愛知政治大学院 11月講座 麻生太郎氏 平成14年11月  杉浦県連会長さんに「必ず今年中に」と約束を申し上げていましたので伺いました。与えられた題が「日本の経済再生について」ですので、経済再生についての話をさせていただきます。  政治大学院の話ですから、ある程度経済用語が分かるという前提で喋りますので、その点だけは、予めお断りをしておきます。 今、「デフレからの脱却」という言葉をよく新聞で使っていますが、デフレだから景気が悪いというのは、間違っています。インフレでも景気が悪いことはありました。デフレでも景気がいいことはあるのであって、デフレだから景気が悪いのではありません。デフレ不況だから問題なのです。そこのところは是非、頭に入れておいていただかなければいけないところだと思っております。したがって、今の不況もデフレも、いずれも結果なのであって、いずれも原因ではありません。デフレになった原因、デフレ不況になった原因というのは、全然別のところにあります。  それが何で起きたかといえば、それは非常に明白なのでして、皆さん方が持っていらっしゃる土地という名の資産、株という名の資産が、この10年間で、両方で約1,200兆円ぐ らい価格が暴落しているというのが、今の日本のデフレ不況と言われる最大の原因です。  では、どうしてそれだけ急に暴落したかといえば、日本では、土地に対する融資の規制、税制の大変更がありました。これは1992年のことです。通称、総量規制。どんなことを規制したかといえば、例えば土地を売って儲けた場合は、譲渡益課税26%のものを上げて39%にした。2年以内に売って儲けた人は税率100%、もうむちゃくちゃです。そして土地を売ったら、それをベースにどこか他のところに買えば買換特例を認めていたのがダメ、新たに土地の保有税をつくる、事業所税をつくる等々、ありとあらゆることをやって、そして固定資産課税については路線価格の7割にするというところまでやって、むちゃくちゃな勢いで各税率を引き上げた結果、土地の価格がこれだけ下がっているにもかかわらず、固定資産税は、当時、1兆円ちょっとだったものが、この10年の間に3兆3,000億円ぐらいの増収、完全な増税になってしまった。早い話が、総量規制という名のもとに、26か27種類の税制を変更したのが、今の土地の暴落を招いた最大の原因です。 では、その土地価格を暴落させるためにどうして規制、税制を変えたかといえば、その前の1986年から土地がバーッと暴騰した。いわゆる土地のバブルと言われるものをつぶすためです。 なぜこんなに暴騰したかというのがその前にあるわけですが、これはもう極めて簡単な理由であって、当時、1ドル対円交換レート240円だったものが、1年3か月で120円に暴騰した。プラザ合意というのが1985年に行われて、ニューヨークのプラザというホテルで合意がなされたからプラザ合意というのですが、ここで為替レートが240円から120円に変わった。そのとき、これによって円高不況が起きる、日本の輸出産業は壊滅的打撃を受けるだろうと当時、新聞は煽った。当時、つくられた言葉が「円高不況」と言ったのです。そして、円高不況というものに乗っかって、日本銀行は円高不況を抑えるために、日本銀行が決める公定歩合を、当時5%だったのを、1年間で0.5ずつ5回下げて2.5%まで下げた。結果として、景気は1986年から戻りはじめた。景気が戻ったなら、公定歩合は5%に戻すべきだった。3%、4%と戻していけばよかった。ところが、日本銀行は戻さなかった。なぜか。アメリカは、円がこれ以上強くなり、ドルがこれ以上安くなるということを望まなかった。基本的には、アメリカのFRB(Federal Reserve Bank)、アメリカ連邦準備銀行の金利、日本の公定歩合みたいなものですが、FRBの金利と日本銀行の金利の差が3%以上になると、アメリカのドルは強くなる。日本の金利が上がってアメリカの金利がそのままで3%以内におさまると、日本の円が強くなる。この20年間のいわゆる為替レートの基本です。したがって、アメリカは、それ以上円高ドル安になることを望まなかった。結果として、アメリカが「そのまま据え置いてくれ」と言うことに日本は応じた結果、当然のこととして、日本国内に金は余った。余った金はどこにいったかといえば、土地と株にいったわけです。他にいくものがなかった。それによってドーッと土地の値段が上がることになった。株価が上がることになった。 言っておきますけど、ハブルというものは、世の中の人はみんな悪く言ったけれど、僕はバブルは悪くも良くもないと思っている。なぜなら、バブルで損した人はいないから。バブルで儲けそこなった人がいるだけだ。土地を持ってる人はよく分かると思うよ。親の代からもらった土地が、ずーっと持ってたら土地の値段がバーッと上がってバーッと下がったって、持ってるやつは全然売りも買いもしなけりゃ同じことだ。だから、全然バブルなんていうのは良くも悪くもないのであって、むしろ自分の持っている資産が上がるというのは悪いことではないのであって、自分の持っている資産が安くなった方がよほど問題ですよ。 今のような状況でこういうふうになったというのを理解してもらったと思うので、それでは次に、では、どうして株とか土地とかいうようなものが下がるとデフレになるのかということです。 それは、日本の土地本位制と言われるものに関係するのであって、土地というものを担保にして金融機関から金を借りる。もとの担保は土地です。皆さん方の経営能力とか、会社の事業内容に金を貸すなどという、そういった融資審査能力を日本の銀行は持っていません。土地を担保にしか金を貸す審査能力はないからです。したがって、事業内容が悪くても、土地がありさえすれば銀行は金を貸すのです。なぜなら、土地は必ず上がるものだったから。だから、事業が仮に失敗したとしても、担保の土地さえ押さえておけば、5年、10年経てばその土地が上がるから、上がったところで売って赤字を消せる。土地が必ず上がっていくという前提のもとに日本の経済、金融、すべてが出来上がっていた。その元の元である土地を、大蔵省主税局がぶち壊した。どれぐらいぶち壊したか。一番分かりやすいので商業用地、全国平均で83%値下がりしました。坪100万円が17万円になった。これは全国平均ですからね。上がり下がりは東京が一番激しかったから、東京なんかもっと下がっている。そこで、簡単に言えば、坪100万円の土地を持っている人は、銀行に行って「この土地を担保に金を貸してくれ」と言ったら、約7掛けで普通は借りられる。100万円の土地だったら70万円借りられる。その元の元たる100万円の土地が17万円になったら、17万円の7掛け、11万9,000円しか金は借りられない。そうすると、今借りている70万円と11万9,000円の差、58万1,000円は、担保不足になります。担保が不足すればどうなるかといえば、その担保に見合うだけの別の担保を出してもらうか、もしくはその58万1,000円を返してもらうか、どちらかです。返せればいいよ。しかし返せなければ、銀行にとってはそれは不良債権になる。借りている方にしてみれば、銀行から返せ返せの追いはがしになる、貸しはがしになる、貸し渋りになるという話です。これが今、起きている話です。  今、起きているすべての話は、これがもとです。そんなに難しい話でも何でもない。これがすべての今、貸しはがしやらが起きている唯一最大の理由です。これだけぜひ頭に入れておいてください。 そこで、これを解消するためにどうするかといえば、答えは簡単なのであって、1985年、バブル発生以前の土地税制に戻すことです。土地税制とか規制とか、固定資産税とか、これら全部を。お断りをしておきますが、国税、地方税、いろいろありますが、国税に関して、先に申し上げた39%は26%に今すでに戻っています。しかし、固定資産税の税収が1兆円から3兆円まで増えている。これは、地方税です。だから、大変だ大変だというのは、皆さん方が住んでいらっしゃる地方の公共団体。ここらのところを、根本的に変えるなら、今の路線価格の70%と決めたやつを50%にして20%分外してしまう。しかし、地方では、路線価格の50%までいっていないところの方が多いから、普通の市町村にとっては全然問題ではありません。東京とか大阪とか名古屋の町のど真ん中では引っ掛かる。こういう形でこれを解消する以外に手がないと、この固定資産税については思っています。 しかし、デフレになった理由は他にもあります。世界は、1990年をもって冷戦という名の戦争が終わりました。この戦争が終わったという意識が我々にはほとんどない。この中には戦争に行った人はいないから。しかし、冷戦というのは立派な戦争だったのであって、あの戦争が終わった後、起きたことは非常にはっきりしていて、東側と言われる、この辺でいえば中国とか、またソ連とか、ヨーロッパの方へ行けばルーマニア、ポーランド、ハンガリー、そういったような国々から、若くて有能で、かつ労賃が安い大量の労働者が西側自由市場になだれ込んできた。これによって、皆さん方の労賃は下がらざるを得なくなった。これは日本だけではどうになもらない。世界中で労賃の低下が起きましたから。 その労賃に見合うだけ皆さんの給料が下がったか。いや下がりませんでした。日本の場合は、この10年間を見ても、労賃は約6%上がっています。そして物価はどれくらいかといえば、20%から35%ぐらい下がったと言われている。「いや、そんなに物価は下がっとらん、経済学者の資料を見ろ、毎年1から2%の間じゃないか」と。それは、役所の言葉しか信じない、あんまり世の中が分かってない人の話です。役所というものは、基本的には正価格しか認めないところですから。しかし、デパートへ行ってごらん。毎日が大売出しよ。今どき、デパートでテレビを買う人はいませんよ、みんな量販店で大安売りの時に買う。テレビなんかは1万円か2万円で売っているような時代になった。結果として、今、役所の人ですら10年前に比べて、正確には1990年に比べて今の方が高くなっているという商品を三つ言ってくださいとい言って言える人はいない。すべて商品というものはこの12年間の間に安くなっています。公共料金は別よ。公共料金以外全部。給料は6%上がって、物価が20%も下がったらどうなるのよ。ほとんどの人にとっては、経済用語では可処分所得というのですが、使いまえは増えている。当たり前だろう。実入りの変わってない人って誰? もちろん年金生活者です。年金で生活している人はどんどん増えているんだから。65歳以上の年金をもらっている人たちは、年間、間違いなく可処分所得は増えていますよ。国家公務員、地方公務員、含めて給料はほとんど変わらない。亭主の会社が普通だったら女房も全然変わらない。その層だけで有権者の65%ありますから。小泉内閣の支持率60%って、当たり前なんだ。いい時代だもん。景気が悪いってワーワー、ワーワー言うのは、自分で会社の帳簿を見る立場にいる責任者だけですよ。もしくは自営業者ですよ。もしくは銀行マンですよ。それ以外の人は、景気が悪いなんて思っているはずはないよ。  今はいい時代だよ、物価が安いんだもの。年金生活者も、物価が安くなっているのに、物価に合わせて物価スライドするはずのものがされてないもの。結果として、誰が困っているのですか?経営者だけですよ。 外国の何とか大臣というのが日本にいっぱい来ますけれども、「どこが景気が悪いか数字で説明してくれ」って。私が経企庁の長官をやっていたときも、これぐらい説明に困るものはなかった。失業率が高い、戦後最高だ、5.4%なんだと言うと、「15%か?」と聞く。「いや5%」って言ったら、「5%? ドイツでは14%だ」、「フランスでは12%だ」、イギリスは「俺んとこは11%だ」、そこに5%で不景気だと言ったって、「俺んとこの半分以下か、それで何が問題なんだ」って、話にならんのですよ。 だから、数字の上では景気が悪いというのを証明するというのは難しい。GDPはほぼ500兆円。ということになると、皆さん新聞に書いてある話と違うでしょうが。国民総生産は変わらない。倒産件数はどんどん増えて、そして自殺者が年間3万人もいてという時代、交通事故で1万人死ぬところの3倍ですよ。それがほとんど経営者です。高齢者です。というのは、明らかに何かが歪んでいるのですよ。そういう意識がないと政治家は務まらないと、私はそう思います。  そこで、これを解消するためにどうすればいいかといえば、まず第1は、何と言っても資産価格の暴落をとめることです。今、不良資産というものに竹中大臣とか小泉総理とかいろいろ言っておられますが、あの人たちは、自分で土地を持ったことのない人はよく分かっておらない。と言うから私はあまり評判よくない。私は土地持ちのせがれだから、自分の資産がどれくらい下がったかよく分かるよ。土地がずーっと下がっている。ここで不良資産を切ったって、下がっていれば、3年したらまた不良資産になるよ。そんなことが分からないのかと。だから、土地が下げ止まるということが大事なんだ。 ホワイトボードに書いて)1950年でもいいや、ここを100とします。土地がずうっと上がっていた。そして1985年、さっき言ったプラザ合意。ここから土地の値段はバーッと上がる。そして90年、95年、2000年とすると、どういうことが起きたかというと、92年まで土地は上がった。そしてここから例の総量規制。途端にバーンと下がった。そして、とうとうこの流れが、まっすぐ引きどまればここまでいくはずのものが、これを大幅に下回って、まだ土地が下がりつつある。これが今、日本で起きている実態です。 今の土地価格の約2割、20%を戻せば、日本にあると言われている大手の銀行すべてが持っている、いわゆる不良債権、不良資産というものが、土地の価格、正確には大都市の土地の価格、東京とか名古屋とか大阪とか、そういう大都市の土地の価格が、都心部だけで20%上がったら、不良債権というものはなくなる。ゼロになってしまう。その程度のものなんだって。不良債権というとえらく大騒ぎするけど、土地の値段が2割戻ったら終わりよ。日本の問題はそんな問題じゃないんだって。この不良債権がなくなったら景気がよくなるかのごとくに話をしている大臣や総理大臣やらいらっしゃいますけれど、間違っている。土地の不良債権が全くなかった時代でも、日本では何回も不況があった。だから、不良債権がなくなったから不況がなくなるなんていうのは、経済が分かっていない人の証拠です。これは株も同じよ、株も同じように下がっているから。だから、そういった意味では、ぜひ皆さん方、この土地というものを考えたときに、あんまり今言われていることを信用しないように。 そこで、今言った話を元に戻すと、あの図を見てもわかるように、問題なのは、土地の価格というものを礎にしてやっているから問題なのです。土地を担保にしか金を貸さないというのは、ほとんど日本だけぐらいのものです。他の国は違いますから。そういった意味では、土地の価格を戻すために税金を変える。これが一つ。  二つ目、これがもう一つ大きな問題です。それは、日本の場合では、いわゆる少子高齢化。長生きが問題なのではないからね、若いのが子どもを産まないから高齢化するんだから。昔だったら、4人兄弟、5人兄弟はざらよ。最近、5人か6人も子どもを産めば、「あんたも好きね」ってな感じでしょう? 平均、既婚者で2.2人しか産んでいない。女性全体でやる特殊合成出生率で1.3人、世界最低です。子どもを産まないわけ。子どもを産まないために高齢化するわけだから。少子が高齢化する。だから、沖縄県のように子どもをちゃんと産んでいるようなところでは、高齢化問題はありませんから。愛知県なんかは起きているところです。そういった意味では、高齢者がどんどん増える。昔は、64歳以下15歳以上の勤労者6人で1人の高齢者の医療だ介護だの福祉の面倒を見ていた。今は、4.2人で1人。あと22年すると、2.2人で1人、6人で1人が2人で1人になるという計算だから、当然のこととして、年金も3倍払ってもらわないとやれないということになる。これは間違いなく人口がそうなんだから、避けがたい。 今みたいな発想を聞くと、普通、想像されることは何かといえば、おじいちゃんおばあちゃんがいっぱい町にあふれている、活力のない暗く貧しい高齢化社会というのしか想像できないのは、厚労省の役人の悪いところ。そうするとどうなるかというと、喫茶店へ入って「コーヒー」って言うと、今から20年するとおばあさんが出てきて、アイスコーヒーを机に置いたときにドンと置いたらほとんど半分ぐらいこぼれているという、こういう高齢化社会を想像する。ところが、今、高齢者2,370万人、この9月15日の敬老の日の数字です。全人口の約18%です。1億2,700万人の約18%。簡単に言えば4人に1人ということになるけれど、この人たちの数字をよく見ると、高齢者というと何となく寝たきり老人、要介護老人、痴呆症等々の暗いイメージしか出てこないように新聞でなっているが、実際、この人たちの中で本当に要介護という人たちの比率は13%しかありません。残り87%は、まあ元気、もう周りが迷惑するぐらい元気なやつが、永田町に限らずいっぱいいます。87%は元気なんだって。どれぐらい元気か。昔は、昭和23年、戦後の統計が始まったときに日本の平均寿命は52.5歳だった。だから会社の定年が55歳でもおかしくなかった。今はあなた、75だ80歳だになってきたら、全然社会の情勢が違いますよ。 そして、その人たちがどんどん増えている。そして元気で、かつお金を持っている。高齢者は、われわれ政治家の前に来ると、いかにも貧しさを装う、弱々しさを装うことにかけてはえらく才能があるみたいです。しかし、実際はお金を持っている。今、1,400兆円の個人金融財産があると言われています。ちなみに、GDPは500兆円だからその3倍です。そのお金は、日本銀行が捕捉している個人のお金だけですから。日本銀行が捕捉しているということは、郵便貯金か銀行預金か生命保険、この三つだけです。あとは別。株も土地も別、もちろんタンス預金も全部別。全く表に捕捉されているお金だけで1,400兆円。そのうち実に53%は70歳以上の人が所有しています。若い人、おたくらはまだ住宅ローンの借金が残っておる、債務がまだ残っておるから、純債権でいったら、驚くなかれ、70%は70歳以上が持っている。これはすごい金だぜ。この人たちは、失礼だけど、お金を稼ぐことは一生懸命だった。稼ぐことはよく知っているけれど、使い方は習っていない。この人たちは金の使い方は全然わかってない。だから、とにかく金は貯めるだけ。預金通帳を見てニターッと笑って、私に言わせれば暗い世界なんですよ。たまりたまって1,400兆円。プラス、毎年約20兆円増えます。金利が0.01%でほとんど付かないにもかかわらず、20兆円増える。 加えて、会社は、つい10年前まで、すべての会社を足すと250万社ぐらいあるのですが、この会社は、金融機関から年間50兆円借りていた。今、企業はどんどん借金を返す。貸しはがしのせいもあるよ。しかし、借金をどんどん返している。今、企業が銀行に返す方が、企業が銀行から借りるより20兆円多い。わかる? 昔、50兆円借りていた企業が、今、20兆円返すということは、プラスマイナス70兆円の資金需要に差が起きているということです。ということは、20兆円の預金増、20兆円の返済金の超、トータル40兆円のデフレ圧力ということです。そういうことになるでしょう。 銀行は、それではどうしているかといえば、そのうち10兆円を海外に貸しておる。残り30兆円を国に貸してやっとチャラなんですよ。この30兆円をどんどん、どんどん減らすなんていうことを言っているけれど、そんなのはデフレ圧力が強まるだけだ。全体が分かってないんだって。需要を起こしておいてから返済ならいいよ。需要を起こさないでおいて、いきなり国債を借りるのをやめたら、デフレはさらに強まります。ここのところの原理がわかっていないと、今の話が何となくおかしくなっていると、私にはそう思いますので、ぜひその点を頭に入れておいていただければと思っています。 最後になったけれど、あと3分でちょうど時間だと思いますので、もう1回復唱するけれども、土地のデフレが続いているのを止めない限りは、いわゆるデフレ不況の元凶がそのままですから、とまることはない。したがって、土地と株を税制でさわる以外に手がない。 二つ目、海外でも労働者が13億人西側に流れこんできている。これでは、人件費がたたき合いになってどうにもならないんだから、この部分をいきなり日本だけで直すことはできない。だから、当分の間、デフレはある程度続くことを覚悟しなければいけない。だから、デフレだから不況というのは間違いなので、デフレでも好況という時代は、1871年、プロシア(今のドイツ)とフランスがやって、ドイツが勝って、そして以後、1911年、第1次欧州大戦が始まるまでの間、この40年間は、ヨーロッパではベル・エポック、美しき時代とフランス語で言うぐらい、ヨーロッパはデフレ下で栄えた。デフレ下で好況になったという例です。だから、デフレだから悪いのではない。不況になった原因は何かと言えば、土地税制なんだから、国内でやれることは、この土地の税制、株の税制規制をやめることだ。これが一番わかりやすく、手っとり早い方法です。そして政府は、国民の需要が起きるようにやること。税制による規制の撤廃、公共投資。税制緩和が実行されることによって企業が設備投資をする、税制が軽くなったから海外へ出るのをやめて日本に工場を造るとか、そういうような「規制をなくして日本にいるようにしよう」というように考えるのが今の経済再生のやり方なのであって、いきなり「公共事業をカットします」とか、訳の分からない公共事業ときちんとした公共事業を一緒にしたような話は、根本的に間違っているというようなところが、今の経済再生の一番の問題だということを頭に入れておいていただければということを申し述べて、講演を終わらせていただきます。  あと質問があるそうですから、ご遠慮なくどうぞ。何でも大丈夫ですよ。ありがとうございました。(拍手) 【司会】 麻生先生、身振り手振りを交えて、また、ホワイトボードを使ってまでのご講演、ありがとうございました。 それでは、質疑応答に入らせていただきます。  ご質問ある方はどうぞ。はい、鎌田さん、お願いします。 【質問(鎌田)】 政調会長、ペイオフの問題なのですが、2年間延期になりましたが、私は、わが国としては、ずっとペイオフするべきではないと考えます。日本国の持っている個人の金融資産1,400兆、それを外資系の銀行に持っていかれましたら、わが国は滅んでしまう、この1点ですけれども、政調会長、ご意見をお願いいたします。 【麻生氏】 ペイオフについては、多くの方々が批判の強い竹中大臣ではありますが、去る10月30日に金融担当大臣を任命された。金融にお詳しいわけではありませんので、さぞ、本人もたまげたろうと思うけれども、とにかくいきなりのその日の朝、根回しなしで「はい、君、金融大臣」と言われて、「あとは任す」と言われた。俺もちょっと正直、たまげて、そのまま私の事務所におみえになって、あの日、2回だったかな、夜の10時と昼の何時か、「どうするか」という話をされたので、先ほど言われたように、「まずペイオフはやめていただきます」と。ペイオフというのは、簡単に言えば、今、世界でやっているところはない。これは日本人のアメリカ人に対する劣等感の裏返しみたいなものだと思いますが、銀行が信用できるときには、ペイオフしたって全然構わないんですよ。  そういった意味では、定期性預金、定期預金については、1,000万円以上はペイオフをかけた。その結果、1年間、普通預金はペイオフはなかったものだから、約40兆から50兆円の金が定期預金から普通預金に移った。銀行にしてみれば、確実な定期の預金がなくなる。普通預金ではいつ引き出されるかわからないから、安心して人にお金を貸せなくなった。貸し渋りを促進した大きな理由の一つがペイオフの解禁です。  また普通預金も来年からやるという話を柳沢大臣がしておられたから、「何を考えていんですか」と申し上げたのですが、どうしても延期をすると。とにかくやると言ってしまったものだから、どうしてもやらなければいけない。こういったことが政治の世界によく起きます。本来の目的は何だったのか。ペイオフをやる目的は何だったのかというのをすっかり忘れておるのですよ。ペイオフは、そもそも銀行の安定を目指すために始めた。銀行の内容をきちんとさせるためにペイオフというものをやる必要がある。この銀行は良い銀行か悪い銀行かというような情報が開示されていればいいよ。しかし、どの銀行が良くてどの銀行が良くないかというのを分かっている人なんていませんよ。銀行だって分からないんだから。そういったときに、人の不安を煽るようなペイオフなんてやめた方がいい。  しかし、今、普通預金をペイオフをする前提で、今度は決済性預金という名前を新たにつくって、会社が銀行に金を預けて金を払っていく途中で銀行がバタっといったらどうにもならなくなってしまうから、それは決済のやつだけは別にしてくださいということで別の勘定科目をあげるという、しち面倒くさいものに今回するというわけです。  今、金利がほとんどゼロだから、定期性預金、普通預金、決済性預金、いずれもほとんど金利はつかないから、大した騒ぎにならなかったけれども、いずれ金利がまた普通に戻ってくるから、また戻ってきた段階で騒ぎになるよ。だから、こんなものは基本的にやめた方がいいと個人的には思います。ただ、今の段階で、一応決めてスタートしてしまっていますから、少なくとも普通性預金はとめるということで、今、話がついていますから、あと2年もしたら、またその段階できちんとしてもう1回とめなければいけないでしょうね。ただ、それまでに銀行の内容を直しておかなければいけないね。それも言えると思います。 【司会】 それでは次の方。  では、一番早かった伊藤君。 【質問(伊藤)】 伊藤秀治と申します。土地の税制を1985年以前に戻すことによって、土地の値段が上がるということですけれども、そうするとまたバブルのように土地の値段がどんどん上がっていき、今度は土地のない人がどうやって土地を買うのかという問題が出てくると思うのですけれども、そのことについて教えていただきたいのですが。 【麻生氏】 それぐらい土地の値段が上がったら最高。もう言うことない。今、抱えている問題はすべてなくなります。商人というのは、物が動けば、金が動けば銭が取れるわけ。今は、全く動かないんだから。じーっと銀行の中に1,400兆円。土地もずーっと動かない。空き地は全部駐車場ということになっているところが問題なのですよ。これが動き始めていけば、必ず銭は取れますから。物が動き始めるようになれば必ず土地は上がり始めますから。動き始める最初の刺激が要る。その刺激が出てくると、ある程度上がり始めたら、さっきのトレンドまで戻るから。トレンド以上にやるようになったら、また税制をつくればいいんだよ。それはそんなものなんだ。 【質問(伊藤)】 私も、土地を両親がいっぱい持っているのですけれど、私がお金がない。お願いですけれども、譲渡税をもっとどんどん下げてもらって、譲渡するのに税金がかからないというぐらいにまでしてもらえるとありがたいのですけれど。よろしくお願いします。 【麻生氏】 土地の譲渡については、あなたの場合、親との関係からいえば、日本の場合、今年の12月の税制改正論議で、来年の1月か遅くても4月からは、譲与税と相続税の一元化を目指します。これはちょっと覚えておくといいと思うけれど、相続税は一律5,000万円までは無税です。だから、5,000万円以下の財産を相続する予定のない人は、相続税を心配しなくていい。被相続人が1人増えるごとに非課税枠は1,000万円ずつ増える。1人増えれば6,000万、7,000万円となる。簡単に言えば、1人息子だった場合は、奥さんを除いて1人ですから6,000万円まで無税ということです。その金を生きている間に息子に贈与するということになると、65%の税金がかかります。5,000万円だったら2,600万円税金と思えばいいよ。死んで相続ならタダ。生きている間にもらったら手取りは2,400万円。『早く死なねえかなあ』と思ったりして。しかし、それは道徳的にも社会的にも許される話ではないから、この際、全部一緒にしようやと、全部まとめるということを主張しているのですが、これは民法の財産遺留均等配分という… (B面へ) …長女と次男は東京に行っていない。両親の面倒を見たのは長男夫婦。その長男夫婦のうち長男が交通事故で死んだ。残った嫁が亭主のじいちゃん、ばあちゃんの面倒を見る。そのじいちゃん、ばあちゃんもいずれ死ぬ。死んだときに相続権は誰にあるか。これは日本では嫁にはないのよ。そういった意味では、これはおかしいじゃないか。死んでいく方は、自分が住民税を払い、もしくは自分で所得税を払った後の金だぜ。その金を誰にやろうと自由だろうよ。それが基本なんじゃないのか。当たり前のことだと思うね。個人の住民税、所得税を払った後の金、それを、死んだら金を取るなんて、おかしいよ。死んでなきゃ金を取らない。死んだら金を取る。土地をもらった、そのもらった土地をどこかに売りゃあ文句ついてもいいよ。もらっただけで金を取るのが譲与税だから。これはどう考えてもおかしい、何で文句言わないんだ。私はさっぱり分からないんだけど。  そういった中でいくと、今の話に戻るけれども、これは基本的にはゼロにしたいと、こう思っているのですが、これまたご反対の方もいらっしゃるようなので、取り急ぎこうします。来年2月から、住居を建てる、リフォームする等々のものを条件に、3,000万円まで、例の住宅取得を前提にした特別枠という550万円のやつを3,000万円までにします。だから家を建てる人は来年1月まで待ってた方がいいよ。3,000万円くれる人がいる場合の話だからね。3,000万円親からもらう都合があるのだったら、来年まで待った方がいい。 それをやると、またぞろ「3,000万円だと1,000万円取れるはずだった譲与税が取れなくなる」と、やっかむ人がいる。実際問題、3,000万円で家を建てると何が起きるかといえば、家を1軒建てると、大体女房と子ども以外、みな新しくなる。洗濯機、テレビ、冷蔵庫、みな新しくなるでしょうが。そうすると、消費税が入る。そしてその家を建てた建設会社は、その家を建てたことによって利益が出れば、そこから法人税がまた入る。もちろん登録免許税だ何だいろんな税金が入る。どのみち取れなかったやつが、贈与を数年前にやっただけで税金が取れる、こんなうまい話がどこにあるんだって言うんだけれど、役人には全然わからない。その意味では、この10月30日に最終的に押し切れましたから、これはこの12月に税制改正をまとめますので、遅くとも4月1日、早ければ来年1月にしますので、今みたいなことが起きやすくするようにしたい思っています。 土地の譲渡益課税というのは、株が20%になりましたが、土地も20%に下げてもおかしくないし、そういったことの方がいいし、今下げても、大体、みんな高いときに買っていますから、安く売ったら税金なんかどのみちでないんだから、今売ったら税金はゼロだって言ったって心配することはないんだと私は言うんですけれど、これがまたもう…。 いずれにしても、今の言われた点だけは、そういう方向になります。ただ、もうちょっとしてもおかしくないとは、まあ第一歩としてここまで来ましたので、さらにいかなければいけないと思っています。 【質問(田中)】 私は田中亮英と申します。きょうは、貴重なお話をありがとうございました。今、土地のお話が出ましたので、私の方からは、株の税金についてお話を伺いたいのですけれども、来年度見直しということで、源泉徴収による税率がたしか26%が20%になるということで、さらに損益に関しては3年間据え置きのままで利益との相殺ができる。これによって、実際、株価がどのように変動されるというふうに思われますか。  それともう1点が、その税制の見直しによって、麻生先生が考える税制見直しが十分であるかということについてお話をお願いします。 【麻生氏】 株は、総合課税と源泉分離課税と二つある。今、源泉分離課税、売ったり買ったりするたびに1.05%払うことになっているのですが、これで約2,700億円税金が入っております。かたわら、総合課税の方は約700億円ぐらいだと思います。そこで、財務省の人たちは、これを全部総合課税にしますということを言っておる。総合課税にすると、早い話が、田中君が奥さんに内緒で株をインターネットでちょこちょこやったり、証券会社へ行ってちょこちょこやったりした金は、総合課税でやられると、全部税務署に入ってくることになる。税金は払ってもいい。しかし税務署へは行きたくない。大体、『俺が持っている財産に一々手を突っ込まれてたまるか』というのがほとんどの人の言い分。  そこで、出した提案は二つです。源泉分離課税を1.05%を2%にするというのが一つ。もう一つは、源泉分離課税はしょうがない、総合課税にするにしても、1月儲かった、2月損した、3月も損した、4月はやたら儲かったとかいうのを1年全部合算して、その利益が出た場合は、源泉分離の仕事は全部証券会社がやる。個人はやらない。田中君は税務署とつきあう気もない。税務署なんかと付き合っちゃ、せっかく儲かった気分もいやになるし、他のとこも突っ込まれちゃかなわない。これは誰でも思うことです。  今、そのルールでいこうとしていますが、財務省は、26を20%にするから、全部一律だということを言うのに対して、「預金金利が総合課税で利益が出た場合には、あれも20%、片方が預けておくだけで何にもしなくて2割税金、何の危険、負担もないやつが2割で、危険負担を背負って同じ2割では割りが合わないだろうが。貯蓄から投資へと、貯金しないでそれを投資に回してくれと政府が誘導している真っ最中に20%じゃあ、ふざけとるだろうが、10%にしてくれ」というので、今、これが12月まで、多分、20と10で強烈なやり合いになるでしょうけれども、基本的には10%に落ち着くか、片方の2%と両方併用するか、どっちかに落ち着きます。  しかし、今の財務省が言っているとおりだったら、株は必ず下がります。なぜなら、今やっているのは、今の広告を見ても、「面倒くさくなるから、今売った方がいいですよ」ってテレビでやってるじゃん。事実だから売っているんですよ。みんな面倒くさいから後になっちゃかなわないと思って。それが現状です。私はその意味では、下がると思います。  だから、今言ったやり方をすれば買わないだろうね。俺が言ったような案に最終的に落ち着いたら買う。それでも上がるかなんていえば、この際、向こう3年間ぐらい株は利益は出ませんよ。だって、これだけ下がっているんだから。だから、さっきの土地と同じで、どのみち売ったって税金かからないから、向こう3年間ただにすると言ったら、「ただならやるか」っていうやつが出てくるのですよ。  平均株価が今、8,000円幾ら、これがそういう気持ちにさせて1万8,000円いけば御の字だろうけれど、だって、1年半前は2万円したんだぜ。それが小泉内閣になった途端に下がって、しかし人気は60%っていうんだ、分からないでしょうが、世の中というのは。でも、とにかく「純ちゃん」ってカッコよく、今度の選挙もみんな勝ったわけだから、だから選挙っていうのは分からないと、そう思っておかなきゃだめです。だけど、基本的には、今の財務省の原案だったら下がります。僕が言ったようなどっちかにしますかっていうこのやり方をすると、「ホーッ」という感じになるということだけは確かだと思います。 【質問(田中)】 ありがとうございました。 【司会】 鈴木さん。簡潔にお願いいたします。 【質問(鈴木)】 1件だけ質問したいのですけれども、デフレ不況というときのデフレについては、土地とか株の税制の改正で対処して、不況については、需要刺激策が必要だというふうに述べられたと思うのですけれども、需要刺激策というのをもう少し具体化すると、多分、減税とか公共投資というふうになるのではないかと思うのです。減税にしても、公共投資にしても、その財源というのが必要で、国債発行というのが伴うと思うのですが、現在の長期金利というのは、毎日日経新聞に出ていますように、1.1%か2%ぐらいです。大量に発行残高がある現段階で国債をさらに増発すると、国債価格が暴落しないか、そうしたら、不況を深刻化させないかという懸念があるのですが。 【麻生氏】 思い出してもらったらいいと思うけれども、小渕内閣のときに、国債発行残高460兆円、そのときの国債の金利は2.5%よ。今、それが5割増えて690兆円、それで1.1%。「ペイオフしなければ日本の国債の格付けは下がる」と吠えた財務省、金融庁、ペイオフを予定通り実行したら格付けは下がった。嘘なんだ。基本的に、今は市場はもっと国債は出せと言っているのと同じだ。なぜか?財務省の役人というのは、あれは複式簿記というのをやったことがない人たちです。あそこは単式簿記しかないから。金融会計なんて分かってないんだって。貸方借方ってわかる? 貸借対照表の右側と左側。借金というのは右側に立つわけ。この右側だけ見ているやつらが、やれ600兆円の借金だ、何兆借金だって言うんだけれど、かたわらこっち側にある資産の方は、これは世界に対して金を貸している、対外純資産世界一。海外預金、いわゆる外貨預金世界一。2,400兆円はもちろん世界一だけど、国有財産に至っては、富士山のてっぺんから海岸地帯まで全部国有地だ。こんなに国有財産の多い先進国なんて、世界中に日本しかありません。むちゃくちゃこの国は持っているのですよ。だから、こちら側の話を全然しないで、借金の多さだけの話をするのは、これは複式簿記を知らない人の話で、例えば名古屋のまちで、「あの奥さんは600万円の借金があるんだってさ」と言えばちょっとした話題になるかもしれないよ。しかし、その奥さんが銀行預金500万円、郵便貯金800万円、生命保険2,000万円持っていたら、600万円の借金がなんぼのものですか。貸方と借方の区別もついていない奴の話なんか聞いちゃだめよ。  だから、それこそマーケットに聞けばいいんですよ。少なくとも450兆円のとき2.5%あったんだから。だから、今が金利1.1%なんていうのは、普通、資産が同じで借金が増えれば、金利は上がらなくちゃいけないよ。それがどんどん下がっている。これはどう考えたって役人の言っている今の理屈の方に無理がある。市場マーケットが如実にそれを証明しているので、少なくとも金利が2%や3%に上がるまでやっても大丈夫。 【司会】 残念ながら、ここで時間となりましたので、質疑応答を終わらせていただきます。麻生先生、貴重なお話をありがとうございました。(拍手)