昼休み *** 俺と女は別々のクラスだ。女のクラスの教室は俺の隣のクラスの教室である 距離にしたらさほど大した事は無い とは言え、女からすれば、それだけでも大変なことである *** 「ふう…やっと昼休みか」 俺は授業担当の先生が出るや否や大きく伸びをした 「あー。さっきの授業、だるかったな」 そう言って俺の方に近づいてくる男。友だった 「確かにな。どうもあの先生の授業は眠くなる」 どうしてあの先生は夢の世界に誘うような話し方をするんだろうか 「だよな〜…っと。お前の彼女、来てるぞ」 どうでもいいような話をしている途中で、友が俺達に注がれる視線に気づいたらしい 「ぉ、男ぉ……」 友の言うように、俺の彼女こと女が教室のドアから半分顔を出したような状態で俺のことを待っていた 「女ちゃん、今から男がそっちに行くってさ〜。ほれ、早く行ってやれよ」 友は笑いながら女に声をかける。女はびくっと震えるも 「わ、わかった、友……」 詰まりながら、小さな声で返した 友は実を言うと、中学校からの仲だった。 もちろん、女が昏睡状態から目を覚ましたのは中学三年生になる頃だから、女は初めは激しく友を拒絶した。 それでも友は女に何回も拒絶されてもめげずに持ち前の明るさで女と仲良くなろうとした どうやら俺と女の関係を知って、仲良くなってみたかったらしい その結果、女は流暢に、とはいかないが、友と話すことはできた もっとも、近くまで寄られると俺がいないと黙り込んでしまうが 「ん。それじゃ行ってくる」 俺は友と別れ、震えてる女の所に向かった *** 俺と女は屋上に来ていた。ここからの景色は中々のものだが、何故か不人気な場所だった まあ、そのおかげで女が安心していられる場所を確保できてるわけだが 「…ふう、この場所に来ると、落ち着ける…」 女は緊張から解き放たれたように溜め息をつく。ここに来るまでも、今朝の登校の状態に近かった それでも、同じクラスの人には幾分か馴れてきてるのか、外で出会う赤の他人を見かけるよりかはマシな状態ではあった ちなみに女は毎回の休み時間、よほど忙しかったりしない限り、俺のいる教室に顔を覗かせる 少しでも俺と一緒にいたいらしい。それは俺がいないと安心出来ないのか、それとも恋人としてなのか 多分、両方なのだろう。俺にとっても嬉しい時間だ だが、昔は大変だった。トイレにさえ、付き合ってくれ、とせがむのである 今でこそ、俺がトイレの前で待っていれば一人でトイレに向かうようになったが、一度トイレの中に半ば強引に引きずり込まれた 運良く誰にも見つからなかったが、俺が少し機嫌を悪くしたのを見てからはトイレの前で待ってくれればいい、と言い始めた きっと、トイレの中でも人が入ってくると怯えているのだろうな 「さて、弁当食べるか」 「うむ」 俺達はいつものように壁にもたれるように座り、弁当を広げた 「いただきます」 「いただきます」 女はきちっと手を合わせてから食べ始めた。弁当箱も女の子らしい感じのもの、と言ったような感じだ そして大人しく食べていたかと思うと 「男、はい、あ〜んしろ」 いきなりの不意打ち。女の弁当に入っていた卵焼きを俺の口の方に持ってくる 「……あ、あ〜ん…」 俺は少し周りを見回してから、大きく口を開けた。その後に卵焼きが俺の口の中に入れられる 女のつくる弁当は普通に美味い。俺の作る弁当もよく美味いと言われるが、女には敵わない 「ふふ。こう言う事にちゃんと反応してくれる君は可愛いな」 不意打ちから追撃と言わんばかりのコンビネーション いつもあまり笑わない、女のふわっとした笑顔と子供のように喜ぶ姿は明らかに卑怯だ 今でこそ、人前になると俺に頼りきりの女だが、元の性格はこうなのだ 冷静で自分の意見を素直に言ったりしていた。事故に遭う前は明らかに俺は女にいつもペースを掴まれていた もしかすると今も物事をはっきり言ったりする素直さや挙動は、小学四年生の頃のままでいるからなのかもしれない ……冷静なのは今も昔も変わらないが 「男……」 「ん?」 弁当を食べ終え、一休みしていると、女が俺に寄りかかってきた 周りに人がいないと女は大胆に甘えてくる。本当に子供みたいだ 「いつも、君には感謝している。ありがとう」 女は俺に擦り寄りながらはっきりとした口調で俺に礼を告げた 「…いつものことだろ。気にするな。女と一緒にいるのは、苦にならないし、むしろ嬉しい。それに……」 「それに、何だ?」 女は俺の顔を見上げる ――俺達は、恋人だろ? 心地よい風が俺と女を包んだ 〜END〜