*chapter00|    *scene01|少女 少女は、右の次は左だろうと息巻いて左に曲がった。[plc] 彼女は探検の途中だった。[plc] 連れてきてくれた兄の隙をついてコッソリと逃げ出し、束の間の自由を探検へと割り当てていたのだった。[plc] 少女にとって、そこはそれほどまでに探検するべき価値のある場所だった。[plc] そこは夜だというのに暗くなかった。一種異様な明るさをもって少女を迎えていた。[plc] 少なくとも、少女はそう感覚した。[plc] ―――なんて明るいところなのだろう。[plc] しかし、実際にそこが明るいわけではなかった。[plc] あるのは白だけだった。[plc] 壁も天井も置かれているテーブルも日をさえぎるカーテンも。[plc] どこまでも突き抜けるかのような白さが、その異様な明るさの正体だった。[plc] その白さがただ、電灯の光を反射させて彼女の退化した視覚にそう錯覚させているに過ぎなかった。[plc] しかし、少女にとってそのようなことは関係なかった。[plc] 彼女にとって、そこは明るい場所だったのだ。[plc] いやな匂いも、いやな感覚もない、ただ明るいだけの不可思議な場所だったのだ。[plc] だから少女は探検をしたくなった。何も不思議なことではなかった。[plc] うんと自分で肯定のうなずきをこぼして、また曲り角にさしかかると、左の次は右だと少女は悩む間もなく先へ進んだ。[plc] その曲がった先の、突きあたりの部屋の前。[plc] 探検途中だった少女の、足が止まった。[plc] その先に何かを感覚したからだ。[plc] 見知らぬ建物の、感覚したことのない廊下の、嗅ぎ知らぬ入口の前に。[plc] 明るさ以外の何かを、少女は感じとった。[plc] それは息をしていた。[plc] 壁によりかかっているようだった。[plc] ときおり、体が跳ねるように痙攣していた。[plc] それは人だった。[plc] ひどく弱々しかった。[plc] それは寝苦しそうに息を乱し、瞑目したまま壁によりかかっていた。[plc] それは、少女と同い年程度の少年だった。[plc] 少女はいくらか逡巡し、元来た道を戻って兄を呼びにいこうとして。[plc] 【少年】 「はぁ……はぁ……」[plc] その苦しそうな吐息に、もう一度足を止めていた。[plc] *scene02|少年 ……………。[plc] …………………。[plc] …………………………。[plc] はじめに、何かが見えた。[plc] 次に、何かが触れた。[plc] そして閃光。はじけるような明滅。[plc] 誰かの驚愕の声。[plc] 大量の足音。[plc] 怒声。[plc] 【???】 「何が起きてる!? 『××』!」[plc] 【???】 「第一次接触だ……。入力できる情報を―――で無意識のうちに選択して……」[plc] 【???】 「そんなことはいい! 何がどうなる!?」[plc] 【???】 「ひとつですよ! あとは――だけだ! 『変身』です!」[plc] そうして、長い長いちらつきと頭痛の後――――。[plc] 【少年】 「こ、こ、は……どぉ……こ?」[plc] “僕”は、生まれた。[plc]