>とかく獣医の教科書は高くそして重い。しかも、どの本がスタンダードなのか、いまいちはっきりしないことが多い。書店にもなかなか並ばないので、立ち読みするにも困難で、気軽に取り寄せるには勇気が必要である。これは貧しい学生の精神衛生のためにも、財布のためにもハイリスクなことである。最近では卒業シーズンにヤ○オクで買ったり、アマ○ンの書評を見たりということも可能ではあるが、いかんせん絶対数が少ないので、十分な助けにはなっていない。 >そこで、本ページでは主な科目におけるスタンダードが何であるかを考察するとともに、あわよくばバイブルと呼べるものがないかを検討することを目的としている。 >方法: 各大学のオンラインシラバスを参照し、教科書として指定されている書籍をピックアップし、比較した。 >結果: 2007年6月25〜27日にかけて、16大学中12大学のシラバスを参照できた。多くの大学で共通して採用されているものもあったが、教科書と参考書とが区別されずに記載されていたり、実際に使用しているのかが怪しまれる場合があった。また、担当教官が自前で資料を用意している場合も多かった。 >考察: 幾つかの書籍はスタンダードと呼んでも良さそうであった。しかし多くの大学で教科書が指定されていない科目があったり、大学間であまり一貫性がない科目もみられ、これでよく国家試験に対応できるものだと考えさせられるものもある。今後の獣医学教育のためには、各教員個人ではなく学会レベルでの努力により、少なくとも国家試験の範囲を網羅した"教科書"の出版が期待される。 ――なんちゃって。ちょっと論文風に書いてみました。調べた結果は以下の通りです。各科目は実習も一緒にまとめてます。あくまで私評ということで悪しからず。多くの大学で使われていれば必ずしも良い教科書とは言ず、教科書指定されてることと使えるということはまた別のお話だから、悩んだときの参考ぐらいに。 //あと本屋と癒着もしてないので、Amaz○nとか楽○とか紀○国屋へのリンクなどは張ってません。アフィリエイト取ればお金になるのかもしれないけど、面倒だし、非営利で。 #region(close,目次) #contents #endregion ---- **解剖 マクロ解剖と組織学、それにそれぞれの実習も混ざってるのでちょっと雑多ですね。発生学もここでまとめて紹介しちゃいます。 -&amazon(487402646X,text)(山内・杉村・西田監訳、近代出版) -&amazon(4842503408,text)/&amazon(4842503416,text)(加藤嘉太郎・山内昭二、養賢堂) -&amazon(4873621445,text)(日本獣医解剖学会監修、学窓社) -&amazon(4873621240,text)(日本獣医解剖学会編、学窓社) -&amazon(4830031700,text)(江口保暢、文永堂) やっぱり学会が編集した教科書と、伝統ある比較解剖図説はスタンダードになってますね。カラーリングアトラスは実習用の塗り絵って感じ。僕らの時代はまだ夜中までスケッチしてたんだけどねぇ。 あとは『家畜比較解剖学(学窓社)』『犬と猫の解剖学セミナー(インターズー)』『標準組織学 総論・各論(医学書院)』『神経解剖学(朝倉書店)』などを指定しているところもありました。発生学は他にも一冊あったけど、やっぱり上のがメジャーでした。 **生理 予想よりバラけた感じです。 -&amazon(4830031174,text)(高橋監訳、文永堂) -&amazon(4254460244,text)(菅野・田谷編、朝倉書店) -&amazon(4830602236,text)(大地、文光堂) -&amazon(4873620627,text)(獣医生理学・生理化学教育懇談会編、学窓社) 文永堂のはしっかりしてるんだけど、難しいので参考図書扱いにしてるってところも。あとは、文光堂のもそうだけど、人間用のテキストを利用しているところもいくらか。実習テキストはまあ妥当な線。 **生化 ここが荒れてるんだわ。 -獣医生化学(大木・久保・古泉編 文永堂) -&amazon(4254460252,text)(斉藤・鈴木・横田編、朝倉書店) 『獣医生化学』って同じタイトルなのはどうなんだろう。執筆陣が違うから鞍替えって訳でもなかろうし…。どちらも国試対応ということだが、朝倉のが丁度10年新しい。 他にはホートンだの、ヴォートだの、レーニンジャーだのと人用で良いのが色々あるということですね。 **薬理 ここはやっぱりバイブルがありますから。 -&amazon(4874021018,text)(浦川・大賀・唐木・大橋・中里編、近代出版) -&amazon(4842594047,text)(吐山、養賢堂) -&amazon(4830031387,text)(比較薬理学・毒性学会編、文永堂) 『獣医〜』と『家畜〜』のシェアは同じくらいでした。洋書を指定しているところも一箇所。どことは言わないが『Goodman & Gilman, The Pharmacological Basis and Therapuetics』ね。 **毒性 ここが2分されたのは予想どおりです。 -&amazon(4254460228,text)(藤田編、朝倉書店) -&amazon(4842595027,text)(白須・吐山、養賢堂) 値段は『毒性学』>>『獣医毒性学』。養賢堂のは後ろのほうに国試出題範囲が付いてて、完全対応という感じ。日本毒性学会編の『トキシコロジー』を採用しているところも。 **微生物 ここにもスタンダードあり。 -&amazon(4830031921,text)(見上編、文永堂) -&amazon(4254460198,text)(鹿江ら編、朝倉書店) -&amazon(4621044656,text)(東京大学医科学研究所学友会編、丸善) 前はどっこいどっこいだったが、調べてみたら『家畜〜』より『獣医〜』のほうが多数派。やっぱり中身と金額を反映しているか。どことは言えないが洋書を指定しているところが一箇所。『Janetz, Melnick, & Adelberg's 「Medical Microbiology」, Appleton & Lange Press』。他にもこまごまと。人間のほうの『標準微生物学(医学書院)』とか。 実習のほうは獣医用じゃないのにスタンダードになってる。モノが良いということか? **寄生虫 長い古典の時代を越えて、新たなスタンダードが登場するか? -&amazon(4254460279,text)(板垣・大石、朝倉書店) -&amazon(406153727X,text)/&amazon(4061537288,text)(石井、講談社サイエンティフィック) -獣医寄生虫検査マニュアル(今井・神谷・平・茅根、文永堂) -&amazon(4061537032,text)(板垣ら、講談社サイエンティフィック) 一族により受け継がれている『家畜〜』は間違いなく寄生虫病学のバイブルでしょうが、いい加減古いので、次のスタンダードの登場が待たれるところ。2部構成なので購入し難いものの、徐々に講談社のものにシフトしている様子。 **伝染病 全てを網羅できるようにCDつきでつくられたバイブルがありますから。 -&amazon(4874021239,text)(清水・鹿江・見上編、近代出版) -&amazon(4874020410,text)(清水ら編、近代出版) -&amazon(4830031638,text)(見上、文永堂) やっぱり『動物の感染症』がトップシェア。その改定前の姿にあたる『獣医伝染病学』がシラバスに載ってるのは、情報が更新されていない証拠とも言えましょう。疫学の区分が定かでないので、獣医疫学会の『獣医疫学(近代出版)』をここで扱っているところもあり。『犬と猫の感染症マニュアル』など、内科の区分で感染症として扱われる部分もありますが、そのへんは適当に判断。 国試対策として直前に買っていた『増補版 家畜疾病カラーアトラス,農水省畜産局監修,信陽堂印刷(株)』を指定しているところもあったのが驚き。 **公衆衛生 ここはもう、他の選択肢がなかったですね。 -獣医公衆衛生学(高島・熊谷編、文永堂出版) **衛生 基本的には一冊選べばいいんだろうが… -&amazon(4830031999,text)(鎌田ら編、文永堂) -&amazon(4793622011,text)(松本・松山、全国農業改良普及協会) -動物の免疫学(小沼ら編、文永堂) -&amazon(4947707402,text)(永幡、酪農総合研究所) -&amazon(4873620570,text)(押田ら、学窓社) 教科書が乱立しているのは、どうも定義がはっきりしないからではないだろうか。誰か公衆衛生と衛生の違いをしっくりくるかたちで説明してください。その範囲が明確になればスタンダードたる書籍も定まってくるように思われる。それでも一応『獣医〜』は国試の範囲を考慮した編集になってるそう。 **実験動物 実験動物の管理は獣医の重要な役割のひとつなのに、書籍となると…。 -&amazon(425446021X,text) (前島・笠井 編、朝倉書店) -&amazon(4061393855,text)-マウス・ラット-(鈴木 編、講談社) -&amazon(4900659444,text)/&amazon(4900659452,text)(日本実験動物協会 編、アドスリー) 基本的に朝倉のもので、下2つは実習用―といった感じでしょう。 **放射線 基本的な放射線と、診療における放射線との両方をやるので煩雑ですね。 -&amazon(4766506030,text)(山口、啓学出版) -&amazon(4765313409,text)(菅原、金芳堂) -&amazon(4924460958,text)(杉浦、通商産業研究社) -&amazon(4274132439,text)(江島・木村、オーム社) -&amazon(4899951620,text)(JM Owens・DN Biery著、メディカルサイエンス社) -&amazon(4873620864,text)(学窓社) -獣医臨床放射線学(Donald E. Thrall著、菅沼・中間・広瀬 訳、文永堂) 同じようなものが多いですが、基礎で獣医な書籍がないことが白日の下に。臨床向けには画像診断の関連で結構あるんですけどね。北米の文献集のような『The Veterinary Clinics of North America(1999,vol2)』を持ち出しているところもありました(実際にどう使ってるかは不明ですが)。 **病理 学会が元気なのでスタンダードはそちらから。 -&amazon(4830031832,text)/&amazon(483003162X,text)(日本獣医病理学会編、文永堂) -&amazon(487362150X,text)(日本獣医病理学会編、学窓社) -獣医病理組織カラーアトラス(板倉・後藤 編、文永堂) この他にもいくつかありますが、これらがスタンダードでしょう。ただし、臨床病理はまた別。 **外科 ここだ。ここのスタンダードが意外とないのだ。未だに小動物と大動物の区分があまり為されてないというのも原因のひとつか。 -&amazon(4842590017,text)(酒井・小池 監修、養賢堂) -&amazon(4842502940,text)(養賢堂) -&amazon(430779009X,text)(幡谷、金原出版) -&amazon(4061537075,text)(竹内啓ら、講談社サイエンティフィク) -スラッター 小動物の外科手術(文永堂) -スモールアニマルサージェリー 上下巻(若尾・田中・多川 監訳、インターズー) -獣医麻酔の基礎と実際(日本獣医麻酔外科学会 編、学窓社) 外科一般について総覧したものが―ない。あっても古いか高い。『スラッター』と『スモールアニマルサージェリー』は教科書として買うにはあまりに高価でしょう。指定されてないが、新しく出た『初心者のための小動物の実践外科学(枝村、チクサン出版)』が、きちんと書いてあるし値段もリーズナブルなので、そちらに期待したい。 外科では麻酔もやらなきゃならないですが、そちらのスタンダードはひとまずこちらのもので良いのでしょう。 **内科 こちらは外科と違い、スタンダードが存在するので画一化されています。 -&amazon(4830032006,text) 小動物編・産業動物編(日本獣医内科学アカデミー編、文永堂) -獣医内科診断学(長谷川・前出監修、文永堂) -スモールアニマルインターナルメディスン 上下巻(長谷川・辻本 監訳、インターズー) 内科学アカデミー名義により、小動物と大動物に分けて再編集された『獣医内科学』があり、殆どの大学ではこれを採用しています。以前のものに図や表が増えて実際的なものになりました。『Ettinger「Veterinary Internal Medicine」W.B.Saunders』が記載されているところも。 獣医臨床病理学(近代出版)が指定されているところもありましたが、これは内科というか臨床病理の範疇ですね。 **繁殖 ここもメジャーな教科書があるので、概ね安定してます。 -&amazon(4254460201,text)(小笠ら、朝倉書店) -&amazon(4830031840,text)(森ら、文永堂) -獣医繁殖学マニュアル(獣医繁殖学教育協議会、文永堂) 『獣医繁殖学』のほうがメジャー。他には『牛の繁殖障害カラーアトラス(文永堂)』『乳牛の繁殖管理指針(酪農総合研究所)』などもありましたが、参考図書という扱いではないではないでしょうか。 **魚病 ほとんど教科書の指定なしでやってますが、採用されてるとしたらこれ。 -&amazon(4769910819,text)(小川・室賀 編、恒星社厚生閣) **法律 法律も時を経て増えたり変わったりするので、関連省庁のサイトなどでUp to Dateな情報を用いるのが得策ということで、殆ど教科書指定はされていません。 -&amazon(4788208563,text)(日本獣医師会 編、新日本法規出版) -&amazon(4805842210,text)(獣医事法規研究会、中央法規出版) (kimu)