷な話し、しとうないし…それに…」
「それに?何よ?」
「これ以上、知られてもうたら、自分等を殺さなアカンくなる…」
「な、なら、結構です!」
千秋は、慌てて口を挟んだ。
36投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時39分01秒
「でも、団長…!もう、ほとんどの動物達、逃がしてしまったじゃないですか〜。これから、僕達、どうすればいいんですか?」
クロは暗く沈んだ…それでも甲高い声で団長に言った。
「う〜ん…しゃあないやん!ワシ等が捕まったら、それこそお終いじゃ!」
「でも…ボスに怒られちゃいますよ〜!」
クロは今にも泣き出しそうな顔をした。
「お仕置き、恐い〜」
HIROも、団長に言い寄った。
「な、なら、ワシ等もトンズラじゃ!何、今回運んだブツをどこかの組織に横流しすれば、それなりの額になる!それ持って外国に高飛びや!」
37投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時39分14秒
そんな3人の会話を、瑠璃は醒めた目で見ながら言った。
「ふ〜ん…。おじさん達、悪い人って言うか、悪い人の下っ端なんだ…」
「な、何やと?もう一回、言うてみぃ!!」
団長は、子供相手にムキになる。
「誰かに命令されて悪いことやってるんでしょ?だったら、安いお給料でも、普通に真面目に働いてサラリーマンやってた方が全然マシじゃん!」
「じゃかしい!ワシらは、太く短く生きるんじゃ!」
「確かに、太くて短いわね、あなた達!」
「きぃ〜!!もう、失礼な子!」
クロは歯軋りして悔しがった。
「お、おまえ、ワシ等をコケにしとるな!?」
団長は、子供相手に怒鳴った。
「あら?今頃気がついた?」
瑠璃は、涼しい顔で言う。
「る…瑠璃…!あんまり刺激しない方が…」
千秋は、青い顔で言う。
38投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時40分03秒
「そ、そうや!その、あんちゃんの言う通りや!ええか?まだライオンとか虎とか豹といった猛獣は、手元にあんねん!今度、生意気な口利いたら、ライオンのエサにするで!」
「え…?まだ、動物いるの?そのライオン達は元気なの?」
「ふん!動物の心配よりも、自分等の心配した方がええで!…ん?」
すると、団長は、瑠璃の首に提げられているスタンガンに気がついた。
「ちょ、ちょっとお嬢ちゃん…!な、何を首から提げとんねん?」
団長は、瑠璃の首から、スタンガンを抜き取った。
「あ…!か、返してよ…!」
瑠璃は怒鳴ったが、縛られている為、他に何もできない。
「こ…これ…スタンガンやんか!何で、こないなモン、持っとんねん!かなわんな…自分…」
「団長さんは知ってるんですか?それ…何に使う物か…」
千秋は恐る恐る聞いた。
そう、あの時、結局このスタンガンなるものが何の為の道具なのか、わからず仕舞いだったのだ。
39投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時40分14秒
「ん?教えて欲しいか?これはな、こう使うんや!」
そう言って、団長はスタンガンを隣にいるクロに押し付けた。
「わ、わ、わ、わ〜〜〜!!!って…団長!何するんですか!?」
クロは、甲高い声を更に甲高くして叫んだ。
「あれ?コレ、電気出ぇへんやん…。電池、入ってへん…」
団長は、つまらなさそうに呟いた。
「電気?」
「そうや。これ、電気で相手を感電させてやっつける道具や。ま、電気が出せればワシらも危ないとこやったわ…」
電気で相手を感電させてやっつける…?何で、瑠璃のような子供が、こんな物騒な物を持っているんだろう…?
しかも、母親がくれた思い出の品だと言う…。
こんな物を子供に持たせるなんて…瑠璃の母親は、一体、どんな人物なのだろう…?
40投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時40分54秒
「ね、ねぇ…。返してよ!コレ、瑠璃のお母さんがくれた、たった一つの物なんだよ!」
「ウソ言いなや!こんなモン、娘に持たせるオカンなんて、おらへん!」
「ウソじゃないもん!返して!」
「アカン!スタンガンなんて、子供の持つもんやあらへん!没収や!」
団長達3人は、クルリと身体を後ろに向けると、出口へと歩いていく。
「ちょ、ちょっと…!僕達をどうするんですか!?それだけは教えて下さいよ!」
千秋は、すがるような声で団長を呼び止めた。
「どうする?なんもせぇへんよ!自分等はこのままや。このまま放ったらかしや!」
「え…?こ、このまま…?」
「運が良かったら、誰か見つけてくれるかもしれへんな?どの道、ワシ等がこの村を出た後やけどな!」
安田大サーカスの3人は、乱暴にドアを閉めて出て行った。
狭い部屋には、千秋と瑠璃が取り残された。
41投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時41分06秒
「千秋君…。ごめんね…。瑠璃が団長さんを追い駆けたりしたから…」
瑠璃は元気なく呟いた。
「そ、そんなことはいいよ!それより、あんな風に挑発したら、危ないよ!」
「うん…。ごめんね…。でも、あの人達、これ以上、私達に何もしないよ」
「え?ど、どうしてわかるの?」
「どうしてだろう…?でも、瑠璃、あの人達、全然恐くなくなっちゃったんだよね…」
「恐くない…?」
「どうしてだろ…。何か…昔、もっと恐いものを見たりしたような気がするんだよ…」
「もっと怖いもの…?な、何…?それ…」
「思い出せない…。でも、どこかで見たんだよ…。どこかで…」
それっきり、瑠璃は黙り込んでしまった。
42投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時41分31秒
梨生奈と羅夢は、旧発電所に到着した。
鉄格子の門は、錆びた有刺鉄線にがんじがらめに囲まれている。
誰もいないように感じるが、隠れ家とはこういうものだ。
梨生奈の予想だと、千秋と瑠璃はここに閉じ込められている…すなわち、安田大サーカスの3人は、ここに隠れているハズである。
「どうする?梨生奈?正面突破する?」
羅夢は首に提げたヌンチャクを外して構えながら聞いた。
「いや…。千秋君達が捕まってるんだから…私達、二手に別れよう」
「二手に?」
「うん。もし、私達まとめて2人が、やつ等3人と鉢合わせになったら…やつ等の内の一人が、また千秋君達をどこかへ連れ去ってしまうかもしれない…」
「なるほど…。アタイ達の内のどっちかが、千秋君達を見つけて保護するわけか…」
「そういうこと」
「だったら、梨生奈が千秋君達を見つけるといいな」
「え?」
「助け出したいだろ?自分の手で…」
「羅夢…」
「アタイは、やつ等をブチのめしたい!」
「もう…!羅夢ったら…!」
梨生奈は微かに苦笑すると、裏門に回った。
羅夢は、難無く有刺鉄線の門を飛び越えた。
43投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時41分51秒
梨生奈は、裏側の鉄柵を飛び越え、赤錆だらけの鉄の扉の前に行く。
トンファーでドアノブを壊してしまえば早いのだが、そんなことをしては中の千秋達が危険にさらされる。
梨生奈は、トンファーの取っ手を捻ると、中から様々な太さの針金を取り出す。
梨生奈はその針金を使って、ものの数秒でドアをピッキングして開けてしまった。
「よし…」
梨生奈は、軋むドアを慎重に、出来うる限り音を立てずに開けた。
そして、今侵入しようかという時に、「オラァ!」…という声と共に、何かの破壊音が響く。
表側の羅夢が、ドアをブチ破ったのだ。
「も、もう!羅夢!」
梨生奈はもう、一刻も早く発電所の施設内に駆け入るしかなかった。
いや、もしかしたら、あの3人は、何事かと表に誘い出されているのかもしれない。
その隙に千秋達を見つけて保護しろ…という羅夢なりの考えだろうか?
それとも、ただ、本当に暴れたかっただけなのか…。
とにかく、時間はかけてはいられない。
梨生奈はあらゆるドアをトンファーで叩き壊し、一部屋一部屋しらみつぶしに探していく。
「い…いない…?」
千秋達が見つからない…。梨生奈の予想が外れたのか?
すると、最後のドアの向こう側に、足音が聞こえた。
そして、人の気配…。
44投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時42分38秒
(誰か、いる…!)
梨生奈はトンファーを構える。
足音は一つ。
歩き回っている…ということは、千秋達ではない。
もしかしたら、羅夢かもしれない。
それでは同士討ちだ。
そこで、梨生奈は『R&G探偵社』特有の合言葉をドアの向こうに投げかけた。
「ウェスポン?」
「ワセラライ」
「羅夢?」
「梨生奈か?」
この合言葉は、吉田が考案したものだ。
「ウェスポン」と呼びかけられ、2秒以上間が空いた時、敵だと認識して躊躇なく攻撃することになっている。
「ウェスポン」と「ワセラライ」は、特別な意味のある言葉ではない、吉田による造語だ。
意味がないから、合言葉を解読することなど不可能なのだ。
45投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時42分50秒
「梨生奈、そこどきな。このドア、ぶっ壊す」
羅夢はヌンチャクでドアノブを叩き壊し、ドアを蹴って開けた。
「羅夢!千秋君達は?」
「いなかった。やつ等は?」
「いない…」
予想が外れた…。ダムに2人はいる?
今から向かうには、相当の時間のロスだ。
46投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時43分39秒
2人が呆然としていると、梨生奈の懐に入った携帯がバイブで震えた。
「…モニークからよ…」
梨生奈は溜息をついて電話に出る。
そこを動くな、とモニークに言われた梨生奈は、それを無視して移動し、見事な空振り…電話に出るのが億劫だが、仕方が無い。
「もしもし…」
〔梨生奈?千秋君達、どこにいるか教えるよ?ダムだよ!建設途中になって放り出された税金の無駄使いのダム…!そこに2人はいるよ!〕
「うん…。わかってる…」
〔え?もしかして、今、ダムにいるの?〕
「ううん…。もう一つの…発電所にいる…」
〔発電所?〕
「それで…見事に予想が外れたわ…」
〔梨生奈…。私は、動くなって言ったのに…〕
長い沈黙の後、深い溜息が携帯から聞こえた。
ダーブロウ有紗ならば、凄まじい怒鳴り声と罵声を浴びせかけるのだろうが、モニークのこの対応も、相当精神が落ち込む…。
47投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時43分51秒
そんな梨生奈を見て、痺れを切らして羅夢が携帯を毟り取って怒鳴った。
「おい!コラ!モニーク!!てめぇが『勘』だとか言うから、アタイ等は不安で動いたんだ!千秋君達を助け出したい気持ちは、梨生奈が一番強いんだよ!!」
〔…わかったよ…。怒鳴らないで、羅夢…。とにかく、今からダムに急いで。一秒だって無駄にしてはいけないよ?〕
「何でダムだって、断言できるんだよ!?その根拠は何なんだよ!?」
〔今、説明しているヒマはない!私も急ぐけど、あんた達の方が早くダムに着くだろうから!〕
「おまえは、今、どこにいるんだよ!?」
〔今?自宅だよ〕
「家?何のんびりしてやがる!!」
〔だから、今から急ぐんだよ!いい?早くダムに行くんだよ!?〕
一方的に通話は打ち切られた。
48投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月04日(日)01時44分45秒
ただ、コピペするだけでも疲れますね…
時間のある時に、こうやって更新していきたいと思います
では、おちます
49投稿者:
お疲れ様です。
投稿日:2008年05月04日(日)03時40分23秒
50投稿者:
あげ
投稿日:2008年05月04日(日)19時54分55秒
51投稿者:
お願いしていた者です
投稿日:2008年05月04日(日)23時42分43秒
リリーさん、本当にありがとうございます
感謝してもしきれません・・・
どうぞご負担にならない程度でお願いしますっ
52投稿者:
過去ログのアドレスが変わってますね
投稿日:2008年05月04日(日)23時59分06秒
http://221.254.11.166/log/tentele/070923205005a.html
新しいアドレスです
53投稿者:
あげ
投稿日:2008年05月06日(火)21時28分52秒
54投稿者:
age
投稿日:2008年05月07日(水)21時13分31秒
55投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時32分20秒
では、更新します
56投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時33分49秒
梨生奈と羅夢は、整備された道を通らなかった。
山の急斜面を駆け降りる。
もう、獣道ですらない、道無き道を行く。
モニークの言う通り、一秒だって無駄に出来ない。
こうしている間、千秋達はどこかに連れ去られてしまっているかもしれないし、命の危険にさらされているかもしれない。
モニークの言う事を聞かずに空振りしたのは、梨生奈と羅夢のミスだ。
そのミスを、これ以上大きくしてはならない。
高さが5メートルはあろう、大きな岩が2人の行く手を塞いでいる。
「羅夢!」
梨生奈は少し姿勢を低くする。
羅夢は梨生奈の肩に足を乗せ、飛び上がる。
「オラ!」
羅夢はヌンチャクを岩に叩き込む。
ヌンチャクの片方の棍は、岩肌に突き刺さった。
「梨生奈!」
羅夢は岩に突き刺さったヌンチャクにぶら下がると、梨生奈に手を差し延べる。
梨生奈はジャンプして羅夢の手を掴む。
そして岩を駆け登り、2人はこの障害を乗り越えた。
今度は、流れの急な川…。
2人は、腰まで濡らしながら、川底を駆けて行く。
2人の強靭な足腰は、流されることなく川を渡りきった。
57投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時34分11秒
そうこうしているうちに、正規の道を行く半分の所要時間で、梨生奈と羅夢の『チームR』は、途中で開発を諦められたダム施設へと到着した。
それでも、時間のロスは相当なものだ。
小さな軽トラックが止めてある。
エンジンを触ってみる。
少し暖まっている。
排気口に蜘蛛の巣がかかっていない。
長い間放置されているワケではなさそうだ。
悔しいが、モニークの『勘』は当たった。
ここに、安田大サーカスの3人が隠れ…そして、千秋と瑠璃が囚われている…!
「梨生奈…」
「行こう…!羅夢!」
モニークを待つ、という選択肢は2人にはなかった。
しかし、このダムの施設…広すぎる…。
とにかく、2人は長い鉄ハシゴを降りると、空のダム底にたどり着き、ドアをピッキングして開けた。
「さてと…。羅夢、ここは慎重に…」
「慎重かつ大胆にな!」
静かに…しかし素早く、梨生奈と羅夢は薄暗い廊下を走って行く。
58投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時34分30秒
「羅夢…!ストップ!」
「ああ…!」
梨生奈と羅夢が、人の気配を感じたのは、ほぼ同時だった。
廊下の角を、誰かが歩いてくる。
一人だ…。歩幅の感覚で身長が…足音の響き具合で体重が、大まかながらにわかる。
羅夢は『TTK事件』の際、中村有沙にノックの音の位置で身長を割り出されてバレたことがある。
これも、元『TTK』の訓練の一環だ。
それによると…歩いているのは、大柄な大人の男である…と断定。
梨生奈と羅夢は、アイコンタクトで意思を確認し合うと、それぞれの武器を構える。
その人物が、角から姿を現した。
スキンヘッドの口ひげの男…一見して堅気の人間ではない、とわかる。
「え…?君達、誰…?」
梨生奈と羅夢は、男の外見と声のギャップに一瞬面食らったが、羅夢は次の瞬間、その男の左脛をヌンチャクで叩き払った。
「痛い!!」
と、男が叫ぶ前に、梨生奈はトンファーを彼の口に捻じ込んだ。
「シー!静かにしてね…」
梨生奈は、人差し指を唇の前に持っていく。
「んぐぐぐ…」
その男…クロは、涙目になりながら、梨生奈と羅夢を見上げた。
59投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時34分59秒
「ねぇ、千秋君と瑠璃ちゃんはどこ?案内して…!」
梨生奈のトンファーで口を塞がれたクロは、何度も頷いた。
羅夢は、ヌンチャクの鎖で、クロの両手を後ろ手に捻り上げる。
「さあ、キビキビ歩きな!」
羅夢に尻を膝蹴りされながら、クロは打ち込まれた左足を引き摺りながら歩き始める。
梨生奈はトンファーをクロの口に突っ込んでいるので、先頭は梨生奈、そしてクロ、最後は羅夢という順番で長い廊下を進む。
「…!?」
梨生奈は、また廊下の角で人の気配を感じた。
今度の男は…でかい…!
異様な体温も感じる。
相当の巨漢の様だ。
梨生奈は、もう片方のトンファーを構える。
そして、一気に前に躍り出ると、トンファーを叩き込んだ。
ボム…。
「…え?」
妙な感触…。
目の前には、まるで相撲取りの様な体型の男…HIROが立っていた。
吉田の上に倒れた、テントの支柱を持ち上げた、あの男である。
「ん?君ら、たしか…」
確かに、HIROの身体にトンファーは炸裂した。
しかし、当のHIROはノーダメージである。
60投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時35分22秒
「く…!」
梨生奈は、クロの口に捻じ込んでいたトンファーを引き抜くと、もう一度HIROの身体に攻撃を加えた。
ボム…。
しかし、今度の攻撃も、HIROには効果がなかった。
「オラァ!!」
羅夢はクロの両腕からヌンチャクを外すと、飛び上がって、HIROの肩口を攻撃する。
ボム…。
結果は同じだった。
HIROは、平然と立っている。
「あれ?クロちゃん、何してんの?」
「HIRO君、た、助けて〜!!」
クロは、甲高い声であらん限りの悲鳴をあげた。
「やかましい!このオカマ野郎!!」
羅夢はクロにヌンチャクを振り上げる。
「ウガァ!!」
HIROは、羅夢のヌンチャクを握る手を掴んだ。
「う…!こ、この…!デブ!!放せ!!」
羅夢は後ろ蹴りをHIROに喰らわせるが、その攻撃も効かない。
「羅夢を放しなさい!!」
梨生奈は、羅夢を掴むHIROの腕を、トンファーで叩き込む。
しかし、その攻撃も効かない。
61投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時36分04秒
「な、何で…?」
一瞬、梨生奈達はひるんでしまった。
「だ、だ、団長〜!!た、た、た、助けてぇ〜!!」
クロは、その隙に、HIROの股の間を潜り抜けて、長い廊下を走り去って行った。
「ち、畜生!!逃がすかよ!!」
羅夢は、ムチャクチャにHIROにヌンチャクを叩き込む。
「ウガガ…!」
さすがに、HIROは羅夢の手を放した。
しかし、その巨体はこの狭い幅の回廊を、すっかり塞いでしまっている。
「そ、そこをどいて!」
梨生奈もトンファーで攻撃する。
しかし、相変わらずHIROには、蚊が刺した程度にも効かない。
「こ、こいつの身体…どうなってんだよ!?」
羅夢も戸惑いを隠せない。
まるで、巨大なマットレスを布団叩きで叩いているようにしか、手応えを感じない。
62投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時36分17秒
「この男…脂肪の塊りね…!コッチの攻撃は、全部跳ね返されちゃう…!」
そうこうしている間に、さっき逃げた甲高い声の男が、千秋達を別の場所に移して逃げ出してしまうかもしれない。
「こ、こんな所で時間を無駄にできない!羅夢、アレ、やるよ!」
「AVEX(A Violence EXplosion)か!?」
「そう!一気にかたをつけるよ!!」
「し、死んじまうんじゃ…?」
「大丈夫!この男なら、死ぬ事は無い…と、思う…」
「『思う』って…!」
「考えるのは後!さ、羅夢、やるよ!?」
いつもの冷静な利生奈の姿は、そこにはなかった。
63投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時36分56秒
2人は、HIROに背を向けると、10メートル程走った。
HIROは、2人が諦めて逃げ出したのかと思った。
追い駆けるのは面倒で腹が減るので、HIROは後ろを振り向いて団長のもとに行こうとする。
「待ちなさい!」
「ウガ?」
HIROが再び振り返ると、『チームR』の2人が…前に梨生奈、後ろに羅夢と、それぞれの武器を構えて睨み付けていた。
「覚悟しなさいよ?致命傷にならないように、頭だけは保護しておくことね!」
「忠告はしたぜ?死んでも文句言うんじゃねぇぞ!?」
「ウガ?」
HIROは、2人が何を始める気なのか、皆目見当がつかない。
「はああああ〜〜〜!!!」
「オラアアア〜〜〜!!!」
狭い廊下を、2人は走り出す。
「羅夢!!」
梨生奈が、横回転をしながらしゃがみ込む。
「おうよ!!」
羅夢は、梨生奈の肩に足を乗せると、縦に回転して飛び上がる。
「くらえ!!AVEX(A Violence EXplosion)!!」
64投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時37分09秒
梨生奈は、凄まじい横回転で床をスレスレに飛び込んでいく。
羅夢は、凄まじい縦回転で天上をスレスレに飛び込んでいく。
「ウ…ウガ…!?」
猛烈な風圧が、HIROを襲う。
HIROは、思わず頭を抱えた。
ドム、ドム、ドム、ドム…!!
大太鼓を叩くような音が、狭い廊下に鳴り響いた。
65投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時37分35秒
二つの暴風は、ゆっくりと回転数を落とす。
HIROはグラリと、後ろに崩れ落ちる。
そして巨体は、大音響を立てて床に横たわった。
「や…やったか…?」
「やったわ…」
HIROの大きな腹は、大きく上下している。
「良かった…。死んでないみたい…」
「AVEXをまともに喰らって死なねぇとは…。コイツ、人間か?」
「さあ、羅夢!あとの2人を追うよ!!」
梨生奈と羅夢は、HIROの大きな腹に足を掛けて乗り越えようとした時、足下の山がムクリと動いた。
「え…!?」
2人は、足下のHIROを見る。
「あ〜、ビックリした…」
HIROは、ゆっくりとその巨体を起こした。
「う…うわあ…!」
梨生奈と羅夢は、後ろに転げ落ちてしまった。
「君等、すごいな…。こんな小さな女の子なのに…なんで、こんなことできるの?ウチのサーカスに出てみない?」
HIROは、まったく平然とした表情で、床に転がった2人を見下ろした。
「て…言うか、何でおまえは、ケロっとしてんだよ!!アレを喰らって!!」
さすがの羅夢も、青い顔をして、HIROを見上げた。
66投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時38分13秒
「ケロっとはしてない。少し痛かった」
HIROは、痣になった肘に、フゥフゥと息を吹きかけた。
「す、少し…痛かった…?」
「に、人間じゃねぇ…コ、コイツ…」
とりあえず、梨生奈と羅夢は立ち上がる。
しかし、2人の最大、最強のコンビネーションが、まったく通用しなかったのだから、次の手立てが思いつかない。
「ち、ちきしょう…!一年前のデカアリにも通用しなかったし…コイツにも…!自信失くすぜ…!梨生奈、どうする?」
羅夢は梨生奈を横目で見る。
梨生奈は眉間にシワを寄せ、下唇を噛み締めて打ち震えている。
67投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時38分27秒
「梨生奈…?」
羅夢はもう一度、梨生奈に声をかける。
「はあああああ〜〜〜!!!」
梨生奈は、羅夢の声に応えず、一人でHIROに特攻を仕掛ける。
まるで太鼓の乱れ打ちのように、二つのトンファーを、HIROの腹に叩き込んでいる。
「この!この!この!この!この!」
こんなに冷静さを欠いた梨生奈を、羅夢は見たことが無かった。
打開策なんてない、まったくの力任せで無駄な攻撃…。
そんなにまでして、梨生奈は千秋を救いたいのか?
「もう、無駄だから、ヤメ!」
HIROは、梨生奈に突き押しを放った。
「ぐぅ…!!」
梨生奈は後方にすっ飛ばされた。
68投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時39分28秒
「梨生奈!!」
羅夢は、梨生奈の身体を抱き止める。
しかし、凄まじい勢いに圧され、羅夢も一緒に数メートル吹っ飛ばされた。
HIROは、かつて『和歌桜』という四股名で大相撲の力士をしていたことがある。
いくら、元『TTK』の『戦士』とはいえ、体重の軽い少女であるので、力勝負では歯が立たない。
69投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時39分41秒
「く…!ま、負けないわ…!」
梨生奈は、再び立ち上がろうとするが、羅夢は肩を掴んで引き寄せる。
「梨生奈!!落ち着け!!」
「放して!羅夢!」
「オラ!」
羅夢は、梨生奈に張り手を喰らわせた。
「………!」
梨生奈は一瞬、頭が真っ白になった。
「ら…羅夢…」
そして、頬をおさえて羅夢を見る。
「落ち着けって…!普通の攻撃じゃ、ヤツには効かねぇよ…!」
「で…でも…。でも…。ち、千秋君達が…」
梨生奈は口をへの字に曲げ、目に涙をいっぱい溜めた。
「ああ…!もう!泣きべそかいてる場合か!!」
羅夢は自分の袖で、梨生奈の顔を乱暴に擦った。
「あらら…。君達、ケンカはやめような?」
梨生奈を泣かした当の本人のHIROは、呑気に声をかけた。
「やかましい!!黙ってろ!!」
羅夢はHIROに怒鳴りつけた。
70投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時40分28秒
「こ、こうしている間に…千秋君達が…殺されちゃったら…ど、どうしよう…」
梨生奈は大粒の涙を、古いコンクリートの床に落とした。
「梨生奈!泣くな!まだ、戦いは終わってねぇ!!」
これでは、どっちが姉なのかわからない…。
(梨生奈…恋をして…確実に弱くなってる…)
羅夢は、HIROに攻撃が通じないことよりも、梨生奈がメンタル面で弱体化していることの方が心配だった。
71投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時40分41秒
「アタイ…アイツに試したいことがあるんだ…」
「た、試したいこと?」
「ああ…。梨生奈、『北斗の拳』って漫画、読んだ事は?」
「………ない…」
「まったく…!漫画も読まねぇで勉強ばっかりしてるから、こういう場面で困ることになるんだぜ!」
「で、その『北斗の拳』がどうしたの?」
「アイツな…『ハート様』だ…」
「ハート様?」
「そういうキャラクターが出てくるんだよ。アイツみたいに脂肪でブヨブヨで、攻撃をみんな吸収しちまう…」
「そ、そうなの?」
「で、主人公のケンシロウが、どうやってハート様を倒したか…」
羅夢は立ち上がって、HIROの前まで歩み寄り、ヌンチャクを構える。
「いいか?アタイ達は2人でケンシロウだ…」
「羅夢…?」
「アタイは、ケンシロウの足…。おまえはケンシロウの指だ」
そして、羅夢は大きく息を吐いて、腰を低く落とした。
72投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時41分17秒
「今だけ特別に、アタイは『オラオラ』じゃなく、『アタタタ』って叫ぶからな?」
羅夢はヌンチャクを振り回す。
「アタタタタタタ…!!!」
羅夢のヌンチャクの攻撃は、HIROの腹を集中している。
だが、HIROの腹は、脂肪で波打つだけだった。
「ら、羅夢…!無駄よ!そんなんじゃ…」
「いいから、攻撃準備をしておけ!!アタイが合図をしたら、そのトンファーの先で突っつくだけでいい!」
羅夢はヌンチャクの速度を緩めない。
HIROの服は捲れ上がり、その脂肪に囲まれた腹を剥き出しにする。
そして、その腹は、水面の波紋のように丸く外に広がっていく。
「おおおおお…!?」
腹のぜい肉は、どんどん持ち上がっていく。
そして、腹筋らしきものが、顔を出した。
「あ…!わ、わかったわ…!!羅夢…!あなたのやろうとしていること…!」
「今だ!!梨生奈!!肝臓辺りを突け!!」
「はあああ〜〜〜!!」
梨生奈は、思いっきり助走をつけて、トンファーの先で、HIROの脇腹を突き押した。
73投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時41分29秒
「ウ…ガァァァ〜〜〜!!!」
HIROは、叫び声を上げると、今度こそ床に倒れ込んで気を失った。
「ち…!そこは、『ひでぶ!』だろ?『ひでぶ!』」
羅夢は、額の汗を拭った。
「ありがとう…羅夢…」
梨生奈は、頬の涙を拭った。
74投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時41分51秒
「何だよ?ありがとうって…!この任務を失敗したら、デカアリに何されるかわからねぇじゃん!アタイの為にやったんだよ!くだらねぇ、お礼なんか言ってんじゃねぇ!!」
羅夢は、HIROの巨体を踏みつけながら、先へと進んだ。
「う…うん…!そうだね…!先を急ごう!」
梨生奈は、HIROの身体を飛び越えた。
突き当たりにドアがある。
さっき2人が戦っていた地点とそのドアの間には、部屋も階段も抜け穴もなかった。
さっきの声の甲高い男は、このドアの向こうにいる…!
「はあ!!」
「オラァ!!」
2人は、同時にドアを蹴破った。
「ようこそ…」
そこには、先ほどの甲高い声の男と、もう一人、小柄な男が、大きな檻の上に腰掛けていた。
その檻は3つあり、ライオン、虎、豹がそれぞれ2匹ずつ入れられていた。
「う…」
一瞬、梨生奈と羅夢は、檻の中の猛獣に怯んだ。
「自分等、あのHIROを倒したんか?どうやって倒したん?」
団長は、追い詰められている自覚がないかのように、落ち着き払っている。
75投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時42分17秒
「さあね!何だったら、おまえ等相手に実践してやろうか?」
羅夢はヌンチャクを構えた。
「待って、羅夢!」
梨生奈は羅夢を制した。
「あなた達…難田門司って人の部下ね…?」
団長は、その名を聞いて、若干表情を変えた。
「何で…自分等みたいなガキンチョが、ボスの名前を知っとんねん!?」
「やっぱり…」
梨生奈と羅夢は、顔を見合わせて、大きく、力強く頷いた。
「答えぇや!何で、ボスの名前を…」
「追ってるんだよ!私達、『R&G探偵社』が、あんたのボスをね!」
梨生奈の代わりに、羅夢が答えた。
「『R&G』…。やたら若い、可愛いお姉ちゃんの探偵団がおるて、聞いたことあったけど…実際若すぎるやん…!」
団長は、信じられないと言った表情で二人を見た。
「2、3、質問していいかしら?」
「何や?」
「難田門司は、どこにいるの?」
「さぁのぉ…」
団長はすっ呆けた。
「質問が拷問になる前に、言っておいた方が身の為だぜ?」
羅夢が凄んだ。
76投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時42分39秒
「おお…コワ…。拷問なんか、かなわんな…。新宿、歌舞伎町の『SM倶楽部エトワール』って店の事務所にかくまわれとるわ」
「何…?」
「気ぃつけぇや!そこ、まっとうな店やないで!未成年の女の子を働かせとる。なんたって、暴力団、山本組の直営の店や!」
「山本組…」
2人は4月に、暴力団、加藤組関連の仕事をしたことがある。
その加藤組のライバル関係になるのが、山本組だ。
「それから…あなた達、外国から大量の麻薬を日本に運んできたわね?一体、どうやって運んできたの?」
「教えて欲しいか?」
「ええ」
「う〜ん…。どないしょ〜…」
「いいよ!身体で聞いてやる!!」
羅夢はズンズンと歩み寄る。
「い、いや〜ん…!この子、恐い〜!!」
クロは団長にしがみ付いた。
「わーた!わーった!!かなわんなぁ…。教えたるよ…。それはな…コイツ等のおかげや…」
団長は、すぐ下を指差した。
指差されたのは…ライオン、虎、豹といった、動物達である。
77投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時43分01秒
「コイツ等って…動物達…?」
「そう…!どうやって麻薬を運んできたか…。この動物達の中に隠して持ってきたんや!」
「な、何ですって…?」
梨生奈と羅夢は、改めて檻の中の猛獣達を見た。
元気がなさそうに寝そべっているが…。
「こいつらの腹の中にな、麻薬を詰めたゴム袋をぎょうさん飲み込ませて、運ぶんよ。サーカスの営業の振りして、東南アジアと日本を往復や。まず、怪しまれることはないな」
何と言うことだ…。人間の汚い犯罪の片棒を、何の罪も無い動物達が担がされている…!
モニークでなくても、腹立たしい。
「それでも、サーカスの営業せんことには怪しまれるやろ?でも、猛獣の調教なんかやったことあらへん…せやから…」
「動物達に、麻薬入りのエサを与えて、手っ取り早く言う事を聞かせた…ということ?」
「その通りや…。売り物にならん粗悪な麻薬でもコイツ等には充分や。でもその内、コイツ等麻薬中毒になって、段々芸のキレが悪ぅなってきたけど…」
「あ、あの時、象が暴れたのは…?」
「ああ…。完全にイカレてもうたんやろうな…。あの象が死んで、もう潮時やと思うたわ。何でか言うと、あの象の腹の中が一番麻薬を詰め込めたわけやから…。あの象がいなくなったら、この計画もお終いや」
「イカレた…?ふざけんな!!イカレてんのは、てめぇ等だろうが!コラァ!!」
羅夢が怒鳴った。
梨生奈だって、怒鳴り罵りたい心境だ。
「そうや…。ワシ等の世界…裏の世界はな…イカレてへんと、生きていけへんのや…!」
裏の世界…イカレた世界…。
その世界に、一年前まで、梨生奈も羅夢も身を置いていたのだ…。
78投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時43分50秒
「梨生奈、あれ、見ろよ!」
「え?」
羅夢が指差した先…団長の首に、スタンガンがぶら提げられている。
「あ…!あれは…瑠璃ちゃんの…!」
間違いない…。いつも瑠璃がぶら提げている、あのスタンガンだ。
「そ、それ…!ど、どうしたの!?」
「それ?」
「そのスタンガン!!」
梨生奈はヒステリックに叫んだ。
「ああ…これな…。最近の親はどうなっとんねん…。こないなもの、子供に持たすなよ…」
団長は、スタンガンを手にとってしみじみと眺めた。
79投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時44分08秒
「2人はどうしてるの!?」
「無事や。怪我一つしてへんよ。でも、ここにはおらんで」
「どこ?どこよ!?」
「ダムのてっぺんにある、監視塔におる。わし等は荷物をまとめる為に、ここにおったんやけど…」
「梨生奈…。ここはアタイに任せて、おまえは千秋君の所に急ぎな!」
羅夢は、団長達には聞こえないように梨生奈に囁く。
「い…いえ…。2人が無事なら、慌てる必要はない。ここは2人で戦うよ!」
「し、信じるのか?あんなやつ等の言うこと…!」
そう言えば…やつ等は素直に情報を喋りすぎる…。
そこが、妙にひっかかった。
80投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時44分38秒
「な、何で…そこまで、ベラベラと全て喋るの?」
怒りを押し殺しながら、梨生奈は聞いた。
苦労せずに、情報が手に入る場合…そこには必ず罠があるのだ。
「何で…?それはな…この秘密は絶対に表に出ぇへんからや…!」
「何ですって?」
「可哀そうやけど…お嬢ちゃん達…生きてここから出ることはないで!」
団長とクロは、檻の上に立ち上がった。
「ガキだと思って、舐めんじゃねぇぞ?アタイ等は潜り抜けた修羅場の数が違うんだよ!」
そう言い放つ羅夢に、団長は余裕の笑みで答える。
「修羅場?そうは言うても、こないな修羅場は体験したことないやろ?クロ、やれ!」
団長は、隣のクロに指示を出した。
「…え…?」
「え?や、あらへん!はよせぇ!!」
「で…でも…酷すぎません?こんな小さな女の子達に…」
「ほんなら、おまえ、ブタ箱に入りたいんか!?」
「いや!ブタ箱なんて!」
「だったら、はよ、せぇ!!」
「う〜ん…ごめんね、君達…。えい!」
クロは、「何か」を梨生奈と羅夢に投げつけた。
81投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時45分03秒
「!?」
「オラァ!!」
羅夢は、ヌンチャクでその「何か」を叩き払った。
パチンと、「何か」が爆ぜた。
そして、空中で真っ白な粉が飛び散り、2人の上に降りかかった。
「う、うわ…!」
「こ、これは…?」
梨生奈と羅夢は、頭からその粉を被ってしまった。
頭から足まで真っ白になる。
「こ、これ…も、もしかして…麻薬?」
「な、何…?」
クロが投げつけた物は、動物に飲み込ませる、麻薬の入ったゴム袋だった。
「へへへ…。そして…お次はコレや…!!」
団長は、檻の鍵を開けた。
さっきまで、眠っていたような猛獣達が、急に目を輝かせながら、身体を起こす。
そして、次々と檻から這い出して来た。
口からは、粘り気のあるヨダレを垂らし。鼻の頭にシワを寄せて低く唸っている。
「も…もしかして…」
「ア…アタイ等を…エサにするつもりかよ!?」
ライオン、虎、豹2匹ずつ、合計6匹の猛獣は、梨生奈と羅夢を取り囲んだ。
82投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時46分04秒
「く…!コイツ等…!アタイ等を食べる気満々だぜ!?」
「ら、羅夢…!わかってるとは思うけど…この動物達を、傷つけたらダメよ?」
「な…何…?おい、相手は犬猫じゃねぇぞ!?ライオン、虎、豹だぜ!?」
「そ、それでも…この動物達には罪はないわ!!」
「てめぇ、モニークみたいなこと言いやがって…!アタイは梨生奈みたいにガリガリじゃないんだぜ?プリプリして美味しそうなアタイの方がヤバイんだぜ!?」
「そんな減らず口が叩けるなら、余裕はあるのね…」
「ち…!余裕なんて、どこにあんだよ!?コラ!!」
「来る!!」
ライオンが、2人に飛び掛った。
2人は左右に分かれてその攻撃を避けた。
しかし、梨生奈には豹が、羅夢には虎が襲い掛かる。
「くぅ…!!」
「ちぃ…!!」
2人は、それぞれの猛獣の背中に足をかけて、飛び上がった。
83投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時46分16秒
羅夢の落下地点に、もう一匹の虎が待ち構えていた。
「このぉ!!」
羅夢は、空中で体勢を変えると、虎の背中に跨った。
虎は凄まじい声をあげながら、羅夢を振り落とそうとする。
『キラー・タイガー』…。
羅夢と仲が悪い探偵仲間、藤本七海のコードネーム…。
「くそ!!虎なんかに殺されてたまるか!!」
羅夢は、必死に暴れる虎にしがみ付いた。
84投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時46分48秒
「だ、団長〜…。僕、見てられません…!」
クロは今にも泣き出しそうな声で、団長にすがるように見詰める。
「だ、だったら、目ぇ瞑っとけ!!」
団長も、決して愉快そうな顔をしていない。
梨生奈は、トンファーを振り回しながら、豹やライオンを牽制する。
猛獣達は、梨生奈が疲れきった頃合いを見計らっているのか…グルグルと喉を鳴らしながら、少しずつ迫ってきている。
梨生奈は、虎の背中に乗って奮戦している羅夢に目を向ける。
「く…!羅夢…!」
「梨生奈…!こ、これでも、コイツ等を傷つけるなって言うのかよ!!」
羅夢は、左手で虎の首の皮を掴み、右手でヌンチャクを振り上げる。
「オラァ!!」
羅夢は虎の尻を、ヌンチャクで叩き伏せる。
虎は一声吠えると、その場で足を止める。
「よし…!そのまま、大人しくしてろよ…!」
その時、もう一匹の虎が羅夢に襲い掛かった。
「うわ!」
羅夢は、跨っていた虎から振り落とされた。
そして、羅夢はコンクリートの床に頭を打ちつけ、一瞬気が遠くなった。
85投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時47分53秒
「羅夢!」
梨生奈は、ライオンの頭を踏み台にすると、高く飛び上がって羅夢と虎の間に割り込んだ。
虎は、梨生奈に襲い掛かった。
「う…!!」
梨生奈は、咄嗟にトンファーを虎の口にあてがう。
虎は梨生奈を押し倒し、のしかかった。
「く…!うぅ…!!」
梨生奈は、必死でトンファーを虎の口に押し付ける。
口を自由にしたら、間違いなく喉元に喰らいつくだろう。
虎の体重は重い。
梨生奈は圧迫されそうだ。
そして、ゆっくりと、他の猛獣も梨生奈に近付いてくる。
86投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時48分07秒
「う…」
梨生奈は、一瞬、羅夢の方を向く。
羅夢は頭を振りながら、ゆっくりと起き上がる。
「羅夢!逃げて!そして、千秋君達の所に…!」
羅夢は、梨生奈の声に反応した。
そして、虎の下敷きになっている…猛獣達の餌食になろうとしているパートナーを見る。
猛獣達は、一斉に梨生奈に飛び掛った。
「う、うおおおお〜〜〜!!」
羅夢は叫んだ。
「梨生奈〜〜〜!!!」
そして、我を忘れて梨生奈の元へ駆け寄った。
87投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時48分52秒
一方、モニークは一足遅れてダムに駆けつけた。
梨生奈達と同じく、長い梯子を降りていき、空っぽのダム底に降り立つ。
ドアが開かれている。
「梨生奈…羅夢…。もう、忍び込んだんだね…」
モニークは中に入る。
細く長い廊下を突き進む。
「む…?」
狭い通路に、山のような大男が仰向けに倒れていた。
「この男…サーカスの一人…」
男は、気を失っているようだ。
「やったのか…。『チームR』…」
モニークは先を急ぐ。
突き当たりのドアが蹴破られている。
「こ、これは!?」
モニークは、部屋に駆け込んだ。
「羅夢!逃げて!そして、千秋君達の所に…!」
梨生奈が虎の下敷きにされている。
「う、うおおおお〜〜〜!!」
羅夢が叫びながら、梨生奈の元に駆けつける。
手にヌンチャクを持って…。
88投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時49分05秒
「梨生奈〜〜〜!!!」
パートナーの危機を前に、羅夢の殺気は凄まじい。
「ま、待って…!羅夢!!」
モニークの声は、羅夢に届かない。
89投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時50分00秒
「オラアアアア〜〜〜!!!」
羅夢はまず、梨生奈にのしかかっている虎の頭にヌンチャクを振り下ろす。
鈍い音が響く。
虎の脳天から、噴水の様に鮮血が飛び出てきた。
虎は叫び声を上げて、のた打ち回った。
「ら、羅夢…」
梨生奈は、虎の返り血を浴びて仁王立ちをしている羅夢を見上げる。
「オラオラオラアアアア〜〜〜!!!」
羅夢は、ヌンチャクを高速回転させながら、猛獣達に襲い掛かる。
動物は…絶対に勝てない戦いはしない。
もう既に猛獣達は、床に腹をつけ、降伏の意思を示している。
「ま、待って、羅夢!!動物達は、もう…」
モニークは叫ぶが、もう遅い。
「オラオラオラオラオラオラ〜〜〜〜〜!!!」
地獄絵図だった。
羅夢の放つヌンチャクの暴風に、動物達は打ちのめされる。
血が…脳漿が…牙が…目玉が飛び散る…。
羅夢は止まらない。
鬼神が羅夢に乗り移っているかの様だ…。
90投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時50分13秒
「羅夢!ストップ!ストップ!!」
梨生奈は、暴れ続ける羅夢を、後ろから羽交い絞めにした。
「うおおお!!うおおおお〜〜〜!!!」
羅夢は叫び続ける。
身体を押さえつけられても、声だけで人を殺しそうな…そんな咆哮だった。
91投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時50分42秒
「もう、やめて!羅夢!!もう、みんな死んでる!!」
梨生奈の叫び声に、羅夢は我に帰った。
「り…梨生奈…」
白い粉と赤い血で、ドロドロのピンク色に染まった羅夢は、呆然と梨生奈を見詰めた。
「羅夢…?大丈夫…?」
「梨生奈…。平気か…?手は?足は?」
「大丈夫!私は大丈夫!!羅夢は…?」
「ア、アタイ…?アタイは…こ、これ…アタイが…?」
床に転がっている、猛獣の死体。
そして床に、壁に、天井に飛び散った血…。
天井に、目玉がくっ付いている…。
自分が殺した…。自分が…。
「ひ、ひぃぃぃぃ…」
団長とクロは、檻の上で抱き合いながらガタガタ震えている…。
92投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時51分01秒
「梨生奈…。羅夢…」
不意に2人は声を掛けられる。
モニークが後ろに立っていた。
「モ、モニーク…」
モニークは、まだ息のあるライオンの側にしゃがみ込んだ。
「私の到着を…待たなかったんだね…」
「…え?」
「私の到着を待っていれば…こんなことには…」
「な、何だよ!?アタイがコイツ等を殺したこと…責めてるのかよ!?」
羅夢は、感情的になって怒鳴り散らした。
93投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時51分30秒
「羅夢…」
梨生奈は羅夢の肩を抱くが、羅夢は強引にそれを振り解いて、モニークに詰め寄った。
「だって…アタイが殺さなけりゃ、梨生奈が殺されてたんだ!!しょうがねぇだろうがよぉ!!」
「いや…。この子達は、もう戦う意思なんてなかったんだよ…。降伏のポーズをとっていた…」
「アタイは、てめぇの様な動物オタクじゃねぇんだよ!!そんなの、知らねぇよ!!」
羅夢の叫び声は、悲痛なものになっていた。
梨生奈が、一歩、モニークの前に出る。
「モニーク…。動物を殺してしまったことは…残念だけど…でも…しょうがなかったのよ…」
「しょうがない?」
「だ…だから…。羅夢を責めないで…」
「責める…?責めないよ…」
モニークは、懐から鋼鉄の爪の付いたグローブを取り出し、それを右手にはめる。
94投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時52分00秒
「モニーク?」
「羅夢は悪くないよ…」
そして、人差し指の爪で、ライオンの喉元を突き刺した。
ライオンは絶命する。
「………」
梨生奈は言葉を失った。
「悪いのは………やつ等だ!!」
モニークは、その場から跳躍すると、檻の上の団長とクロに襲い掛かった。
「うわ!うわ!うわわ〜〜〜!!」
「きゃあああ〜〜〜!!!」
2人は、絶叫した。
95投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時52分36秒
「モニーク!!」
梨生奈はモニークに飛びついた。
2人は床を転げまわる。
「モニーク!!殺しちゃダメ!!」
「梨生奈!放して!!」
「ダメよ!モニーク!表の世界の住人になるんでしょ!?獣医になるんでしょ!?」
「そんなの、どうでもいい!!やつ等を…!やつ等を殺させて!!」
「ダメよ!あんなやつ等の為に…裏の世界に戻らないで!!」
2人がもみ合いになっているのを、腰を抜かしながら眺める団長とクロ。
「な…何や知らんが…チャンスや!!クロ、今のうちに逃げるで!!」
「は、はい!団長!」
2人は、出口に向かって駆け出した。
96投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時54分44秒
「オラアアア!!!」
すると、2人の後頭部に蹴りが炸裂した。
羅夢だった。
「ぐええ…!!」
団長とクロは、敢え無くその場に気を失って倒れた。
羅夢は、団長の首から瑠璃のスタンガンを抜き取った。
「ほら…2人とも…千秋君と瑠璃ちゃんを助けに行こう…」
「羅夢…」
取っ組み合いを演じていた、梨生奈とモニークは、呆然と羅夢を眺めた。
羅夢は、足早に部屋を出た。
もう、一秒でもこの場に居たくない…羅夢の背中はそう語っていた。
97投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時55分10秒
梨生奈、羅夢、モニークの3人は、地下の作業用エレベーターを昇り、千秋と瑠璃が監禁されている監視塔に向かう。
不可抗力とは言え、動物を皆殺しにしてしまった羅夢…。
動物を救えなかったモニーク…。
エレベーター内の雰囲気は、暗く沈んでいた。
特にモニークは、何か考え事をしている様子で、梨生奈が話しかけても、気の入っていない返事をするだけだった。
安田団長の言う通り、2人は監視塔の中の一室に、手足を縛られて閉じ込められていた。
「り、梨生奈ちゃん、羅夢ちゃん…それに…モニーク先生!!」
「千秋君!瑠璃ちゃん!無事だった?」
梨生奈は、2人の元に駆け寄ると、2人を縛るロープをナイフで切った。
「梨生奈ちゃん…怪我してる…」
虎にのしかかられた時に、鋭い爪がトラックスーツに穴を開け、血が少し滲んでいた。
「だ、大丈夫よ…。これくらい…」
「ご、ごめんね…。俺…男なのに…梨生奈ちゃんに…こんな怪我を…」
千秋は、ガックリと首をうな垂れた。
目には涙を浮かべている。
「ち、千秋君…!気にしないで…!」
梨生奈は、必死で千秋を慰める。
98投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時55分53秒
「モニクロ先生…!」
瑠璃は、モニークに駆け寄った。
しかし、何とモニークは、瑠璃の頬を張り倒した。
「お、おい!モニーク!!」
羅夢は思わず、床に倒れた瑠璃を抱き起こした。
「おまえ…何すんだよ!!動物のことでイラついてるんなら、アタイを殴れよ!!」
しかし、モニークは、静かにこう言った。
「そんなんじゃないよ…」
「何?」
「これは、必要なことなんだ…」
「必要…?何だよ、それは…」
羅夢の質問には答えず、モニークは、瑠璃に手を差し延べる。
「さ…立ちな…。瑠璃…」
「モニーク…先生…」
瑠璃は、別段泣きもせず、戸惑いもせず、モニークの手を取って立ち上がった。
「これ…大切な物だろ…?取り返してあげたからね…」
モニークは、スタンガンを瑠璃の首に掛けた。
99投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時56分20秒
羅夢は、千秋と瑠璃と共に外で待っていた。
羅夢はもう、自分が殺してしまった…あの動物達の死体のある部屋には入りたくなかったからだ。
安田大サーカスの3人は、猛獣達の檻の中に閉じ込められた。
そして、梨生奈は警察に通報した。
もちろん、匿名でだが…。
梨生奈とモニークは、空のダム底に出る。
そして梨生奈は、すぐにダーブロウ有紗に電話をする。
「もしもし…。こちら『ムーン・ライト』…」
〔おう!デコッパチ!どうした?〕
「難田門司の部下…安田裕己、黒川明人、広瀬康幸の3人を…捕まえました」
〔ほ、本当か!?でかした!!〕
「3人の身柄は、長野県警に任せますが…それでいいですか?」
〔ああ、構わねぇよ!そんな雑魚…。コッチのターゲットは、難田門司、一人だからな!で、居場所は?〕
「新宿、歌舞伎町にある『エトワール』ってお店の事務所にかくまわれているそうです。どうやら、山本組が関係しているみたいですが…」
〔山本組…?何だか、最近ヤクザに縁があるな…。わかった!出っ歯ちゃん(七世)とちょっくら行ってくる!〕
100投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時56分47秒
「そ、それから…あの…」
〔何だ?〕
「モニークのことですが…」
〔ん?〕
「すみません…。やはり、力を借りました…」
〔ち…!折角褒めてやったのによ…。約束だ!スカウトしな!〕
「そ、それが…そんなこと言い出せる雰囲気じゃないんですよ…」
〔何だ?そりゃ?…おい、今、もしかしてモニーク、側にいるのか?〕
「は…はい…。いますが…」
〔モニークに代わってくれ…〕
「は、話すんですか…?」
〔ああ…。元『TTK』四天王のビッグ対談だ…。早く代わりな!私は忙しいんだ!〕
「はい…。ただ今…」
梨生奈は、モニークの方を振り返る。
「モニーク…。ダーさんが、あなたと話しをしたいって…」
「ダーブロウが?私と…?別に、話すことなんてないよ…」
「お願い、モニーク…。私を助けると思って…」
モニークは、溜息をつくと、梨生奈から携帯を受け取った。
101投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時57分26秒
「もしもし…。ダーブロウ?」
〔おう!モニーク!久しぶりだな!元気そうじゃねぇか!〕
「ああ…。あんたも、相変わらず元気そうで…て、言うか、あんたの元気の無い日は無かったね…」
〔デコッパチとダッチャが世話になったそうだな?〕
「デコッパチ?ダッチャ?」
〔梨生奈と羅夢のことだよ〕
「ああ…。別に…私は…」
〔まったくよぉ!頼んでねぇのに、勝手に首突っ込みやがって!『チームR』の成長の機会を奪った落とし前、どうとってくれるんだ?オイ、コラ!!〕
「………相変わらずだねぇ…ダーブロウ…。普通、お礼を言うもんだろ?」
102投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時57分39秒
〔責任、とってもらうぜ?〕
「責任?」
〔我が、探偵社で働きな!おまえなら、まず手始めに月80万で雇ってやる!〕
「80万?」
〔私やジャスや出っ歯ちゃんと同額だぜ?破格の待遇だ!文句はねぇよな?〕
「あるよ…。私には夢があるんだ…。それを諦めろって言うの?」
〔知ってるよ。獣医だろ?じゃあ、『R&G』の自社ビルの一室をおまえの犬猫病院にくれてやる!で、おまえは探偵と獣医の二足のワラジ…それでどうだ!?〕
「悪いけど…私は探偵なんかにならないよ…。それに、私の専門は牛や羊といった家畜なんだ。都会じゃ働けないよ」
〔悪いけど、私は絶対に諦めねぇ!!おい、原村にずっと居るんだろ?〕
「説得に来るのかい?無駄だって…!諦めな!」
〔やだね!絶対に諦めねぇ!諦めてやらねぇ!!〕
「私は、原村が好きなんだよ!もう、梨生奈に代わるよ!?」
モニークは、梨生奈に携帯を突っ返した。
103投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時58分01秒
「『マッド・エッジ』…。モニーク、ダメみたいですね…」
〔ダメ?まだ決まってねぇだろ?〕
「ほ、本当にモニークを『R&G』に引き込むつもりなんですか?」
〔ああ…。だって、おまえ、勿体無いと思わない?このままモニークを逃がすの…〕
「た、確かに…」
〔それに、モニークが加入すれば、おまえ等も少しは楽できるってもんだぜ?〕
「そ、そうですが…」
〔そうだ、そんなことより、おまえはギョーザとの恋に全力投球しな!〕
「え…?ま、まだそんなことを…」
梨生奈は、千秋が安田大サーカスに捕まっていたことを、黙っていた。
今は事件を終え、全員無事に帰ることができる…。それで充分だった。
〔じゃあ、私達は今から、歌舞伎町に飛ぶ〕
「お気をつけて…。『マッド・エッジ』…」
〔誰に向かって言ってんだ?おまえは、夏休み中、レッドさんの看病、よろしく頼むな。あと、ダッチャやギョーザにもよろしくって伝えとけ〕
「はい…」
〔なぁに…。今日中には難田門司を捕まえてやらあ!〕
ダーブロウ有紗は、電話を切った。
そして…僅かこの3時間後、ダーブロウ有紗は宣言した通り、麻薬組織のボス、難田門司を捕獲した。
104投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時58分52秒
梨生奈と羅夢…そして千秋と瑠璃は、何事もなかったかのように、ハセヤンズハウスに帰って来た。
もちろん、梨生奈と羅夢は、モニークのアパートに寄り、シャワーと着替えを借りた。
2人とも、激闘にも関わらず、大きな怪我がなかったのが幸いした。
「梨生奈、羅夢…。しばらく原村にいるんだってね」
帰りがけに、モニークに声を掛けられた。
「うん。レッドさんの看病を任されちゃった」
「まったくよ…!夏休みの宿題、みんな向こうに置いてきちまったぜ!こりゃ、宿題をやることができねぇな…」
「あら?だったら宿題を送ってもらえばいいじゃない。私が電話してあげようか?」
「余計なこと、すんな!」
2人の言い争いを、モニークはにこやかに見詰めている。
「ほんと…仲がいいね、2人とも…」
105投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時59分20秒
そして、2人にこう質問した。
「ねぇ…。2人は、もし、離れ離れになったら…どうする?」
何の脈絡もないような質問に、一瞬戸惑う梨生奈と羅夢。
「離れ離れ…?さあ…考えたこともないわ…」
「アタイは、なんか新鮮でいいな!いっつも梨生奈と一緒だったわけだし…。たまには一人になるのもいいかも…」
「何言ってんのよ!私がいないと、何もできないくせに…!」
「んだと!?コラ!!」
またもや、言い争いをする2人。
「わかった、わかった…。2人は、やっぱり一緒にいるべきだよ…」
モニークはそう言って、2人の仲を取り持った。
106投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)03時59分51秒
しかし、気になることが一つあった。
瑠璃である。
さっきから、口数が少ないし、いつもの元気がない。
悪いやつ等に誘拐されたからかもしれないが、千秋が言うには、モニークに張り倒されてからだと言う。
あのモニークの行動には、梨生奈も羅夢も、そして千秋も驚いた。
瑠璃のことを心配するあまりの行動だったのか?
それにしても、モニークの様子は、取り乱した感じではなかった。
瑠璃は、何かじっと考え事をしているようだ。
とりあえず、3人はあまりその事には触れないようにしておいた。
梨生奈と羅夢と千秋と瑠璃は、ハセヤンの運転する車で、吉田の入院する病院へ向かう。
梨生奈と羅夢には、無事に事件を解決できたことの報告も兼ねてのお見舞いである。
ハセヤンは気を利かせて、病室内を梨生奈と羅夢、レッドの3人にしてくれた。
吉田は、まだ安静にしておかなければならない状態で、あまり長く話したりできなかったが、二人は簡単に経過報告をする。
普段は元気すぎるくらい元気なのだが、こうやって静かにせざるをえない吉田の姿を見るのは辛かった。
自分達がもっとしっかりしていれば…後悔の念が押し寄せる。
107投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)04時00分11秒
でも、吉田は梨生奈と羅夢が任務を成功したことよりも、命を落とすことも、怪我をすることもなく無事に仕事を終えたことを褒めてくれた。
「2人とも無事でよかったな…。俺のことはええねん…。でも、おまえ等はこれから…これから楽しいこといっぱい経験せなあかんのやから…」
「レッドさん…」
「おまえ等…最初、『R&G』に来た頃と比べたら…笑顔が増えたし…普通の女の子らしくなってきたで…。それ見るとな…何やしらんけど…嬉しいねん…」
「………」
梨生奈は何も言えなかった。
何かを口にしたら…それは間違いなく嗚咽に変ってしまうだろうから…。
その代わり、羅夢が吉田の耳元でこう囁いた。
「早く元気になって、また、いっぱい働けよ!お父さん!!」
吉田は、満足そうに微笑むと、再びそのまま眠ってしまった。
108投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)04時00分31秒
そして、諏訪市内のレストランで夕食を済ませると、梨生奈達は、再びハセヤンズハウスに戻ってきた。
これから夏休みの間、過ごす事になるであろう、家…。
千秋と一緒に…。
梨生奈は何か嬉しいような、恥ずかしいような、くすぐったいような気持ちになって、涼しい風に当たりたくなって裏庭に出た。
大きな切り株に腰を下ろし、星空を見上げる。
やはり、自然の真ん中にある原村だ。
手を伸ばせば届きそうなくらい、クッキリと大きく星が瞬いている。
ここは、本当に虹守町と同じ、日本であろうか?
もし、夏休みが終わり、虹守町に帰って来た時に星空を見上げたら、違和感を感じざるを得ないのだろう。
そして、千秋に会えない毎日にも…。
梨生奈は首を横に振る。
よそう…。今は、ずっと千秋とこの素晴らしい自然の中で過ごせる幸せを満喫しよう。
仕事も終わったんだ…。しかし…。
大怪我を負って入院した、吉田…。
結局、猿以外は死んでしまった、サーカスの動物達…。
その動物を殺してしまった、羅夢の複雑な気持ち…。
動物を救えなかった、モニークの無念…。
モニークに殴られた、瑠璃…。
そして、自分の力の至らなさを悔いる、千秋…。
自分だけが、こんなに浮かれてはいけないような気がしてきた。
109投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)04時00分59秒
「梨生奈ちゃん…」
不意に声を掛けられた。
千秋だった。
「あ…、ち、千秋君…」
「星…見てたの?」
「うん…。キレイだよね、凄く…」
「だよね…。でも、僕、もう慣れちゃった」
「あの…一緒に見る?」
そう言うと梨生奈は、少し腰をずらし、切り株を半分空けた。
しかし、そこに2人で座るには、少し無理があるような気がする。
「うん。座っていい?」
千秋は、それでも梨生奈の隣に腰掛けた。
2人の肩と肘と腰が密着する恰好になる。
梨生奈の心臓は、高鳴った。
それは千秋も同じ事だったが…。
沈黙が続く…。
(何か…話さないと…。でも、何を話そう…)
梨生奈が、嬉しくも、恥ずかしく、そして苦しい悩みに悶えている。
もしかしたら…こんな胸の苦しみを味わえるのは…もの凄く幸せな事ではないのだろうか?
「梨生奈ちゃん…。あのさ…」
千秋が沈黙を破った。
110投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)04時01分22秒
「な…何…?」
「僕…梨生奈ちゃんから携帯借りたでしょ?」
「うん…」
「で…その…ダーさんって人から、電話が掛かってきたんだけどさ…」
「うん…。聞いた…」
「何か…凄い人だよね…。ダーさんって…」
「そ、そうだよね。凄いっていうか、無茶苦茶な人でさ…」
「うん、それでね、僕、ダーさんに言われたんだ」
「え…?な、何て…?」
梨生奈は心臓が止まりかけた。
ダーブロウ有紗のことだ。穏やかなことは言ってないだろう。
「梨生奈ちゃんを…弱くするなって…」
「え…?」
「梨生奈ちゃん、恋をすると、強くなるか、弱くなるか…ダーさんに相談したんだって?」
梨生奈は、赤くなった。
(ダーさん…。そんなことまで…)
「で…僕、ずっと考えてたんだ…」
「か、考えてたって…?」
「人を強くする恋って…どんなものなんだろう…って…」
111投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)04時02分01秒
千秋は、星を見詰めている。
力強い目で…。
「人を強くする…恋…?」
梨生奈は、聞き返した。
「僕ね…最初、こう思ってたんだ。僕が強くなれば、梨生奈ちゃんも強くなるんじゃないかって…」
「千秋君…」
「自分が強くなるのは、簡単だと思う…。いや、簡単じゃないか…。言い直すよ。単純…シンプルなことだと思う…」
「シンプル?」
「うん…。だって、自分さえしっかりしていればいいんだから…。でも、相手のこととなると…本当に難しいよ…」
千秋は、首を垂れる。
「僕…瑠璃がやつ等に…サーカスの3人に捕まった時、勇気を振り絞って助けに行ったんだよね…。弱いクセに…」
千秋は自嘲気味に笑った。
梨生奈は、そんな千秋の横顔をじっと見詰める。
「梨生奈ちゃんが強くなれるように…。いや、実際、僕なんかよりずっと強いんだろうけどさ…けど、それは僕がまず、強くならないとって…そう思ったんだ…」
千秋は、はぁ…と溜息をつく。
「でも…結局捕まっちゃって…。梨生奈ちゃん…こんな僕で、強くなれた…?」
「え…?」
強くはなれなかった…。千秋のことが心配で、心配で…戦闘中に涙を流したなんて、今までなかったことだ。
112投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)04時02分23秒
「難しいよね…。ほんと、難しい…」
梨生奈も、同じくうな垂れて言った。
「ダーさんの宿題は…いつも難しいのよ…」
そして、今日、何度目かの溜息…。
「でも…」
と、梨生奈は続ける。
「千秋君は、強くなってると思うよ…。問題は…私だね…」
「え…?」
「これは、千秋君が悩む問題じゃなくて…私がもっとしっかりしなけりゃいけない事なんだと思う…」
「い、いや…。僕が…僕も悩むよ!一緒に…!だって…」
「だって…?」
「これは…2人の問題だから…。僕も…考えさせてよ…」
「うん…そうね…」
梨生奈は微笑んだ。幸せそうに…。
そして、また沈黙が続く。
しかし、今度の沈黙は心地良い。
次は、どんな話しをしようか…心がフワフワと浮いている。
113投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)04時02分48秒
「ねぇ…」
今度も、沈黙を破ったのは千秋の方だ。
本当に、強くならなくちゃ…と梨生奈が思っていると、千秋の質問が飛ぶ。
「あの…。梨生奈ちゃん…僕のこと好きになったの…いつから…?」
「え…!?」
ボっと、火が着いたように熱くなった。
よりによって、何て質問をするのだろう…。最高に恥ずかしいではないか…。
「そ…それは…」
いつからだろう…?初対面の時、既に「可愛い顔だな」とは思ったが…。
瞬時に考えを巡らせる。
千秋と出会ったところから、記憶の糸を手繰る。
「あ…!あの時だ…!」
「え…?どの時?」
「瑠璃ちゃんのカエルを捕まえようとして、思いっきりコケた時…」
「ええ…?そこ?な、何で…?」
千秋は、目を丸くして素っ頓狂な声を上げる。
何て頼りのない、惚れられ方だろう…。
そんな千秋が可笑しくて、笑いを堪えながら、梨生奈は理由を答える。
「だって…あんなになりながらも、千秋君、ニコニコ笑ってて…凄く穏やかに、優しそうに…ああ…この人は、良い人なんだなって…」
「そ…そこが…良かったの…?」
「うん…。それが良かったの…」
114投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)04時03分16秒
そして、今度は梨生奈が千秋の顔を覗き込んで聞く。
「じゃ、じゃあ…。千秋君は…いつから私のことが…?」
この質問をする梨生奈が、逆に照れてしまったが…。
「ぼ、僕…?そ、そうだな…」
千秋は、じっと星空を見上げながら考える。
「あの時だな…。ほら…逆餃子…!」
「逆餃子?」
「僕が作った、逆餃子を…あんなにたくさん食べてくれたこと…」
「そ、そこなの…?」
何て色気のない、惚れられ方だろう…。
少し、梨生奈は力が抜けた。
「だ、だって…あんな、不味い逆餃子を、いっぱい食べてくれて…ああ…この子は優しい子なんだなって…」
「あ、あの時は…みんな手をつけなかったし…。て、言うか、アレ、不味いってわかってたの?」
「う…うん…。正直言って、イマイチだったなって…」
「呆れた!イマイチな物、人に食べさせないでよね!」
「ご、ごめんね…。お詫びのつもりで作ったんだけど…。上手くできなくて…」
「お詫び…?」
「ほ…ほら…。露天風呂の…」
「あ…!」
思い出した…。露天風呂で、千秋に自分の裸を…全てを見られてしまったことを…。
115投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)04時03分43秒
「もう…!思い出しちゃったじゃないの…!千秋君のバカ!!」
梨生奈は、思わず後ろを向いた。
「ゴ、ゴメン!本当に、ゴメン!!」
「ち、千秋君、もう、忘れてよ!」
「うん、忘れた!もう、忘れた!!」
しかし、この千秋の言葉はウソだった。
千秋が梨生奈を好きになった瞬間…あの露天風呂で、裸を見てしまったことだからだ…。
だが、それは正直に言わないことが、優しさなのだろう…。
「でも…本当に、何かお詫びがしたかったんだ…」
「え…?」
「嫌われたくなかったから…」
「そ、そんな…。嫌うなんて…。そ、そんなこと…ないよ…」
「梨生奈ちゃん…」
沈黙が続く。
今度は、自分から何か言わなければ…。
自分が強くならなければ…。
「ね、ねぇ…。千秋君…」
116投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)04時04分38秒
その時だった。梨生奈の携帯が鳴った。
送信主を見てみると…『マッド・エッジ』…。
「誰から?」
「ダーさんから…」
「え…!?」
一瞬、2人の間に緊張が走る。
「で、出た方がよくない?」
千秋は、半笑いで梨生奈に言った。
折角、自分から勇気を振り絞って話しをしようと頑張ったのに…。
そして…梨生奈は無意識に…携帯の電源を切ってしまった。
117投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)04時04分56秒
「あ…!り、梨生奈ちゃん…!」
「え…?」
千秋の叫び声で、梨生奈は自分が何をしでかしたのか、ようやく気がついた。
「い、いいの…?ダーさんからの電話…切っちゃって…」
いいわけがない…。これは、後でデコピンを何発喰らうことになるのだろう…?
しかし、もう遅い。
今は、千秋とのお喋りを思う存分楽しもう…。
「ねぇ…。千秋君…」
「何?梨生奈ちゃん?」
「私…これで、少しは強くなったんじゃない?」
梨生奈は、得意気にそう言って…笑った。
第一話『奇妙なサーカス事件』………終わり
118投稿者:
リリー
投稿日:2008年05月11日(日)04時07分12秒
これで、一気に第一話の終了です
52さん、ありがとうございます
過去ログのアドレス、ここにも貼らせて頂きます
http://221.254.11.166/log/tentele/070923205005a.html
第二話は、いつ更新できるかわかりませんが、早いうちに更新したいと思います
119投稿者:
春
投稿日:2008年05月12日(月)21時03分35秒
早く書いて欲しいです!
でも無理しないでください!
待ってます!
120投稿者:
あげ
投稿日:2008年05月18日(日)21時17分50秒
121投稿者:
あ
投稿日:2008年05月19日(月)10時07分17秒
げ
122投稿者:
さげ
投稿日:2008年05月19日(月)10時36分05秒
123投稿者:
あげ
投稿日:2008年05月24日(土)16時01分29秒
124投稿者:
あ
投稿日:2008年05月24日(土)16時16分30秒
125投稿者:
げ
投稿日:2008年05月24日(土)16時23分42秒
126投稿者:
続き期待!
投稿日:2008年05月25日(日)21時14分22秒
127投稿者:
あ
投稿日:2008年06月01日(日)09時06分51秒
128投稿者:
あげ
投稿日:2008年06月08日(日)21時05分21秒
129投稿者:
あ
投稿日:2008年06月10日(火)23時46分41秒
130投稿者:
s
投稿日:2008年06月15日(日)11時31分46秒
131投稿者:
あげ
投稿日:2008年06月15日(日)11時35分53秒
132投稿者:
あ
投稿日:2008年06月15日(日)19時51分22秒
133投稿者:
age
投稿日:2008年06月29日(日)21時11分58秒
134投稿者:
リリー
投稿日:2008年08月21日(木)22時45分56秒
第2話です
今まで放置してて、すみませんでした
135投稿者:
リリー
投稿日:2008年08月21日(木)22時46分55秒
第二話『不気味な神隠し事件』
『8月5日 瑠璃失踪』
皆勤賞が途絶えた。
毎朝、出席しているラジオ体操のことである。
決まって皆を叩き起こしていた、瑠璃自身が寝坊をしたからだ。
しかし、昨日の出来事を考えれば、無理も無い。
あの事件に巻き込まれ、瑠璃や千秋はもちろん、人並み以上の体力を持つ梨生奈や羅夢でさえ、疲労が蓄積していたのだ。
さぞかし、瑠璃は無念だったろう…と、梨生奈は声をかけたが、以外にも彼女はケロリとしていた。
昨日、あれ程慕っていたモニークに張り倒されたことも気にしていない様子だった。
しかも、「今日も、モニクロ先生のお家に遊びに行こうか?」等と言っている。
こちらが気にしすぎなのか?それとも、モニークが瑠璃を殴るなんてことは、日常茶飯事なのか?
しかし、千秋もあんなモニークの姿を見たのは初めてだ、と言っていた。
一体、あの行動の意味は何だったのか…?
梨生奈は、その疑問が、いつまでも頭から離れないでいる。
136投稿者:
リリー
投稿日:2008年08月21日(木)22時47分15秒
そして今、梨生奈達4人は電車の中にいる。
吉田のお見舞いに行く為だ。
原駅から下諏訪駅まで揺られること30分の道のり…のどかな風景を眺めるのも梨生奈や羅夢にとって楽しかった。
さすがに諏訪方面近くになると、住宅街やビル郡が目立ち始める。
「そう言えば、こんなにゆっくりと景色を見ながら来たこと、なかったわね…」
梨生奈が呟いた。
「いつも、ワタワタしてたもんな」
羅夢が答える。
事件は無事に終わった。
今回の事件が終わったら、もう夏休み中に仕事は入れない、とダーブロウ有紗は言った。
その言葉に、2人は半信半疑だったのだが、吉田の看病の為に、ここ、原村滞在を許してくれたのだ。
梨生奈にとって、こんなに嬉しい夏のボーナスはなかった。
ただ、野球部の合宿に参加できないこと…その事により、藤本七海に散々怒られるのではないか…という不安は付きまとったが…。
しかし、それを夏のボーナスだ、と思っているのは、梨生奈一人だけかもしれない。
そう…梨生奈のパートナー、羅夢にとっては、この原村滞在延長は、罰ゲームに等しいものがあるのだ。
137投稿者:
リリー
投稿日:2008年08月21日(木)22時47分34秒
吉田は、昨日よりは元気そうだった。
あまり大声を出したり、爆笑したりする時に、肋骨が痛むらしい。
だが、病院内で大声も爆笑も許されないだろうから、問題はないだろう。
「先生が言うにはな、全治3ヶ月らしいんやけど、一ヶ月したら虹守町の病院に移ってもええらしいわ」
「だったら、私達と一緒に帰ることができるわね」
「ああ…。そうやな。でも、こうやって梨生奈と羅夢が毎日お見舞いに来てくれるんやったら、はよ、治ってまうわ。ほんま、孝行娘を持って、お父ちゃんは幸せやなぁ〜…」
吉田の言葉に、千秋は気まずそうに梨生奈の顔を見る。
「あ…あの…その…」
梨生奈が言いよどんでいる。
千秋はもう、梨生奈と羅夢、そして吉田が本当の家族ではないことを知っている。
「瑠璃、ジュースでも飲む?俺、おごってやるよ」
「ほんと?千秋君、太っ腹!!」
千秋は瑠璃を、一旦病室から遠ざけてくれた。
この隙に、吉田に報告しなければ…。
138投稿者:
リリー
投稿日:2008年08月21日(木)22時47分53秒
「あの…ね…レッドさん…」
「何や?」
「千秋君…もう、私達が家族じゃないっていうこと…知ってるから…」
「へ…?そ、そうなん?な、何で?」
「だって…千秋君、レッドさんが怪我して入院したのを、自分のせいだって責めるから…。私達、探偵としてあのサーカスを捜査してたってことを、打ち明けるしかなかったの…」
「そ…そうか…。それなら、しゃあないけども…。で、他に誰がこのことを知っとるの?」
「瑠璃ちゃんやハセヤンは知らない。千秋君とモニークだけだよ」
と、羅夢が答えた。
「こら、羅夢!ちゃんとモニーク先生、と言いなさい!失礼やろ?」
「いいんだよ、あいつに『先生』なんて、付けなくても…あ…!」
思わず口に手を当てる羅夢。
梨生奈は、やれやれ、という風に首を横に振った。
「な、何や?どないした?」
吉田だけが、不思議そうに2人を交互に見る。
「あのね…レッドさん…。今まで黙ってたけど…」
梨生奈は、モニークが自分達と同じ、元『TTK』の『戦士』だったと打ち明けた。
139投稿者:
リリー
投稿日:2008年08月21日(木)22時48分29秒
「な、何やって…?ほ、ほんまか!?」
「ええ…」
「な、何や…だったら、あの時も、モニーク先生に着いて来てもろうたら良かった…。こんな怪我しなくて済んだやん…」
「そ、それはそうなんだけど…。モニークも今、表の世界に慣れようと必死だったから…」
「レッドさんだったら、例えモニークが着いてても、アタイ等が着いてても、結局は怪我してたかもよ?」
羅夢が憎まれ口を叩く。
「な、何やと?この…!」
と、身体を起こしかけた吉田は、キリキリとした肋骨の痛みに苛まれる。
「もう!無理しないで、レッドさん!羅夢も、レッドさんを挑発しないの!」
「は〜い…」
気の無い返事をする、羅夢。
140投稿者:
リリー
投稿日:2008年08月21日(木)22時48分47秒
「し、しかし…それなら、今回の事件…モニーク先生に手伝うてもろうたんか?」
「う…うん…。結局はね…。で、ダーさんがモニークを『R&G』に入れようと躍起になってる…」
「おまえ等…社長のワシを差し置いて…。で、モニーク先生は、『R&G』に入るの?」
「いえ…たぶん、難しいと思う。モニークは、原村で獣医をしたいって望んでいるから…」
「そうか…。で、ワシは今度モニーク先生に会うたら、どうすればええ?すっ呆けとく?」
「そうね…。もう事件も解決したことだし…ここは何も知らない振りを…」
しかし、羅夢が首を振って言う
「いや…あいつは『勘』がいいからね…。たぶん、バレるよ。正直に言っちまった方がいいんじゃねぇの?」
『勘』…。そう言えば、モニークは、安田大サーカスの3人の隠れ家をズバリ言い当てた。
事件のドタバタで、それがうやむやになったが…本当に『勘』なのか?
『勘』とは、例えばコインの表裏とか、ババ抜きで二枚残ったトランプのどちらがジョーカーか、という時に使うものだ。
もちろん、『TTK』で訓練された梨生奈達なら、驚異の動体視力でコインの動きを見ることができるし、カードの僅かな痛み具合でジョーカーの札を覚えることができるから、『勘』の出番はないのだが…。
いくら小さな村だからといって、ピンポイントであの3人が隠れている場所を言い当てることができるのだろうか?
141投稿者:
リリー
投稿日:2008年08月21日(木)22時49分08秒
梨生奈がそんな考え事をしていると…羅夢がおもむろに話題を変えた。
「で…その…アタイね…。もう、明日には虹守町へ帰りたいんだけど…」
「え?」と、梨生奈と吉田は声を合わせて、羅夢を見る。
「帰るって…一人で…?」
「うん…」
うつむき加減で、元気なく答える羅夢に、梨生奈は肩を掴んで言い寄った。
「帰るって…!どうして?何で急にそんなことを?」
「急にって…アタイは、前から思ってたよ。早く帰りたいって…」
「そ、そうなの?」
「言ってたろ?アタイは、田舎が嫌いだって…」
「私…てっきり、羅夢もこの村が気に入ってたのかと思ってた…」
「梨生奈!おまえ、何でもアタイと気が合うって思ってたら、大間違いだぜ!!」
「…え…?」
「アタイはおまえじゃないんだよ!!」
「な、何を言ってるの?」
「こ、こらこら!おまえ等、人の病室でケンカなんかすなよ!」
吉田は一応仲裁に入るが、また、キリキリと肋骨が痛んだ。
142投稿者:
リリー
投稿日:2008年08月21日(木)22時49分30秒
「ど、どうしたの?」
いつの間にか千秋と瑠璃が病室に戻って来ていた。
「ケ、ケンカ…?」
千秋は、病室に入りかけたが、一歩廊下側へ下がった。
「何でもねぇよ!!」
羅夢は千秋を睨みつけると、病室を出て行った。
「ご、ごめんね、千秋君…!」
梨生奈は羅夢を追いかけた。
広いロビーの、幾つも並んでいるソファーの端に、羅夢は頬杖を着いてこじんまりと座っている。
「羅夢…」
梨生奈が声を掛けようとすると、あの…例の…中年女性の看護士に先を越された。
吉田がこの病院に運ばれた日に、怒鳴り合いをする梨生奈と羅夢を叱った、あの看護士だ。
「あら…。どうしたの?今日は元気がないんじゃないの?」
「…別に…」
「この前は凄かったわね、あなた…。『うるせぇ!!ババア!!』って…」
「ち…!根に持ってやがる…」
「当たり前よ!一生、覚えててやる!」
「その性格…。オバサン…結婚してねぇだろ?」
「お生憎様…」
その看護士は、左手の薬指を見せる。
そこには、銀色に輝く指輪があった。
143投稿者:
リリー
投稿日:2008年08月21日(木)22時49分50秒
羅夢は、改めてその看護士の胸のネームプレートを見る。
『清水ミチコ』…。
「その…オバサンには、子供がいるの?」
「いるわよ。丁度、あんたくらいの歳の娘がね」
「どんな子?」
「生意気なヤツよ!最近、反抗的になってきてさ…。ま、あんたに似てるわね…」
羅夢は苦笑した。
「ふ〜ん…。そうなんだ…。じゃあ、めんどくさいでしょ?相手にするの…」
「めんどくさい?まさか…。私が産んだ子だよ?そんなこと思うんだったら、産まなきゃいいって話しよ!」
「そんな生意気なヤツでも…可愛いの?」
「可愛いって言うか…しょうがないなぁ…て、感じだね。私が面倒みてやんなきゃ…て…」
「ふ〜ん…」
羅夢は、また、頬杖をついて床を見詰めた。
「何があったか知らないけど…あんたにも、『しょうがないなぁ〜』って思いながらも、面倒をみてくれる人がいるでしょ?」
「いないよ…」
「…例えば…ほら…後ろ…」
看護士は、羅夢の後ろを指す。
羅夢は思わず振り返る。
そこには、梨生奈が立っていた。
144投稿者:
リリー
投稿日:2008年08月21日(木)22時50分23秒
「梨生奈…」
羅夢は、さっと目を反らす。
看護士は、羅夢の頭をポンと叩く。
「じゃあね、ケンカするんじゃないよ?今度騒いだら、追い出すからね?」
「うっせぇよ…。ババア…」
「ふふん…。ほんと、ウチの娘にソックリだよ!」
看護士は、梨生奈にウィンクすると、仕事へと戻って行った。
梨生奈は、深々と頭を下げた。
そして、羅夢の横に腰を降ろす。
「どうしたの…?羅夢…」
「………」
羅夢は答えない。僅かに唇が震えている。
こういう時の羅夢は、側についていないとダメだ。
145投稿者:
リリー
投稿日:2008年08月21日(木)22時50分42秒
梨生奈は、そっと肩を抱いた。
「本当に帰るの?」
「…うん…」
「じゃあ…私も帰る…」
「…梨生奈…」
「羅夢と一緒じゃないと、つまんないもん…」
「無理…すんなよ…」
「無理なんて…してないよ…」
「だって…千秋君と…」
「大丈夫よ…。千秋君と羅夢を…天秤にかけるなんてこと、しないわ…」
「…え?」
「羅夢は羅夢…。千秋君は千秋君…。2人とも、私の大切な人だよ…」
「梨生奈…。で、でも、レッドさんは?」
「いいよ…。あの人のことは…別に…」
「う…ひ、酷くね?それ…」
「酷いかな?」
「酷いよ…」
一方、病室では、吉田が大きなクシャミを二つした。
当然、肋骨に響いた。
146投稿者:
リリー
投稿日:2008年08月21日(木)22時51分24秒
帰りの電車の中は、静かなものだった。
ただ、瑠璃だけが梨生奈に、羅夢に、千秋に話題を振ってはくるが、3人は気の無い返事をするだけだった。
そして、ハセヤンズハウスに戻って来た。
その裏庭で、梨生奈は千秋に伝えた。
明日、虹守町に帰ることを…。
「そう…。帰るんだ…」
「うん…」
「寂しいな…。明日も、明後日も、ずっとこの夏の間…梨生奈ちゃんと一緒にいられると思ったから…」
「でも…このまま一生会えなくなるってわけじゃないから…」
「そうだけど…」
「千秋君だって…いつかは、虹守町に帰ってくるんでしょ?」
「うん…。そうなると…思う…」
「だったら、早く病気治して、私に会いに来てよ!」
梨生奈は無理に笑顔を作った。
瞳の奥に、涙が光っているのが、千秋には見えた。
次の瞬間…千秋は、梨生奈を抱きしめていた。
147投稿者:
リリー
投稿日:2008年08月21日(木)22時51分39秒
「…ち…千秋…君…?」
梨生奈は驚いて、千秋から離れようとするが、千秋は力強く抱きしめていて放さない。
意外と力強い、千秋の腕に、梨生奈は胸が高鳴った。
もちろん、『TTK』で訓練を受けていた梨生奈…千秋の拘束から抜け出すことは容易だったが、敢えてそれをしなかった。
「梨生奈ちゃん…。帰らないでよ…」
千秋の、力強くも悲痛な声が、梨生奈の心に響いた。
148投稿者:
リリー
投稿日:2008年08月21日(木)22時52分02秒
「千秋君…」
梨生奈は、抜け殻のような声で呟いた。
「僕は…梨生奈ちゃんに…帰って欲しくない…。ここに…一緒にいて欲しい…」
千秋の吐息が、梨生奈の首筋をくすぐる。
梨生奈は、それだけでも力が抜けて、身体の全てを千秋に委ねてしまいそうになる。
しかし、ここはしっかりと気を引き締めていかなければならない…。
「で、でも…」
「梨生奈ちゃんは…虹守町に帰ったら、多分…僕のことを忘れちゃうだろ?」
「そんなこと…!忘れないよ…!」
「ウソだ!」
「ウソじゃない!」
梨生奈は思わず、千秋の胸板を強く押した。
千秋は、一歩下がった。
彼の顔は…悲しそうな…今にも泣き出しそうな…それでも、強い視線で梨生奈を見詰めている。
一瞬、梨生奈の力が抜けた。
そして…千秋は、自らの唇で、梨生奈の額に触れた。
149投稿者:
リリー
投稿日:2008年08月21日(木)22時52分32秒
「…!!」
梨生奈は、思わず額に手をやると、軽く千秋から飛び退いた。
「ち…千秋…君…?」
千秋の顔は、真剣だった。
「僕…梨生奈ちゃんのオデコ…好きだよ…」
「千秋君…」
「ダーさんは、デコッパチなんて言ってるけど…僕は好きだ…」
「わ、私は…大嫌い…」
「僕は、好きなんだ!」
梨生奈は、自分も何か言い返さないと…焦っていたのか、こんな言葉が出た。
「わ…私だって…」
「何…?」
「千秋君の…運動音痴なところ…大好き…!」
千秋は、途端に、困惑したような顔をする。
「ぼ、僕は…」
「私は好き!!」
梨生奈は千秋の言葉を打ち消した。
「千秋君のことが…大好き!!」
梨生奈は千秋に抱きついた。
そして…どちらからなのだろうか…2人同時なのか…唇と唇が重なった。
150投稿者:
リリー
投稿日:2008年08月21日(木)22時52分58秒
随分、長い間、唇を寄せていたような気がするが…おそらく、ほんの2、3秒だったのかもしれない。
梨生奈にとっては、『ファーストキス』ではない。
今まで、プライベートで羅夢と何度もしていたし、『TTK』の『誘惑』の訓練でも、老若男女、構わずキスも、それ以上のこともやって来た。
しかし、愛情のこもったキスをするのは、羅夢以外で初めて…しかも、同年代の男の子とするキスは、初めてだった。
だから、キス慣れしている梨生奈でも、ぎこちない、不器用なキスになる。
「………」
唇を離しても、沈黙が続く。
そして、梨生奈は、今度は短く、再び千秋の唇に、自らの唇で触れる。
「これで…もう、忘れないよ…」
「…僕も…」
「これで…安心して…。私…虹守町で待ってる…。千秋君を…待ってる…」
「僕…強くなる…。まずは…身体を強くしなくちゃね…」
2人は握手をした。
「じゃあ、あと一日…。よろしくね…」
梨生奈は、クルリと後ろを向くと駆け足で裏庭を抜ける。
そして、建物の陰に隠れると、胸に手を当てて大きく息を吐くと、地面をバタバタと踏み鳴らす。
「ああ…!キスしちゃった…!キスしちゃった…!キスしちゃった…!」
そう、一人で叫ぶと、手で顔を覆い隠して、ストンと腰を降ろした。
ふと、人の気配を感じる。
指の間から、恐る恐る窺うと…ピンク色のスニーカーが見える。
視線を上げると…そこには黒いスタンガンが見え…更に視線を上げると…瑠璃が満面の笑みでこちらを見ていた。
151投稿者:
リリー
投稿日:2008年08月21日(木)22時53分21秒
「る…瑠璃…ちゃん…!」
「梨生奈ちゃん…。千秋君とキスしたんだ…」
瑠璃は、しゃがみ込んで梨生奈と同じ視線まで降りる。
「う…!瑠璃ちゃん…見てたの…?」
「ううん…。梨生奈ちゃん、言ってたじゃん。キスしちゃったって…」
「うぅ…!」
迂闊だったか…千秋とのキスに浮かれていたのか…瑠璃の気配に気がつかなかった。
「お…お願い…!だ、誰にも言わないで…!」
「う〜ん…どうしようかなぁ〜」
瑠璃は、意地悪そうに言って、視線を上に向ける。
「と、特に…羅夢には…言わないで…。ね…?」
「羅夢ちゃんに…?もしかして…羅夢ちゃんも千秋君のことが…?」
「う…ううん…。そ、そういうワケじゃないけど…」
その逆だ…。羅夢は梨生奈を愛している…。
『TTK』という暗殺組織に身を置いて、幼少の頃からずっと殺し屋としての訓練を受けてきた。
同じ年頃の少女達が、次々と脱落していく中、梨生奈と羅夢は、生き残ってきた。
そして、2人で一緒に生き残ろう…力を合わせて、乗り切ろう…そう、誓い合った仲だ。
まず、信頼関係が出来…そして愛情関係が生まれた。
しかし、そんな羅夢との関係を、瑠璃に説明するわけにいくまい。
152投稿者:
リリー
投稿日:2008年08月21日(木)22時53分44秒
そう…羅夢にとっては辛いはずだ…。
梨生奈と千秋の恋…。
しかし、羅夢にもその内、素敵な男友達が出来るだろうと、勝手に梨生奈は思っていたのだが、今の羅夢の性格からはそれは難しい。
羅夢が一日も早く原村を離れたいと思っている理由は、痛いほどよくわかっていた。
「ねえ、梨生奈ちゃん…。もしかして、初めて?」
「………え?」
「ファーストキスだった?」
ワクワクしたような顔で、瑠璃が訪ねる。
「………そうよ…」
梨生奈は、嘘をついた。
「ふ〜ん…。そうなんだ…」
瑠璃は、またもや意地悪そうな顔を、梨生奈に向ける。
「でもね、千秋君は違うよ」
「そ…そうなの…?」
意外そうな顔を、梨生奈はする。
それこそが、瑠璃の思う壺なのだが…。
153投稿者:
リリー
投稿日:2008年08月21日(木)22時54分10秒
千秋も、ファーストキスじゃなかった…?
「一体、誰と…?」
いやいや、自分がそんなことをこだわる資格がないことはわかっている。
「私」
瑠璃は短く答えた。
「え?」
「千秋君のね、ファーストキスの相手…私なの」
瑠璃も、顔を真っ赤にして、頬を両手で押さえた。
「そ…そうなんだ…」
何故だか、梨生奈はホッとしていた。
「あのね…千秋君がお昼寝している隙に…チュって…」
そして、瑠璃は完全に両手で顔を覆って「きゃ〜」と叫ぶ。
「そ…そうなんだ…」
瑠璃の言葉に、ますます安堵する梨生奈…。
そして、そんな瑠璃の可愛らしさに、思わず笑みがこぼれた。
しかし、一つ疑問というか…懸念が生まれた。
「瑠璃ちゃん…。千秋君のこと…好きなの?」
「うん!」
また、短く、シンプルに、何の屈託もなく答える瑠璃。
154投稿者:
リリー
投稿日:2008年08月21日(木)22時54分30秒
「へ…平気なの…?私が千秋君のこと、好きになっちゃっても…」
梨生奈は、恐る恐る聞いてみた。
羅夢が今まで梨生奈と一緒に過ごしてきたのと同じ様に、瑠璃も千秋と今までずっと、一つ屋根の下で暮らしてきたのだ。
複雑な感情はないのだろうか?
「平気?何で?千秋君は、梨生奈ちゃんのこと、好きなんでしょ?」
「…え、ええ…」
「だったら、しょうがないじゃん」
「しょうがないって…いいの?それで…」
「だって…千秋君がどう思ってるか…それが大切でしょ?」
「…う…うん…。そうだけど…」
「千秋君は、梨生奈ちゃんが好き…。梨生奈ちゃんは千秋君が好き…。こんな、ステキなことってないじゃん!!」
明るい笑顔の瑠璃…。
梨生奈には、眩しすぎた。
「おめでとう!梨生奈ちゃん!!」
瑠璃は一人で拍手をすると、「ひゅ〜ひゅ〜」と囃し立てながら、裏庭の方へ駆け出していった。
「ありがとう!瑠璃ちゃん」
梨生奈は、瑠璃の背中に向けて声を掛けた。
そして…「ごめんね…」と、小さく呟いた。
155投稿者:
リリー
投稿日:2008年08月21日(木)22時59分49秒
今日は、このくらいで止めておきます
実は、『グラスラ・第二試合』の原村パートの前に、『らりるれろ』のおさらいとして、この復刻版を立ち上げたのですが、いつの間にか追い抜いてしまいました
それで、急遽『らりるれろ』のあらすじを『グラスラ』に載せましたが、やはり復刻版も完結させます
すみませんでした
毎日というわけにはいきませんが、少しずつ更新していきたいと思います
では、よろしくお願いします
156投稿者:
お疲れ様で御座いました
投稿日:2008年08月21日(木)23時11分46秒
有難く拝読させて頂く所存にてさうらふ
157投稿者:
あげ
投稿日:2008年08月22日(金)21時21分16秒
158投稿者:
age
投稿日:2008年08月24日(日)21時01分48秒
159投稿者:
がんばって
投稿日:2008年08月28日(木)09時56分29秒
160投稿者:
あげ
投稿日:2008年08月31日(日)13時43分29秒
161投稿者:
あ
投稿日:2008年09月13日(土)20時22分52秒
162投稿者:
あげ
投稿日:2008年09月14日(日)23時26分43秒
163投稿者:
更新してください
投稿日:2008年09月15日(月)18時59分56秒
164投稿者:
あげ
投稿日:2008年09月15日(月)20時39分52秒
165投稿者:
あげ
投稿日:2008年09月15日(月)21時19分40秒
166投稿者:
あ
投稿日:2008年09月15日(月)21時45分49秒
167投稿者:
あげ
投稿日:2008年09月15日(月)23時25分10秒
168投稿者:
らむぅ
投稿日:2008年09月16日(火)18時00分10秒
169投稿者:
あげ
投稿日:2008年09月16日(火)20時11分34秒
170投稿者:
あ
投稿日:2008年09月16日(火)20時44分14秒
げ
171投稿者:
あげ
投稿日:2008年09月19日(金)13時57分25秒
あげ
172投稿者:
あ
投稿日:2008年09月19日(金)16時21分20秒
げ
173投稿者:
あげ
投稿日:2008年09月19日(金)18時24分17秒
がんばれ
174投稿者:
あげ
投稿日:2008年09月19日(金)20時59分22秒
あげ
175投稿者:
あげ
投稿日:2008年09月20日(土)15時03分57秒
176投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月21日(日)21時15分22秒
では、そろそろこちらの方も更新ししていきたいと思います
お待たせしました
177投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月21日(日)21時16分10秒
梨生奈と羅夢の、原村での最後の晩餐…。
瑠璃もハセヤンも、梨生奈達が明日、虹守町に帰ってしまうと聞いて残念がった。
ハセヤンは、入院している吉田の面倒を見る、と申し出てくれた。
瑠璃を探すように頼んで負った怪我なので、ハセヤンなりに、気に病んでいるようだった。
梨生奈達は、ハセヤンが気の毒になったが、もうこれ以上、自分達が赤の他人同士で、探偵稼業をしているということを、話すつもりはなかった。
夕飯は豪勢な物にしてくれた。
さすがに、千秋の逆餃子は食卓にはのぼらなかったが。
梨生奈、羅夢、千秋…共に過ごす最後の夜だというのに、会話は弾まなかった。
時々、チラチラと目が合う、梨生奈と千秋…。
その度、恥ずかしそうに、顔を赤くして目を反らす。
瑠璃はそんな2人を見ては、顔をにやけさせる。
羅夢は、ワザと2人の様子を視線に入れない。
梨生奈の気持ちを思えば、このまま原村に残ってやるべきだとは、わかっている。
しかし、ここ原村には、辛い思い出を作ってしまった。
梨生奈と千秋の恋…。
そして、自分が殺してしまった動物達…。
もう、これ以上、この村に滞在することはできない…。
しかし、自分だけ帰ると言い出せば、梨生奈だって一緒に帰ると言い出すのもわかっていた。
羅夢は一人、罪悪感に苛まれている。
178投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月21日(日)21時16分28秒
夕食を終えた梨生奈は、部屋に戻って来た。
とりあえず、明日虹守町に帰ることを、ダーブロウ有紗に報告しなければいけない。
「…はぁ…。怒られるだろうなぁ…」
重い気持ちで、携帯を掛ける梨生奈。
呼び出し音が鳴るや否や〔おう、何だ?デコッパチ?〕。
ダーブロウ有紗は、相変わらず電話に出るのが早い。
「あ、『マッド・エッジ』…。あの…」
〔何だよ?事件は終わったんだ。経過報告なんて入れなくていいんだぞ?〕
「いえ、その…経過報告ではなくて…その…」
〔あ?何だよ?〕
声がイライラに変ってきている…。
「明日…『ライトニング・ボルト』と虹守町に帰ります!」
〔は…?〕
しばらく沈黙が続く。
そして…〔何で?〕と問う。
「ええと…その…」
〔ギョーザとケンカでもしたのか?〕
「いえ、違います!…『ライトニング・ボルト』のことなんですが…」
179投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月21日(日)21時16分48秒
〔ん?ダッチャがどうしたって?〕
「『ライトニング・ボルト』にとっては、この原村に残ることは、いろいろと辛いことが多くて…」
〔…ま、そりゃそうだわな…。おまえとギョーザの恋は、正直、気持ちよく受け止めることはできないだろうな…〕
「ええ…」
〔でもなぁ…。ダッチャにとっても、デコッパチにベッタリって今の状況から卒業する、いい機会だと思うんだが…〕
「急には無理ですよ」
〔じゃあ、とりあえず、ダッチャだけでもコチラに帰しな。おまえは引き続き、レッドさんの看病を頼む〕
「し、しかし、『ライトニング・ボルト』の性格から考えると…今の状況で一人にするのは…」
〔…まったくよぉ…。めんどくせぇな…。レッドさんはどうすんだよ?〕
「あの…今、泊まっているペンションのオーナーが看病してくれると…」
〔ダメだろ?そこまで甘えたらよ〕
「そうですけど…」
〔それに、おまえはそれでいいのかよ?ギョーザとお別れだぜ?〕
「…そうですけど…」
〔う〜〜〜〜〜ん…〕
携帯の向こうで、ダーブロウ有紗が唸っている。
髪の毛を掻き毟る音も聞こえる。
彼女も相当悩んでいるようだ。
梨生奈は固唾を飲んで、ダーブロウ有紗の次の言葉を待った。
180投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月21日(日)21時17分07秒
〔わかった。レッドさんの看病は、他の者に行かせるよ。あと、モニークのスカウトも兼ねてな…〕
「え…?じゃ、じゃあ…」
〔おまえ等はコッチに戻ってきな!しかし…〕
「しかし…?」
〔条件がある〕
「条件?」
〔せめて、ギョーザとのキスを済ませてきな!明日までだ!で、なかったら…〕
「あ…あの…」
〔何だ?できません、なんてぬかすんじゃ…〕
「もう…済ませました…」
〔へ?〕
「キス…。しました…。千秋君と…」
〔………。せめて、ギョーザとの初体験を…〕
「ちょ、ちょっと!何、ハードル上げてるんですか!?」
〔コンチクショウ!てめぇ、カマトトぶって、やることちゃんとやってんじゃねぇか!!〕
「す、すみません…」
〔謝るんじゃねぇ!でかしたぞ!デコッパチ!〕
「あ、ありがとう…ございます…」
いつも怒られているせいか、褒められると逆に居心地が悪くなる…。
181投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月21日(日)21時17分40秒
〔でも、今時キスしたぐらいで、どうとなるもんじゃねぇが…デコッパチにとっては、相当な冒険だったんだろうよ…〕
「は、はい…。そりゃ、もう…」
〔本当に後悔しねぇな?虹守町に戻ること…〕
「はい…」
〔強がってねぇだろうな?〕
「強がってなんか…。『マッド・エッジ』、私に『恋をして弱くなるくらいなら、そんな恋なんかするな』って言いましたよね?」
〔ああ…。たしかに言ったな…〕
「私、強くなったんです!千秋君と恋をして…。だから、後悔なんかしません!」
〔…ん…。そうだな…〕
そう呟いたダーブロウ有紗の声は、今まで聞いた中で、一番穏やかなものだった。
〔それなら、本当におまえ達を原村にやって良かったって…そう、思うよ…〕
「はい…!」
182投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月21日(日)21時17分53秒
〔で、明日、いつ帰る?〕
「朝の8時に原村を発つ予定ですから…鈍行列車に乗って…おそらく、明日の夜には到着するんじゃないかと…」
〔わかった。美味い飯、作っておいてやる!楽しみにしてろよ?〕
「はい、久しぶりに『マッド・エッジ』の手料理、食べたいです!」
〔な〜に言ってやがんだ!おまえ、ちゃんと私の料理の技術を盗んでおけよ!いつか、ギョーザに食べさせてやる為に…〕
「な、何、言ってるんですか!!『マッド・エッジ』こそ…!」
〔はは!!じゃあな、気をつけて帰って来いよ!〕
ダーブロウ有紗から、電話は切られた。
こっ酷く怒られると思っていた梨生奈は、安堵の息をつく。
そして、梨生奈は携帯を見詰め、こう言った。
「ありがとう…。ダーさん…」
183投稿者:
待ってました!
投稿日:2008年09月21日(日)21時17分57秒
更新頑張ってください!
184投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月21日(日)21時18分12秒
不意に、梨生奈は人の気配を感じた。
ドアに…いつの間にいたのか、羅夢が立っている。
「ら、羅夢…!」
いつからいたのだろう…?
この会話を、どこから聞いていたのだろう…?
瑠璃の時といい、本当に気配を読む感覚が鈍ってきているのかもしれない。
梨生奈は、二の句が継げないでいる。
「梨生奈…」
羅夢の方から言葉を発する。
「な、何…?」
梨生奈は、少し緊張する。
「お風呂…。一緒に入らない…?」
「お風呂?い、いいわよ…」
「じゃあ…。先、行ってるから…」
羅夢は部屋から出て行った。
梨生奈は大きく息をついた。
185投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月21日(日)21時18分32秒
梨生奈は脱衣所で服を脱いで、浴場に足を踏み入れる。
しかし、そこには羅夢はいなかった。
「あれ…?」
脱衣所の籠には、確かに羅夢の服が入っていた。
「ああ…。外…かな…」
梨生奈は、外に面しているガラス戸を開けた。
露天風呂は混浴だ。
梨生奈は、千秋に全裸を見られたことを思い出し、足を踏み入れるのは、どうしても躊躇してしまう。
恐る恐る、下を覗いてみる。
広い露天風呂には、羅夢が一人、端に寄って縁石に肘をかけて、月明かりでおぼろげながらに見える八ヶ岳を眺めている。
梨生奈は、石畳を降りていく。
羅夢は、おそらく梨生奈の気配に気がついているだろうが、こちらを振り向こうとはしない。
梨生奈は、湯の中に足を入れる。
そして、羅夢の側まで湯を掻き分けて近付いていく。
「羅夢…」
梨生奈は、羅夢の隣まで来ると、身を寄せるように湯船に身体を沈めた。
「いい…村だよな…。ここは…」
羅夢は、梨生奈の方を向かず、こう呟いた。
186投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月21日(日)21時18分50秒
「羅夢…。この村…好きだったの?」
「うん…。好きだよ…。でも…離れなきゃいけないなんてね…」
梨生奈は何も言わずに、羅夢の肩にそっと手を置いた。
「梨生奈…。おまえだけでも…残りなよ…」
「ううん…。私も一緒に帰るって…言ったでしょ?」
「気を遣うなよ」
「…気を遣う?…今更、そんな間柄じゃないでしょ?私達…」
羅夢はしぶきを立てながら、梨生奈の真正面を向く。
「好きなんだろ!?千秋君が…!離れたくないんだろ!?」
「そうだけど…。でも、羅夢とも離れたくないんだよ!!」
「アタイと…離れる…?何言ってんだよ!虹守町に帰れば、また一緒に…」
「ううん!!今、私が羅夢の側から離れたら…羅夢はきっと遠くに行っちゃう!!私から…離れちゃう…」
「や、やっと梨生奈から離れるんだ!いい機会じゃないか!!」
やっぱり…ダーブロウ有紗との電話を聞いていた。
「違う…!羅夢は…私とだけじゃなく…誰からも離れてしまう…。一人ぼっちになっちゃう…!!」
「ど、どういう意味だよ!?」
「上手く説明できないけど…。でも、わかるの…。あなたのことは…」
「そ、そうやって、いっつも、いっつもお姉さん気取りかよ!!もう、うんざりなんだよ!!」
羅夢は勢いよく、湯船から立ち上がった。
そして、湯を騒々しく掻き分けて、梨生奈から離れていこうとする。
187投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月21日(日)21時19分11秒
「羅夢!!待って!!」
梨生奈は羅夢を追いかける。
そして、腕を掴む。
「離せ!!」
掴まれた腕を、振り回す羅夢。
「離さない!!」
梨生奈は、羅夢の、もう片方の腕を掴んだ。
「もう、放っておいてくれよ!!アタイのことは…!!」
「放っておけない!!」
「梨生奈…!」
羅夢は、梨生奈に抱きついた。
梨生奈はバランスを崩し、後ろへ倒れる。
派手な波音を立てて、2人は熱い湯の中に沈む。
「ぶはぁ!!」
梨生奈は、水面から顔を出し、息を吸った。
しかし、再び呼吸ができなくなってしまった。
羅夢が、梨生奈の口を塞いだからだ。
自らの唇で…。
188投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月21日(日)21時19分38秒
「う…!く…」
また、湯船の底に沈みかけた梨生奈を、優しく抱きとめる羅夢。
「ら…羅夢…」
「梨生奈…」
羅夢は、再び梨生奈に口づけする。
「梨生奈…アタイの…アタイの側にいてくれる…?」
「…う、うん…。いるよ…。羅夢は、私の妹だもん…」
「違う!!妹なんて言わないで!!」
「…え…?」
「アタイだけの…アタイだけの梨生奈になって…!」
「羅夢…?」
「千秋君と…千秋君と別れてよ…!」
「羅夢…」
「アタイだけの梨生奈になって!!」
羅夢は梨生奈に身を寄せて迫った。
「で…でも…」
「お願い!!」
梨生奈は露天風呂の端の、縁石まで追い詰められた。
そして、今度は長い…長いキスをする。
189投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月21日(日)21時19分57秒
「アタイ…梨生奈の為に…何だってするよ…」
羅夢は、梨生奈の耳元で囁いた。
「どんなことでも…」
羅夢は、梨生奈を縁石の上に腰掛けさせた。
「ら…羅夢…」
羅夢は、梨生奈の胸に唇を寄せる。
そして、胸から腹へと南下させる。
「ま、待ってよ…。羅夢…」
「梨生奈…。じっとして…」
久しぶりだ…。羅夢の愛撫を受けるのは…。
2人がまだ、暗殺組織『TTK』にいた頃…よく、こうやってお互いを慰め合っていた。
決まって、心が不安定な時…こうやって愛し合った。
『中村有沙捕獲作戦』のメンバーに加えられた時もそうだった。
相手も同じ、『TTK』の戦士…。
無事に任務が終わる保障はない。
そして、その作戦が失敗に終わった時…。
任務失敗の制裁を受ける直前も…こうやって愛し合った。
そう…今、羅夢は不安に怯えている…。
190投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月21日(日)21時20分17秒
「羅夢…。あなた…今…、あ…!」
梨生奈は、ビクンと身体を反応させた。
羅夢の唇が、梨生奈の下腹部に触れている。
「梨生奈…。千秋君…こんなこと、してくれないだろ?」
羅夢の舌は、まだ陰毛の生えていない、滑らかな梨生奈の股間を丁寧に舐める。
「は…あ…ら…羅夢…」
「ね?思い出しただろ?アタイ達は、2人で一つだった…。そうだろ?」
梨生奈は、身体を大きく仰け反らせる。
しかし、咄嗟に腕を着き、倒れるのを防いだ。
「羅夢…。あなた…」
「何も言わないで!」
羅夢は梨生奈に覆い被さった。
ゆっくりと、梨生奈の身体を、石畳の上に横たわらせる。
そして、梨生奈の身体に、唇を這わせる。
「あ…。あ…」
小さく声をあげる梨生奈。
「渡さない…。誰にも、渡さない…」
羅夢の、そう呟く声には、強い意志が感じられた。
191投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月21日(日)21時20分40秒
羅夢の舌は、梨生奈の身体を快楽の底へと沈めていく。
梨生奈はもう、抵抗する術を…いや、意思を失くしてしまっていた。
相変わらず、自分は羅夢の愛撫から抜け出せないでいる。
羅夢が自分から離れられないように、自分も羅夢から離れられないでいる…。
お互い様なのだ…結局は…。
「は…あう…!」
梨生奈の身体が跳ね上がった。
「ら…羅夢…!」
梨生奈の指と、羅夢の指が絡み合う。
力強く、しっかりとつながり合う2人。
羅夢の舌は、梨生奈の身体の奥深くへと入り込む。
「あ…ああ…羅夢…。羅夢ぅぅぅ〜〜〜…」
全身の力を込め、身体が硬直する。
梨生奈の細身の身体が、細かく震える。
逃れられない…この快楽から…。
これは、まさしく、『TTK』の…裏の世界の残り火…。
梨生奈の全身の力が抜けた。
果てたのだ。
そして、梨生奈の身体の上で、羅夢の身体が震えていた。
192投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月21日(日)21時21分10秒
「…ら…羅夢…?」
梨生奈は、首を起こして頭を上げた。
羅夢の頭頂部が見えるだけで、その表情は窺えないが…泣いていることは充分すぎる程わかる。
「アタイ…恐いんだ…」
震える声で、羅夢が答えた。
「恐い…?」
「あの…動物達…殺した…」
「え?」
「アタイ…あの動物達、殺しちゃった!!」
羅夢は顔を上げた。
涙で顔が濡れていた。
193投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月21日(日)21時21分22秒
「で、でも…アレは…私を助ける為に…」
「でも…!殺したんだ!!アタイが…殺した…」
羅夢は、梨生奈の肩を痛いほど握った。
「羅夢…」
「アタイは…まだ…裏の人間なんだ…。まだ…殺し屋なんだ…」
「ち、違うよ!!羅夢はもう、殺し屋なんかじゃない!!」
「梨生奈…。側にいて…!アタイの側にいてよぉ!!」
「どうしたの?羅夢…」
「アタイ…戻っちゃう…!殺し屋に…裏の世界に…戻っちゃう…!!」
「そ、そんなこと、させない!!私が…羅夢を裏の世界なんかに戻さない!!」
今度は、梨生奈が羅夢の身体を強く抱きしめた。
194投稿者:
あげ
投稿日:2008年09月21日(日)21時21分32秒
195投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月21日(日)21時21分41秒
「梨生奈…」
羅夢はすがるような目で、梨生奈を見詰める。
「あなたは…表の人間よ…。探偵なんてやってるけど…この間なんか、ヤクザと戦ったりなんかしたけど…あなたは普通の女の子よ…」
梨生奈は、ゆっくりと身体を起こして、羅夢を優しく包み込んだ。
背中を擦ってやる。
まだ、羅夢は震えている。
「心配しないで…。私がしっかりとつなぎ止めてあげる…。表の世界に…。私達の世界に…」
「う…う…う…」
羅夢は嗚咽した。
「もう…。やっぱり、私は羅夢のお姉さんだよ…!」
「な…何、言ってやがる…!さっき…赤ちゃんみたいになったくせに…!」
「ふふ…。たまにはいいじゃない…。私が羅夢に甘えても…」
「…ふん…!しょうがねぇな…!もっと…アタイに甘えさせてやるよ!」
「何よ!?その、生意気なモノの言い方!!」
梨生奈は、羅夢を思いっきり突き飛ばした。
「わ…!わ…!わぁ…!」
羅夢は、後ろ向きに湯船へダイブした。
「な、何しやがんだ!!この!!」
羅夢は、梨生奈に湯をしぶきにしてぶっかけた。
梨生奈も湯船に入ると、応戦する。
本当に、普通の…元気すぎる少女の戯れの笑い声が、月夜に響く。
196投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月21日(日)21時22分00秒
たった4日間の滞在だったが、いろいろな思い出があった。
恋…事件…死闘…いろいろあった。
原村の思い出は、甘い物も苦い物も…。
おそらく、忘れられないものとなるだろう。
夜が明けると…いよいよ梨生奈と羅夢は虹守町に向けて、原村とお別れをする。
しかし…そうはならなかった…。
そう…『チームR』の2人は、まだまだこの原村に滞在することとなる。
羅夢が心変わりをしたのか…?違う…。
千秋が強引に梨生奈を引き止めたのか…?違う…。
瑠璃がいなくなったのだ…。
忽然と姿を消したのだ…。
197投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月21日(日)21時22分56秒
計らずとも、『グラスラ』同様、今夜はWレズシーンとなりました
では、おちます
198投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月21日(日)21時38分56秒
>1で示したアドレスは使えない為、また貼っておきます
http://221.254.11.166/log/tentele/070923205005a.html
199投稿者:
あ
投稿日:2008年09月22日(月)16時09分53秒
200投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月22日(月)19時15分07秒
では、少しだけ更新します
201投稿者:
ありがとうございます
投稿日:2008年09月22日(月)19時15分35秒
202投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月22日(月)19時15分58秒
『8月6日 羅夢失踪』
一度皆勤賞が途絶えてしまったのなら、もう、ラジオ体操に行く気力が無くなってしまったのだろうか。
皆、瑠璃がなかなか部屋から降りてこない理由は、こんなものだろうと思っていた。
朝食が終わったら、いよいよ梨生奈と羅夢は原村を発つ。
それでも食堂に顔を見せない瑠璃を、ハセヤンが呼びに行く。
しかし、部屋には瑠璃はいなかった。
パジャマを脱いだ形跡はない。
そして、瑠璃の靴も玄関に残っている。
つまり、朝の散歩に行ったという類ではない。
昨夜のうちに、この『ハセヤンズハウス』から、姿を消してしまったのだ。
今回ばかりは、ハセヤンはすぐさま警察に通報した。
モニークや学校の友達の家に電話を掛けるのは後回しになった。
もし、ちゃっかりそれらの家にいたとしても、後で笑い話になる。
しかし、パジャマ姿のまま、しかも裸足で他人の家に遊びに行くとは考えにくい。
梨生奈も羅夢も、虹守町に帰るわけにはいかなかった。
瑠璃が行方不明の状態で、自分達だけ帰るなんて、どうしてもできなかったからだ。
ハセヤンもハセヤンの息子も、とにかく心当たりのある場所を探しに行く。
千秋も梨生奈も羅夢も留守番を頼まれた。
もし、警察や、瑠璃本人から連絡があった場合、すぐに動けるように、と…。
そしてモニークも、ここ、『ハセヤンズハウス』に駆けつけることになっている。
203投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月22日(月)19時16分39秒
「梨生奈ちゃん…。羅夢ちゃん…」
千秋は深刻な顔で2人に話しかける。
「探偵として…2人に頼んでいいかな?」
「え…?」
「瑠璃の部屋を…見て欲しい…。それで、何かわかることがあったら…」
「千秋君…。探偵として、なんて…。友達として頼んでよ…」
「うん…。ありがと…」
「さあ、行ってみようぜ!!」
羅夢は、足早に階段を上る。
その後を、梨生奈と千秋は着いて行く。
204投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月22日(月)19時16分50秒
瑠璃の部屋に入る。
全体的に淡いピンクで統一された、女の子らしい部屋。
羅夢は、真っ先にベッドを調べる。
「すっかり、ベッドは冷たくなってるな」
「つまり…姿を消して、3時間以上は経っているってことね…」
敷布団には、瑠璃の身体の大きさに凹んでいる。
掛け布団が乱雑に肌蹴ている。
「つまり、昨夜はこのベッドに横たわっていた…」
「そして、決して穏やかに起き上がったとは言い難いわね…」
冷静に分析する梨生奈と羅夢を、心配そうな顔で交互に見る千秋。
「無理矢理連れて行かれたのかな?」
千秋の顔は、不安で真っ青になっている。
205投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月22日(月)19時17分15秒
「いや、それはねぇな…」
羅夢は部屋中をジロリと見渡してから言った。
「他に争った形跡はねぇ。ほら、ベッドの窓際…ぬいぐるみがたくさん並んでるだろ?」
羅夢の指の先に、ライオン、ワニ、キリンなど、手の平大の小さな動物のぬいぐるみが一列に並んでいる。
羅夢は、少し乱暴にベッドを揺らした。
不安定な角度で置かれていたぬいぐるみが2つ3つ、ベッドの上に転げ落ちた。
「な?いくら小さな女の子でも、無理矢理拉致するとなると、結構暴れててこずるもんだぜ?ぬいぐるみが落ちてないってことは…」
「で、でも、犯人が並べ直したとしたら?」
「そんなヒマはないと思う。いち早く現場から離れたいのが犯人の心理…。しかも深夜の誘拐なら、朝まで気づかれないわけだから、証拠を隠蔽をする時間稼ぎの必要もないわ」
梨生奈が、羅夢の推理の補足をする。
「それに…ここのペンションには、私達だけじゃない…他のお客さんだって宿泊してるでしょ?そんな不特定多数の人間の中で、誘拐なんてするかしら?」
「犯人がここに忍び込んだってことは、ない!」
羅夢は自信を持って言い切った。
「ど、どうして…?」
千秋の疑問に、梨生奈が答える。
「だって、瑠璃ちゃんの部屋の隣は、私達の部屋…。異常があったら、絶対に私達は気づくもの…」
「た、探偵って…なんか、忍者みたいだね…」
「う、うん…。訓練を受けてるから…」
探偵としての技術ではなく…『TTK』の殺し屋としての技術なのだが…。
206投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月22日(月)19時17分38秒
「つまり…瑠璃は、自分の意思で姿を消したってこと…?」
「いえ…。そう考えるのは少し早計よ。部屋の外に出たのは…瑠璃ちゃんの意思かもしれない。でも、その後…屋外とかで何者かに連れ去られたのかも…」
「も…もしかして…!お客さんの中に、瑠璃をさらった犯人がいるかも…!」
「それも、考えられるわね…。でも、まだチェックアウトは済んでないわよね?悠長に犯行現場に犯人が残っているとは、やっぱり心理的に…」
「わかんねぇぞ…。こういう、小さな女の子をさらうようなヤツは、頭のおかしな変態だから…。後先考えないってことも有り得るぜ。ほら、瑠璃ちゃん…可愛いから…」
「…ああ…!瑠璃…!」
千秋は、頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「ち、千秋君…!だ、大丈夫だから…!絶対に、無事に瑠璃ちゃんを助けるから…!」
梨生奈は、慌てて千秋の肩を抱き寄せる。
そして、羅夢をジロリと睨みつけた。
睨まれた羅夢は、首をすくめた。
しかし、梨生奈もそう思い始めていた。
後先考えない、頭のおかしなぺドフィリアの犯行…。
もしかしたら、裏庭、物置、屋根裏…このペンションのどこかに、瑠璃の遺体が隠されているのかもしれない…。
だが、そんな推理は、間違っても千秋の前で言う事はできない。
そんなことを梨生奈が考えているうちに、羅夢は次の捜索に取り掛かっていた。
「なあ…千秋君…」
「え…?何?羅夢ちゃん…」
「瑠璃ちゃんって…絶対に、首からスタンガンを提げてたよな?外行く時…」
「う…うん…。外に出て行く時って言うか…お風呂と寝る時以外は、首から提げているけど…」
「寝る時…?だったら、そのスタンガンはどこにあるんだ?」
207投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月22日(月)19時18分01秒
「あ…!」
梨生奈と千秋は、同時に立ち上がった。
「探そう!スタンガン!」
3人は、手分けをして部屋中を隈なく探す。
いつも身に着けている物は、大抵、目に付く所に置いているハズだ。
しかも、ネックレスやペンダント等の小さな物ではない。
スタンガンだ。
かなり大きな、無骨な代物…。
どこに置いても目立つ物…。
そのスタンガンが見つからない。
「つまり…瑠璃ちゃんは、スタンガンを首から提げて、この部屋から出て行った…」
「瑠璃ちゃんをよく知る者以外なら、あのスタンガンを一緒に持って行くなんて、考えられない…」
「て…ことは…お客さんが犯人ってことは…」
「可能性は低いな…」
とりあえず、千秋は安堵の息をついた。
しかし、これで瑠璃は自らの意思で姿を消した、という説が有力になった。
その動機は…未だ謎のままだ。
208投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月22日(月)19時18分21秒
モニークが来たのは、電話を受けて15分後だ。
かなり急いで来たのだろう、滝のように汗をかいている。
「るりるりが…いなくなったって?」
あの、冷静沈着なモニークが取り乱している。
千秋と一緒に、安田大サーカスを訪ねに行った時とは状況が違う。
深夜、パジャマのまま、靴も履かずに姿を消したのだ。
「モニーク…先生…。落ち着いて…。今、羅夢と一緒に状況分析をしてましたから、それを説明します」
千秋には、自分達が探偵だと打ち明けた。
しかし、モニークと旧知の仲だとは、まだ話していない。
どこで知り合ったのか…という話しも、千秋にしなければならないからだ。
『TTK』のことは…暗殺組織のことは、絶対に話せない…。
モニークは、黙って梨生奈の説明を聞いていた。
そして、説明を聞き終えると、何も言わずに瑠璃の部屋へ直行する。
「ちょ、ちょっと…!モニーク先生!」
梨生奈達は、モニークの後を追いかける。
モニークは、一通り瑠璃の部屋を見回すと、穏やかな口調で話し始める。
「なるほど…。2人の言う通りだね…。るりるりは…自分の意思でこの部屋を出た。この部屋をね…。でも…」
「でも?」
「それは部屋を出るまで…。この家から姿を消したのは、るりるりの意思ではない…」
「ど…どうして…わかるんですか?」
千秋は慌てながら聞いた。
209投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月22日(月)19時18分57秒
「あの子の性格を考えてね。一人では行動しない子なんだよ。常に誰かと一緒にいたがる…。一人では不安な子なんだよ」
「そ…そうですか…?」
千秋は首を傾げた。
「だって…瑠璃は、休み時間は、いつも図書室で動物関係の図鑑とか、『シートン動物記』とか一人で読んでて…あんまり群れて行動しないって…」
「それは、学校にはいっぱい人がいるから…。図書室だって、図書委員の子や司書さんがいるでしょ?るりるりにとっては、それで一人でいることにはならないんだよ」
「な…なるほど…」
千秋は一応納得をしたが、梨生奈や羅夢は新たな疑問を抱く。
210投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月22日(月)19時19分13秒
「モニーク…先生…。どうして、そんなに瑠璃ちゃんのこと、詳しいの?」
「どうしてって…。たぶん、この村で一番あの子と会話をしているのは…この私だよ…」
「おま…モニーク先生が…?」
あからさまに、不信感を抱く羅夢。
モニークは、その視線を真正面から受け止める。
「ああ…。あの子の本当の深い部分を…私が一番よく知っている…」
「で…あの時、瑠璃ちゃんをぶん殴ったのは…?」
「………瑠璃も、納得済みさ…」
「モニーク先生…」
梨生奈が2人の間に割り込んだ。
「今…瑠璃って…」
「え?」
「瑠璃ちゃんのこと、いつも『るりるり』って言ってるのに…」
「………言い難いんだよね…。『るりるり』って…」
「言い難い?」
「強要されてるんだよ。『るりるりって呼べ』って…」
「なるほど…。あのバカ女が『テンカリン』て呼べって言ってるのと同じってことか…」
あの、騒々しい少女を頭に思い浮かべながら、羅夢は鼻で笑った。
211投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月22日(月)19時19分46秒
「でも…スタンガンは?スタンガンがないことはどう説明するんですか?」
「う〜ん…。それなんだけど、おそらく、瑠璃は誰かと落ち合ってたのかも…」
「落ち合ってた?」
「外に出る為に、部屋を出た。その証拠にスタンガンを持ち去っている。でも、きっとすぐに戻ってくる…またはそんなに遠くには行く予定ではなかったんだろうね…」
「その…落ち合ってた相手って…誰なんですか?」
千秋は、またもすがるようにモニークに聞く。
「さあ…。誰だろ…。瑠璃はそんなに心を許すような相手は多くないしね…」
モニークも、顎に指を当てて考えあぐねている。
「あんたじゃないんですか…?モニーク先生…」
羅夢はモニークの後ろで、千秋に聞こえないような小さな声で、そっと囁く。
モニークは、驚いたような表情で振り向いた。
「私…?まさか…!」
そして、また無表情になり、羅夢に訪ねる。
「どうして、そう思うの?」
「勘」
羅夢は短く、はっきりと答えた。
「ち、千秋君…。一応、フロントの方に行ってみてくれないかな?まだ、お客さんが無関係とは決まってないから…。チェクアウトするお客さんを、注意深く見ておいて。こればかりは、従業員じゃない私や羅夢はできないから…」
「そ、そうだね。わかった」
千秋は、瑠璃の部屋を出て行った。
212投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月22日(月)19時20分17秒
「梨生奈?お客さんはシロだと、私は思うんだが…」
モニークは不思議そうに梨生奈に聞いた。
「方便よ…。私達だけで話したいことがあって…。羅夢!」
「何だよ?」
「さっきから、モニークを疑ってない?」
「ああ。疑ってるな…」
「疑うには、証拠が必要よ。私達は探偵なんだから…。モニークみたいに『勘』で片付けてたら、世話無いわ…」
「アタイは、直感ってのも大切だと思うんだけどな…」
「その直感の根拠は何?」
「あの時…瑠璃ちゃんを殴ったこと…。ありゃ、いくら考えても不自然だ…」
羅夢はモニークを睨みつけた。
「説明しろよ…。あの行動の意味を…」
213投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月22日(月)19時20分30秒
モニークは溜息をつく。
「正直に言うよ…。心が不安定だったんだ…」
「不安定?」
「羅夢…。おまえ、動物殺したろ?」
「う…」
「あのサーカスの連中を殺すこともできず…心が安定してなかったんだろうね…」
「そ、そんな…!そんな理由で瑠璃ちゃんに当たるなんて…!可哀そうじゃない!」
梨生奈が、モニークに詰め寄った。
「あの時言った、『必要なこと』って…こういうことかい…?」
羅夢は、努めて冷静に話しを進める。
「ああ…。結局、私も裏の世界から抜け出すことが…できないんだね…」
モニークは悲しそうに…笑った。
214投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月22日(月)19時21分07秒
「そうだわ…。千秋君をここから出したのは、もう一つ理由があるの」
「理由?何だい?梨生奈…」
「今、はっきり答えてもらうわ…。あの時…瑠璃ちゃんと千秋くんがダムにいるって…どうしてわかったの?『勘』じゃ納得できないわ!」
そう…。あの謎が、わからず終いだったのだ。
なぜ、ピンポイントで2人の居場所を当てることができたのか?
「そしてできれば…あの時みたいに、瑠璃ちゃんの居場所を探して欲しい…」
「おい、梨生奈!この期に及んで、モニークの『勘』に頼るのかよ!?」
「だから…『勘』なんかじゃないと思うの!それを、今、教えて欲しいのよ!」
梨生奈は、じっとモニークを見据える。
モニークは、しばらく梨生奈と目を合わせると…背負ってきたリュックから、地図を取り出した。
そして、フローリングの床に、その地図を広げる。
ここ、原村の地図だ。
215投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月22日(月)19時21分18秒
「この地図が、どうかしたの?」
「今、その答えを教えてあげるよ…」
モニークは、首から提げているペンダントを外す。
琥珀色に輝くガーネットのペンダント…モニークの誕生石だ。
1月11日…。誕生日といっても、モニークが人工羊水に満たされた水槽から外に出た日…。
そのペンダントを、地図の上から5センチ程浮かせ、ゆっくりと移動させる。
「な、何をやっているの…?」
「ダウジング…」
「ダウジング?何だ?そりゃ?」
「これはね…井戸を掘る時の地下水脈とか、埋蔵金とか金脈を見つける時に使う、古くから伝わる探索方さ」
「探索…?」
「こうやって、地図の上に振り子をかざすと、ある地点上で激しく動く。その場所に瑠璃はいる…!」
「お、おい…!まさか、それで、この間も2人の居場所を?」
「ああ…。その通りさ」
「ふざけんな!占いじゃねぇか!!」
思わず、羅夢はモニークを怒鳴った。
216投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月22日(月)19時22分02秒
「待って、羅夢…!でも、現に、モニークはこの方法で千秋君と瑠璃ちゃんを見つけたんでしょ?」
「そう…。ダウジングは占いじゃないよ。でも、科学的には裏付けが取れてないから…説得力ってものはない。でも、羅夢は直感も大切だって言ったろ?」
「む…」
羅夢は、不愉快そうに押し黙った。
代わりに梨生奈が口を開く。
「そ、そのダウジングって…『TTK』で訓練を?」
「いや…。ここ一年で身につけたんだ。絶滅危惧種の動物の居場所とか、探索する手段としてね…」
「で、どれくらいの確率で見つかるんだよ?それ…」
「う〜ん…。動き回るものに対しては、精度はかなり落ちる。この前は、千秋君や瑠璃ちゃんは、監禁されてたわけだから、見つけやすかった」
「じゃ、じゃあ、今は?」
「もし、自由に移動できる状態…または、移動させられているんだったら…あまり期待しないでくれよ…」
「ここ、原村から出てったかも知れねぇじゃん!」
「その時は、長野県全体…いや、日本全体の地図から探っていけばいいんだけど…」
「あんまり、時間はかけてられないわよ…?」
「し…!黙って…!」
ガーネットのペンダントは、激しく旋回し始めた。
217投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月22日(月)19時22分14秒
「モニーク!?」
「ここだ…!瑠璃は、ここにいる!!」
ペンダントの下…山間部の廃校だ…。
あの、安田大サーカスがカモフラージュの為に、巨大トレーラーと、檻、そしてチンパンジーやオランウータンを放り出した、あの廃校である。
最新版の地図だから、はっきりと記されていないのだが、確かにその地点にはその廃校がある場所だ。
「そこに…瑠璃ちゃんがいるのね?」
「確率は…70%…」
「70?何でだよ!?」
「振り子の動きが遅い…。この間は90%の動きだったから…それに比べてね…」
「とにかく、行ってみようよ!!」
梨生奈と羅夢は、自分の部屋に駆け込んだ。
218投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月22日(月)19時22分49秒
梨生奈と羅夢は、もう、すっかり帰り仕度を終えたスーツケースから、再び武器と戦闘服を引っ張り出した。
今回も、何者かが瑠璃の失踪に絡んでいる可能性がある。
戦闘となる場合は、十分有り得る。
梨生奈は、緑地に黒いラインのトラックスーツに身を包み、トンファーを腰のベルトのホルスターに差し込む。
羅夢は、赤地に黒いラインのトラックスーツに身を包み、ヌンチャクを首に掛ける。
2人は、お互いの拳をコツンと合わせると、ドアを開ける。
そこにはモニークが立っていた。
219投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月22日(月)19時23分00秒
「私は、ここに残るよ」
「どうして?できれば、モニークにも来てもらった方が…」
「さっきのダウジング…この前程、確証が持てないんだ…。また試してみるから、もし、別の場所の可能性が出てきたら、連絡するよ。その為には、私はここに残った方がいい…」
「そうね…。その、ダウジングという能力を持っているモニークは、司令塔の役目をしてもらった方がいいかも…」
「ああ!!戦闘だったら、アタイ達だけで充分だよ!!」
「まだ、戦闘になるって決まったわけじゃないわよ、羅夢…。じゃあ、モニーク…お願いね…」
「ああ…!2人とも、瑠璃を頼む…!」
梨生奈と羅夢は、下へと降りる。
素直にフロントのカウンターに座っていた、千秋は、戦闘服姿の2人を見るなり駆け寄ってきた。
「梨生奈ちゃん、羅夢ちゃん…!探しに行くの?」
「うん…。人を探すの、私達の本業だから…任せて!」
梨生奈は、明るく振舞った。
これ以上、千秋を心配させてはいけない。
梨生奈は、千秋の手を強く握った。
「…梨生奈…。急ごうぜ!」
羅夢は、素っ気無く言うと、一人で先に、『ハセヤンズハウス』から出て行った。
220投稿者:
リリー
投稿日:2008年09月22日(月)19時24分28秒
少しと言いながらも、結構な量を更新してしまいました
これから、毎回前回分の乗っているアドレスを貼ります
http://221.254.11.166/log/tentele/070923205005a.html
では、おちます
221投稿者:
あいがとうございました!!
投稿日:2008年09月22日(月)19時25分08秒
感謝です!!
222投稿者:
あげ
投稿日:2008年09月22日(月)19時32分39秒
223投稿者:
あ
投稿日:2008年09月22日(月)19時43分10秒
224投稿者:
あげ
投稿日:2008年09月24日(水)02時26分34秒
225投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)02時40分44秒
長い間放置してましたが、続きを更新します
どうもすみませんでした
一気に多く更新したいと思います
226投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)02時42分04秒
「待って!羅夢!」
50メートル程、先を走っている羅夢に、梨生奈は追いつく。
「羅夢…。あんまり、ヌンチャクは目立たせないようにね」
「あん?」
「あの時は、早朝だったからよかったけど…今はもう10時なんだから…人もいるし…」
「そうだな…。アタイのような可愛い女の子が、ヌンチャク持ってるってのは、確かに奇妙だよな…」
羅夢は、ヌンチャクを首から降ろすと、トラックスーツのパンツの後ろに挟んだ。
227投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)02時42分15秒
2人は、100メートルを10秒で走るペースで、駆け込みながら、会話を交わす。
「さてと…。あの、モニークのダウジング…どう思う?」
「アタイは、あんまり信用してないよ!」
「それは、私もだけど…。でも、他に手掛かりがない以上、あの廃校に行ってみるしかないわね」
「なぁ…梨生奈…」
「何?」
「さっき、おまえ、モニークに突っ込んだろ?『るりるり』と言わずに、『瑠璃』と呼んだって…」
「ええ…。そうだけど?」
「アタイ、あの時も気がついたんだよね」
「気がついたって?」
「モニークが瑠璃ちゃんを殴った時…。あの時も『瑠璃』って呼んだ」
「それは…咄嗟に口から出たんじゃないの?『るりるり』って言い難いって言ってたから…」
「そうだけど…。瑠璃ちゃんも呼び方が違ってたんだ」
「瑠璃ちゃんも?」
「ああ…。あの時…『モニーク先生』って…。『モニクロ先生』って普段は呼んでるのに…」
228投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)02時42分38秒
「羅夢…。あなた、やけにこだわるのね。モニークが瑠璃ちゃんを殴ったこと…」
「ああ…。だって、モニークらしくないだろ?あいつが体罰って…。デカアリじゃないんだぜ?」
「そうね…。モニークは暴力は振るわない…内に秘めた恐怖ってのを感じるんだけど…。私も初めて見たわ。モニークが人を殴るなんて…」
もっとも、モニークが『人を殺す』場面は、何度も見てきてはいるが…。
「アタイはね…そいつが普段やらないようなことをやりだすと…どうも疑ってかかっちまうんだよね…」
「とにかく…あの廃校に急ごう…!もし、そこに瑠璃ちゃんがいたら、今思っている疑念は解消されるでしょう…」
「瑠璃ちゃんがいたら…。生きている状態ならいいけどよ…」
梨生奈は立ち止まる。
「羅夢…!そ、そんなこと…」
「何だよ?あらゆる場合の想定をしておくのも、大切だろ?」
「そ、そうだけど…!」
「今は、千秋君がいないんだ!別に気を遣うこたぁ、ねぇだろ?」
「でも…今まで一緒にいたんだよ…?瑠璃ちゃん…。そんなこと、平然と言うなんて…」
「平然?アタイ、今、平然と言ってたか?」
「羅夢…」
「へへ…。こりゃ、いよいよ、裏の世界復帰かな…?」
「ら、羅夢…!それも…それも言わないで!!約束したでしょ?私が表の世界につなぎとめてあげるって…!」
「でもな…もし、瑠璃ちゃんが無事でなかったら…モニークじゃねぇけど、アタイもどうなるかわかんねぇ…」
「大丈夫…!大丈夫よ!そうやって、瑠璃ちゃんのことで熱くなれるなんて…。『TTK』にいた頃の羅夢は、そんなんじゃなかったから…」
梨生奈は、羅夢の肩を強く掴むと、真っ直ぐに羅夢の目を見詰めた。
229投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)02時42分55秒
「熱く…か…」
「そう、人のことで熱くなれるなんて…昔のあなたと、今のあなたは全然違うわ!」
「へへ…。今の梨生奈も…結構、熱いよな…」
「え…?」
「梨生奈、そんなに熱いヤツじゃなかったよ。いつも、一歩退いた感じだったじゃん。アタイが自暴自棄になっても、『頭を冷やしなさい』としか言わなかったのに…」
「そ、そう?」
「そうだよ!自分じゃわからないかも知れないけどよ…。むしろ、さっきの、瑠璃ちゃんが死んでるかもしれないって言葉…梨生奈が言うような言葉だったろ?」
「…う…」
確かにそうだ。頭の中では考えてたことだが、口に出すのは恐かった。
これは…自分が弱くなっているのか…?やはり…。
「も…もしかしたら…モニークが瑠璃ちゃんを殴ったのも…あの人なりに変ってきているかもしれないわよ…?」
「うん…。そうかもな…」
「だから、あんまり考えすぎるのはよしましょう。今は、あの廃校に急ぐことが先決!」
「ああ、行こうぜ!」
2人は、また走り始めるが、梨生奈の携帯が震えたので、また足を止める。
「誰からだ?」
「その、モニークから…」
梨生奈は、携帯に出る。
230投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)02時43分30秒
「どうしたの?モニーク?」
〔ああ、梨生奈…。あれからまたダウジングしてみたんだけど…〕
「うん。それで?」
〔もう一つ、候補ができたんだ〕
「え!?もう一つ?」
〔ああ。メルヘン街道の展望台付近なんだけど…〕
「メルヘン街道?全然方向が違うじゃない!!」
梨生奈は、思わず感情的に叫んだ。
231投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)02時43分42秒
〔そうだけど…。五分五分なんだ。でも、この二つのうち、どちらか絶対に瑠璃はいるよ!〕
「それは、確かなの?」
〔ああ…〕
「羅夢、聞こえてた?」
「聞いたよ。ま、ダウジングだか何だか知らねぇが、いい加減なもんだってのはわかったよ」
「私達も2人いる…。ここは、二手に別れるしかないわね…」
「ああ…。そうだな…」
「羅夢、どうする?どっちに行く?」
「アタイは、このまま廃校の方に行くよ!」
「わかった。メルヘン街道は、私が向かうわ。もしもし、モニーク?」
〔ああ、聞こえてたよ〕
「じゃあ、私達、急ぐわね」
〔梨生奈…!瑠璃をお願い…!羅夢にもそう伝えて…〕
「おまえに言われる間でもねぇ!!」
羅夢は、携帯の向こうのモニークに対して大声で答えた。
232投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)02時44分17秒
電話を切った梨生奈だが、心配そうに羅夢を見詰める。
「何だよ?梨生奈…。その面はよ!」
「羅夢…。大丈夫?私が側についていなくて…」
「ああ!?なめてんのかよ!このアタイを…!」
「だって、昨日、お風呂で…」
「ああ…アレか…」
羅夢は、顔をしかめて頭を掻く。
「アレは…その…忘れてくれ…!」
「忘れろ?」
「ああ…。不安定だったんだよ…!アタイも…」
「本当に、大丈夫なの?」
「大丈夫だよ!!アタイは…表の世界で生きる…!だから…アタイの心配は、もういいから…」
「羅夢…」
「自分のことに集中しな!梨生奈、おまえ、確実に弱くなってるんだから!」
「…う…」
梨生奈は、返す言葉がなかった。
そう…自分こそ、しっかりしなければ…。
233投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)02時44分40秒
「わかったわ…。じゃあ、ここで二手に別れましょう…。気をつけてね、羅夢…」
「そっちこそ…」
2人は、クルリと背中を向けると、それぞれの目的地へと急ぐ。
梨生奈は、立ち止まり、羅夢の背中を見送る。
羅夢の背中が、一瞬かすんで見えた。
「羅夢!」
言い知れぬ不安感が込み上げ、梨生奈は叫んだ。
羅夢は、振り向くことなく、右腕を高く突き上げて大きく振った。
234投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)02時44分58秒
梨生奈と羅夢が、二手に別れてから約一時間…。
もう既に、警察が捜索から撤収した廃校に、羅夢は到着した。
モニークの電話があった地点からだと、こちらの方が早く着く。
梨生奈に長い距離を走らせるのは悪かったが、羅夢は何とか、自分の手で瑠璃を救い出したかった。
モニークは、どちらにいるかは五分五分だと言っていたが、現場に着くのは早い方がいい。
捜索も、あるいは戦闘も早くできるからだ。
瑠璃を救い出すことで、動物達を殺してしまった罪を拭いたい…羅夢はそう思っていた。
当然ながら誰もいない運動場を横切る羅夢。
校舎は木造二階建てで、二棟ある。
そして、木造の講堂に鉄筋の体育館。
体育館だけはやけに新しい。
建て替えたばかりで、廃校が決定したのか?
相変わらず、どこの自治体も無駄な税金の使い方をする。
羅夢は、あの放棄されたダムのことも頭に思い浮かべた。
そして、当然、あの場所で殺してしまった動物のことも…。
羅夢は頭を横に振った。
自責の念もあるのだが、羅夢にはもう一つ懸念することがある。
瑠璃をさらった犯人を前に…果たして冷静にいられるのかどうか…。
その時は、梨生奈の顔を思い出そう…。
梨生奈の言葉も…。
それは、羅夢に冷静な判断と、勇気を与えてくれるハズだ…。
235投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)02時45分19秒
羅夢は、梨生奈に携帯を掛ける。
〔もしもし、『ライトニング・ボルト』?〕
「『ムーン・ライト』…。今、アタイは廃校に到着したよ」
〔随分、早いわね?〕
「そっちは?」
〔今、メルヘン街道脇を走っているから…展望台に着くのは、あと30分ってとこ…〕
「ふ〜ん…そっちは随分のんびりしてんな?」
〔あなたが早すぎるのよ!無理してない?オーバーワークしてない?〕
「してねぇよ…」
そう言う羅夢は、滝のように汗を掻いているし、喉もカラカラだった。
「じゃ、一足先に捜索を始めるよ」
〔うん、じゃあ、気をつけてね。『ライトニング・ボルト』…〕
「梨生奈…」
〔………。電話や通信の時は、コードネームで呼び合うルールよ…〕
「呼んでくれよ…。アタイの名前…。コードネームなんかじゃなく…」
〔………。がんばってね、羅夢…。あなたは、大丈夫だから…〕
「うん…。そっちこそがんばれよ、梨生奈…」
〔じゃあね…〕
「ああ…」
羅夢は携帯を切って仕舞うと、ヌンチャクを首から掛けた。
236投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)02時45分40秒
羅夢は、まず、体育館から捜索する。
当然、鋼鉄の扉は内側から鍵が掛かっているので、ステージ側のアルミ製のドアの方へ向かう。
今は一人なので、この間の発電所みたいに、ドアノブをヌンチャクで叩き壊してはいけない。
リストバンドから、短い針金を取り出すと、それを鍵穴に入れる。
2、3秒でドアは開いた。
「甜歌のヤツは10秒以上かかるくせに、よくもまあ、ピッキングが特技なんて言えたもんだぜ!」
今は受験勉強に専念しているだろう、橋本甜歌の顔を思い浮かべる。
「ま、アイツは探偵に向いてないから…勉強をがんばった方がいいだろうな…」
羅夢は足音を立てることなく、体育館に侵入する。
ステージ裏から、階段を上る。
そして、放送ブースを覗き込んだ。
埃の被った放送機器が見えるだけで、人の気配はない。
そのまま、二階に出て鉄柵から下を見下ろす。
小さな山間の学校なので、バスケットコートが一面だけの、狭い体育館。
羅夢達の通う、有名なお嬢様学校の聖テレジア女子学園の体育館と比べれば、随分と狭い。
「恵まれた環境で、アタイ達は教育を受けてんだな…。アタイも勉強しなきゃね…」
そう独り言を言って、羅夢は階段を降りる。
237投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)02時45分58秒
一応、倉庫やトイレを調べるが、どうやら体育館には瑠璃はいないようだ。
「さてと…。ここはそんなに広い敷地の学校じゃないけど…さすがにアタイ一人で探すとなると骨が折れそうだね…」
誰もいないことを確認したので、声のボリュームが少し大きくなる。
羅夢は、入ってきた反対側の方向の、鉄製の扉の錠を内側から開ける。
そして、すっかり錆び付いて重くなった扉を、全体重をかけて開く。
羅夢は体育館と講堂の間の中庭に出た。
「………!!!」
そこで…羅夢は、一気に汗が退いた。
そして、次の瞬間、どっと汗を噴き出させる…。
講堂の真横に、大きなクスノキが立っている。
その、大きく突き出た枝の先に…誰かが…ぶら下がっていた。
いや、ぶら下がっているのではない…。
吊り下げられているのだ…。
まるで、絞首刑にあった罪人のように…ロープを首にかけ、吊り下げられているのだ…。
身体は小さい…。
身長は、130センチ以下…。
着ている物は…薄手のパジャマ…。
そのシルエットは、羅夢のよく知っている者だった…。
「うわあああ〜〜〜!!!」
羅夢は絶叫した。
そして、夢中で駆け出した。
238投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)02時46分18秒
一体、いつから吊るされている?
1分以内なら、充分蘇生は可能だ!
そういう訓練だって、『TTK』で受けてきたんだ!!
いや…そんな都合のいい考え方があるか!
どう考えたって、吊るされてから相当の時間が経っている…!
もし、殺されていたら…?
あらゆる状況を想定することも大切だ…と、梨生奈に説教をした。
しかし…自分は果たしてできていたのか?
本当に、こういう状況を覚悟していたのか?
…できてはいなかった…。
この、無様な取り乱し様が証明している。
もしかしたら、犯人が近くにいるかもしれない…!
こんなに大声を上げたら、その犯人を逃がしてしまうかもしれない。
それでも、羅夢は叫んだ。
憤怒と悲哀と錯乱の叫びを…。
そして、凄まじい殺意…。
羅夢は思った…。
自分は、瑠璃を殺した犯人を…殺すことになる…と…。
239投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)02時47分03秒
「瑠璃〜〜〜!!!」
羅夢は、瑠璃が吊り下げられているクスノキまで、あと10メートルという地点で、自分の武器…ヌンチャクを投げつけた。
ヌンチャクは回転をしながら、瑠璃の吊るされている枝を叩き折った。
瑠璃の身体は、垂直に落ちていく。
犯人が近くで潜んでいるかもしれないのに、武器を投げてしまった…。
しかし、一秒でも早く、瑠璃を地上に降ろしてやりたかった。
こんな、晒し者にされているような状態から、瑠璃を開放してやりたかったのだ。
いや、むしろ…犯人相手に武器など使う気はない…!
自らの手で、足で…犯人を打ちのめし、粉々に砕き、バラバラに引き裂いて、苦しみ悶えさせながら、ゆっくりとあの世に送ってやる…!
あの、哀れなサーカスの動物達のように、即死などさせてやるものか!!
240投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)02時47分18秒
うつ伏せで倒れている瑠璃の側に羅夢は滑り込んで、瑠璃の身体を抱き起こす。
「瑠璃ちゃん!瑠璃ちゃん!!」
………?
何だ…?これは…?
それは…瑠璃ではなかった…。
いや、それ以前に『人間』ではなかった…。
「に、人形…?」
マネキン人形だ…。
デパートの子供服売り場に置いてあるような…典型的な、子供のマネキンだった…。
顔に…大きな穴が空いている…。
落ちた時の衝撃で、破損したのだろうか…?
そのマネキンに、瑠璃のパジャマが着せられているのだ…。
241投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)02時48分12秒
「な…何だよ…コレ…」
羅夢は、呆然となった。
何故、犯人はこんなことを…?
本当に、気が動転していたのだろうか…?
マネキンであることに、気がつかなかった。
「で…でも…!これで、ここに瑠璃ちゃんがいる…!瑠璃ちゃんは、まだ生きている…?」
羅夢は、携帯を取り出した。
そして、電話帳リストから『ムーン・ライト』を引っ張り出すと、通話ボタンを押す。
その瞬間…。
242投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)02時48分25秒
バチバチバチ…!!
耳をつんざく様な破裂音…?
そして、全身を駆け巡る痛み…?
羅夢は、そのまま前のめりに倒れた。
「ぐ…ふ…」
羅夢は、しばらく呼吸ができなかった。
「か…は…はぁ…!」
羅夢はまず、息を吐いた。
砂が舞い上がり、口や目に入る。
羅夢はパニックになった。
(な、何だ…?アタイ…撃たれたのか?拳銃か…?)
いや…銃声は聞こえなかった。
バチバチバチ…。バチバチバチ…。
また、あの音だ…。
243投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)02時48分46秒
何を…何をされたのだ…?自分は…。
こんな単純な罠に掛かってしまうなんて…。
気配でわかる…。
犯人が、自分のすぐ隣に立っている。
地面を這いつくばっている自分を、見下ろしている…!
〔もしもし?『ライトニング・ボルト』?もしもし?〕
携帯から、梨生奈の声…。
「り…梨生奈…」
声が出ない。
何とかして、この事態を梨生奈に伝えなければ…。
しかし、その通話は犯人によって切られてしまった。
携帯を奪われた…。
とにかく、このままではヤバイ…。
「う…く…くぅ…」
羅夢は、少しずつ這って、犯人から逃れようとする。
身体が自由に動かない…!
244投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)02時49分08秒
「ち、ち、ち…ちくしょう…!!」
殺気は衰えていない。
いや、むしろ倍増している。
なのに、それを行動で表すことができない…!
目の前に、自分の専用武器、ヌンチャクが転がっている。
羅夢は、ヌンチャクに手を伸ばす。
「う…ぐ…ぐぅ…」
絶対に許さない!
絶対に負けるわけにはいかない!
この犯人を…絶対に…!
まず、犯人の顔を見なければ…!
バチバチバチ…!
またもや、羅夢の身体に激痛が走った。
「あ…ぐ…」
羅夢の意識は、暗闇の底へと落ちていく…。
245投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)02時49分34秒
梨生奈は、また懐で震える携帯を取り出した。
送信主は、『ライトニング・ボルト』…羅夢である。
さっき、羅夢からの電話から10分足らずだ。
もしかして、瑠璃が見つかったのか、それとも、何か手掛かりを見つけたのか…。
梨生奈は、すぐさま電話に出る。
「もしもし?『ライトニング・ボルト』?」
しかし、携帯から羅夢の声が聞こえない。
「………?」
確かに羅夢からの電話だ。
どうしたのだろう?そちらから掛けてきたのではないのか?
すると、羅夢の声の代わりに、奇妙な音が聞こえてきた。
〔バチバチバチ…!バチバチバチ…!〕
「…!?」
何だ…?この音は…?
この音は、羅夢が立てているのか?
羅夢は…羅夢は何をやっているのだ?
「もしもし?『ライトニング・ボルト』?もしもし?」
プッ…。
電話が切れた。
246投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)02時50分34秒
「羅夢!?」
今度は、梨生奈から羅夢へ、電話を掛ける。
〔ただ今、お掛けになった電話は、電源を切っているか、電波の届かない場所にいるため、掛かりません…〕
つながらない…?
梨生奈は、言い知れぬ不安を感じた。
そして、すぐにモニークに電話を掛けた。
〔もしもし、梨生奈?〕
モニークはすぐに電話に出る。
「モニーク!今、羅夢から電話があったんだけど…何か、様子がおかしい!!」
〔…え?〕
「電話に出ても、何も言わないの!それで、変な音が…」
〔変な音?どんな?〕
「ど…どんなって…。何か…バチバチって…」
〔他には?〕
「それで切れたわ!その直後に電話を掛けたら、つながらないのよ!!」
〔梨生奈、あんたは今、どこにいるの?〕
「もう少しで、メルヘン街道の展望台に着くんだけど…私、今から羅夢の行っている廃校に向かうわ!!」
247投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)02時50分46秒
〔ちょ、ちょっと待って!だったら、今から私が廃校に向かうよ!私が行った方が早いから!無断だけど、ハセヤンの車を借りることにする!〕
「そ、それでも、私は…」
〔梨生奈、あんたはそのまま展望台に向かいな!〕
「え!?で、でも…」
〔瑠璃のこととは関係ないかもしれない…!未だに私のダウジングでは、確率は五分五分なんだ!〕
「わ…わかった…。羅夢を…羅夢をお願い…!」
梨生奈は電話を切ると、不安で胸を押し潰されそうになりながら、展望台へと一目散に駆けて行く。
248投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)02時51分18秒
梨生奈は展望台に到着する。
廃校に比べれば、敷地は狭い。
緑色のトラックスーツにトンファーを提げた少女の姿に、観光客は面食らったが、梨生奈は構わず展望台を駆け登る。
「無駄よ…。ここには…瑠璃ちゃんはいない…」
息をつきながら、梨生奈は呟く。
「絶対に…絶対に、羅夢の行った方に…何かがあったのよ…!!」
自分が廃校に向かえば良かった…。
梨生奈は悔いたが、それこそ、後の祭り…まさに後悔だ。
梨生奈は、モニークに電話を掛ける。
249投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)02時51分42秒
「もしもし!!モニーク!!」
〔梨生奈?〕
「今、どこにいるの?」
〔まだ、廃校に向かっている途中だよ〕
「遅い!!何してるの!!」
〔いくら何でも、まだ無理だよ!梨生奈、そっちはどう?〕
「無駄よ!ここにはいない!」
〔もっと、丁寧に探してみて!〕
「モニーク!その、ダウジングって、どこまで信用できるのよ!!」
〔だから…今回に限っては五分五分なんだって!〕
「五分五分じゃ、探す価値はない!私も、すぐにそっちに向かう!」
〔冷静になりなよ?梨生奈!!こっちは私に任せて、あんたは展望台を隈なく探すんだ!もし、そっちに瑠璃がいたらどうする?〕
モニークの言うことももっともだ…。能率的だし、合理的だ…。しかし…。
250投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)02時52分07秒
「モニーク…。私は…今まで…ずっと…羅夢と一緒に過ごしてきたの…。羅夢のことが…本当に…心配なの…」
〔私も瑠璃のことが、死ぬほど心配なんだよ…。でも、あんたを信じて任せてるんだ…!私のことも、信じて欲しい…〕
「うん…。そうだけど…」
〔いいね?梨生奈は、今、自分ができることをしっかりとやりな!じゃあ、運転中だから、もう切るよ?〕
「あ…!モニーク!!」
〔何?〕
「羅夢を…お願い…」
〔梨生奈も…瑠璃を、お願い〕
電話は切られた。
梨生奈は気を取り直して、展望台の捜索に移る。
もしかしたら、瑠璃がここに監禁されているかもしれない…。
二手に別れた方が、確かに合理的だ…。
合理的…?
そもそも、梨生奈と羅夢が二手に別れたのは、モニークのダウジングの結果だ。
ダウジングの科学的な根拠は、未だ見つかっていない。
「合理的?…何が合理的なのよ!!」
梨生奈は、再び怒りを爆発させた。
その後、3時間にわたる捜索の結果…展望台に瑠璃の痕跡を見つけることはできなかった。
そして…廃校に向かったモニークの方も…瑠璃はおろか、羅夢の姿も見つけることはなかった。
瑠璃に続いて…羅夢も姿を消してしまった…。
251投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)02時54分00秒
それでは、そろそろおちます
http://221.254.11.166/log/tentele/070923205005a.html
252投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)21時07分45秒
更新します
253投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)21時09分21秒
梨生奈は、すっかり疲れ果てて『ハセヤンズハウス』に戻って来た。
瑠璃を見つけることもできず、更に最愛のパートナー、羅夢まで失ってしまったのだ。
梨生奈が帰ってくる頃には、既にハセヤン達も戻ってきていて、なかなか帰らない梨生奈と羅夢を心配していた。
そして、羅夢までも帰ってこないとなると、これはいよいよ少女ばかりを狙った変質者の犯行ではないか、と警察も捜索を開始した。
ハセヤンは、羅夢が行方不明になったことに対する謝罪の為に、吉田の病院へ向かった。
梨生奈は、本当にハセヤンに申し訳なかった。
ハセヤンは、未だに梨生奈と羅夢と吉田が家族だと思っている。
さすがに、吉田もハセヤンに事情を話すだろう。
ここは、吉田に任せよう…。
梨生奈は疲れていた。
心配する千秋に、力の無い笑顔を見せると、真っ直ぐに自分の部屋に戻って行った。
ドアを開けると…そこには、モニークがいた…。
「お帰り…。梨生奈…」
「…モニーク…」
数秒、モニークを見詰める梨生奈。
目の焦点は合っていない。
一歩、二歩、ゆっくりとモニークに歩み寄る。
「梨生奈…。羅夢のことは…」
モニークの言葉が終わらないうちに、何と梨生奈は、拳で思いっきり彼女を殴りつけた。
254投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)21時09分49秒
「…ぐ…!」
モニークは、ベッドの上に、大の字に倒れ込む。
梨生奈は、モニークの上に跨ると、襟首を乱暴に掴んで叫んだ。
「モニーク!!あんたのせいよ!!あんたの!!何で、展望台に行けなんて言ったのよ!!」
梨生奈が激しく揺する為、モニークの頭は、ガクガクと上下する。
「私達、2人で廃校に行けば、こんなことには…!羅夢がさらわれることなんかなかったのにぃ!!」
モニークの頭は、ベッドに叩き付けられる。
「何がダウジングよ!!あんな、インチキ!!あんたの言うことなんか、聞かなきゃよかった!!」
叫び続ける梨生奈。
そして、今まで無抵抗だったモニークは、ようやく梨生奈の腕を掴み、口を開いた。
「…梨生奈…。私は…本当に申し訳ないって思ってる…」
「申し訳ない?思ってる?何よ、それ!!そんなこと言われたって、羅夢は戻ってこないよ!!」
尚も興奮する梨生奈…モニークは、一瞬の隙を突き、梨生奈の腕を捻って起き上がると、そのまま体勢を逆転させる。
今度は、梨生奈がベッドに押し付けられる恰好になる。
「落ち着け…。梨生奈…」
「ぐ…!こ、これが、落ち着いてなんて…」
「それでも、落ち着くんだ…」
梨生奈は、どう逆立ちしたってモニークに敵わないことはわかっている。
しかし、このやり場のない怒りを、モニークに向けて発散しなければ、自分がどうにかなってしまいそうだった。
255投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)21時10分08秒
「放して!!放してよ!!モニーク!!」
「放したら、大人しくするかい?」
「するわけ、ないでしょ!?また、あんたをぶん殴ってやるんだから!!」
「羅夢がいなくなったからって…あんたまでそんなキャラになることないんだよ?」
「うるさい!!放せ!!」
「しょうがないね…」
モニークは、梨生奈の腕を放した。
「…!!」
梨生奈は、身体を反転させて跳ね起きると、再び拳をモニークに叩き込む。
しかし、モニークの顔は、梨生奈の拳を避ける。
そして、そのまま梨生奈の顔へ…。
頭突きが来る…!
梨生奈は、目を瞑って額を出す。
しかし、モニークが梨生奈にしたことは…頭突きではなかった…。
それは、優しい…そして深いキスだった。
「………!」
梨生奈の全身の力が抜けた。
モニークの唇は、ゆっくりと、梨生奈の唇から離れる。
「どう…?少しは落ち着いた?」
256投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)21時12分32秒
梨生奈は、しばらくは、ぼうっとしていたが、二三度瞬きをすると、ようやく自分がモニークに何をされたのか理解した。
「な、何をするの…」
身構える梨生奈に、再びキスをするモニーク。
そして、そのまま梨生奈の細い身体を抱きしめる。
梨生奈は、力なく、モニークに全身を預けてしまう。
モニークは、そっと梨生奈をベッドに横たわらせる。
梨生奈は、呆然と天上を見上げている。
トラックスーツの前を開ける。
アンダーウェアーを引き上げると、僅かに尖った胸がさらされる。
257投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)21時12分47秒
「…あ!」
「いいから…」
モニークの掌は、優しくゆっくりと、梨生奈の胸を撫でる。
モニークの掌は暖かかった…。
それだけでも、梨生奈の心は落ち着いていった。
「このままでいいから、聞きな…」
モニークは、梨生奈の耳元で囁いた。
「瑠璃がさらわれるのは、仕方が無い…。だって、普通の、無力な、小さな女の子だ…。でも…」
「で…でも…?」
「羅夢がさらわれたってのは…納得いくかい?」
「…え?」
「あいつは、元『TTK』の『戦士』だよ?戦闘と殺人術のスペシャリストじゃないか…。その、羅夢を拉致できるヤツって…この世の中にどれだけいる?」
そう…羅夢だって、訓練を受けた『戦士』…。
その羅夢が、むざむざと拉致されるなんて…『普通』ではない…!
258投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)21時14分09秒
「そ、そうよ!だとすると、犯人は…」
「寝ていなよ…」
梨生奈は身体を起こしかけたが、モニークに制され、またベッドに横にされる。
「おまえは、今、頭の中を冷やして…そして、空っぽにして私の話を聞くんだ…」
モニークの指は、疲れきった梨生奈の身体を優しく擦る。
そして、梨生奈の額にそっとキスをすると、話しを進める。
「犯人は…少女趣味の変態なんかじゃない…。私達、『TTK』の『戦士』級の裏の人間だ…」
259投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)21時14分36秒
「そ、それは…誰…?まさか、私達の他に…まだ『戦士』がこの村に…?」
「いや…それはないね…。確率から考えなよ…。世界中に散らばった『TTK』の『戦士』は見習いも含めて50人…。それ等がこの小さな村に居合わせるなんて…」
「わ、私達は出会ったわ…」
「だから…それがもう、奇跡なんだって…」
「羅夢は…あなたを疑ってたけど…」
「でも、羅夢が姿を消した時には、私はここにいたよ?千秋君に証言させようか?」
「う…うん…そ、そうだけど…」
「だから、もう、横道に逸れるのはやめな…」
「し、しかし、『TTK』の『戦士』でもない者が…『戦士』の羅夢を拉致するなんて…できるの…?」
「世の中は広いよ…。とんでもないバケモノが、裏の世界で蠢いている…」
「バ、バケモノ…?」
「で、私は、一つの推理に思い当たったんだけど…」
「え…!?き、聞かせて…!その、推理ってやつを…!」
梨生奈は、また身体を起こす。
「だから…横になって、身体を楽にしてな…」
再び、梨生奈はベッドに背中を着ける。
260投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)21時14分58秒
「あんたが、携帯で聞いた、変な音のことだけど…」
「え…?」
「どんな音だったっけ?」
「だから…バチバチって…弾けるような音だったわ…」
「う〜ん…。私、生でその音を聞いたことないんだけど…それって、多分…スタンガンの音だと思う…」
「スタンガン?る、瑠璃ちゃんの持ってた?」
「瑠璃の物かどうかは、わからないよ?で…話しは飛ぶけど…犯人は瑠璃と羅夢の2人を拉致してる…」
「う…うん…」
「まったく、つながりのない二人だ…。つい、最近知り合いになった…ペンションで出会った者ってだけ…。はっきり言って、無関係な2人…」
「…?ど、どういうこと?」
「ねえ、梨生奈…。犯人は、瑠璃と羅夢…どっちが本命で狙ったんだろうね…?」
「そ…それは…瑠璃ちゃんでしょ?私達、元『戦士』を狙う為に、瑠璃ちゃんを拉致して誘き寄せたとしても、それはあまり頭の良い作戦だとは思えない…」
「ああ…。回りくどいよね…。私も瑠璃が本命だと思うんだよ…。でも、あんたや羅夢が瑠璃ちゃんを探し始めたから…」
「私達も標的に…?」
「でもねぇ…あんたや羅夢は、『ついで』で拉致できるタマじゃないよね…。それでも、拉致できてしまった…」
「モニーク…話しが見えない…」
「瑠璃にスタンガンを渡したのって…誰だっけ?」
「………あ…!瑠璃ちゃんの…お母さん…?」
「そう…。瑠璃の母親に関しては、不可解な事ばかりだ…!」
わずか5歳の瑠璃を、渋谷のど真ん中に置き去りにして、護身用にスタンガンを持たせた…あの、とんでもない母親…。
そう…。瑠璃の母親は…充分、『普通』ではないのだ…。
261投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)21時15分30秒
「何者なんだろうね…。瑠璃の母親って…」
「も、もしかして…犯人は…瑠璃ちゃんのお母さん…?」
「瑠璃は深夜、誰かに会いに部屋を抜け出た…。もし、人知れず、その母親が瑠璃にコンタクトを取っていたとしたら…?」
「そ、その母親が…裏の世界の…モニークが言うところのバケモノだったら…。羅夢をいとも簡単に拉致できてしまうくらいの…」
「可能性はあるだろ?私、明日にでも…いや、すぐにでも、瑠璃の母親に関して調査してみようと思うんだ…」
「だ、だったら、私も…」
「あんたは、もう、今日は休みな!」
「そ、そんなこと…」
「別に、あんたに楽をさせてやろうって話しじゃないよ!ただ、次の日、あんたが全力で捜索できるように、休息が必要だって言ってるんだ」
「わ…わたしは…平気よ…!」
「平気なもんか…!まず、身体を休め、気持ちを落ち着かせな」
「で、でも…!今頃、瑠璃ちゃんや羅夢が、どんな目に遭っているのか…!ゆっくり休んでなんか、いられない!」
「だから…私がこうやってやんなきゃ、ならないんだよ…。どうせ、あんた一人にすると、眠れやしないんだから…」
262投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)21時15分48秒
モニークは、梨生奈のトラックスーツのパンツのホックを外し、ファスナーを降ろす。
そして、パンツの中に、手を入れる。
「あ…!ダ、ダメ…」
梨生奈は、モニークの腕を掴んだ。
「今日はもう…何も考えるな…」
「だ、だって…!今、こんなことしてる場合じゃ…」
モニークは、トラックスーツとパンティを同時に降ろした。
「あ…」
「大人しくしてな…。私をぶん殴っておいて、更にこんなサービス受けられるなんて…有り得ないことだよ?」
胸から下腹部まで、裸にされる梨生奈。
モニークは、細い梨生奈の腰周りに、軽くキスをしていく。
263投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)21時16分11秒
「モ、モニーク…!私…今日、汗をいっぱい掻いて…まだ、お風呂に入ってないから…」
「ううん…。美味しいよ…。梨生奈…」
モニークは、構わず唇を這わしていく。
「目を瞑って…。深く、眠るんだ…」
「は…!う…!」
梨生奈は、身体に力を入れる。
「力を抜いて…」
そして、モニークは、梨生奈の乳首を口に含む。
「ふ…うぅ…」
モニークに口づけされる度に、疲れた身体が癒されていく…。
昨日の、風呂場で受けた、羅夢の愛撫を思い出す…。
今、身体を横たえているのはベッドの上なのだが、まるで暖かい湯に浮かんでいるような錯覚におちいる。
「羅夢…」
閉じた目から、涙がこぼれ落ちる。
「羅夢…。今、どうしてるの…?羅夢…」
「そのまま…。そのまま、眠るんだ…。梨生奈…」
モニークの声が、羅夢の声に聞こえる…。
そのまま、梨生奈の意識が、深い眠りの底に沈んでいこうとする時…。
ブゥゥゥゥゥ〜〜〜ン…。ブゥゥゥゥゥ〜〜〜ン…。
梨生奈の携帯が、ベッドの上で震えた。
264投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)21時16分30秒
「…?」
梨生奈は、身体を起こした。
「梨生奈…。今は、何も…」
モニークは、携帯を取り上げようとしたが、梨生奈の手が、一瞬早かった。
「もしかしたら、羅夢からかも…」
梨生奈は送信主を見る。
『マッド・エッジ』…。ダーブロウ有紗である。
「ダーさんから…」
「ダーブロウ…?だったら、私はお暇するよ…。アイツは苦手だから…」
「モ、モニーク…」
「私は、このまま瑠璃の母親について調べてみるから…梨生奈はゆっくりと身体を休めるんだよ?」
「…う…うん…」
「何だい?途中でやめられたから、残念なの?」
「バ、バカ言わないで!」
梨生奈は、顔を真っ赤にすると、携帯の通話ボタンを押した。
それと同時に、モニークは梨生奈の部屋から出て行った。
265投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)21時16分48秒
梨生奈は、電話だというのに急いで脱がされたトラックスーツを身に纏いながら電話に出た。
「も、もしもし…『マッド・エッジ』…」
〔おい、おまえ等、今どこにいるんだよ?〕
「…え?」
〔え?じゃ、ねぇよ!いつまで経っても帰ってこやしねぇから、電話したんだろが!〕
「あ…!」
瑠璃、そして羅夢の、立て続けの拉致騒ぎに、虹守町帰還を延期したことを、ダーブロウ有紗に連絡するのを、すっかり忘れていた。
「あ、あ、あの…す、すいません、『マッド・エッジ』!私、帰ることができなくなりました!」
〔あん!?どういうことだ!?〕
梨生奈は説明した。
今日、起きた騒動を…。
そして、羅夢が行方不明になった件を…。
ダーブロウ有紗は、黙って聞いていた。
そして、一通り聞き終わると、至って冷静に話し始める。
〔ダッチャが拉致…こりゃ、とんでもないことが裏で起こってるな…〕
「『マッド・エッジ』はどう思いますか?この事件…」
〔単純に考えるなら、容疑者はモニークしかいねぇんだが…アリバイがあるんだろ?〕
「え…ええ…。その、モニークは、瑠璃ちゃんのお母さんが怪しいんじゃないかって…」
〔私は、その瑠璃って子も、母親のことも知らねぇから、何とも言えないが…こうも考えられるよな?〕
「え?」
〔モニークに、共犯がいたら…?〕
266投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)21時17分21秒
「モニークに共犯!?そ…それは…誰ですか?」
〔いや、誰かは知らねぇけどよ…。でもな、モニークは、今回に限ってはおまえ等をミスリードしたよな?〕
そう…廃校にいると言っておきながら、後でメルヘン街道の展望台に行け、と言った…。
梨生奈と羅夢は二手に別れた。
そして、結局は展望台は空振りで、廃校に向かった羅夢は拉致された。
モニークが余計なことを言わなければ、羅夢の拉致は防げたはずだ。
267投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)21時17分36秒
「わ、わざと、私達をバラバラにしたと…?」
〔ま、確証はねぇよな。だから、モニークにも注意の目を怠るなってのが、私の意見だ〕
「はい…」
〔それからダウジングだとか、そういうスピリチュアルな代物も、無条件で信用すんな!〕
「は、はい…!」
〔おまえ等も相当焦ってたんだろうが…確実な証拠と根拠を拠り所に行動するのが、探偵の基本だろ?〕
「ええ…。恥ずかしいです…」
〔しかし、そのダウジングってのも、モニークらしくねぇな…〕
「モニークらしくない?」
〔あいつ、そういうのに興味あったっけ…?ま、この一年でいろいろ変ったんだろうな…。私達みたいによ…〕
「はい…。そうですね…」
〔で…おまえは、大丈夫か?〕
「だ、大丈夫かって…?」
〔ダッチャが拉致されたんだろ?やけに冷静じゃねぇか…〕
「そ、そういうわけでは…」
そう…冷静にさせられたのだ…。モニークに…。
268投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)21時18分10秒
〔それじゃあ、おまえはこのまま原村に残ってくれ。そしてこの事件、必ず解決しろ!〕
「も、もちろんです!」
〔いろいろややこしい事件だが…デコッパチも、充分気をつけるんだ…〕
「はい…」
〔本当は、私もソッチに行ってやりたいんだが…どうしても行ってやることができねぇ…〕
「わかってます…」
ダーブロウ有紗も、いくつも事件を担当している。
随分、人使いが荒いが、それ以上に自分使いも荒いのだ。
269投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)21時18分22秒
〔おまえの気持ち…わかるぜ…。私だって、チビアリの時は…〕
ダーブロウ有紗の言葉が詰まった。
「ダ、ダーさん…。ご、ごめんなさい…。私…」
モニークによって沈められた梨生奈の感情が、再び込み上げてきた。
〔な、何、謝ってやがんだ、デコッパチ!!〕
「だ、だって…私達…あの時…」
一年前、ダーブロウ有紗のパートナー…中村有沙の捕獲に参加した身…。
自分のパートナーの行方が知れない…安否も知れない…。
こんな、不安なものだったんだ…。
〔と、とにかく、おまえまで拉致されるなんてことになるんじゃねぇぞ!?これ以上、私を不安にさせんな!〕
「はい…!絶対に…羅夢を取り戻してみせます…!」
梨生奈は携帯を切った。
「羅夢…」
梨生奈は、携帯を抱きしめて…泣いた。
270投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月07日(日)21時19分08秒
では、おちます
http://221.254.11.166/log/tentele/070923205005a.html
271投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月09日(火)21時16分13秒
『グラスラ』をお休みしている間、ここで更新します
272投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月09日(火)21時18分12秒
『8月7日 真相解明』
バチバチバチ…。バチバチバチ…。
羅夢は耳元で鳴る、騒々しい音で目を覚ました。
目を覚ましたと言っても、未だ暗闇のままだ。
羅夢は、目隠しをされていた。
それは、ただの布を巻きつけられている、簡単なものだった。
一切の光が目に差し込まれない。
目隠しの布の色は黒で、何重にも巻きつけられているのだろう。
眼球が圧迫される程、きつく縛り付けられている。
そして、口には何かピンポン玉のような物を咥えさせられている。
おそらく、ギャグボールの類だろう。
口を開かされた状態で猿ぐつわをされているので、口の中に唾液が溜まっている。
ただの布の目隠しや猿ぐつわなど、いとも簡単に取り払えるのだが、それもできない。
どうやら、身体を椅子に縛り付けられているようだ。
座っている感触から、椅子は何の変哲も無い木製のもの。
そこに座らされ、両足は前方の二つの脚に縛り付けられている。
そして、腕は後ろ手に重ねられ、椅子の背もたれに縛り付けられている。
羅夢は、自分が何でこんな目に遭っているのか、記憶の糸を辿る。
(………ちきしょう…。あの時だ…。廃校で、瑠璃ちゃんのマネキンが吊るされていて…)
そして、羅夢は何者かよって、何かをされ…気を失って…そして、拉致されて、こうやって捕縛されてしまっている…。
273投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月09日(火)21時18分41秒
(い、今、アタイはどこにいるんだろう…?)
視覚が使えず、身体も自由にならない今は、聴覚と嗅覚に頼らざるを得ない。
羅夢は耳を澄ます。
先ほどのバチバチという音以外は、何も聞こえない。
もし、さっきまでいた廃校のどこかにいるならば、鳥の鳴き声や、木々のざわめきが聞こえてくるはずだ。
しかし、何も聞こえない。
いや、今は何時なのだろう?
自分は、一体、何時間気を失っていたのだろう?
深夜ならば、ミミズクの泣き声が聞こえてくることもあるが…。
次に、周りの臭いを嗅いでみる。
湿ったコンクリートの臭い…。
あの、廃校に漂っていたカビ臭い木の臭いはしない。
唯一鉄筋だった、体育館という可能性もあるが、それにしては回りの空気は冷たい。
たしか、何か暑くどんよりと圧し掛かるような重みのある空気が、あの体育館には漂っていた。
しかし、この空気の感じ…覚えがある…。
どこだったか、羅夢が懸命に思い出そうとした時、また、例の忌々しい音が、羅夢の耳元で鳴った。
274投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月09日(火)21時19分01秒
バチバチバチ…。バチバチバチ…。
そうだ…この音だ…。
この音の直後、全身に激痛が走り、身体の自由が利かなくなった。
そして、二度目の激痛で気を失った。
(く…!アタイとしたことが…)
羅夢は、身体を左右に揺すってみた。
木製といっても、しっかりとした造りの椅子らしく、わずかに軋む音を立てるだけで、縛られた状態で破壊するのは無理なようだ。
それに、縛り付けられた縄もきつく結ばれており、結び目が湿らされ、トラックスーツに喰い込んでいるため、容易く腕を抜き取ることもできない。
これは…その道のプロのやり方…。
素人の仕事ではない。
一体、自分を…そして、瑠璃を拉致した犯人は、どこの誰なのだろう…?
そう…瑠璃は今、どこにいる?
自分と一緒に、すぐ隣で縛られているのか?
(んん!!んん!!ん〜!!)
猿ぐつわをされて自由に喋ることができないが、瑠璃が近くにいると信じ、羅夢は懸命に声を出した。
そして、その時だった…。
バチバチバチ…!
あの激痛が、羅夢の全身を駆け巡った。
275投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月09日(火)21時19分23秒
「んぎぃ…!!んがあぁぁぁ!!」
羅夢は、縛られた身体をよじり、悲鳴を上げた。
肩がジリジリと痛い…。
『何か』を押し付けられたようだ。
(な、何だ…?ア、アタイに、何をしやがった…!?)
そして、今度は太ももに何かが押し付けられる。
バチバチバチ…!!
「ぐ…ぎぃぃぃ…!!ぐぁぁぁ…!!」
羅夢の身体が、椅子ごと跳ね上がった。
首をがっくりと垂れる。
口の中に溜まっていた唾液が、ダラリと糸を引きながら垂れ落ちる。
間違いない…!犯人は、羅夢のすぐ横にいる…!
足音を立てろ!
音の大きさと間隔で、その者の背丈や年齢、性別がわかる。
しかし、犯人は、じっと羅夢の横に立ち、動こうとしない。
「ふぐ…!んぐぐぐぐ…!んぐぅ〜〜〜!!」
羅夢は、その正体不明の犯人に対し、声にならない叫びをあげる。
(この野郎!!アタイを縛り付けて、身動きがとれないのをいいことに、好き放題やりやがって…!正々堂々、アタイと勝負しろぉ!!この卑怯者!!)
羅夢は心の中で、そう叫んだ。
276投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月09日(火)21時19分44秒
そして、今度は首筋に『何か』があてがわれる。
バチバチバチ…!
「ぐがぁぁぁ…!!ぎぃぃぃ…!!」
頭が左右に振られる。
「ふぅ…ふぅ…ふぐぅぅぅ…!!」
羅夢は乱暴に頭を振り、犯人を牽制する。
何かが肩に触れた。
「ぐ…!ぐぅぅ…!!」
羅夢は、ビクンと肩を震わせる。
その拍子に、椅子が数センチ右に移動した。
今度は痛みはなかったが、もう、反射的に身体が反応してしまう。
目が見えない状態で、次は、いつ、どこを攻撃されるかわからない…。
(な、何なんだ…コイツ…。い、一体、何がしたいんだよ!?)
羅夢の心中は、徐々に怒りから恐怖に変り始めていた。
277投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月09日(火)21時20分01秒
すると、次は後ろ手に縛られた指に、『何か』が触れる。
バチ…!
「んがあぁ!!」
今度は短かったが、敏感な指に咥えられた攻撃は、今までで一番痛かった。
(ゆ、指が…指の感覚がない…!?)
指が、一瞬で消し飛んでしまったかのようだ。
「うぐ…!うぐ…!んんぐぅ〜〜〜!!!」
羅夢は痛みに呻いた。
(ぐ…!ち、畜生…!!畜生〜〜〜!!!)
その呻き声に、怒り、不安、恐怖…全ての感情を乗せて吐き出した。
羅夢の左胸の辺りに、その『何か』があてがわれた。
「う…!」
羅夢は、息を呑んだ。
278投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月09日(火)21時20分25秒
その『何か』は、ずっと左胸に押し付けられている。
例の音がしない。
(な、何だってんだ…!?や、やるなら…やれよ…!)
羅夢の身体に緊張が走る。
すると、羅夢の身体から、その『何か』が離れる。
「………」
ほっと羅夢が息をつき、全身の力を抜いた時…。
バチバチバチバチバチ…!!
その瞬間を見計らったように、時間差で痛みが襲ってきた。
「んがあああ〜〜〜!!!」
今度は長い…。
痛みは羅夢の身体を隅々まで駆け巡る。
そして、羅夢はやっと理解した。
この『痛み』は電気だ…。
そして、犯人が羅夢の身体に押し付けているものは…そう…スタンガンだ…。
バチバチバチバチバチ…!!
遠のく意識の中、スタンガンから発せられる電流の音が、羅夢の頭の中にこだました。
279投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月09日(火)21時20分47秒
朝の8時。
ハセヤンズハウスの食堂。
梨生奈は朝食の後、ハセヤンに呼ばれた。
大きな木製の手作りのテーブルに、向き合って座る、梨生奈とハセヤン。
ハセヤンは、吉田から全てを聞いたのだろう。
気まずそうに、梨生奈を伏し目がちに見る。
この雰囲気に居たたまれなくなった梨生奈が、先に口を開いた。
「あ…あの…お父さん…いえ…吉田さんから…全て聞きました?」
ハセヤンは、話を梨生奈に切り出させてしまったことを、申し訳なく思ったのか、モシャモシャの髪を掻きながら、口ごもるように言った。
「あ…うん…。聞いたよ…。その…何て言ったらいいか…」
「ご、ごめんなさい!今まで、ウソついて…。騙してて…」
「あ、いや、それは仕事に必要なことだったんだから、しょうがないでしょ…。でも、俺が一番戸惑ってるのは…」
「は、はい…。私と羅夢が…探偵をやってるって…ことですよね…?」
梨生奈は、もう、まともにハセヤンの顔を見ることができなくなってしまった。
「う〜ん…俺も子供の頃、江戸川乱歩の『少年探偵団』シリーズを夢中で読んでたこともあるけど…。まさか、本当にあるとはね…」
「はい…。『少女探偵団』ですけど…」
「千秋君も知ってるんだって?」
「はい…。あの、サーカスの事件の時に…。あと、モニーク先生も…」
「で、何で君達が探偵をやってるのかは、吉田さんは教えてくれなかった。何でも、とても複雑で、悲しい理由があるとか…」
「は…はい…」
吉田は、さすがに暗殺組織『TTK』のことを伏せてくれたようだ。
280投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月09日(火)21時21分08秒
「君達は子供ながら、これまで数々の事件を解決してきている、優秀な探偵だという話しだけど…現に、今、羅夢ちゃんがさらわれてしまって、危険な目にあっているかもしれない…」
「はい…」
「俺は、それが一番心配なんだ…」
「はい…」
梨生奈の声は、段々小さくなる。
「吉田さんも…気に病んでいる…」
「…はい…」
「で…これから、どうするの?」
「助けます…!羅夢も…瑠璃ちゃんも…!」
梨生奈の声は、今度は力強く放たれた。
「警察に任せるってのは…?」
「私…自惚れるわけじゃありませんが…警察以上の力を持っています!警察も、『R&G探偵社』の名前を出せば、我々の邪魔はしません!そういう存在なんです!私達は…」
ハセヤンは、う〜ん…と困ったように唸り、腕組みをした。
「いや〜…世の中は広いね…。君達のような子供が、探偵をし、警察以上の力を持っているという…。俺なんかが、口出しできないような世界だな…」
それでも、ハセヤンは、しっかりと梨生奈の目を見て言う。
「世の中が広いってことは…つまり、そんな力を持った君達でも、太刀打ちできないような者も大勢いるってことだ…」
そう…裏の世界は、地下へ続く螺旋階段のように、長くて深い。
梨生奈も、理屈ではわかっているのだが…。
281投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月09日(火)21時21分27秒
「だから、自分の手に負えないって場合は、素直に警察とか、俺達とか…頼りないかもしれないけど、力を貸してもらうってことも必要だよ?」
「…はい…」
「俺のまったく想像のできない世界だから、俺はこれ以上口出しはしない。だけど…いつでも力になるから…」
ハセヤンは、そのゴツゴツした無骨な手で、梨生奈の手を力強く握る。
「羅夢ちゃんを…そして、瑠璃を…心置きなく、助けに行っておいで…!」
梨生奈は何も言わず、目に涙をいっぱい浮かべて頷いた。
梨生奈は、深く礼をすると、食堂を後にする。
ハセヤンは、本当に華奢な…細すぎる梨生奈の後姿を見送りながら、呟いた。
「あ〜あ…。何てこった…。俺…大人失格だなぁ…」
このセリフは…病院で吉田がハセヤンにこぼしたものでもある。
「子供が困っていたら…助けてやるのが大人なのに…」
そう言いながら、ハセヤンは目頭を押さえた。
282投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月09日(火)21時21分54秒
梨生奈は、また緑のトラックスーツに身を包み、トンファーを腰に提げ、ハセヤンズハウスのドアを勇ましく開ける。
すると…勢い余って誰かとぶつかり、梨生奈は尻餅をついた。
同じく、尻餅をついたその人物は…。
「モニーク…!」
「おはよう、梨生奈…」
「一体、何の用?」
出足を挫かれて、梨生奈は少し不機嫌に訊ねながら立ち上がった。
「うん、うん…。いつもの梨生奈だね…。冷静だ…」
モニークも、ゆっくりと立ち上がる。
「そうでもないわよ…。邪魔するんなら、また荒々しくなっちゃうわよ?」
「邪魔なんて…協力してやろうって思って…」
「協力?」
「言っただろ?瑠璃の母親のこと…」
「ああ…。瑠璃ちゃんのお母さんのことで…何か、わかったの?」
「ハセヤンから聞いたところによると…瑠璃を保護したのは渋谷警察署。で、その捜査状況を聞くと、瑠璃を置き去りにした女の目撃者がいたそうだよ」
「目撃者?誰?」
「それは、警察は教えてくれなかったけど…面白いのは…」
「面白い?」
「日本人じゃなかったってさ…」
「え?」
「瑠璃を連れてた女…日本人じゃなかったんだって…」
283投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月09日(火)21時22分17秒
「ど…どういうこと…?つまり…瑠璃ちゃんはハーフ?」
「私が見たところ、瑠璃は純血の日本人だよ」
「つ…つまり…」
「赤の他人だね…その女は…」
「だ、だったら…瑠璃ちゃんは…その人のことをお母さんって呼んでるってのは…血のつながってないって知ってるの?」
「そこで、私はわからなくなっちゃった…」
「わからなくなった?」
「だって、瑠璃は私に初めて会った時、こう言ったんだよ…」
「な、何て…?」
『私、外国の人、初めて見た』
「初めて?」
「ね?おかしいだろ?会ってるはずなんだよ。渋谷のど真ん中でスタンガンを渡して置き去りにした外国人を…」
「忘れてるんじゃない?瑠璃ちゃん、当時5歳でしょ?」
「忘れてる…?それはないと思うよ…。仮にも『お母さん』って呼んでた存在だよ?」
本当にわからない…。一体、瑠璃の母親…いや、瑠璃を渋谷に置き去りにした女は、一体誰なのだろう?
284投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月09日(火)21時22分43秒
いや…梨生奈は、昨夜のダーブロウ有紗の言葉を思い出した。
『モニークにも注意の目を怠るな…』
その外国人って…。
「ねえ…モニーク…」
「何だい?」
「その、外国人の人種は?」
「白人…」
梨生奈は、一瞬、その薄い眉を上げた。
「梨生奈…。私じゃないよ…」
モニークは、苦笑しながら言った。
「いえ…。私は、別に…」
「考えてもごらんよ。瑠璃が渋谷に置き去りにされたのが5歳だから、今から4年前。4年前って言ったら、私は15歳。母親なんて年齢じゃないだろ?今もだけどさ…」
モニークの言う通りだ。
「ま、いいや…。ダーブロウに何か言われたんだろ?」
「そ、そんなんじゃ…」
本当に、勘がいい…モニークという女は…。
285投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月09日(火)21時23分08秒
「そんなことより…羅夢と瑠璃は、まだここ、原村にいる」
「どうしてわかるの?」
「ダウジング…」
「悪いけど、私、もうそのダウジングは信じないから…」
「あら?一回失敗したぐらいで、それはないんじゃない?」
「その、失敗の内容がシャレにならないでしょ?羅夢をさらわれた…」
モニークは大きく溜息をつく。
「無理もないね…。あんたの不信感も…」
「不信感も何も…確固とした確証もなしに動いたら、痛い目に会う…今回の教訓…。活かさなきゃね…」
「なるほど…。梨生奈は賢いね…。ま、いいや。私は私で動くから…」
「じゃあ、私も私で動くとするわ」
素っ気無く梨生奈は答えると、モニークを一瞥もせずに、歩き始めた。
そして、駆け足で舗装された道まで出る。
モニークが見えなくなる地点まで走ると、梨生奈は104電話サービスで、渋谷警察署の電話番号を聞き、電話を掛けた。
そう…モニークが渋谷警察署に聞いた情報の真贋を見極める為だ。
結果は…モニークが話していたことと同じだった。
対応した警察官は、おそらく、モニークにも説明した警官なのだろう…「何かあったんですか?」と逆に質問をしてきた。
梨生奈は適当に言葉を濁すと、モニークが手に入れられなかった情報を聞き出そうとする。
その、瑠璃を置き去りにした外国人女性を、目撃したという者の情報だ…。
286投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月09日(火)21時23分46秒
〔申し訳ありませんが、それは、お教えすることはできません〕
予想通りの返答だ。
「私、『R&G』の者なんですが…」
〔『R&G』…!?〕
相手の声のトーンが変った。
〔でもねぇ…。あなたが『R&G』の人って証拠はないでしょ?〕
「では、私の代わりに、ダーブロウ有紗という者がお聞きする事になると思いますが…」
〔………。勘弁してくださいよ…〕
携帯の向こうの警官の声は、心底参っているかのようだ。
「別に、名前とか住所とか聞きたいわけじゃないんです。性別と人種を教えて下さい」
〔人種?〕
「ええ…。その人は女性ですか?それで、日本人ですか?外国人ですか?外国人なら白人ですか?黒人ですか?ヒスパニック系ですか?中東系ですか?」
〔いえ…あの…日本人ですよ…。しかも、男性ですが…〕
「日本人男性…?確かですか?」
〔確かですよ。だって、私が担当したんですよ?〕
「わかりました…。お忙しいところ、ありがとうございました。では、失礼します…」
眉間にシワを寄せながら、梨生奈は携帯を切った。
「う〜ん…モニークを疑うのは…無理があるのかな…?」
でも、梨生奈はモニークのダウジングだけは、絶対に信用をしないと、心に決めた。
287投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月09日(火)21時24分20秒
では、おちます
http://221.254.11.166/log/tentele/070923205005a.html
288投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月10日(水)21時07分39秒
更新します
289投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月10日(水)21時09分29秒
梨生奈は、昨日羅夢が向かい、そして姿を消した廃校に辿り着いた。
正門には、2人の警官が立っていて、「KEEP OUT」のテープが張り巡らされている。
運動場を覗くと、警官が2、3人、あちこち動き回っている。
「あ…!梨生奈ちゃん!」
門の側でしゃがみ込んでいた少年が、梨生奈に声をかけた。
「え…?」
黒いバンダナを頭に巻いているので、一瞬誰だかわからなかったが、その少年は千秋だった。
「ち、千秋君…!?ど、どうしたの?こんな所で…」
そう言えば、今朝、千秋は朝食の席にいなかった。
早朝から、この廃校に足を延ばしていたのだ。
「うん…。ここ、羅夢ちゃんがいなくなった現場なんだよね…。気になって、来てみたんだけど…」
千秋はチラリと、正門付近に立っている警官を見た。
「関係者以外は立ち入り禁止だよ。さ、帰って、帰って」
警官は、2人を睨みつけるような目で、ぶっきら棒に言う。
「関係者…?私達、関係者です。行方不明になった女の子…私達の親友なんです!」
「だから…。僕の言ってる関係者ってのは、事件を捜査する者のことで…」
「では、言い方を変えます。私も事件を捜査してるんです」
「君が…?事件を…?」
警官は、ぷっと吹き出した。
290投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月10日(水)21時10分18秒
それでも、梨生奈は少しも引けをとらず、堂々と申し立てをする。
「私、『R&G』の者です」
「え…?あの、『R&G』…?」
「そして、行方不明になった少女の一人…細田羅夢は、当探偵社の探偵です!」
「そ…そうなの…?でも…君が『R&G』だって証拠が…」
「名刺です」
梨生奈は、クリアアクリルで出来た名刺を出す。
警官は、その名刺を受け取って見る。
『R&G探偵社・?11・【TEAM−R】・木内梨生奈』
「そんな物、いくらだって勝手に作れるんじゃ…」
「では、この人と話して下さい」
そう言いながら、梨生奈は携帯を出す。
291投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月10日(水)21時10分36秒
「誰と?」
「ダーブロウ有紗と言う者です」
「………。ちょっと待ってね…」
警官は、無線で何やら連絡を取り合う。
「はい…。わかりました…」
警官は、梨生奈と千秋の方を振り返る。
「ここから入ってね…。でも、あくまでも、警察の捜査の邪魔はしないように…」
警官は、すっかり錆び付いて重くなった正門を、全体重をかけて開いた。
こんな末端の警官までもが、ダーブロウ有紗の名前を知っている…。
「す、凄いね…『R&G』って…。そして…ダーさんも…」
千秋は、梨生奈に耳うちする。
「そ、そうね…」
ダーブロウ有紗の知名度に改めて驚く梨生奈だが、元殺し屋がここまで知名度を上げて大丈夫なのだろうか?と余計なことを思った。
292投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月10日(水)21時11分00秒
梨生奈と千秋は、築80年以上は経っている木造校舎の脇を通り抜ける。
羅夢は、この廃校で姿を消した。
まず、羅夢はこの廃校のどこにいたのだろうか?
犯人と接触した場所は?
「梨生奈ちゃん…。ところで…これからどうするの?」
「そうね…。まず、羅夢の残した痕跡を探そうと思うんだけど…。警察がそれを消してくれてなければ幸いね」
まるで、警察が足手纏い、むしろ不安要素の様に言い放つ梨生奈…。
千秋は、そんな梨生奈が頼もしくも感じ、そしてまた、恐ろしくも感じた。
梨生奈は、校舎内に踏み込もうとすると、近くの警官が声を掛けた。
「ああ、ダメ、ダメ!校舎内には入らないで!」
あからさまに邪魔者扱いにされた梨生奈は、少しムッとして警官に訊ねる。
「ならば、どこならいいんですか?」
「外、外!外ならいくらでも見ても構わないよ!でも、テープが張ってある場所は入らないでね」
梨生奈は、千秋の方をクルリと向く。
「…だってさ…。行こう、千秋君」
2人は、校舎の脇の、鶏小屋に行く。
当然、廃校だから中に鶏はいない。
しかし、梨生奈は四つん這いになると、鶏小屋の周りを地面に顔が着くぐらいマジマジと見る。
「何…やってるの?梨生奈ちゃん…」
熱心に仕事をこなしている梨生奈に、遠慮がちに千秋は話しかけた。
293投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月10日(水)21時11分24秒
「ん?これはね…足跡を探してるの…」
「足跡?」
「羅夢の靴の足跡を、私、覚えてるから…。羅夢の足跡を見つけて、それが途切れた所で、羅夢は姿を消したってことになるわ」
「な…なるほど…」
「ちょっと私の恰好がキモイかもしれないけど、我慢してね」
「そ、そんな…!キモイなんて…」
しばらく梨生奈は、四つん這いのまま地面を這いつくばったが、羅夢の足跡は鶏小屋付近からは発見されなかった。
「正門にも、羅夢の足跡はなかったから…こちらから西南の方向には、羅夢は立ち入らなかったってことね…。裏門から回ってみましょう」
梨生奈は、一人でスタスタと先へ行ってしまう。
千秋は、とりあえず梨生奈に追従する。
体育館の脇を通った時、梨生奈は立ち止まる。
「どうしたの?」
「見つけた…。羅夢の足跡…」
「え?」
梨生奈は、例のように四つん這いになり、まるで警察犬の様に羅夢の足跡を追跡する。
体育館のアルミのドア付近で、羅夢の足跡は消える。
そして、ドアは開いている。
「羅夢は、どうやら体育館に入ったようね」
「でも、ほら、テープが張ってあるよ」
「一応、警察もここを調べたのかしら?」
梨生奈は、構わずテープを潜り抜けて中に入った。
294投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月10日(水)21時11分52秒
「ちょ、ちょっと!梨生奈ちゃん!まずいよ…」
「ああ、千秋君、見張っててね」
梨生奈は、何のことは無いという感じに、当然のように体育館の中に足を踏み入れる。
普段の梨生奈からは想像できない大胆な行動に、千秋は面喰いつつも、胸が高鳴った。
体育館から、梨生奈の声だけが聞こえる。
「千秋くん!左から体育館を回って!羅夢、どうやら、この体育館を突っ切って、反対側の扉から出たみたい」
千秋は、言われた通り体育館を左回りに移動する。
一足早く、梨生奈が外で待っていた。
「ね?ここの扉だけが開いてる。警察もここは捜査済みみたい。でも、警察は羅夢の靴の裏の形なんてしらないから、どうやらスルーしてるわね」
そして、また四つん這い。
「羅夢、ここで走ってる…!」
「え?何でわかるの?」
「足跡が爪先だけ…しかも、深い…砂が後方に弾ける様に飛び散ってる…。全力疾走してる…!」
「い、一体、どこへ…?」
「たぶん…あそこ…!」
梨生奈の指差した方向は、講堂の真横のクスノキ…。
「ほら…。あの木、不自然に枝が折れてない?」
「そ、そう?」
「折ったのは羅夢かしら?それとも犯人?どちらにしても、何で、枝なんて折ったのかな?」
梨生奈は、羅夢の足跡を慎重に目で追いながら、クスノキを目指して走った。
当然、千秋も後を追う。
295投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月10日(水)21時12分24秒
クスノキの付近…立ち入り禁止のテープは張られていない。
「ここで…おそらく羅夢は、何かを投げつけて、あの木の枝を折った…。ここ、踏ん張った形跡がある…」
そう言われても、千秋には見分けがつかない。
それ以前に、羅夢の足跡も見分けられない。
警察もそうなのだろう。
それを考えると、梨生奈達、『R&G』の探偵達の捜査能力はずば抜けている、と言えるだろう。
「おそらく、投げたのはヌンチャクね。あの枝の折れた所…まだ新しい…」
梨生奈は、以前、千秋とのキャッチボールで見せた軽業で、クスノキを登る。
その、鮮やかなアクロバチックな梨生奈の身のこなしに、千秋はただただ、口を開けて見上げるばかりだ。
「うん!やっぱり…。これは鋸で切ったという類の跡じゃない。何か硬い物をぶつけて叩き折った跡だわ。でも、羅夢のヌンチャクが見当たらない…」
すると、すぐ下で、千秋は梨生奈に向かって声をあげた。
「り、梨生奈ちゃん…!ここ、なんか、地面の砂が荒れてるんだけど…」
千秋のような素人でも、分かるくらいの痕跡…?
「千秋君!そこ、足を踏み入れないように!」
ピシャリとした梨生奈の声に、千秋はついつい、後退りしてしまう。
梨生奈は、音も立てずに着地すると、その現場を凝視する。
「どう…?」
千秋は、恐る恐る梨生奈の顔を覗き込んで訊ねた。
296投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月10日(水)21時12分50秒
「まず…羅夢はここまで滑り込んでる…。相当慌ててる…。何かの側に、いち早く駆けつけたかった…?」
そして、梨生奈はその切れ長の目をまん丸にして、声を荒げた。
「こ、ここで…足跡が滅茶苦茶に乱れている!しかも…これ…手形よ…」
梨生奈は、その手形に、自分の手を合わせる。
そして、溜息交じりに呟く。
「やっぱり…。この手…羅夢だわ…」
その手が、二つ、三つ、引き摺るような形で伸びている。
「これは…何かから逃れようとしている…」
「逃れようと…?どういうこと?」
「つまり…その犯人を追いかけているんじゃなく…犯人から逃げようとしてる…」
梨生奈は、胸が潰れるような思いで、羅夢の身を案じる。
「羅夢の性格を考えれば…逃げるなんて…考えられない…。一体、何があったの…?羅夢…」
「梨生奈ちゃん…」
千秋は、梨生奈を元気づけようと、肩に手を置こうとして、躊躇する。
(何を遠慮してんだ?この間、キスまでしたっていうのに…)
千秋は決心を固めて、右手を上げる。
「あ!!」
梨生奈の声に、千秋は慌てて出した手を引っ込めた。
「ど、どうしたの?」
「これ…!この足跡…!もう一つ…もう一人いる…!」
297投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月10日(水)21時13分11秒
「もう一人…!?もしかして、犯人!?」
「ちがう!これ…小さい…。子供の足だ…。しかも…裸足…」
「え…!?子供の足で、裸足って…」
「瑠璃ちゃん…?」
「ウソ!?じゃ、じゃあ、ここに羅夢ちゃんと瑠璃が一緒にいたってこと!?」
「つまり…羅夢は、瑠璃ちゃんを守って…だから、犯人から逃れようと…?」
「は、犯人は?犯人の足跡は…?」
「ない…。2人の足跡だけ…?」
「あ…!もしかして…!」
千秋は、何かにひらめいたように、手をパチンと叩く。
「何?千秋君…?」
千秋は、何も言わずに上を指差す。
「そうか…!この木の枝に犯人が?」
「だから、羅夢ちゃんは、ヌンチャクを投げたんだ!」
「待って!瑠璃ちゃんの足跡が…一つだけ続いてる!!」
たしかに、可愛らしい裸足の足跡が、点々と続いている。
「羅夢ちゃんが闘っている間に、瑠璃が逃げたのかな?」
「それにしては…この足跡、走ってないよ…。一歩一歩、ゆっくりとした足取りだわ…。しかも、やけに力強い歩き方ね…」
梨生奈は、その、瑠璃のものと思われる足跡を追跡する。
298投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月10日(水)21時13分34秒
「ん?これ、何か引き摺ったような後もある…。何だろ…?」
「引き摺る?もしかして、闘ってケガをした羅夢ちゃんを…?」
「ううん…。この溝の深さは…浅いわ…。もっと軽い物を引き摺った跡よ…」
しかし、梨生奈は、自分の額をピシャリと叩いて天を仰いだ。
足跡が途切れたのだ。
講堂を離れると、そこは伸び放題に伸びた芝生地帯になっている。
もう、足跡を辿ることができなくなった。
2人は、ガックリと首を垂れる。
「でも…これで、ここで何かがあったのは明らかね…。それだけは、進展よ…」
梨生奈は、唇を噛み締めながら呟く。
そして、ある疑問点に気付く。
「それにしても…折れた枝の先が何で無いんだろう…?」
「あ…。そう言えば…」
「犯人が持ち去ったのかな?でも、何で…?あの枝の先には、何があったのかな…?」
2人は、講堂の屋根よりはるかに高い、クスノキを見上げた。
しかし、梨生奈が、ある先入観から間違った推理をしたと知るのは、しばらく後のことになる…。
299投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月10日(水)21時14分13秒
では、おちます
http://221.254.11.166/log/tentele/070923205005a.html
300投稿者:
リリーさん、
投稿日:2008年12月10日(水)21時19分51秒
ありがとうございます!
お疲れ様でした
301投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月11日(木)21時08分35秒
300さん
こちらこそ、ありがとうございます
『グラスラ』の更新を休んでいる間に、こちらの方を完結していきたいと思います
では、更新します
302投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月11日(木)21時10分09秒
「起キロ」
羅夢の耳元で、誰かが…いや、何かが囁いた。
羅夢がそれを『何か』と感じた理由は…生物的な暖かさを感じなかったからだ。
しかし、羅夢は今まで気を失っていたので、その声に違和感を覚えたのは、第二声目からである。
「起キロ」
(………?)
羅夢は、目を覚ますが、相変わらず目隠しをされ、ギャグボールで猿ぐつわをされ、そして身体を縛りつけられているから、その声に対し、反応をみせない。
すると…バチバチバチ!…また、あの不愉快極まりない音と激痛が、羅夢を苦しめた。
「ぐうぅ…!!」
羅夢の身体は、背中に鉄パイプでも通されたかのように、背筋を伸ばして硬直した。
「返事ヲシロ!!」
(こ、こいつ…は、犯人…?やっと、犯人が口を利いた…?)
頭を左右に振る羅夢。
犯人はどこにいる?
「目ガ、覚メタダロ?」
再び犯人が語りかけた。
(ふ、ふざけやがって…!!)
羅夢は、ギャグボールを噛み砕かん勢いで、歯を食い縛る。
目の前に…憎き犯人がいる…!
303投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月11日(木)21時10分33秒
「私ノ声ガ聞コエテイルナラ、首ヲ縦ニ振レ」
(ざ、ざけんな!!このアタイに、指図するんじゃねぇぞ!?)
羅夢は、塞がれた口で、ううう…と呻きながら、目隠しの下から犯人を睨みつける。
「聞コエテイルヨウダナ…。マ、イイダロウ…」
この、機械音…犯人はボイスチェンジャーの様な物を通して喋っている。
声からも手掛かりを残さないように、ということだろう。
用意周到な輩である。
「今カラ、オマエノ口ヲ塞イデイル、ソノ猿グツワヲ取ッテヤロウ…」
(え…?何だって…?)
「オマエノ質問ヲ受ケ付ケテヤロウ。イイカ?騒イダリ、ワメイタリスルンジャナイゾ?」
犯人は足音を立てないように、羅夢の後ろに回ると、ギャグボールのベルトの留め金を外した。
ギャグボールが羅夢の口から外されると、羅夢の唇から、溜まりに溜まった粘り気のある大量の唾液が、滝の様に流れ出た。
「がは…!ぐは…!げほ…!げほ…!」
羅夢は、久しぶりに口が自由になり、息を吸い込み過ぎた為、過呼吸になって咽てしまった。
「大丈夫カ?」
そう、語りかける犯人に、羅夢は一気にキレた。
「ふざけんな!!コノ野郎!!アタイに対して、こんなナメたマネしやがって!!覚悟はできてるんだろうな!?ええ!?おい!!コラァ!!」
口から唾液の糸を長く垂らしながら、羅夢は怒鳴り散らした。
304投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月11日(木)21時11分16秒
バチバチバチ…!!
羅夢の口に、スタンガンが突っ込まれた。
「ぐぎゃあ!!」
羅夢は、後ろに仰け反り過ぎて、椅子の前脚が宙に浮いて後ろに倒れそうになった。
「オイオイ…。言ッタハズダゾ?騒イダリスルナト…」
「ぐは…!はうぅ…」
「ドウシタ?質問ハイイノカ?」
「ふ、ふらへんな…!!ホノ野郎…!!」
舌が麻痺して、上手くしゃべることができない。
305投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月11日(木)21時11分45秒
「し、質問なら…腐るほどあるぜ!!て、てめぇ…何モンだ!?瑠璃ちゃんをどうした!?どこにやった!?答えろ!!」
「ソレハ、マダ言エナイ…」
「ああ!?質問に、答えるんじゃなかったのかよ!?」
「オマエハ、一体、私ガ何ヲシタイノカ…ソノ真意ヲ計リカネテイルナ?」
「し、真意だと?そんなこと、知ったことか!!女の子を監禁して虐待して楽しむ、ただの変態野郎だろうが!!」
「ソレハ誤解ダ…。私ハ、決シテ楽シンデイルワケデハナイ」
「何だと!?」
「コレハ、必要ナコトナノダ…」
「な、何言ってやがる!!早く、目隠しも取りやがれ!!アタイに、その面ぁ、見せろ!!」
「ソレハ出来ナイ…。マダ、出来ナイ」
「いい加減にしやがれ!!何でもかんでも、言えない、できないって…!!」
「私ノ顔ヲ見タイノナラ、条件ガアル…」
「条件!?何だ、そりゃあ!!」
「私ノ…奴隷ニナルトイウ条件ダ…」
306投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月11日(木)21時12分05秒
「奴隷…?奴隷だと…?」
その言葉を聞いて、羅夢はいよいよ怒り心頭になる。
「ふざけんな!!てめぇごときが、アタイを奴隷だぁ!?頭、おかしいんじゃねぇのか!?」
バチバチバチ…!
スタンガンが、羅夢の腕に押し付けられた。
「ぎゃああ!!」
「ダカラ…騒グナト言ッタダロ?頭、悪イノカ?オマエハ…」
「ぐ…くくく…。この野郎〜〜〜!!絶対に殺す!!殺してやるからな…!!」
「ソノ前ニ、オマエガ死ヌコトニナルゾ?」
バチバチバチ…!
今度は、膝に電流が流される。
「ぐぅ…!!あううう…!!」
羅夢は、身体を硬直させて呻いた。
「オマエガ私ノ奴隷ニナルト言エバ…オマエに私ノ正体ヲ明カシテヤロウ…」
「ふ、ふざけ…」
バチバチバチ…!
「うあああ〜〜〜!!!」
電流の音と悲鳴…しばらくの間、それらが交互に響くことになる。
307投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月11日(木)21時12分49秒
一方、梨生奈と千秋は、何とか羅夢と瑠璃の痕跡を掴もうと、それこそ地面を舐めるように這いつくばって探したのだが、新たな発見はなかった。
もし、2人をどこかへ連れて行ったのなら、車でなければ移動は無理だ。
いくら少女とは言え、2人を担いで歩き回れない。
しかも、その一人は羅夢なのだ。
大人しくしているとは思えない。
気絶をさせられたというのなら、仕方がないが…。
しかし、廃校の側を通る道は、この前のサーカスの件で、パトカーが散々行き来しているため、タイヤ痕を辿るのは無理だ。
もしかしたら、この廃校の校舎内に2人は隠されているのかもしれない。
だが、あのモニークも、昨日、ここに来て探索をしたのだ。
モニークならば、潜んでいる者をあぶり出すことなど、朝飯前だろう…。
もっとも、モニークを信用すれば、の話だが…。
すると、梨生奈の懐の携帯が振動した。
送信主は、そのモニークからだった。
308投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月11日(木)21時13分12秒
「もしもし。モニーク…先生?」
〔梨生奈かい?先生を付けてるってことは…隣に千秋君がいるの?〕
「…そう…です。ほんと、勘がいいですね…。探偵向きですよ、やっぱり…」
〔やめてよ、本当に…。で、どう?何か見つかった?〕
「ええ…。見つかりました。羅夢と…瑠璃ちゃんの足跡…」
〔え?瑠璃の!?どこで!?〕
「講堂の横に、大きな木があったでしょ?そこの下です」
〔マジ?私、そこ、見落としてたのかな?〕
梨生奈は、少し千秋から離れて、囁くような小さな声で話し始めた。
「ちょっと…!しっかりしてよ!あなたともあろう人が…!明らかに不自然に枝が折れてたでしょ!?」
〔ゴメン…。で、枝が折れてたって…つまり、そこで闘った形跡が?〕
「だと…思う…。で、瑠璃ちゃんの足跡が、しばらく続いてたんだけど…途中で芝生の上を歩いたのか、途切れてしまって…」
〔羅夢の足跡は?〕
「途中で消えてた。て、言うか、手形があったの…」
〔手形…?倒れたのかな?〕
「私もそう思う…」
309投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月11日(木)21時13分33秒
〔とにかく、その廃校から捜査の手を伸ばそう。私は、八ヶ岳方面に行こうと思う〕
「それは…何で?」
〔ダウジング…〕
「やっぱりね…」
〔一緒に行く?〕
「やめておくわ」
〔そう言うだろうと思ったわ…〕
「じゃあ、逆に私は、山を降りながら捜査するわ。千秋君も、送ってかなきゃいけないし…」
〔つまり、私と正反対の方向に捜査するってことね?〕
「ええ…。効率的でしょ?」
〔そうだね…〕
「じゃあ、何かあったら連絡をちょうだい。私の方からも定期的に連絡を入れるから」
〔ああ…。私、今から発電所の方に行ってみようと思う〕
「発電所?あの…サーカスの事件で、私と羅夢が行った…?」
〔うん。あの時は、あんた達が空振りしたけど、あそこは隠れ家としてもいい条件だと思うんだ…〕
「わかったわ…。じゃ、気をつけてね、モニーク…」
〔梨生奈もね…〕
梨生奈は、モニークとの通信を切った。
310投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月11日(木)21時13分53秒
「あ…!そうだ…」
携帯を切ったばかりの梨生奈は、すぐに、ダーブロウ有紗に連絡をした。
いつもは、コール音2回以内で出るのだが、この日に限っては、なぜか、中々出ない。
「どうしたのかな?」
コール音が10回鳴った頃、ようやくダーブロウ有紗は電話に出た。
〔おう、どうした?〕
「あ、…こちら『ムーン・ライト』。『マッド・エッジ』ですか?」
〔ん?…おう…。デコッパチか〕
「今日は随分、電話に出るのが遅かったんですね?」
〔ああ…。すまねぇ…。ちょっと、ウンコしてたんだよ!ぎゃはははは!!〕
「え…?ウ、ウン…?」
〔何かよぉ、下痢ピーでさぁ…。ほら、真夏だろ?悪いモンでも食っちまったかなって…〕
いつもトイレの中だろうが、風呂の中だろうが、ベッドの中だろうが、すぐに電話に出るダーブロウ有紗なのだが…。
「大丈夫ですか?ちょっと喉もかれてるみたいですよ?」
〔ん?そうか?夏風邪かな?大丈夫だよ。で、どうした?進展あったのか?〕
「あ、はい!羅夢が姿を消した廃校内で、羅夢と瑠璃ちゃんの足跡を見つけました」
梨生奈は、とりあえず、今現在わかっていることを全てダーブロウ有紗に説明した。
311投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月11日(木)21時14分20秒
〔ふ〜ん…そうか…〕
ダーブロウ有紗は、じっと思案を巡らせているようだ。
「あの…どうしましょうか?」
〔おまえは、このままその学校内を探索しな〕
「え?ここを…ですか?」
〔だって、見つかったのはダッチャと、その瑠璃って子の足跡だけなんだろ?犯人の足跡が見つからないって、異常じゃねぇか?〕
「そ、そうですね…」
〔その謎を、先送りにしたらこの事件は解決できねぇと思うんだよ、私は…〕
確かにそうだ。しかも、足跡がないということは、まだ、この校内に犯人が潜んでいるのかもしれない。
312投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月11日(木)21時14分41秒
〔ところで…デコッパチ…。今、一緒に誰かいるのか?〕
「あ、はい。千秋君が…」
〔千秋?オイオイ…。こんな時にデートなんかしてる場合か?〕
「い、いえ…!決して、デート気分なんかじゃ…」
〔とにかく、千秋は先に帰しな!素人を守りながらじゃ、おまえも危険だ〕
「そ、そうですね。わかりました」
〔それじゃ、また何かわかったら、連絡しろよ?〕
「はい…。あ、『マッド・エッジ』…」
〔何だよ?〕
「夏風邪、早く治して下さいね」
〔おお。サンキュー〕
「サンキュー?私はてっきり、『おおきなお世話だ!コンチクショウ!!』って怒鳴られるとばかり…」
〔何だって?〕
「やっぱり、夏風邪で調子がでないんですか?」
やはり、ダーブロウ有紗も人の子…体調を崩して、刺々しさがなくなってしまったようだ。
そんな彼女との会話に、梨生奈は、少なからず違和感を感じ、調子が狂ってしまったのだった。
〔おまえなぁ…!この私を普段、どんな風に思ってるんだよ!!コンチクショウ!!〕
いつものように、ダーブロウ有紗は怒鳴り声で電話を切った。
313投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月11日(木)21時15分12秒
それでは、おちます
314投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月12日(金)23時59分33秒
遅くなりましたが更新します
これから、遅い時間に更新することになるかもしれません
315投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月13日(土)00時01分43秒
バチバチバチ…。バチバチバチ…。
今度は、羅夢の耳たぶに電流が流された。
「ぐあああ!!ぎあああ!!!」
羅夢は身をよじって悶える。
もう、小一時間、この拷問は続けられている。
さすがに羅夢も、体力の消耗が激しい。
「はぁ…。はぁ…。はぁ…」
いつまで続くともしれない、この虐待…。
しかし、こんなわけのわからない輩の言いなりに…しかも奴隷になるなど、羅夢のプライドが許さなかった。
316投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月13日(土)00時02分35秒
「強情ナヤツメ…!イイ加減、私ノ奴隷ニナルト、言ッテシマエ!!」
「………」
羅夢は、もう、言い返す気力もなかった。
睨みつけようにも、目隠しがされているので、反逆の意思を示すことができない。
「何トカ言ッテミロ!!」
羅夢の首に、スタンガンが押し付けられる。
そして、また激痛。
「ぎゃあああ!!!ぎゃあああ〜〜〜!!!」
羅夢は、激しく身体を、前後、左右、上下に揺する。
もう、既にこんなに暴れまわれるほどの体力が残っているとは、羅夢本人も意外だった。
その時だった…。
ゴキン…妙な音が、羅夢の身体の中で響いた。
縛り付けられたまま激しく身体を動かした為、羅夢の左手首の間接が脱臼してしまったのだ。
317投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月13日(土)00時05分01秒
「ぐ…!」
羅夢は、また新たな痛みに顔をしかめた。
(ぐ…く…く…く…!!ち、畜生め…!!)
忌々しい気持ちでいっぱいになったが、しかし、その気分は一瞬で消え去った。
手首を縛っているロープが、僅かに緩んだのだ。
手首を脱臼した為だ。
きつく結ばれたロープに、少々の遊びが生まれた。
これは、脱出するチャンス?
しかし、まだ抜け出せる程、ゆとりはない。
羅夢は、瞬時に作戦を練る。
318投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月13日(土)00時05分54秒
「ドウシタ?モウ、何モ言エナクナッタノカ?」
「け…!てめぇ…どんなヤツか知らねぇが…このアタイが、てめぇなんかの軍門に降るかよ…」
「何ダト?」
「てめぇってヤツは、最低だ…。こうやって、無抵抗な人間にしか、手を降すことができないんだろ?え?」
「マ、反論ハシナイガネ…」
スタンガンは、羅夢の左脇腹にあてがわれた。
(く、来る…!!)
羅夢は、身構えた。
バチバチバチ…!!
電流が流される。
「ぐわあああ〜〜〜!!!」
大袈裟に叫び声を上げながら、激しく悶える。
もちろん、激痛が相当なものなのだが、一番の目的は、さらに手首を脱臼させて、ロープを解くためだ。
319投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月13日(土)00時07分00秒
(ぐ…!まだか…!まだ、外れないか…!)
羅夢は、更に激しく身体をよじる。
「ドウダ!?苦シイカ?観念シテシマエ!!」
(ぐぅぅ…!まだだ…!)
しかし、いい加減にしなければ、本当に心臓が止まってしまう…。
ゴキ、ゴキン…完全に、左手首の間接が外れた。
これで、脱出できる…!
だが、手を抜き出すことはできても、まだ足がある。
椅子を壊して自由になる方法があるが、その隙に犯人に逃げられるかもしれない。
その前に、せめて犯人の顔を見なければ…。
しかし、その為にはこの忌々しい犯人の言うとおり、奴隷になると言って、許しを請わなければならない…。
320投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月13日(土)00時07分55秒
『プライドの使い所を間違えるな』
これは、普段からダーブロウ有紗の言っている言葉だ。
(畜生…。デカアリなんかの教訓に従うのも、屈辱と言えば屈辱か…)
しかも、これ以上電流を流され続けたら、本当に死んでしまう。
プライドも何も、あったものではない。
(し、仕方がねぇ…!)
「ま、待って…!待ってくれよ!!」
羅夢は叫んだ。
「ン?ドウシタ?」
犯人は、スタンガンによる攻撃を中断した。
321投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月13日(土)00時08分55秒
「ぐ…うぅ…。わ、わかったよ…」
「ワカッタ?何ガワカッタト言ウノダ?」
「い、言うとおりにするよ…」
「言ウトオリ二スルトハ?」
「…ど、奴隷になる…。あんたの…奴隷になるよ…」
「何ダッテ?」
「奴隷になるから…!だから…もう、許してくれよ…」
「本気カ?」
「…ああ…。もう、痛いのとか、苦しいの…イヤなんだよ!!頼むから、もう、やめてくれよ!!奴隷でも、何でもなるからさ!!何でも言うとおりにするから!!」
「本当…?本当ニ…?羅夢チャン…」
(羅夢ちゃん…?)
自分の名前を呼んだ…?しかも、声質が妙に幼くなった…?
「辛カッタデショウ?ジャア、目隠シヲ取ッテアゲルカラネ…」
羅夢に巻かれていた、目隠しの布が取り払われる。
真正面に、照明灯がこうこうと照らされている。
羅夢は、久しぶりに見る光に、一瞬、目が眩んだ。
「大丈夫?眩シイ?」
犯人は、照明灯の明るさを抑えた。
羅夢は、改めて犯人の姿を見る。
それは…瑠璃だった…。
あの、可愛らしい笑顔で、羅夢を見詰めていた。
322投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月13日(土)00時09分58秒
羅夢は絶句した。
犯人の姿を確認したら、すぐさま脱臼をしていない右手で椅子を破壊し、飛び掛って押さえつけようという手筈だったのに、羅夢はただただ呆然と瑠璃を見詰めることしかできない。
瑠璃は、あのマネキンが着ていた薄手のパジャマ姿で、足は裸足だった。
そして、首から提げたスタンガンを右手に持ち、バチバチと青白い火花を散らしている。
「ゴメンネ…。羅夢チャン…」
瑠璃は、耳に掛かっているインカムマイクを外す。
「痛かったでしょ?瑠璃、本当は、こんなことしたくなかったんだよ…」
羅夢は絶句している。
「羅夢ちゃん、なかなか言う事聞いてくれないから、殺しちゃうんじゃないかって、心配したよ…」
羅夢は絶句している。
「驚くのも、無理ないよね…。だって、さらわれたと思った瑠璃が、実はその犯人だったんだもん…」
羅夢は絶句している。
「でも、これで羅夢ちゃんは、瑠璃の奴隷…ううん…瑠璃の仲間になってくれたんだよね?」
羅夢は絶句している。
「瑠璃、嬉しい…。それと同時に…ほんと、ごめんなさいって思ってるんだよ?」
羅夢は絶句している。
「だから…せめてものお詫びに…」
瑠璃は、椅子に縛り付けられている羅夢の膝の上に乗る。
そして、その小さな掌で、羅夢の顔をそっと包み込む。
「瑠璃が…気持ちいいことしてあげる…」
瑠璃は、放心状態の羅夢に、そっと口づけをした。
323投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月13日(土)00時10分54秒
その口づけは、幼い少女によるものとは思えなかった。
羅夢の力なく半開きになった口の中を、瑠璃の舌がゆっくりと踊る。
そして、強く吸い付くと、ようやく唇と唇を離した。
羅夢は、まだ信じられないといった表情で、瑠璃を見詰める。
「うふ…。羅夢ちゃん、まだびっくりしてる…」
クスっと笑う瑠璃だったが、その眉を思いっきり下げ、羅夢の目を覗き込む。
「痛かった?羅夢ちゃん…。本当に、ゴメンね…」
羅夢の首筋を、瑠璃はぺロリと舐める。
そこは、スタンガンによって赤い痣ができていた。
よく見ると、羅夢の赤いトラックスーツには、所々黒いコゲ跡が無数についていた。
「いっぱい、いっぱい、火傷させちゃったね…」
瑠璃は、羅夢のトラックスーツのファスナーを下ろす。
そして、胸を肌蹴させる。
羅夢の、小さく膨らみ始めた乳房がさらされる。
トラックスーツの下にも、所々赤い跡がついている。
「瑠璃が、みんな舐めて癒してあげるね…」
瑠璃の舌が、羅夢の乳首に触れる。
「は…あ…」
羅夢は思わず、身体を仰け反らせた。
「くすぐったかった?」
瑠璃は、羅夢の顔を見上げながら、丁寧に火傷の跡を舐めた。
324投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月13日(土)00時11分51秒
羅夢のトラックスーツは完全に前を開けられ、肩までむき出しになり、胸から腹まで素肌をさらす。
瑠璃の舌は、羅夢の身体を丹念に舐め上げていく。
本当に、火傷の痛みが癒されていくような気がした。
「う…ふぅ…」
羅夢は思わず溜息を漏らし、身をよじらせた。
瑠璃は、羅夢の膝から降りると、足下にしゃがんで、トラックスーツのパンツに手を掛けた。
「羅夢ちゃん、腰を上げて…。足も…火傷してるでしょ?」
羅夢は、素直に腰を浮かした。
瑠璃は、スルリと羅夢のトラックスーツのパンツを降ろした。
太ももや膝頭にも、火傷の跡がついている。
そこにも、瑠璃の舌は触れる。
羅夢は、天上を仰ぎ見た。
(こ、ここは…?)
ようやく、羅夢は辺りの様子を窺う。
(お、思い出した…。ここは、サーカスの事件の時、梨生奈と一緒に捜索した…発電所だ…)
瑠璃の優しい舌使いに、気が遠くなりそうだが、羅夢は懸命に考えを巡らせる。
(い、一体…これは、どういうことだ…?この事件は、一体何なんだ…?瑠璃ちゃんは…何で…こんなことを…?)
この誘拐事件は…瑠璃が画策したものだったのだろうか…?
一体、何の為に…?
意味がわからない…。
325投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月13日(土)00時12分47秒
ふと、部屋の隅に目をやる、羅夢。
そこには、小さな子供のマネキンが、裸の状態で、仰向けになって転がっていた。
顔面には、大きな穴が空いている。
そう…瑠璃のパジャマを着、あの大きなクスノキの枝に首吊り状態で吊るされていた、あのマネキン人形だ。
ソレを見た羅夢は、瑠璃が殺されたと勘違いをし、冷静な判断ができなかった。
その結果、このような囚われの身に…。
囚われの身…?
何を言っている…!
自分は、今、いつでもこの状況から脱出することができるではないか…!
それに、あの悪趣味極まりない、マネキン人形の策略も、瑠璃の手によるもの?
あの時、自分は、本当に瑠璃のことを思い、半狂乱になったのだ…!
沸々と込み上げる、怒りの感情…。
そして、羅夢の顔は、憤怒の色に染まり始めた。
「ぐ…!あああ!!」
羅夢は叫び声を上げると、強引に脱臼した左手首をロープから引き抜いた。
「…え…?羅夢ちゃん?」
瑠璃は驚いて、思わず顔を上げた。
「オラァ!!」
羅夢の右拳が、瑠璃のその顔面に炸裂した。
326投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月13日(土)00時15分57秒
「ぎゃ!!」
羅夢の渾身の右フックを、頬にまともに受けた瑠璃は、その軽い身体を宙に浮かせ、冷たいコンクリートの床に突っ伏して倒れた。
「オラアアア!!!」
羅夢は、椅子の脚に縛られたままの両足で床を蹴り上げると、高くバック転をする。
そして、着地と同時に椅子を床に叩き付け、粉々に粉砕した。
ようやく両手両足が自由になった羅夢は、まず、脱臼した左手首を元に戻す。
次に、瑠璃によって降ろされたトラックスーツのパンツを素早く引き上げ、上着のファスナーをキッチリと首まで上げる。
327投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月13日(土)00時16分50秒
「よ、よくも…よくもアタイに向かって、ふざけたマネしてくれたね…!!」
羅夢は仁王立ちして…顔の表情も、まさしく仁王のように、瑠璃を睨み付けて見下ろした。
「ひ、ひぃ…!」
瑠璃は、慌てて首に提げたスタンガンを構えると、スイッチを入れて火花を散らせ、羅夢の足下を狙う。
「オラ!!」
羅夢は、瑠璃のスタンガンを蹴り上げた。
スタンガンは高く宙を舞い、羅夢の右手に納まった。
「あ…!!」
顔面蒼白になる瑠璃。
羅夢は、スタンガンのスイッチを入れ、バチバチと火花を散らす。
その、火花を眩しそうに見ると、視線を瑠璃まで降ろす。
「これで…これで散々、アタイをいじめてくれたね?瑠璃…」
「ひ…ひ…ひ…」
頬を腫らせ、目に涙をいっぱい溜めながら、尻で後退りする瑠璃。
「聞きたいことは、山ほどあるけど…まずは…お仕置きだよ…!」
328投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月13日(土)00時17分41秒
モニークは、ようやく発電所に辿り着く。
彼女は、錆びた鉄条網の絡み付いた門を飛び越える。
そして、正面のドアに手を掛ける。
「…!?鍵がかかってない…?」
モニークは、そのままドアを開け、中に入った。
すると、廊下の奥から、叫び声が聞こえてきた。
「オラアアア!!!」
今の声は…羅夢!?
モニークは駆け出した。
声が聞こえてきたのは、廊下を曲がって突き当たりの部屋…。
そして、何かが破壊されたような音…。
何かが起きている!!急がなければ!!
モニークは、もう、気が気でなかった。
そして、突き当たりのドアを開ける。
そこには、スタンガンを片手に、仁王立ちをする羅夢…。
そして、蛇に睨まれたカエルのように、腰を抜かして動けないでいる瑠璃…。
「聞きたいことは、山ほどあるけど…まずは…お仕置きだよ…!」
羅夢は、スタンガンの火花を散らしながら、瑠璃に向かって飛び掛った。
「きゃあああああ〜〜〜!!!」
瑠璃の悲鳴が上がる。
329投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月13日(土)00時18分39秒
「待った!!羅夢!!」
モニークは、寸でのところで、スタンガンを持つ羅夢の右腕を掴んだ。
「モ、モニーク!!」
羅夢は、目を丸くした。
「一体…一体、どうしたって言うんだい!?」
モニークは、羅夢と瑠璃を交互に見る。
「モ、モ、モニーク先生〜…」
瑠璃は、泣き声を上げた。
「モニーク!これは…この事件は、瑠璃の自作自演だったんだよ!!」
羅夢は興奮気味に叫んだ。
「自作自演?」
「そうさ!それに、それだけじゃないよ!瑠璃は、このスタンガンでアタイを拷問したんだ!!奴隷になれとか抜かしやがって…!」
「落ち着け、羅夢…」
「これが落ち着いてられるかよ!!放せ!!」
羅夢は、モニークに掴まれた右腕を振り切ろうろするが、モニークはしっかりと掴んで放さない。
330投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月13日(土)00時20分09秒
モニークは、冷たい視線を、瑠璃に向ける。
「瑠璃…。説明しな…」
「モニーク先生…」
「これはどういうことなんだ?」
「ご、ごめんなさい…」
「謝るんじゃなくて、説明するんだ!」
モニークの声が、一層厳しくなる。
「う…。う…。う…」
瑠璃は泣きじゃくった。
その姿は、ただ怯えるだけの普通の少女で、さっきまで羅夢を拷問した残忍な少女とは思えなかった。
「瑠璃…。どうして…?」
モニークの声が穏やかになる。
「どうして、私の言う通りにしなかったんだい?」
「…え?」
羅夢は、モニークの顔を見た。
「私がここに着くまでに、羅夢を奴隷にして調教するように言っておいたじゃないか…」
羅夢は、一瞬、モニークが何を言っているのか、理解ができなかった。
「な…何を言って…」
羅夢の言葉が終わらないうちに、モニークは掴んだ羅夢の右腕からスタンガンを奪い取る。
そしてモニークは、青白い火花を散らしながら、羅夢に向けてスタンガンを突き出した。
331投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月13日(土)00時21分04秒
「…!!」
羅夢は、咄嗟に後ろに仰け反ると、そのまま手を着いて、足を跳ね上げる。
その跳ね上げた足は、モニークのスタンガンを蹴り上げる。
瑠璃は、飛び上がってそのスタンガンを空中で受け止めた。
そして、宙返りしながら、モニークの後ろに着地した。
「瑠璃…!今度は、奪われないでしっかりと持ってるんだよ!」
「はい…!モニーク先生!」
羅夢は、体勢を整えながら、頭の中がパニックになった。
「ど、どういうことだ!?こりゃ、どうなってんだ!?」
羅夢は、モニークと瑠璃の顔を交互に見る。
「どういうことか…もう、わかってるだろ?」
モニークは、不敵な笑みを浮かべた。
瑠璃は、キッとこちらを見据えている。
「つ…つまり…おまえ等は…グル…?」
「そうさ…」
モニークは、軽く拍手をした。
「ふ、ふざけんな!!一体、どういうことか、説明しろ!!」
「ああ、説明してやるよ。まず、おまえを大人しくさせてからね!!」
モニークは、羅夢に向かって襲い掛かった。
332投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月13日(土)00時22分38秒
「…う!!」
羅夢は、一歩後退りする。
そして、構えを取った。
モニークの突きの連打が。羅夢に叩き込まれる。
羅夢は腕のガードを固めて迎える。
ガガガガガ…!!
凄まじい衝撃が、羅夢の腕に走る。
羅夢は5歩程、後ろによろめいた。
そして、モニークのハイキック。
羅夢は咄嗟に右腕で側頭部から顎にかけて防御する。
しかし、モニークの高く上げた足は、軌道を変え、羅夢の脇腹にヒットした。
「ぐ…!!」
羅夢は、脇腹を抱えてしゃがみ込むが、次の瞬間には、モニークの攻撃が届かない、安全圏内へ逃れる。
「ふふ…。どうした?防御一辺倒だね?おまえの大好きな攻撃をやってごらんよ」
モニークは、人差し指をチョイチョイと動かす。
「な、な、なめんな〜〜〜!!!」
羅夢は髪の毛を逆立てんばかりに激情した。
「オラアアア〜〜〜!!!」
今度は、羅夢がモニークに襲い掛かる。
333投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月13日(土)00時23分39秒
「オラオラオラオラ、オラアアア〜〜〜!!!」
羅夢の拳と蹴りの波状攻撃…。
目にも止まらぬ速さで繰り出される。
しかし、その攻撃を、モニークは難無く上半身を動かすだけで避けている。
「す…凄い…。羅夢ちゃんも…モニーク先生も…」
瑠璃は、目を点にして2人の闘いをマジマジと眺める。
「瑠璃!感心してないで、アレを用意してやりな!」
「え…?アレって…アレですか?」
「そう!アレだよ!」
「で、でも…」
「いいから!早く!!」
「は、はい!」
瑠璃は部屋の隅にあるガラクタ置き場へと駆け込んだ。
「おい、モニーク!!闘いの最中だぞ!無駄口叩いてんじゃねぇ!!そんな余裕があんのかよ!!」
「あるよ?」
モニークは、ヒラリと身体を翻すと、回し蹴りを羅夢の顔面に放つ。
「おお!?」
羅夢は、腕を交差させて、その一撃を受け止めるが、勢い余って、後ろの壁まで吹っ飛んで、背中を打ち付けてしまった。
334投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月13日(土)00時24分51秒
「ぐ…!くそ…!」
背中の痛みに顔を歪める羅夢は、もう一度モニークに挑みかかる。
しかし、その瞬間、何かが羅夢の方へ回転しながら飛んで来た。
「…!?」
羅夢は、飛んで来たソレを、無意識に受け止める。
ソレは…とても手に馴染む物だった…。
そう…羅夢の専用武器、象牙色の六角柱の…ヌンチャクだった。
瑠璃が投げたのだ。
「こ、これは…」
羅夢は、そのヌンチャクを、じっと見詰めた。
「ソレ、あんたの武器なんだろ?ソレ使って闘いな」
そう言うモニークに、羅夢は歯軋りした。
「く…!随分、余裕ぶちかましてくれるじゃねぇか!!え!?モニーク!!」
しかし、モニークは至って真面目に…無表情な顔で答えた。
「余裕?そんなんじゃないさ。同じ元『TTK』の『戦士』…。なめちゃいないさ!」
モニークは、ウェストポーチから、黒革のグローブを取り出す。
そう…銀色の鉤爪のついた、モニークの専用武器だ。
それをゆっくりと、右手にはめた。
「う…」
羅夢は、一瞬たじろいだ。
335投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月13日(土)00時26分22秒
「お互い、一番得意な闘い方でやり合おうじゃないか?」
「ふ、ふん…!上等だ!!」
羅夢は、ヌンチャクを回転させる。
徐々にスピードを上げていく…。
「瑠璃…よく見ておくんだよ?これが、元『TTK』の『戦士』同士の闘いだよ」
モニークは、瑠璃にそう語りかける。
「何?」
羅夢は、一瞬、動きが止まった。
モニークは、瑠璃に『TTK』のことを話している?
336投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月13日(土)00時27分10秒
「さあ、どうしたんだい?早く掛かってきなよ!」
モニークは、羅夢を挑発する。
「言われなくっても…行ってやらぁ!!」
羅夢は天上スレスレに跳び上がる。
そして、ヌンチャクを、自らの身体も回転させながら、モニークに襲い掛かる。
「オラァ!!」
モニークに向けて、ヌンチャクが叩き込まれる。
その際に発生した暴風が、遠くで見守っている瑠璃にまで届いて来た。
「ひゃあ!!」
瑠璃は、思わず目を逸らした。
「ふん!」
モニークは、後ろに避けずに、なんと前方に足を踏み込んだ。
そして…モニークは、羅夢の腹を目がけて、鉤爪を振り払った。
337投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月13日(土)00時28分06秒
「うおっ…!?」
羅夢は、追撃を避け、後ろに跳び退いた。
そして、攻撃を受けた自分の腹を見る。
羅夢の赤いトラックスーツの腹の部分は、四つに大きく裂けていた。
しかし、裂けたのはトラックスーツだけで、羅夢の身体には、傷一つ付いていなかった。
「あ…あ…危ねぇ…!!」
寸でのところで命を拾った羅夢は、血の気が退いた。
「くそ…!モニークも接近戦のスペシャリスト…!攻撃は常に反撃のリスクを負っちまう…!」
憎々しげに、モニークを睨む羅夢。
しかし、モニークは平然とした顔で、鉤爪に絡み付いた、赤い布を振り払って言う。
「あんた…今の攻撃…自分が寸でのところで避けたとでも思ってるのかい?」
「あん!?」
「今のは、私があえて身体に傷をつけないでやったのさ…。つまり、私の慈悲深い名人芸さ…」
「な、何だと!?」
「本来なら、あんたのその可愛いオヘソの辺りに赤い線が走り、パックリと傷が開き、腸がズルズルとこぼれ落ちてるところだよ?」
「ぐ…う…」
それを聞いた羅夢の顔から、どっと油汗が噴き出した。
「じゃ、じゃあ、何でそうしなかったんだよ!!」
「何で?するわけないさ…。だって、あんたを殺すのが、目的じゃないからさ…」
338投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月13日(土)00時29分14秒
「だ、だったら、何が目的なんだ!!」
「目的?瑠璃が言わなかったかい?あんたを奴隷にするって…」
「ちぃぃ!!ふざけんなってんだ!!」
羅夢は、再びモニークに挑んでいく。
羅夢のヌンチャクは、嵐のようにモニークを包み込む。
しかし、モニークは柳の枝のように、しなやかに攻撃をいなしていく。
「隙だらけだ…。また、攻撃に移るとしようか?」
モニークは、下からすくい上げる様に、鉤爪を走らせる。
「う…!!」
羅夢は、また後ろへ跳ぶ。
今度は、左胸から肩までザックリと切り裂かれた。
左の乳房が剥き出しになる。
「くぅ…」
羅夢は、思わず胸を隠した。
「ふふ…あんたのオッパイ…傷一つついてないよな?本来なら、あんたの乳首が床に転がってるよ?」
勝てない…。
どう逆立ちしたって、モニークには敵わないのか…?
いや、こうなったら、最後の手段…今まで実戦で使ったことのない、あの戦法を試してみるしかない…!
339投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月13日(土)00時30分17秒
「オラァァァ!!」
羅夢は、再びモニークに向かって突進していく。
「来るか?」
モニークも、爪を羅夢に向ける。
「ああ…ヌンチャクだけな!!」
羅夢は、モニークに向かってヌンチャクを回転させながら投げつけた。
「ム!?」
モニークは、爪付きグローブで、ヌンチャクを叩き落した。
「捕まえたぜ!」
その腕を、羅夢は掴んだ。
「し、しまった…!」
モニークは、初めて焦りの表情を浮かべた。
「オラ!!」
羅夢は、そのままモニークの腕を取って回転して床に叩きつけると、足も絡ませて、腕ひしぎ逆十字をかけた。
340投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月13日(土)00時32分30秒
「へへ…!てめぇを倒すのに、ヌンチャクなんか、要らねぇぜ!!」
羅夢は、一気に腕をへし折りにかかる。
「ぐ…!ヤ、ヤバイ!!」
モニークの顔から、余裕は一切消えた。
「いくぜ!!オラ!!」
羅夢が思いっきり腕を逆方向に曲げようとした時…。
バチバチバチ…!!
「ぎゃ!!」
身体に走った激痛に、羅夢は思わず手を放した。
瑠璃が、スタンガンを構えて、震えながら立っていた。
341投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月13日(土)00時33分26秒
「く…!こ、この、クソガキ!!」
羅夢は、瑠璃に掴みかかる。
「ひ…!」
瑠璃は、腰を落とした。
「待ちな!!」
後ろから、羅夢の背中に蹴りが放たれた。
「ぐああ…!!」
羅夢は、前のめりに倒れる。
「瑠璃に、手出しはさせないよ!」
モニークが、羅夢を見下ろしている。
「ぬぅ…!!てめぇ…!!」
羅夢が立ち上がり様に振り向くと…。
ドボ…羅夢のみぞおちに、モニークのトゥキックが炸裂した。
「ぐ…う…うぅ…」
羅夢は腹を抱え、顔面蒼白になってうずくまった。
「ふぅ…。焦ったよ…。本当に、腕一本折られるのを覚悟したから…」
「が…ぐ…う…」
羅夢は、涙をいっぱい溜めた目で、モニークを見上げ、睨みつける。
342投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月13日(土)00時35分51秒
「オラァァァ…!!!」
羅夢は、渾身の力を込めて、モニークを投げようとする。
しかし、モニークは、羅夢の足に自らの足を絡め、投げられるのを阻止する。
「うお…!?」
モニークは、前に体重をかけ、着地すると、羽交い絞めにしている羅夢ごと前方宙返りをする。
「う、うわ!!」
そして、コンクリートの床に、背中から落ちる。
「あう…!!」
当然、後ろから羽交い絞めにしている羅夢は、モニークの下敷きになる。
羅夢は呻き声を上げると、モニークの羽交い絞めを解いた。
モニークは、素早く立ち上がると、羅夢を見下ろした。
「う…ぐ…」
羅夢は懸命に起き上がろうとするが、膝を着いた状態から立ち上がれない。
羅夢のツインテールに括った髪の毛がほどけている。
それ程の衝撃だったのだろうか…。
343投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月13日(土)00時36分57秒
「あんた…強くなったじゃないか…。100点満点で、80点やるよ…」
モニークは、右足の爪先で、羅夢の顎をしゃくり上げる。
「く…く…く…こ、このぉ…!」
「でも、ここまでだよ!」
モニークは、その足を高く上げ、羅夢の脳天に踵を叩きつけた。
「ぐぅ…!!」
羅夢は、床に突っ伏して気絶した。
モニークは、息をついて瑠璃の方を見る。
「瑠璃…。ありがとね…。あんたのおかげで、腕を折られずに済んだよ…」
モニークは、瑠璃の頭を撫でかけたが、爪付きグローブをはめていたので、慌てて手を引っ込めた。
「は、はい。モニーク先生のお役に立てて、嬉しいです!」
瑠璃は立ち上がり、気をつけをする。
「でも、役に立つって言うなら、ちゃんと羅夢のことを奴隷にしてほしかったよ。まったく…危ないとこだったよ…」
「はい…。ごめんなさい…」
瑠璃は、シュンとうな垂れた。
「やっぱりあんたは、『戦士』にはなれない器だったんだろうね…。『TTK』が壊滅して、ほんと、助かったね、瑠璃…」
「はい…」
瑠璃は、ますますうな垂れた。
344投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月13日(土)00時39分07秒
「ちゃんと教えただろ?拷問の基本を…」
モニークは、爪先で引っ掛けて、羅夢の身体を仰向けに返す。
「拷問する時は、必ず相手を素っ裸にしろ…。こんなことは『いろは』の『い』だよ?」
そう言うと、モニークは、爪で羅夢のトラックスーツをサクサクと切り刻んでいく。
「素っ裸にすることで、相手は惨めな気持ちになる。精神的ダメージが全然違うんだよ」
そう言うと、モニークは下着まで切り刻み、ものの十数秒で羅夢を全裸に剥いてしまった。
モニークは、爪付きグローブをようやく外した。
「さ、瑠璃…。調教のやり直しだ。手伝って…」
「は、はい!」
「この羅夢は、絶対に私達の味方に引き込まなければならない…。私の目的達成の為に…」
「はい!モニーク先生!!」
「そうだ…。あんたにもコードネームを与えてやろう…。私、考えたんだよ…」
「え?ほ、本当ですか!?」
瑠璃の目が輝いた。
「『エレクトリック・ライト・オーケストラ(電光楽団)』…。略して『E・L・O』…。あんたの専門知識をコードネームにしたんだ。どうだい?気に入った?」
「『E・L・O』…。ありがとう!モニーク先生!!」
満面の笑みで応える、瑠璃。
「おまえは、新生『TTK』の第一号『戦士』だよ…」
暗殺組織『TTK』の訓練生、松尾瑠璃は、ようやくコードネームを与えられた。
345投稿者:
リリー
投稿日:2008年12月13日(土)00時40分09秒
では、おちます
346投稿者:
御疲れさんしたぁ!
投稿日:2008年12月13日(土)00時45分24秒
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