ほぼ初めて書くSS 1.  こなたに告白されたのは、卒業式の後のことだった。あんなことは言いたくはなかった。あれは私の本心じゃない・・・。 かがみ「あんた、まだ気づかないの?あたしは・・・・あ、あんたの事が嫌いなのよ、大っ嫌いなのよ。」 こなた「かがみ・・・嘘でしょ!?」 かがみ「あたしはただ・・・ただ孤立するのがイヤで、仲の良い振りをしていただけよ。バカじゃないの!変態!」 こなた「ひどい・・・やめて!」    私は逃げるようにその場を去った。背後から泣き崩れる声が聞こえた。愛しいこなたの声が。 (い・・・今更、告白されたって辛くなるだけじゃない・・・せめて3ヶ月は前に言ってほしかったよ・・・そうすれば)  そうすれば私は京都などには行かずに近場の大学を選んだろう。そして、私はこなたのそばにいられたのだ。  私は振り返らずに走った。泣き声がだんだん遠くなっていくのを感じた。  後味の悪い別れだった。そうだ・・・これでもう、こなたとは会うことはないのだ。 私はこれから、死ぬほど勉強を しなければならない。弁護士を目指すのだから。そのために京都へ行くのだから・・・。時刻はまだ2時半。私しか乗客の いない帰りのバスに乗り込むと、どっと涙があふれてきた。ふと携帯の着信ランプに気がつく。開いてみると 新着メールが四件あった。 from:泉こなた|title:さっきはごめんね from:泉こなた|title:今度のかがみんの送別会。つかさとみゆきさ from:泉こなた|title:今どこにいるの?かがみ from:泉こなた|title:お願い!返信をして・・・    手の震えが止まらなかった。どうして普段どおりの文体でそんなメールを送ってこられるのか。だって私は・・・・ あんなにひどいことを・・・。  バスの中ですぐに私は携帯の電池を抜き、自宅に戻ると机の中に無造作に放り込んだ。そうしたのは こなたからのメールを見るのが怖かったからだ。この机は京都のアパートへ運ぶ荷物には含まれない。 私は必死に勉強して孤独に耐えなければいけないのだから、これは仕方のないことなのだと自らに言い聞かせた。 もう、日下部も峰岸もいらない。たかがケータイごときが通じなくなるだけで切れてしまう、薄っぺらい人間関係じゃないか。  京都へ出発するのは4月1日のつもりだったが、私は両親に「早く向こうで勉強に集中したいから」などと 理由を付けて予定を切り上げ、卒業式から3日後には逃げるように故郷を後にしていた。3日間、ずっとつかさは 何か言いたげだったが、やはりこなたからあの時の話を聞いたのだろうか。私は「勉強するから邪魔しないで!」と 乱暴に言い放ってずっと無視をした。  結局、私は自分が傷つきたくないがために大事な仲間との関係をぶっ壊してしまった。  余りにも卑怯で、惨めで、自分勝手・・・。   かがみ「みゆき、こなた、つかさ・・・ごめんなさい。」  実家の机の中に置いていったケータイは、「連絡がとれなくなると困るからちゃんと持ってなさい!」って お父さんに怒られて、埼玉の実家から送ってもらった。でも私は、高校時代からの思い出の詰まったそのケータイを 見るのも嫌だったので、すぐにメアドと電話番号を機種ごと変更したけど、古いほうのケータイ自体は残してあるので、 みんなの連絡先はそれを見ればちゃんと残っている。 2.  大学2年。  司法試験の勉強はわずか1年たらずで断念してしまった。  私はGWも夏休みも正月にも、あれから一度も実家には帰っていないのだから、今の私を家族は誰も知らないだろう。  ぼっち。SAD(社会不安障害)。不登校児。引きこもり。タバコ依存症。腐女子。ニート。リ●カちゃん。だめ人間・・・。 高校のときまで優等生だった私が、今では自分を形容する言葉もこのように様変わりしている。大学では一応 数人の友人らしきものは出来たが、なかなか勇気が出せず、自分から声をかけることさえ出来ずにとっくに疎遠になってしまった。 ただ人と会話をするだけのことでこんなにも苦しむとは思わなかった。 (全く、もう・・・)  今日で何度目かのため息をつく。  ああ・・・こんな時こそあの掛け替えのない友人達に悩みを打ち明け、頼るべきなのだろうが、もちろんそんな勇気は ない。そもそもせっかく買い直した電話が今この部屋のどこにあるのかわからない。  あの時、孤立したくないからこなた達と仕方なくいただけだと言った私・・・最初のうちは本当にそうだった。 同じクラスの峰岸や日下部は大好きな友達だった。でも二人が他のクラスメイトと話している時は、私は・・・いつも会話の輪に 入っていけずにひとりぼっち。2年生のときも3年生のときも、最後まで私はあの二人以外のクラスメイトとは なかなかなじめなかった。 (そんなあたしをこなたたち三人は嫌な顔ひとつせずに優しく受け入れてくれたんだよね。特にこなたは最高の親友だった。  超難関の京都大学に合格したときも、離れ離れになるとわかってて、こなたは大喜びしてあたしの夢を応援してくれた。  でも学校生活最後の卒業式になって、寂しくて、耐えられなくなったんだよね、こなた。あんたがあたしを大事に思ってる気持ちは、あたしは・・・  ちゃんとわかってるよ・・・。)  グスッ・・・。こなたに会いたい・・・。謝りたい・・・、つかさにも。 いったい、愛しのこなたを傷つけてまで私が目指した道とは何だったのか。 こなたは声優になりたいといって声優学校へ進んだ。そして、つかさは栄養士になるため料理の専門学校に。 みゆきは 高校で文型コースなのに、なぜ医学部? かがみ「三人共、立派に夢を持ってるのはいいんだが・・・。なーんかみゆき以外は挫折しそうな感じだな。     まああたしが弁護士になれば、金銭的にもこなた達二人くらい助けてあげられるかも。」  いつかは本気でそんな風に思っていた。  余りにもうかつで、無邪気で、バカな思い上がりだった。 (私が助ける・・・?皆を・・・?)  そんなこと出来るはずがない。いつも助けられていたのは弱い自分の方だったのだ。  弱い弱い自分の方・・・。  かがみは叫んだ。 「私の短所は108式まであるぞ!!!」 わけのわからない奇声をあげ、木冬かがみは不貞寝を始めてしまった。 3.  2009年8月。とうとう私は京都で大学生活を送ることを断念した。  それは先日、大学に退学の手続きをしに行ったときのことだった。つつがなく手続きを終わらせ、一息つこうかと思い、 私はつい最近まで構内の喫煙所だった場所へ行き、ジュースでも飲もうかと考えた。すると、そこにひとりの女の子が 休憩所のベンチにうずくまって泣いていた。知っている顔だった。  入学当初、ドイツ語の授業の時に、私に話しかけてくれた金森まさみさん。ペアを組めずに一人でいた私に声をかけてくれた 優しい子だった。   かがみ「まさみ・・・だよね。どうしたの?」 金森「柊さん・・・。私ね。優しい世界が作りたかったの。世界中の皆が助け合って、ちゃんと分かり合えるような。でもね・・・、    今私がやってることって、誰かを責めたり、憎しみあったり、そんなことばかりで、ね・・・もう疲れちゃったの・・・」    金森さんは、何がなんだかよくわからない話を始めた。はっきりとは言ってくれなかったが、どうやらサークルの 人たちと活動方針か何かで揉めごとでも あったみたいだった。そういえば金森さんはいつも社会に散々不満があると 話していた。 でも私は別に何かに不満があって、世の中を変えてやろうとか思って法律を勉強したり、弁護士に なりたかったわけじゃない・・・。  そんな金森さんの情熱とは、私は常に温度差を感じていた。大学で初めの頃、金森さんは何度か私に自分のサークルに 遊びに来ないか誘ってきた。私は右だの左だの、赤だの黒だのの話はよくわからないが、何だかわけのわからない 政治系サークルだったことを覚えている。そういえば、私はどこのサークルや同好会にも結局行ったことがなかった。     私は一番初めに金森さんが口にした、「優しい世界」というフレーズが妙に心に突き刺さっていた。 (優しい世界・・・私にとっては、こなた達がいる世界。私が・・・ぶっ壊してしまった世界のことだ。  多分、もうどうやっても取り戻すことなんて出来ないであろう過去の世界・・・。)    話しているうちに金森さんは徐々に泣き止んでくれた。ベンチに座りながら、金森さんとはいろいろな話をした。 今自分が楽しいと思っていること、私が飼っている犬の話、大学の友達の悪口(この話題の時は主に金森さんが話してた)、 政治とか経済の話などなど・・・。それでも結局、金森さんが何がきっかけでそんなに世の中に対して不満を 持っているのかはわからなかったが、きっと自分の力ではどうにも出来なくて、一生背負っていかなければいけない不安・・・ 多分そうしたものをずっと抱えてきたのだろう。お別れの際、金森さんは最後に私にこんな質問をした。   金森「柊さん。あなたは今まで生きていて、幸せだった?」 かがみ「・・・・・・・・。」    生きていてどうだったかなんて、それはもう悲惨で不幸だったに決まっている。だって私は今日、自分の夢を 完全に葬りさるために大学に来たのだから。それでも・・・私は少し考えてから、こう答えた。   かがみ「うん・・・、幸せだよ。高校の時に大好きな親友がいたの。あたしはその子に会えて・・・私の人生は、多分     すごく幸せだった・・・。今日ね、まさみに会えて、初めてそのことがわかった気がする。」    私はこれから故郷、埼玉に帰る。多分、京都にはもう戻らないと思う。故郷でどこかの大学を受けなおし、 人生をやり直すことにする。自分の欲しかった優しい世界・・・・どこまで取り戻せるかわからないけど、 出来る限り頑張ってみたい。金森さん、ありがとう・・・さようなら・・・・。   4.  2009年8月13日。お盆の時期になって、私は久々に実家に帰ってきた。 鷲宮神社。鳥居を抜け、境内の隅っこにある場所、これが懐かしい我が家。 がちゃ・・・。玄関を開けると、まずお父さんが顔を出した。   かがみ「お父さん・・・ただいま。大学・・・辞めちゃって、本当にごめんなさい」 ただお(かがみ父)「おかえり、かがみ。疲れているだろうから、今日はゆっくり休みなさい」 みき(母)「心配することないのよ、かがみ。これからも長い長い人生なんだから、たかが2年程度の失敗なんか、何のダメージにもならないって。」 いのり(姉)「かがみ、今度はこんなことになる前にちゃんと私たちに相談してよね。みんな大事な家族なんだから」    涙が出そうなくらい家族の愛が優しかった。私は絶対に責められると思っていたので、ほっとした。 (お父さんとお母さん、まつり姉さんにいのり姉さん・・・本当に、ありがとう!!・・・ん?・・・おや?)   かがみ「あれ・・・?つかさは?」 まつり(姉)「つかさなら自分の部屋にいるよ。今、友達が来ているみたいだからね」    そうだ。つかさには謝らないといけない。最愛の妹までも私は今の今まで完全に拒絶していたのだ。どれほど心配を かけたことだろう。仲直りがしたい。ゆっくり・・・時間をかけてでも・・・絶対に。  自室がある2階の階段を上がると、そこにはつかさが立っていた。最愛の妹の、小さくて幼げで、とても愛らしい容貌は あの頃とちっとも変わらないままだった。だがその表情は硬く、さげすむような眼つきをこちらに向けていたことは 別にして・・・。   つかさ「お帰り、お姉ちゃん」 かがみ「つかさ・・・た、ただいま・・・あ の・・・そのっ、ごめんね。今まで、私・・・どうかしてた」 つかさ「別にいいよ。それよりもさ。高校の時の泉こなたちゃん。覚えてるよね?     お姉ちゃんにこなちゃんが恋してたこと知ってた? でもこなちゃんのこと、お姉ちゃんは好きじゃなかったんでしょ?」 かがみ「うっ・・・な、何よいきなり・・・私は・・・あ、アイツのことなんか別に・・・」 つかさ「へぇ〜・・・じゃあこなちゃんのことはわたしがもらっちゃうね。っていうより、もうもらっちゃったw」   (え・・・、何よそれ。どゆこと?)  その時、つかさの背後からこなたが現れた。こなたの姿はやせ細り、目は虚ろで、いつも元気だったあの頃の 面影など微塵もない。その姿はまるで今にも・・・・。   こなた「かがみぃ〜」 つかさ「お姉ちゃんはやっぱり知らないんだよね。こなちゃんがこんな風になったんだってこと。こなちゃんが     どれだけ傷ついたか。わかってるの?お姉ちゃん」 こなた「ねぇ、かがみぃ〜」 かがみ「ご、ごごごごご・・・ごめんなさい。こ、こなた・・・あ、あたしは・・・あたしはね。本当はこなたのことが・・・」 こなた「ねぇ、かがみ様。キスしよう?」 かがみ「はぁっ!?(ドキドキ)」 つかさ「えぇ、いいわよ。こなた、あたしはあんただけがいればそれで幸せなんだから」 かがみ「えっ、何・・・何なのよこれは!ど、どういうことなの!?」      こなたはかすれた声でつかさのことをかがみと呼んだ。こなたは私の方など見向きもしなかった。 私の言葉など完全に無視をして、こなたとつかさはキスを始めている。クチュクチュと、淫らな音を立てて。   つかさ「どういうって、こういうことだよ。わからないかなぁ・・・あはっ、ふふふ・・・」 こなた「かがみん・・・大好き」 かがみ「い、いやぁあ嗚呼ああああ嗚呼あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」    私は悟った。こなたはおかしくなってしまったのだ。きっと私のとは比べ物にならないほどに精神を病んでしまって・・・ つまり、・・・私のせいで。そして、私と双子のつかさは、こなたの前では自分が柊かがみとして、こなたと付き合って いるのだ。   かがみ「う、嘘でしょ・・・。こ・・・これは、夢なの・・・?」  つかさ「夢じゃないよ!お姉ちゃん」 かがみ「ウヒィ!」    私は・・・、私はこれからどうしたらいいのだ。  これからも長い長い人生・・・。私が幸せを奪ってしまった親友と妹のすぐそばで、罪の意識にさいなまれながら、 こんな惨めな 苦しい思いをしながらどう生きていったらいいというのか。一度でも踏みにじってしまったこなたの愛は 二度と手に入らない。もう私が逃げ込める優しい世界なんてどこにもない。  私はここに来るために学校に退学届まで出して来たというのに・・・。 かがみ BAD END。